76話 魔法銃と小悪党
「ナイスだ、しっかりとセイジは頼んだ銃を用意してくれたようだな」
ランピーチはテーブルに置かれた銃を見て、満足そうに頷く。銃は3丁置いてあり、一丁は1メートル程度の長方形の銃で、残り二丁は西部劇で出てきそうな古めかしいリボルバータイプの銃だ。
「おいおい、俺も最高品質の物を探すために東奔西走、涙なくしては」
「そーゆーのいいから。説明してくれ」
言葉を被せると、不満そうにしつつもクリタは説明をするために、長方形の銃を指す。
「バーサーカードライバー、略してBDだ。これは貫通力を高めるために、銃弾が魔鉄製で通常よりも軽く、そして普通の銃弾よりも長細い。特注の銃弾なので高価だが攻撃力はお墨付きだ。三億エレだな」
『BD:攻撃力52』
三億エレもしたのに泣けてくる攻撃力だが、数値の見えないクリタはドヤ顔で、この銃に自信があるらしい。
(それでも、DG5の倍以上の攻撃力だからな。特注の銃弾も使いやすいし、我慢するか)
ランピーチが少し残念そうな顔になるのを気づかずに、クリタはリボルバーを手に取る。二丁のリボルバーはそれぞれ赤いルビーと白真珠が嵌められていて、炎と冷気をそれぞれ纏っている。
「『フレイムマグナム』に『アイスマグナム』だ。炎と氷の属性弾を使える魔導銃。一丁2億エレしたんだぜ。だが、価格分の活躍は期待できる代物だ」
『アイスマグナム:攻撃力38 氷属性』
『フレイムマグナム:攻撃力38 炎属性』
ゲームでもこの属性銃は結構使えた。炎と氷属性を弱点とする魔物は結構多かったのだ。
「銃弾はサービスにしておくから、合わせて七億エレだ。セイジに預けてある金から抜いておくが良いよな?」
「あぁ、俺は口座を持ってないからな。セイジに預けてある金から抜いておいてくれと伝えてくれ」
冬の間にランピーチが稼いだ金は八億ちょいエレだった。そのうち、七億エレはセイジに預けてあり、ぴったりすっからかんになる計算だ。ゲームでも貯金はしないで限界まで買い物をして、足りないで手元のアイテムも売る男だったのだが、現実でも同じことをするランピーチだった。
「七億! おじさん金持ちなんだね〜。だから、ウルトラスイートルームもポンとお金出せたんだ」
「お嬢ちゃん、こいつは金持ちだから集った方が良いぞ。だが、精霊鎧はいらねーのか? 落ちぶれても少しは伝手があるからツケで買っておいてやるぜ?」
善意100%でクリタは提案するが、その善意はクリタ自身にもちろん向いている。懲りるという言葉はクリタの辞書にはないのである。
「お前からツケで買うなんて、悪魔と取引したほうがマシだ。どちらにしても精霊鎧はいらないけどな」
あっさりと断るランピーチだが、そうだろうなとクリタも悔しいとは思わない。
(インナースーツに超高性能の地下街区製を使ってりゃ、そりゃいらないよな)
クリタも災害レベルと言われたビルビードをあっさりと倒すランピーチは見ていたのだ。その凄まじい戦闘力を見て、まさか生身とは思わずに、勘違いをするクリタであった。
「えー! 武器だけで、しかも銃なんかに七億エレも使うの!? 剣とか槍ならもっと良いの買えるのに!」
灯花が信じられないとの瞳を向けてくるが、気持はわかる。何故かゲームでは銃の攻撃力は低く、剣とかの方が強いことが多い。『パウダーオブエレメント』も他のゲームのように飛び道具は弱かった。剣の一撃分を出そうとすると、5発は撃たないといけないだろう。
「だろう? こいつは変なんだよ」
「銃だと連射できるし、遠距離から好き放題攻撃できるだろ。圧倒的に有利なんだよ。なんで、皆はそう思わないのか、俺こそわからないぜ」
「えー。私には銃は効かないよ?」
着物のような精霊鎧『飛来矢』の裾をひらひらと振る灯花だが、彼女は例外だ。
「少ない例外のために銃を選ばないなんてことはないんだよ。で、灯花はそろそろ学校いかないとまずいんじゃないのか?」
そりゃ『飛来矢』を着ていればそうだろうと半眼で見返す。それと学校はそろそろ遅刻になるんではなかろうか。
「今日は迷子の子猫を飼い主まで運んでイタタタ」
サボる手口を口にするには場所が悪かった。いつの間にか村正がにこやかな笑顔で後ろに立っており、灯花の耳を引っ張る。さようなら灯花、また夕方な。
「まぁ、銃にこだわる変人なのはわかった。これからも銃のレパートリーは増やしておく」
「それと、この素材の買い取りをよろしく」
「お、それは任せろよ。っと、安い素材かよ。もう少し強い精霊区にいかねーのか? お前さんなら楽勝だろ」
「基本を知らねーのかよ。探索者は少しずつ足場を固めて腕を上げるんだよ。断じて、高ランクの星がないから、上位の精霊区に入れないわけじゃないからね」
昨日稼いだ分を渡すと、クリタは確認しながら、少し不満げになる。ランピーチの腕なら、高額の精霊石や素材が手に入ったのだろうと期待していたのだ。
そして、素材の値段を確認しながらクリタはちらりとランピーチの様子を見るが、飄々としており、クリタの様子をまったく気にしていない。さすがにぼったくるつもりはもうないが、ランピーチの金への執着心の無さに内心不可解にも思う。
(……こいつは本当にランピーチなのかね。情報を集めたら、ある時から急に性格も戦闘力も変わってる。地下街区の奴がすり替わったと言われても俺は驚かないね。まぁ、それを口にするほど愚かでもない)
「総額55万エレというところだな。現金で払うか? もう星1になって口座を手に入れたんだろ?」
そっと明後日を向くランピーチです。賄賂まで使ったのに失敗したとは言いたくはない。小悪党にもプライドが水たまり程度にはあるのだ。
だが、クリタには気づかれた。わざとらしくため息まで吐く嫌味な態度で、代金を置く。
「なんだよ、星1になってねぇのか。仕方ねぇやつだな。ほら、現金払いだ」
「ありがとよ。灯花に半分渡さなきゃな」
ナップサックに札を入れるランピーチ。クリタは受け取った素材を纏めつつ、そういえばと顔を向けてくる。
「精霊鎧を持たないお前さんには関係ない話だとは思うけど、『覚醒』詐欺が北部では多いらしいから気をつけるんだな」
「『覚醒』詐欺? もしかして、量産精霊鎧に付与されている人工精霊をパワーアップさせるあれか?」
「そうだ。ここにくる前に知り合いの探索者が引っ掛かった友人の話をしてたんだよ」
「へー………そうか……」
途中からナップサックに入れたのは失敗だったと気づいて、紙を食い千切るようなガサガサと音を立てるナップサックの中に手を突っ込んでいたランピーチはピタリと手を止めると、真剣な顔になりクリタに顔を向ける。
「クリタって、友人いたのな」
「いるわっ! 俺が落ちぶれたことをまだ知らない奴は色々とタダで情報をくれるんだよ」
「友人がいないことはわかった……」
可哀想なクリタの友人関係は横においておいて、ランピーチは口元をニヤニヤと歪める。どこから見ても、碌な事を考えない小悪党に見えるが、それどころではない。3周目しか発生しなかったクエストかもしれない。
「どうやら欲しかったクエストが発生したみたいだぞ。さて、そうなればと」
ちょうどたんこぶを頭につくり、エレベーターからしょんぼりと水をかけられた子犬のようによろよろと力なく出てきた灯花を見て指を鳴らす。
「灯花、悪いんだけど、放課後に探索に行こうぜ」
「うん! すぐに帰って来るから、待っててね! もしかしたら風邪をひいて、午前中に帰ってくるかも!」
「それはやめとけよ。あぁ、とっても面白い事が起こるかもしれないから『飛来矢』を装備して来るんだぞ?」
「了解っ。それじゃいってきまーす!」
元気を取り戻した子犬は尻尾をブンブンと振って、砂煙を巻き起こす勢いで走り去っていく。
『ソルジャーが悪いことを考えてる! 目立たないでほとぼりを冷ますために、この地区に来たんじゃないの?』
『知らないようだな、ライブラ……ゲーマーはな、クエストのためなら、たとえ一人で軍隊に飛び込むことになっても、躊躇わずに飛び込むんだ』
これをゲーマーのクエスト理論と言いますと、走り去っていく灯花を見ながら、怪しげな微笑みを浮かべる小悪党であった。
『それって利益のためなら無茶でも何でもするってことでしょ?』
『噛み砕いて説明するの禁止な』
◇
━━お昼すぎ。
「なぁ、放課後って、最近は昼ご飯の時間を過ぎたあたりのことを言うんだっけ?」
「動悸が激しくて早引きしますって説明して帰って来たんだ。朝から胸がドキドキしてたから嘘じゃないよ」
「バレたら親父さんにまた拳骨をくらうぞ」
「大丈夫。今度は油断しないで精霊障壁を張っておくから」
「家庭間のことはノータッチにしておくわ」
やれやれとかぶりを振りながら、ランピーチは学校から帰ってきた灯花と街中を歩いていた。早引けしてきたことを、なんの罪悪感もなくケロリとした顔で話す灯花にドン引きしつつ、周りをさり気なく探る。
「いらっしゃい、いらっしゃい〜、高品質の合成食料だよ〜」
「最新式のスマホはいかが〜。店頭で買えば、3割引だよ〜」
「本日は特売日、見てらっしゃい、よってらっしゃい〜」
さすがは中位地区。店員の客引きも活気があり、歩く人たちも裕福そうだ。泥棒などいないと信じているのだろう。治安の良さを見せるように棚に並ぶ様々な商品。レストランのランチはその値段を知ればスラム街の人間は腰を抜かすだろう。公園では人攫いなど気をつけなくても良いので、子供たちがキャッキャッと走り回り遊んでいる。
以前の世界、治安の良かった日本を思い出し、なんとなく寂しい気持ちになりながら歩く。
「ねー、ねー、ここに何しに来たの? キャトルミューティレーション?」
「俺が攫ったら普通に誘拐だろうが。あ、あれだな」
路地裏に何人かの男たちが屯しているのを目ざとく見つけてランピーチはさり気なくそちらへと向かう。
「人工精霊が『覚醒』すれば、実体化できて、さらに鎧もパワーアップするよ! 今なら凄腕魔法使いの魔法で覚醒できるんだ。どうだい?」
さっきクリタが注意していた連中だ。
「よし、灯花。さり気なく近づくぞ」
「ラジャー!」
灯花が目に期待を込めて、ランピーチは薄く笑う。
(3周目しか発生しなかったクエスト。今回もいただきだぜ)
そう心で思いながら、男たちに近づくのであった。




