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1 デザートは別腹じゃないらしい

第二章がはじまります!

目標は神聖国に行くことと、神聖国のさわりあたりです!

 12月20日。ディヌス王国の冬の社交シーズンが開始されると、各家主催の夜会だけではなく、子供たちもお茶会に参加するなど忙しくなる。

 四大公爵家の娘であるルディアは貴族の派閥を気にする必要はないが、取り入ろうとして来る貴族の子供たちの相手をする必要があり、体に負担がかかって寝込む日も増えてしまう。

 そうなってしまえばルディアの社交は欠席となるのだが、ルディアの前世の感覚的に、貴族の仕事なのだから休んでばかりというのは精神的に良くなかった。

 だが、無理をしようとしても周囲がそれを許すはずもなく、出席予定だった催しの半分以上、いや、七割以上を欠席している。


「なさけないですわ」

「なにがかな?」


 ベッドの上で横になっているルディアに付き添っているフィディスも、当然予定されている社交の半分以上を欠席しているのだが、文句を言う貴族の家はない。

 それだけ四大貴族の権力は絶対であり、一線を画しているのだ。


「わたくしのせいで、おにい様までしゃこうぎょーじを欠席してしまって、めいわくをかけてしまっていますわ」

「そんなことか。気にする必要はないよ。むしろ頻繁に顔を出してあまり気安い印象を与える方が面倒ごとは増えるかもしれない」


 そういうものなのだろうか? とルディアが内心で首を傾げると、心を読んだようにフィディスが頷く。


「私たちを起点に貴族のもめごとが起こってしまったら、そちらの方が問題だ」

「そうですの」


 先日開催された子供のお茶会でも、だれがルディアの隣や正面に座るかで揉め、そのことで神経をすり減らしてしまったことも、今回ルディアが寝込む原因の一つである。

 ルディアは確かに高位の存在が侮られるのはよくないと考え、自分なりに納得したが、フィディスは別の危険性も考えていた。


 ウィクトルとルディアが婚約するのではないかという噂が広まりつつある。

 あきらかにプーパ側が広めているものなのだが、信じる者は意外と多い。

 それは王家にすり寄りたいと考えている家であったり、ルディアが高位貴族の子息と結婚し、その家が大きな影響力を持つのを懸念している家の者だったりだが、小さな波でもいつの間にか大きな波に変化することもあるため、油断することは出来ない。

 婚約の噂がルディアの耳に入り不安にさせてしまえば、体調に影響が出るとフィディスは心配しているし、下手に否定しようと関わって余計な接点を生むことも避け、出来るだけ関わらずにすませる。

 それが一番なのだ。


「それに、いま無理をして新年祭を欠席。となるよりは、いまのうちに静養して体調を整えておいた方がいいよ」

「それもそうですわね」


 新年祭は年が変わる日に朝から始まり、夜通し行われ、翌日の夕方に終了する王家主催の大きな催事物である。

 子供であるルディアとフィディスは夕方以降の催しには出席しないが、それまでのお茶会や展覧会への参加は義務ではないとはいえ、貴族として必要事項と言えるだろう。

 虚弱体質のルディアはその中でも必要最低限の参加で調整してあり、それすらも欠席となれば、新年祭そのものを欠席と言われてもおかしくはない。

 アーストンたちとしては別にそれでもかまわないのだが、ルディア的にそれはどうかと思っているのだ。

 このあたりの感覚は前世を思い出したが故だろう。

 前世で故郷にいた時というよりも、大学卒業後に留学した先で友人と過ごす時間がどれだけ大切なのかを知ったのだ。

 だから友人を作りたいと思っているし、友人がいない現状は少し寂しいと感じている。

 かといって、フィディスたちを不安にさせてまで友人が欲しいわけではなく、あくまでも、もしできるのであれば友人が欲しいというレベルだ。


「しかし、新年祭にはプーパ様やウィクトル殿下も参加なさる。どうしても顔を合わせることがあると思うが、ルディは大丈夫かい?」

「わたくしはだいじょうぶですわ」


 先日のお茶会の後にいつも以上にべったりとしてきたことを考えると、むしろ堪忍袋の緒的に大丈夫じゃないのはフィディスなのでは、と思うルディアだが指摘することはない。

 それに新年祭には神聖国からの特使も参加する予定になっている。

 アーストンいわく、その特使を経由して神官にルディアの事を話す予定となっているらしい。

 緊急であればそのような手順を踏まずに直接神官に書状を届けるのだが、現状そこまで切迫しているわけではないのでしかたがないのだろう。

 それに、神聖国に行くにあたり、様々な手配と準備もしなければいけない。

 フィディスも一緒に行くのであるから、次期当主の勉強についても調整が必要だ。

 アーストンが同行して指導できない以上、信頼のできる教師を同行させなければいけない。

 しかし、長期間にわたり神聖国に同行するとなれば相手の都合もあるため、簡単に見つけるのは難しい。

 優秀な者は他にも生徒を抱えている場合も多く、フィディスやルディアだけのために独占するわけにもいかないのだ。

 同じ教師に学んだ経験というのは、人脈作りにも大切な部分なのでアーストンとしてもそれを邪魔する気はない。

 レンティムが手配するという話もあるのだが、それはそれで問題になりそうなのでアーストンが断っている。

 国王自らが教師を手配し、その者とともに国外に出て学ぶとなれば、後継者教育をしていると考える者が出る可能性があるためだ。

 痛くもない腹を探られたくはないのはアーストンもレンティムも同じ。

 テンペルトであれば、フィディスが望み、しっかりと教育を受けており、他の四大公爵が納得すれば後継者に指名したかもしれないが、いまのところフィディスにそういった希望はない。

 もしかすると、ティルムがルディアの婿になりウィンターク公爵家を継ぐとなれば考えるかもしれないが、フィディスが見るにその可能性は薄そうである。


「まあ、あいつも盾ぐらいには」

「おにい様?」

「ううん。なんでもないよルディ」


 新年祭の子供の集まりでは、ティルムを盾にしてルディアを守ろうと考えているがあまり一緒にいても、逆にそのせいで婚約の疑いをかけられてしまうかもしれない。

 それを考えるとフィディスも一緒にいた方がいいのだが、フィディスも婚約目当てで群がってくる令嬢の対処があるためずっとルディアに構っているわけにはいかない。本来は。


「新年祭では私がずっとルディの傍にいるからね。あ、お手洗いは外で待ってるけど」

「お、おにい様ってば」


 恥ずかしそうに頬を染めるルディアを可愛いと褒めるフィディスの頭の中には、自分に媚を売ってくる令嬢や取り入ろうとして来る子息の事などまったく考慮されていない。

 すべてはルディアが快適に過ごせるように心血を注ぐのみである。

 ルディアもそのことにはなんとなく気が対いているため、たとえトイレの前で待っていると言われても、恥ずかしいとは思うが嫌とは思わない。

 可愛いと褒められながら頭を撫でられ、ルディアはルディアでハイエナのような令嬢たちからフィディスをガードしなければと考えていた。

 ヴィリアが殺されたお茶会でもフィディスは令嬢たちに囲まれ、表には出さなかったが不機嫌になっていた。

 挙句の果てに強引な令嬢たちのせいでルディアと距離が離れてしまい、運悪くその時にヴィリアが刺されてしまったのだ。

 フィディスは今でもそのことを引きずっているとルディアは気が付いている。

 前世を思い出す前と比べても、ヴィリアが亡くなった後のフィディスのべったり具合は行き過ぎなのではないかと思える時もある。

 具合が悪い日など、つきっきり、夜通し看病しようとしたのを自室で寝るように必死で説得する日々が続いている。

 もっともルディア的には一緒に寝ても構わないのだが、アーストン曰くお互いに成長できないので離れる時間が必要らしい。

 それに関しては、ルディアも一理あると思うので反対はせず、アーストンの味方をしてフィディスを説得する側に回った。


「四大公爵家の子供以外は無視してもいいんだけどね」

「まあ、おにい様。そのように人とかべを作ってはいけませんわ」

「そうかな? ルディが言うのなら多少は考慮するよ」


(多少なんだ)


 ルディアが言ってこれであれば、アーストンが言ったところで無視をしそうだと思いつつ、心の中を誤魔化すようににっこりと笑みを浮かべた。

 その日はルディアの具合が悪いこともあり、食堂にはいかず部屋に食べやすいものを用意してもらうことにした。

 コックのジハルはほぼルディアの専属コックのようになっているため、アヴィシアを通じて希望を聞くのだが、最近はパン粥ではなくお米を使ったおかゆが食べたいとこぼしたため、【米】もしくは【ライス】というものを探しているらしい。

 とはいえ、ルディアの知識ではイネ科の穀物。水に浸かって育つものとしかわからないので、発掘作業の力にはなれない。

 なんといってもルディアには前世を含め料理スキルがない。

 栄養価については体のために調べたが、基本的にサプリで摂取することが多かった。

 むしろ、前世では家電機器の便利さに染まっていたため、作業効率はともかくとして、家事全般のスキルはこの世界において役に立たないだろう。

 もっとも、公爵家の令嬢、しかも五歳児に家事スキルなどだれも求めていないので問題はない。


「おにい様!」


 そこでハッとしたようにルディアがフィディスを呼ぶ。


「きょうのデザートはパンケーキだったはずですわ! チョコをかけたアイスクリームがのっている!」

「うん、半分こにしよう」

「なぜですの!?」


 むしろフィディスの分をもらおうとしていたルディアはショックを受けたように目を見開いてしまう。


「具合の悪いルディアがパンケーキとアイスクリームを全部食べ切れるわけがないよ。だから半分こだ」

「そんな!」


 ショックを受けるルディアではあるが、反論できないのも事実だ。

 具合が悪いのにデザートは別腹と食べて、夜中に胃痛に見舞われたことは多々ある。

 特にアイスクリームのような冷たいものは胃痛だけではなく腹痛も引き起こしやすい。

 それであれば別のものをデザートにすればいいとアーストンは言うのだが、予定されているデザートを励みに体調不良を乗り切っているルディアの期待を裏切れないと男泣きされたらしい。


(くっ、虚弱体質が憎いですわ)


 ルディアがパリパリとした触感のチョコレートや飴細工が好きだと知ったジルハは、アイスにチョコをうっすらとかけて好みの味に仕上げてくれるため、全部食べることが出来ないのはやるせないのだ。


(早く元気になってパリパリチョコをいっぱい食べたいですわ)


 人間、病は気からともいうのだし、目標があるのはいい事だ。と、いうことにしている。


 フィディスとルディアが仲良くデザートを半分に分けて食べていると、仕事が終わったらしいアーストンが部屋を訪れた。

具合が悪い時に板チョコアイスを食べてリバースしたのは私です(´;ω;`)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ここから第二章、ですよね?(^^; 3話目まで『第一章』となってますのでご確認下さいませ [一言] いやぁプーパ妃、飛ばしますねぇ 王太子殿下がお気の毒でお気の毒で、 きっと背中には哀…
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