97話 ギャンブルと小悪党
お祭りが終わり、場所を移動したランピーチは自室にてテーブル越しにソファに座り向かい合っていた。
もう部屋の隅に瓦礫もないし、フローリングだし、新築みたいな部屋だ。以前のボロボロの部屋の面影は完全に無い。前世の自分の部屋よりも広々として豪華だ。いわゆる十億マンションとかそんな感じ。
「で、前の相棒はどうなったんだガイ」
足を組んで、グラスに注がれたウィスキーを揺らめかせて、黒幕的なボスを姿を見せるランピーチ。
「パパしゃん、あしくんじゃだめー」
「きゅー、寝れないよぅ」
だが、膝の上で寝ていたコウメとミミがペチペチと脚を叩いて抗議をしてくるので、脚を組むのを止める。コウメたちはふんふんと鼻を鳴らして、ランピーチの膝を枕に幸せそうに微笑んで、すよすよ寝るのであった。
「おちゃけくしゃい」
幼女はアルコールの匂いが苦手なのだ。お昼寝できないのだ。なので、むすがって熟睡できないコウメちゃんなのだ。
「麦茶に変えておこう」
ウイスキーは止めて麦茶を片手に、幼女とうさぎを寝かすランピーチと早変わりした。もはや黒幕的なボスの空気はどこにもない。元から小悪党にはそんな物ないでしょと言われるかもしれないが。
「親馬鹿だなぁ、ランピーチどん。その甘さが弱点に……たぶんならねぇだよ」
テンプレの甘いな主人公的なセリフを吐こうとしたガイだけど、頬に銃が押しつられて、すぐに否定した。最後までセリフを口にしたら、そこでゲームオーバー、この世から旅立つことになるだろうと、魔神のような恐ろしげなランピーチを前に黙る。
軽くため息をついて、ランピーチは銃を仕舞う。このままだと全然話が進まないよなと、ミミの頭をこしょこしょと撫でて、もふもふに気を落ち着ける。
「で、お前の相棒の話をしろよ」
「あぁ、わかったべ。きっかけはランピーチどんから貰った『成長する精霊鎧』だぁ。あれ、もんのすごい精霊石食うんだべ。ゲームではそこまで苦労した覚えはなかったはずなのに、たしか十億エレ程度の精霊石を注ぎ込めば、最強になったはずだとぼやいてたべ」
「…………現実だからな。予想外のことはある」
ガイは不思議そうで、首を傾げているが、元から課金スマホゲームのようにきりがなかったよなと首をひねる。もしかしたらβ版との違いかもしれない。迂闊なことを言ってβ版との違いを感じさせないように気をつけないとな。
「で、クリシュナ、あぁ、風のクリシュナがおらの相棒だったんたけんど、金稼ぎダンジョンのクリアや手持ちの財産を売って精霊石をぶち込んでも育たないのに業を煮やしたべ」
「まて、クリシュナ? 7人の主人公たちの一人じゃねーか。お前、そんな奴と組んでたのかよ」
あっさりと元相棒の名前を教えるガイ。もはや隠す気はないのだろう。けれどもクリシュナとは驚いた。
「ゲームの知識を持っていたのはクリシュナだったのか」
『クリシュナって、だぁれ、ソルジャー?』
隣で暇そうにしていたライブラがこっそりと聞いてくる。
『クリシュナは風の精霊と契約したゲームでは主人公たちの一人だ。平民で裕福な家庭出身。両親が魔物に襲われて死亡、魔法使いの素質があるため魔導学園に通うことになる』
『へー、主人公たちかぁ』
「スラム街や農村出身のドライやガイのように自由はあるが、ふたりと違って金もある。魔導学園でギャルゲーみたいなこともあるし、クエストも多いから、初心者向けのキャラ。風魔法も『飛行』もあるし移動に苦労しなかった。俺も最初はクリシュナを操作してクリアしたんだ」
とにかく使いやすいキャラだった。クリシュナ篇のラスボスも弱かったし。
『そんな良いキャラに転生したのかよ。羨ましい。俺は小悪党だったのに。ステータスも厳しいランピーチ難易度だったのに』
悔しがる小悪党である。俺がクリシュナに転生していたら楽な人生送れただろうと醜い嫉妬を見せる小悪党。俺なら、平凡な顔立ちで雑魚っぽいが、一流の腕を持つ隠れた実力者ムーブをやっていたと、うへへと内心で妄想するランピーチだ。
「で、クリシュナに転生して………だめだったのか」
「臆病者だったかんなぁ。一度死にかけたし、同情するところはあるんだけど」
「頭が悪かったのか」
「魔導学園では、平凡な男を演じようとして、バレバレの一流の腕を持つ変人と呼ばれてたらしいべ」
「へー」
どうやらランピーチと同じことを考えていた模様。しょうがないよ、男のロマンだもん。魔導学園の劣等生とか、絶対にやってみたいもんな。俺は劣等生だからと言いつつ無双する。こんなに楽しそうなことはない。
「まぁ、それはいいんだけど、死にかけてから、絶対に死なない装備を求めてたべ」
「『錆びた精霊鎧』にそんな性能あったか?」
「『自動蘇生』と『状態異常無効』が備わってるべさ。あれがあれば一撃死とか毒を防げるからと言ってたんだ」
「搦め手で殺されることを恐れていたのか」
「死にかけた時はクリシュナなら楽勝だった雑魚にやられた毒だったんだぁ。解毒ポーションを忘れて、じわじわと死に近づくのが応えたんだよ」
「どんな雑魚にも殺される可能性に気づいて臆病になったのか。なるほどねぇ」
高レベルでも低レベルの敵に殺される可能性に気づいて怖くなったか。なんとなく気持ちはわかるよ。
「で、覚醒させようとしたんだけど、課金の金が足りなくて……借金してカジノで増やすことにしたんだよ」
「ギャンブルで転落するパターンだなぁ。だが、必勝の策を使おうとしたと」
ここは呆れるところだが、『パウダーオブエレメント』をやったことのある者なら、あるバグ技がカジノにはあることを知っている。それを使って稼ごうとしたんだろう。
「あれだろ、2連続で00が出た次は必ず24になるルーレット」
かなりの忍耐が必要となるが、絶対に勝てるバグ技だ。このバグ技を見つけた攻略者は変態だとか掲示板で騒がれたものだ。たぶんプログラムを解析したのだろうが、それでも信じられない内容だったからだ。
「知ってたんだべか。でも、おらは止めたべ。現実だとそんなことはねぇって」
「だよなぁ。普通はやらないよな」
たとえゲーム脳でもリスクが大きすぎるから俺ならやらない。そんなアホなことで財産を失いたくない。クリシュナの中の人はアホなのかな?
「でも、クリシュナはやったんだべ。で、成功した」
思わず驚いて立ち上がってしまう。まさかの勝利。俺もやってりゃ良かったか。
「成功した!? それなら問題はない………わけじゃないのか、もしかしなくても稼ぎすぎたか」
「360億稼いだべさ。しかもずっとルーレットを観察して、急に一点賭けの大金だべ」
気まずそうに言うガイだが、なるほどそれは酷い。
「そりゃ、カジノ側は放置しないよな。怪しすぎるだろ。どう考えてもイカサマだ」
『ずっとちまちま賭けてればバレなかったのにね』
『いや、カードゲームじゃないんだ。どうやったって怪しまれる』
ライブラの言葉に苦笑しながら否定する。
「カジノ側は魔法感知もあるし、不正できないだろとクリシュナは抗議したんだけど無駄だったべ。で、捕まって音信不通になっただぁ」
「ガイはその時何してたんだ? そこまで詳しいってことはそばにいたんだろ?」
「いたべ。他人のふりして離れて見てただよ。クリシュナは結構強かったのに、それでも用心棒たちに負けたし、おらは負け戦はゴメンだぁ」
ケロリとした顔で返答する。罪悪感はない模様。鈍臭い田舎者のフリをするつもりのないガイだ。少なくても善人のフリは無理だろう。
「だけん、おらはランピーチどんと組むことにしたんだぁ。たぶんクリシュナはひどい目に遭ってるだろうし、もう組む価値ないべさ。助けに行くのは危険そうだし」
そして、冷徹さを見せるガイです。
「そっか………まぁ、そんなもんか」
ガイを責めるつもりはない。お互いに利益だけで繋がっていたらしいし。ガイは信用できないとわかっただけだ。赤兎馬とか渡されたらあっさり裏切りそう。
「クリシュナ………。なぁ、カジノって、『ゴールドラッシュ』だろ?」
「そうだぁ。もしかしてクリシュナを助けに行くつもりか? かなり危険だべよ?」
「助けられたら助けるけど、それよりも面白そうだ」
『ゴールドラッシュ』。ゲームではカジノとして有名だが、もう一つ有名なことがあるんだ。あまりゲームに詳しくないガイは知らないだろうが、俺は知っている。
「とりあえず………俺も『ゴールドラッシュ』に行くから場所を教えてくれ」
ポンとガイの肩を叩いて、にこやかにお願いをする。
あのカジノ………複数のイベントがあることを思い出したんだ。
◇
思い立ったが吉日と、夜の帳が下り、周りの建物がネオンで彩られる中で、ランピーチはライブラをお伴にカジノ『ゴールドラッシュ』に来ていた。
『なにかワクワクするね!』
「あぁ、もちろんだ。行くぞライブラ。一儲けだ」
『オッケー、私に任せてよ。これでもカードゲームに強いんだ。ドロー、私のターン!』
「そのカードゲームじゃないからな」
巫女風サポート少女は期待でワクワクと頬を紅潮している。
二人の目の前には多くの老若男女が出入りしている建物があった。地上街区でも中位地区、外観は神殿のような作りだが、金ピカで極めて趣味が悪い。
ネオン輝く看板には『ゴールドラッシュ』と描かれており、『VIPは掛け金に上限なし』と、壁に貼られたポスターに書かれていた。
「まず初めに一千万使ってVIP会員になる。それからが勝負だ」
ピンクのワイシャツにダボダボのズボン。『因果混沌』のサングラスをかけて、金のネックレスを首にかけて、どこからどう見てもチンピラだ。
肩に下げたバッグには3000万エレの札束が詰まっている。軍資金はバッチリだ。
「さて、今日はギャンブラーのミチビキだ。カジノが歓迎してくれるといいんだけどな」
『目指せ、大金持ち!』
カジノへの階段を登って、ランピーチは悪そうな笑みとなる。きっと面白いことになるだろうとの予感で、胸を膨らませて、ウケケと笑うのだった。




