92話 閑話 昼編 頑張る幼女
ランピーチマンションで頑張る幼女コウメ。ちっこい体でとてちてと頑張るその姿は可愛らしい。
そんな頑張る幼女の一日、昼を見てみよう。一日とは言わず、ずっとでもいいかもしれない。小悪党の一生を見るよりも遥かに良いと思う紳士は多数いるのは間違いない。
ピコンと寝癖を跳ねさせて、コウメはぽかぽかのお日様の陽射しの下、テクテクとマンション内を歩いていた。
「パパしゃんがかえってきたの〜、よいこにちてたからかえってきたんだよ〜、きょうからいっしょにごはんをたべて、いっしょにねりゅの〜」
ご機嫌な幼女はふんふふーんと鼻歌を歌い、マンションの住人はその可愛さに癒されて優しい笑みを向けている。
「親分が帰ってきたうさ〜、サボれなくなったうさ〜、今日から仕事を真面目にしないといけないうさ〜、面倒くさいうさ〜」
その後ろでは項垂れて、ポテポテと歩くウサギの姿もあった。うさぎたちは、親分がいないからと、のんびりと仕事をしていたのにと、ご不満だ。
「ウサギしゃんは、パパしゃんきらい? コウメはだいすきだよ!」
「好き嫌いではないうさよ。ただ1日中日向ぼっこしてたら怒られるのが不満うさ」
ケロリとした顔で、まったく働いていないことをカミングアウトするうさぎだった。親分がいない間もしっかりとお仕事していたうさよと、うさぎたちは胸を張って言い張る予定だが、ぽかぽか陽気の中で寝ているうさぎたちは名物になっていたので、たぶん嘘はバレるだろう。
ともあれ、後に縄でぐるぐる巻にされて吊るされているミノムシウサギたちが名物になることはまだ知らないので、うさぎたちはブーブー文句を言いながら、仕事を真面目にしていた。その仕事の一つが見回りである。
「んと、いっかいいじょーなーし」
そして、見回りにコウメも加わっているのだ。いつもお昼は見回りから始まるコウメは、キョロキョロと受付ロビーを見て、ふんふんと頷くと、ちっこいおててを掲げるのだった。
「あたちたちのおうちはあたちがまもりゅの!」
コウメの分担は一階から二階の見回りだ。誰にも言われていないが、そう決めている。そして、周りの人たちもそんなコウメをニコニコと眺めて癒されていた。
「最近、人が多くなってきたうさね〜。見慣れない人間たちが毎日増えるうさ」
「えへへ〜、パパしゃんのおうちにおきゃくさんたくさん〜。おともだちがたくさんふえりゅのよ〜」
コウメはたくさん人が増えたことが嬉しくて、身体を揺ら揺らと揺らして、また歌う。きっと皆もおうちで暮らしたいのだ。パパしゃんは、お布団とかくれるから、きっとぬくぬくで寝れるのだ。
だが、コウメのように良い子ばかりがここを訪れているわけではない。なにせ、ここはスラム街で、訪れる者たちの多くも安心して住むことができると噂を聞いて訪れるスラム街の住人たちである。
なので、初めて来た者たちは、ここも弱肉強食だと思っており、強力な武力で住人を押さえつけているに違いないと考える者も多い。
「おい、そこの餓鬼。お前の持つナップサックを寄越せや、コラ」
━━━なので、こういう事も起きる。
見回りはしっかりと見て回らないとと、誰もいない廊下も散歩していたコウメの前に数人の男の子たちが立ちはだかった。皆、薄汚れた姿で痩せており、目だけがギラギラと濁った光を宿している。
男の子たちは全員12歳くらいだろうか。コウメの背負っているナップサックを見つめており、腹をすかせた動物のようだ。
即ち、スラム街ではよく見る追い剥ぎであった。コウメを見つけて、カモだと思い、こっそりとつけていたのだ。
「これはコウメのだからだめでしゅ! これはパパしゃんからもらっただいじなものなの! パンなら残ってるからあげりゅよ」
ポケットになんでも仕舞うコウメをみかねて、小さなナップサックをパパしゃんがくれたのである。以来、いつもナップサックを背負っているコウメなのだ。宝物なのだ。
「へっ、一人でこんなところにいるのが悪いんだろ。おら、それ全部寄越せよ」
「パンは俺たちが食べてやるからよ」
「金も中に入ってればいいなぁ」
男の子たちは既にナップサックが自分の物になると決めつけて、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべて、コウメを囲む。
「この変な生き物も食えるかなぁ?」
「美味そうじゃん。逃がすなよ」
「久しぶりに肉も食えるよな」
ノーマルモード、即ちなにも着ていないただのウサギに見えるハイラビットガンナーを見て、よだれを垂らす。
大人たちなら、少なくともこの地区の噂を聞いて、気をつけることも情報として集める。安全に暮らせるのはなぜかと最低限の情報を集めるので、ウサギに絡むことはしない。だが、この男の子たちは、人が集まる最近になって台頭してきたチームの拠点だとしか聞いていなかった。
多くの人々が集まり、店がいくつも開店している。それは、スリをして生活をしている子供たちにとって、稼ぐところが増えたとの認識だったのだ。
そこで、彼らは初めて訪れた当日、カモを探して彷徨いていたところ、警戒心を投げ捨てている幼女を見つけて、手始めに行う仕事にちょうどよいと考えたのだった。
白いもふもふな毛皮にまるまると太ったウサギは、ウサギという存在をそもそも知らない男の子たちの目には焼いたら旨そうな獲物にしか見えなかった。キョトンとしたつぶらな瞳が男の子たちを眺めて、コテンと小首を傾げる愛らしいの塊だが、常に腹を空かせている男の子たちの心には響かない。
「へへっ、つーかまーえた!」
ピンと伸びる長い耳を掴もうと、下衆な笑みで手を伸ばす。
その手が耳に触れた瞬間に、うさぎの手にヒートナイフが現れて、男の子たちを燃える薪へと変える。━━と思われたが。
だが、コウメが両手を翳すと、ふんすと叫ぶ。
「てれきぬぬす〜!」
『アポート』
男の子たちの真上に網が現れると、落ちて絡め取った。鉄の鎖で編まれた網であり、落ちてきた時点でかなり重いし、痛い。
「な、なんだこれ? お、重い」
「抜け出せねーぞ、どうなってるんだよこれ!?」
「絡まって、イタタタ」
なんとか抜け出そうとするが、細かい網の目で編まれた鉄の鎖の網は暴れれば暴れるほど、身体に絡まり抜けることが難しくなる。
「ふふーんでしゅ、みまわりコウメにアクはつーよーしないのでしゅよ!」
むふんと鼻を鳴らして、胸を張るコウメ。
見回りは伊達ではないのだ。ただの幼女ではないコウメなのだ。見回りをするためのアイテムとしてウサギしゃんに鉄の網を貰ったコウメ。いつもは倉庫にしまってあるが、こーゆー人たちを捕まえる時に使うのだ。
「てめえっ! この網をとれよ、こらぁっ!」
「殺すぞ、この野郎」
「ぜってー仕返しをしてやるからな!」
怒鳴る男の子たちへと、コウメはナップサックを置くと、パンを取り出す。
「おなかすいてるなら、あげりゅ」
パンを男の子たちの前に出すと、男の子たちは暴れるのをやめて、鳩が豆鉄砲を受けたように戸惑った顔となる。
まさか、パンをくれるとは思っていなかった。しかも合成食料ではなく、本物のパンっぽい。いや、天然物のパンでなくても、合成食料でも全然問題はない。
「………いいのかよ? 俺たちはお前から奪い取ろうとしてたんだぞ?」
「おなかすいてりゅみたいだからあげりゅ! コウメはパパしゃんやパンやしゃんにたくさんもらってるからだいじょうぶ!」
「あ、ありがとう………」
食べ物を分けてもらえるなんて、思いもよらなかった男の子たちは思いがけない優しさに触れて、気まずげに顔を俯かせる。
自分たちの行いが急に恥ずかしくなり、罪悪感で落ち込むが、それと同時に優しさに触れて心が少しだけ暖かくなる。
「あい、どうぞ!」
「あぁ……………この網はどうやって外せばいいんだ?」
だが、ジャラリと鳴る網があった。
「大丈夫だ、少年。牢屋の中でパンは食べられるだろうよ」
と、いつの間にか大柄の男が数人立っていた。暴れる男の子たちの声を聞いて集まってきた男たちはランピーチマンションの自警団だ。
「コウメちゃん、網を消してくれないか? 後は俺たちに任せてくれ」
「あーい。てれきぬすすかいじょ〜」
自警団のみんなは転移ではなく、網を生み出す捕縛系の魔法だと勘違いをしていたが、てれきぬすすなのだ。
コウメがてれきぬすすを使うと、鉄網は倉庫へと戻る。抜け出そうとしていた男の子たちがつんのめるのを自警団が手慣れた様子で捕まえる。
「お前ら幸運だったな。あと少し遅かったら、そこらに散らばる肉片となっていたぞ」
苛烈なる治安維持をするウサギたちのことを知っている自警団は苦笑混じりに男の子たちの頭を叩く。ナップサックに触れても、ウサギの耳を掴んでも、爆発するかのように壁が砕けて、男の子たちの命は無かったのだ。
まぁ、自警団としては、泥棒の命よりも崩壊する建物が大事だったりするので、自警団を組織したのではあるが。毎回壁が消えてなくなるのは勘弁してほしいのだ。
「あい、パンたべてくだしゃいね」
「あ、ありがとうよ」
そんな男の子たちへとパンを渡して、ニコリと微笑むコウメ。そうして、バイバーイと手を振って、見送るのだった。
後に、コウメをまもり隊結成の契機となるのだが、それはまた別の話となる。
そうして、コウメはウサギしゃんと一緒に見回りを続けて、地下に魔物の発生検知したうさよとウサギしゃんが別れて、お仕事は終了した。
「きょうのおしごとおしまい! もうひるねのおじかんだ! たいへんたいへん」
なんとなくたいへんなんだよと慌ててエレベーターに乗り、ボタンを押すのは他の人に任せて、急いでパパしゃんの下へと帰る。
今日のパパしゃんはおうちで仕事をしてるのを知ってるコウメなのだ。
「パパしゃん、おひるねのおじかんでしゅ」
うんせと執務室のドアを開けると、パパしゃんがチヒロおねーしゃんや、セイジおじさんたちとお話をしているのを見つける。
「おひるねしゅるの〜。おねむなの〜」
「よしよし、お昼寝だな」
毛布をてれきぬすすで呼び出すと、パパしゃんのお膝の上に乗ってお昼寝だ。毛布で身体を包み、パパしゃんの優しいなでなでに目を瞑って、おやすみなさ~い。
おやつの時間まではすやすやと寝るコウメ。今日も頑張ってお仕事をしました。




