87話 雑魚敵の小悪党
嵐は恐ろしい範囲に吹き荒れる。半径百メートルはあるだろう暴風のドームが形成されて、さらに吹き荒れる風は魔法により物理的な刃となり、ランピーチへと無限の刃となって襲いかかる。
嵐の刃はミキサーのように、中にいるものを切り刻み、肉片すら残さない血風とするはずだった。
だが、暴風の中を砲弾のようにランピーチが飛び出してきて嵐のドームを突き破ると、シルフへ向かい駆ける。
「風系最強の魔法じゃねーか! いきなり使うとは挨拶の仕方がなってないぜ!」
切り傷だらけとなってはいるが、皮一枚でぎりぎり防いだランピーチが、燃え盛る炎のような眼光を宿し、200メートルは離れていただろうシルフとの間合いを数秒で詰めていく。
対して、シルフたちも腰を落として構えをとると、ランピーチへと立ち向かう。
「戦闘開始だ!」
『扇撃ち』
BDを構えると、ランピーチは二体のシルフへと初撃を放つ。放たれた銃弾は正確にシルフの頭へと向かい━━━そして、弾かれた。
『ミサイルプロテクションだよ、ソルジャー!』
「くっ、風の妖精だから予想はしていた。それならば殴って倒す!」
ライブラの言葉に悔しげに唇を嚙み、精霊の篭手を取り出して構える。
「人類の排除を開始します」
『ウィンドカッター』
シルフが腕を振った瞬間に、ランピーチはその場を横っ飛びする。ヒュッと小さな風切音がして、糸のような細い刃がランピーチがいた場所を通り過ぎていった。
シルフは躱されたことにも動揺を見せずに、両手を草でも刈るかのように振り、風の刃を放ってくる。
文字通り風の速さであり、ランピーチは小刻みにステップを踏みながら駆けてゆくが、躱しきれずに剣聖の衣に切れ目が入り、鮮血が舞う。
「くっ、なんて速さだ。この間の詐欺師とはレベルが違うぞ! それにとんでもない威力だ!」
『ひょえー、卸したばかりの精霊鎧が傷ついちゃった! かなりの防御力なのに!』
敵の攻撃の鋭さに驚きを隠せない、ライブラが焦って小躍りして驚くのはもはや驚かない。
今のランピーチの走行速度はどのような車よりも速い。200メートルなど、たった数秒で詰められるはずであり、狙い撃つのは極めて困難であるはずなのに、シルフは正確に風の刃を放ってきていた。
「接近するしかない! ぶん殴って倒す!」
振るう腕の速さが残像を残すかのように速く、風の刃は留まることを知らないマシンガンのようにランピーチに向かってくる。
『ガード』
その数と密度では接敵するためには回避しきれないと、ランピーチは理解していた。なので、腕を交差させてダメージ覚悟で突撃を敢行する。
「これでも喰らえっ!」
肩を切られて、腕が傷ついても防御技を使用し、最低限のダメージにおさえて、痛みに耐えながら、一気に間合いを詰めて殴りかかるランピーチ。だが迫るランピーチを前にして、シルフは冷静であった。
『ウィンドステップ』
逆巻く風が足元に生み出されると、シルフはその姿を消す。
「なぬっ!」
拳が空を切り、ランピーチの心に動揺が奔る。スピードでは自身が上だと予想していたのだ。
『やばいよソルジャー! 敵の回避用の特技はスピードを一瞬だけ数倍に高めるんだ!』
「歩法の特技は伊達ではないということか!」
焦るライブラに、舌打ちをするランピーチ。特技の有無で戦闘能力に大きく格差ができることを実感しているのだ。
(ここに来て特技を取得していないのが、大きなデメリットになるとは! ゲームだと基礎能力を高めるパッシブスキルだけで力押しできたのに、明らかに難易度が上がってる。ランピーチ難易度を甘く見てた!)
本当の特技の威力は段違いだった。切り札がまったくないランピーチは、ここぞという時に競り負けることを予感して、額に冷や汗が流れる。
『ウィンドステップ』
今度は接近するためにシルフは風の歩法を使う。一瞬で間合いを潰されて、ランピーチが慌てて構えを取るのに対して、シルフは片手を剣へと変化させて攻撃をしてきた。
『ソルジャー!』
「わかってる!」
ランピーチも手刀の構えをとり、シルフに対抗する。逆巻く風と共に振るわれる横薙ぎに、最小限の動きで腕をすくい上げて、剣身を軽く叩く。かすかに体が泳ぎ隙を見せるシルフに体当たりをするように肘打ちを仕掛けて、胸に叩き込む。
シルフはダメージを受けて、わずかに顔を歪めるが、肘打ちを受けて下がる際に足元にローキックを放ち、ランピーチの足を止める。
動きの止まったランピーチへと身体を浮かせ大きく翻してのソバットを繰り出す。
「そこまでの隙じゃない。甘いぜ!」
だが、その時にはランピーチの手がシルフの身体に添えられて、爆発的な気が衝撃となってシルフに打たれる。
『双手発勁』
強い踏み込みにて、シルフへと攻撃を与えたランピーチ。たしかな手応えを感じて、押し下がるシルフへと不敵な笑みを返し━━━。
『爆風機雷』
強く踏み込んだために、ほんの少しだけ身体が硬直したランピーチの周囲に膨大な魔力のこもった風珠がいくつも浮かぶ。
「ちきしょうめ、こいつは足止め役だったのか!」
もう一体のシルフが離れた場所で手を突き出していた。タメの必要な魔法を使用するために、もう一体が敢えて接近戦を仕掛けてきたのだとランピーチは悟る。
逃れる隙など完全に無く、風珠は爆発していき、いくつもの衝撃波が発生し、空間を震わせて轟音と共にランピーチを砕かんとする。
衝撃波を伴う大爆発により、ランピーチの姿が消えて、シルフたちは戦果を確認すべく、立ち止まり様子を見るが━━━。
砂埃が消えて、風がおさまってゆく中で、シルフたちはピクリと反応をする。
「いってぇ〜。くそったれ、あいつら強すぎるぞ」
風がおさまる中で、血だらけとなったランピーチがいた。髪と目の色が銀色となっており、髪は腰までかかるほどに伸びていた。
『神霊融合』
ダメージを負う寸前にランピーチは切り札を切っていた。『神霊融合』。サポートキャラと融合でき、その力を振るうことのできる変身だ。
「パワーアップした俺たちのデビュー戦をしようぜ、ライブラ!」
『うん、どーんと私に任せてよ。サポートキャラである私が融合した以上、もうあいつらなんか相手にならないね! 赤子の手をひねって、母親に怒られるくらいに楽勝さ』
融合したライブラが、視界の端に通信モニターのように映し出されており、その表情は自信満々だ。ランピーチも頼りになる銀髪巫女に力が湧いてくる。
『ライブラ』
『スキルスロット:なし』
『スキルスロット:なし』
『スキルスロット:なし』
『スキルスロット:なし』
そして、ピコンとステータスも表示された。意味がわからないが、なんとなく厭な予感のするステータスが。
『????? なにこれ、スキルスロット?』
『……えっとぉ〜、ソルジャー、説明書き読んだかな? 私は読まなかったんだけど……』
自信に満ちた顔がショートケーキの苺を食べられたかのように元気がなくなり気まずけになるライブラ。指をツンツンと付き合わせて、ランピーチをエヘヘと見てくる。
『もちろん読んでない。今や説明書の代わりにチュートリアルがゲームではあるんだし』
『だよね! じゃじゃーん、チュートリアル、可愛らしいサポートキャラのライブラにスキルスロットをつけてあげよう! コロニーの研究所を解放すれば、ライブラを改良して様々なスキルスロットを搭載できるぞ! スキルスロットを付けないとライブラは役に立たないぞ』
自前でチュートリアルを始めるお馬鹿なサポート巫女。どうやら力が湧いてきたのは気の所為だった模様。たぶんプラシーボ効果というものだったのだったろう。
『お前、ふざけんなよ! 使う前に教えろよ。どんだけポンコツなわけ!?』
『ソルジャーに聞かれたら調べたさ! 私が自発的に調べ物とか説明書を読むとかするわけないでしょ!』
『チキショー、エロいから我慢してたのが仇になった! さっさとミラにチェンジしておけば良かったぜ!』
『あー、今度は一緒にお風呂に入ろうかなぁと思ったのになぁ。背中を流してあげようかなぁと思ってたんだけどなぁ』
遂にサポートキャラであるプライドを捨てたライブラだった。なぜにここまでポンコツになったのかさっぱり分からない。小悪党ウィルスにでも感染したのだろうか。
『あー、もー! わかったよ、戦えば良いんだろ。一回は倒されても良いなら、戦いようがあるしな!』
ライブラへはため息で感情を見せつつ、シルフたちの様子を窺い、顔をしかめてしまう。
「お代わりもきたぞ。遠慮がない奴らめ」
神の視点にて、さらなる敵が闇の向こうから走ってくるのを確認できた。シルフのように速さはないが、走る速度はそれでも時速百キロはあり、力強さを示すように、踏み足は轟音を立てている。
『狂いしノーム:レベル6』
背丈は2メートルほど、ずんぐりむっくりとした岩の体を持つ土の精霊ノームだった。傍目から見たら、ゴーレムのようにも思えるだろう。
「また、レベル6か……ここではレベル6が最低なんだな。レベル6からは次元が違う強さを持つと知っていたのに迂闊だったぜ」
嫌な予感がする……速さ特化のシルフと防御特化のノームを組み合わせたらまずいと、勘が激しく警戒するようにアラームを鳴らしている。
「ノームが合流する前に、シルフを確実に一体は倒しておく。でなきゃ、ジリ貧になりそうな予感がするんだ」
『アイアイサー! ソルジャー、それじゃ、神霊融合の力を見せてやろうね!』
「善処するように硬く誓うよ」
政治家の答弁のように答えて、ランピーチはダメージを与えたシルフへと向き直り、地を蹴る。
『ウィンドカッター』
『ウィンドカッター』
対して、シルフたちは援軍が来るのを理解しているのか、時間稼ぎとばかりに風の刃を放ってくる。頭にくることに、息のあった攻撃で、回避するスペースを埋めるように的確に網目のように連続での風の刃の攻撃だ。
(くっ、数秒で間合いを詰められるはずなのに、遠すぎる! 敵の攻撃が速すぎて………?)
全速力で間合いを詰めようとするランピーチは無数の風の刃を前に歯噛みをして━━気づく。
敵の放つタイミング、放たれた風の刃の予測軌道、どのような戦法を敵が取ろうとしているのか、どう動くのか━━━。
体術レベル6とはいえ、そこまでの洞察力も計算能力もなかったはずなのに、今ははっきりとわかる。わかってしまう。
コンマの時間の流れの中で、ランピーチはわずかに身体をずらす。ピシリと身体に風の一撃が入るが躊躇うことはない。
突進する速さをわざと落として、ダメージを受けているかのように演技をするとシルフは逡巡する。後方に下がるのと、このままランピーチを倒すのかを天秤にかけて、倒すことを選択した。
その行動に、ランピーチは口元を歪めて倒れ込むように前のめりに体勢を崩して━━━一気にバネのように跳ねるとシルフへと肉薄した。
「残念、欲張ったなシルフ」
『サイキックボディ』
『サイキックブレード』
『剣聖』
念の為にととっておいた切り札を切る。シルフが想定する身体能力を大幅に上回ったランピーチは唯一の単体特技を発揮させた。
『乱刃拳』
そうしてシルフが逃げる体勢を取る前に、必殺の拳撃を繰り出す。白銀の軌跡がシルフの身体に奔っていき、魔力の破片へと変えて切り裂くのであった。
「ふぅ、ようやく一体倒せたか」
霧散していくシルフの残骸を横目に、ランピーチはグッと拳を握りしめる。
「未来予知にも近い行動予測能力。さすがは『宇宙図書館』。その演算能力には感心するしかないぜ」
まだまだ敵はいるが、なんとかなるかもしれないと、ランピーチは次のターゲットを倒すべく息を整えるのであった。




