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14 眠り姫の魔法は案外便利?

「「えぇ!? 出国!?」」


 ルディアはフィディスとともにアーストンからオクシスがこの国を出国したと聞かされ、しかもそれが完全にこの国から籍を抜いての出国だと言われて驚きのあまり、揃ってお声を出してしまった。

 慌てて口を手で覆うも、特に怒られる気配はなさそうなのでそーっと、手を元の位置に戻す。


「お爺様、出国って……あの男はなにか犯罪でも?」


 ついにそこまで落ちたか、とフィディスが呆れたように尋ねたが、アーストンはそれは違うと笑った。


「あくまでも自主的な出国。行先は神聖国らしい」

「「神聖国(しんせー国)」」


 そこでフィディスはルディアから、夢の中でリズリアには神聖国に知り合いがいるという設定がある、という話を聞いたことを思い出した。

 今回の神聖国行が関わっているのだとすれば、ルディアの話す可能性はつぶれていないかもしれないと、不安になってしまう。

 それはアーストンも同じようで、二人は視線を交わすと一瞬だけルディアを揃って見つめると、また視線で会話を交わし始めた。


 しばらく会話を続けていた2人だが、ルディアがじっと見ている事に気が付いて「あとで」と視線で会話を終わらせる。


「なかよしさんですわ」

「ルディと私ほどじゃないよ」

「いや、その言いかたは僕が傷つくんじゃないかな?」


 フィディスの言葉にわざとらしくアーストンが言葉を重ねると、思わずおかしくてルディアたちは笑ってしまう。


「ともあれ、あのロクデナシはこの国を出て行ったのだし、戻って来ることもこのままなら難しいだろう」

「そうなんですの?」

「ああ。罪人ではないけれど、自分の意思で神聖国(・・・)に籍を移すんだ。そこから出戻りって言うのは、なんというか体裁が悪い。神聖国を出るとしても他国に行くのが一般的だな」

「なるほど」


 アーストンの説明に頷くルディアだが、内心では先を越されたと悔しがっている。

 ルディアも神聖国行を狙っていたのだ。

 魔術ならこの国にいても学ぶことはできるが、魔法を習得する機会は断然神聖国の方が高い。

 だからこそ、もう少し成長したら、虚弱体質がましになったらと考えていたのだが、こんなことになるとは思ってもいなかった。


(すぐにでも神聖国に行きたいけれど、お爺様はもとより、お兄様は許してはくれませんわよね)


 ルディアだって自分がどれだけ愛されているか、大切にされているかを理解している。

 なによりも、自分の体がいかに他の子供に比べて虚弱であるかも理解している。

 前世の記憶を思い出してからは余計に自覚するようになってしまったと言ってもいい。


「ルディ、どうかした?」

「なんでもありませんわ、おにい様」


 首を横に振って否定したものの、フィディスは納得していないようで、じっとルディアを見る。

 その視線に耐え切れなくなり、ルディアは「その……」と言いにくそうに口を開いた。


「わたくしも、しんせー国に行ってみたかった、なぁって……思っただけですの」

「どうしてって、そうか、魔法か」

「はい」


 責められているわけではないのだが、なぜか体を小さくしてしまうルディア。

 そんな様子に気づいてフィディスは安心させるように、その頭を優しく撫でると「魔法について話したのは私だしな」と苦笑を浮かべた。


「確かに、前世の知識を持つ者の中には、魔法に憧れる、もしくは興味を持つ者が一定数いると聞くな」


 アーストンも納得がいくのか頷いてくれたので、ルディアはほっといつの間にか入っていた肩の力を抜いた。


「しかし、ルディの体調を考えると、神聖国に行くのは難しいだろう」

「ですわよね」


 わかっている事ではあったのだが、思わずしょんぼりとしてしまうルディアに、フィディスが慌ててしまいそうになるが、流石にここで一緒に行こうと言えるほど考えなしに溺愛しているわけではない。

 溺愛にも節度を持つこと。

 これはフィディスとルディアを溺愛してくる王太子、テンペルトの言葉だ。


「ルディ、こればっかりは仕方がないよ。飛空艇だけなら我が家の物でも行けるけど、途中で何かあったらどうするんだい?」

「うぅ、わかっていますわ」


 わかってはいるけれども諦めたくない。

 ルディアの目の中にはっきりとそう書かれているのを見て、フィディスはどうしたものかと考える。

 体調の問題さえクリアできれば、神聖国に行くのは専用の飛空艇でなくともウィンターク公爵家所有の飛空艇で事は足りる。

 医師も同乗させれば最悪の事態は避けられるだろうが、それでも体調が悪い時に多少とはいえ揺れる飛空艇で過ごすのはよくない。


「方法はなくもないが、だいぶ強引だし幼いルディにはきついだろう」

「どんなほーほーですの!?」


 思わずというか、当然のようにルディアがアーストンの話に食いつく。

 予想していた以上の勢いに軽く驚きはしたものの、アーストンはさらっと「魔法で眠らせるんだ」と言ってのけた。


「まほうで」

「眠らせる!?」


 ルディアとフィディスがそれぞれ反応を返すと、今度こそ予想通りだったようでアーストンはこらえ切れないというように笑ってしまった。


「ははは。ああ、お前たちのお婆様。僕の妻であるフィディアもその方法で神聖国に行き、一時的な治療を受けたんだ」

「ごびょーきでしたの?」

「病気というか、ルディと同じ……いや、起き上がれないことの方が多かったからもっとひどい虚弱体質だったんだよ」

「まあ」


 それは初耳だとルディアはフィディスを見たが、こちらも初耳だったようで驚きの表情を浮かべている。

 しかし、よくよく考えてみれば体質は遺伝と昔言われたような気がしないでもない、とルディアは考えたが、気にしないことにした。

 亡くなった人のことで悩むのはあまり精神的によくないと、前世も含めての教訓だ。

 一方フィディスは、祖母は若くして亡くなっているのだから体が丈夫ではないと察しておくべきだったと後悔している。

 そして、魔法を習得していれば今後もルディアを好きなところに連れて行けるのでは、と可能性を見出し始めた。

 その様子を見て、話さなければよかったと後悔するアーストンだが、もうすでに遅い。

 2人の気持ちはすでに神聖国にどうやって行くかに傾いている。


(今難しいと話したばかりなんだがな)


 子供たちの好奇心旺盛ぶりに感心しつつ呆れつつ、アーストンはそれでも爺バカを発揮して神聖国の神官に久しぶりに連絡を取るかと考えてしまう。


(個人的に連絡を入れるのはフィディアの時以来か? まだ生きてはいるだろうが、うーん、またからかわれそうだ)


「まあ、神聖国に行くかどうかは今は置いておくとして、あのロクデナシが神聖国にいるんだぞ。時期はずらした方がいいんじゃないか?」

「でもおじい様」


 アーストンの言葉にルディアが食らいつくように頬を膨らませる。


「なにかな?」

「しんせー国はとても大きいのでしょう? だったらロクデナシと会うことはないと思いますの」

「それも一理あるな」


 聞いた話によれば、魔法のない世界から来た一部の記憶持ちは、魔法に対してそれはもうすごい執着心を持つともいう。

 ルディアもそういう思考なのかと思いつつ、アーストンはどうしたものかと考える。


「…………いや、どちらにせよすぐには難しいな。魔法を使える神官の手配をしなければいけないし」

「そう、ですの」


 しょんぼりとするルディアに申し訳なく思いながらも、こればかりは仕方がないと諦めてもらうしかない。


「ではおじい様。しんかん様にれんらくがついて、こっちに来てくれるというのなら、すぐに教えてくださいませね?」

「ああ、わかった。約束しよう」


 アーストンがにっこりと笑って頷けば、ルディアは嬉しそうにフィディスを振り返り、受け止められることを疑いもせずにその腕の中に飛び込んだ。


「おにい様、ききまして?」

「もちろん。ルディに関することで私が聞き逃すわけがないじゃないか」


 抱き着かれてご機嫌なのか、フィディスは笑顔でルディアの頭を撫でながらそんなことを言う。

 ルディアは心の中で「ストーカー?」とも思わなくもないが、こういった溺愛はいつもの事なので特に気にしないことにした。

 魔法に関しての見通しというか、きっかけが出来たため、ルディアもご機嫌でフィディスに抱き着いている。

 ソファーに座って仲良くじゃれている2人はとても可愛らしいと思えるのだが、ここに来てもらった重要事項はまだある、とアーストンは咳払いをして注目を集めた。


「どうしました、お爺様」

「うむ。こうして2人を呼んだのはほかにも話すことはがあってな」

「「なんでしょうか?」」


 2人が揃って姿勢を正して返事をすると、もう一度咳払いをして言いにくそうに「ふう」っと息を吐きだした後、アーストンは重い口を開く。


「ルディに婚約の申し込みがあった。もっとも、個人的な打診だ」


 そう言ったアーストンは執事から一通の手紙を受け取りその蝋封を見せる。


「王家……ではありませんね。第一妃様ですか?」

「ああ、そうだ」


 蝋封の刻印は王家の物に似ているが、薔薇があしらわれたそれは妃の証であり、配置的に第一妃の物なのが分かる。

 それを見て嫌な予感がするとルディアとフィディスが思わず顔をしかめてしまったが、その予感は当たっていた。


「レンティムに言っても却下されるから、直接打診してきたんだろう。こちらが受ければあいつも折れるとでも思ったんじゃないか?」


 呆れたように言うアーストンだが、ルディアとフィディスも呆れてしまう。

 それで認められるのなら、ティルムがとっくにしているというのに、少しは考えなかったのだろうか?

 先に打診したところで、ルディアが仮に承諾したところで、国王が承認しなければ公爵家の婚約など成しえないという事を学んでいないのだろうか?


「意味ない努力をして何が楽しいんですかね」

「わからん」


 フィディスとアーストンがそう言った瞬間、ルディアが少しだけ顔を曇らせた。


「ルディ?」

「いみのないどりょくは、しちゃいけませんの?」


 しょんぼりとした様子のルディアにどうしたのかと慌てたフィディスだが、今までのルディアなら言わない言葉に、これは前世の記憶が関係していると察する。


「ごめんねルディ。そうじゃないんだ。……あ、いや。そうだな意味のない努力は、私自身は好んでいない。でも否定するのはおかしかったな。ごめんね」

「いえ、おにい様のお言葉はあっていますわ」


 ルディアは前世で何度も無駄な努力をするな、意味のない努力だと馬鹿にされていたことを思い出してしまい、少しだけ切ない気持ちになってしまっただけだったのだ。

 本当に一瞬の感情だったので、今はフィディスの言う事が正しいと理解できるので、謝らなくてもいいと思っているのだが、フィディスがそれですっきりするのならと謝罪を受け入れる。


「でも、ちゃんとあやまることが出来るおにい様はすてきですわ」

「ルディ!」


 フィディスは思わずという感じでルディアを抱きしめたのだが、勢いが付きすぎたのか2人でソファーに倒れこんでしまい、アーストに呆れられてしまったのは余談であろう。

私はグリム童話は残酷なヤツ系から読み始めた派です。

子供のころに家にあったのがそうでした(´;ω;`)

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