45話 2番目の死亡フラグと小悪党
ショベルティラノが走ってくる。巨大なる体躯のために見た目は鈍重に見えるが、その速度は速い。地面に陥没を作りながら、瓦礫を蹴散らし迫ってくる。
『看破』
ランピーチは自身を一撃で倒す威力の鉄塊が迫ってくる中でも、命の危機が一歩一歩近づく中でもまったく動じずに、冷静にスリルに満ちた楽しそうな表情で見つめる。
「ふぬぉぉ!」
ショベルティラノが口にあたるショベルを大きく開くと振り下ろしてきた。ランピーチは冷静に横っ飛びで転がりながら、情けない声をあげて攻撃を躱す。ショベルが地面を大きく抉り、埋まっていた車両が掘り返されて、回転しながら空中を舞うと、転がったランピーチに向かって落ちてくる。
『テレキネシス』
鋭い視線にて車両に念動力を仕掛ける。『テレキネシス』は自身の筋力と同等の物体しか操れない。
━━━しかし、一瞬であれば停止だけはできる。ゲームでも一瞬だけ停止ができて、その後に念動力は解除されてしまうのだ。
「うぉぉ!」
だが、飛んでくる物体に対しては、その一瞬だけで充分だ。飛来物は地に落ちてしまうし、足場にもできる。
停止した瞬間を狙い、ランピーチは車両に飛び乗り、さらにジャンプする。
『格納』
錆びたシャーシだけの車両を指輪に仕舞うと、振り下ろし体勢から首を持ち上げようとするショベルティラノに飛び移り、格納した車両を取り出して、首の付け根へと落下させる。
ショベルティラノの装甲が大きく凹み剥がれていき、バチバチと火花を散らす。ランピーチは前面に大きく飛翔するとDG5アサルトライフルを装甲が剥がれた箇所へと向けて銃撃をする。
『ピアッサー』
「GyaGya!?」
銃弾が内部機構にめり込んでいき、ショベルティラノは大きく首を揺らして、痛みを感じるように叫ぶと、再び暴走してランピーチから離れていく。走る振動が微震となり、瓦礫の山からカタカタと細かい鉄片が落ちていく。
「本当に生き物みたいだ。あれは痛覚があるな?」
『だね、ソルジャー。取り憑いた精霊がダメージを受けて痛がってるのさ』
「機械が痛覚を持つのは酷く歪で……大きな弱点となるな。それに恐怖も持っているようだ」
痛みを感じず、恐怖を持たず、命を失うことを恐れずに攻撃をしてくるのが、機械の長所なのだ。
なのに、ショベルティラノはその長所を打ち消している。
大ダメージを2回受けたことにより、ショベルをもたげて、ショベルティラノは警戒してランピーチの周りをウロウロし始めていた。
(ゲームとは違うところだ。ゲームなら残り1ミリのヒットポイントでも、臆せずに攻撃をしてきたんだがな)
そのため、あと一撃で倒せると油断した時に殺されたことが何回あったことか。コントローラーを投げ捨てて、むきゃーと叫んだことが何度あったことか。
「とはいえ、それで隙ありだとドヤ顔で倒せるのは主人公だけなんだよなぁ」
ショベルティラノがじわじわと近づいてくるのを見て、こめかみからたらりと冷や汗をかく。試しに銃撃をしてみるが、硬い装甲に阻まれて、凹みを作るだけだった。
『これまずいんじゃない? あの敵、突進してこないよ?』
「だよなぁ……頭がいいよな」
突進してこなければ、ゲームのように浮遊ギミックで飛び乗れない。さっきのようにたまたま車両が掘り起こされる可能性も低い。
なによりも思い出したことがある。
ショベルティラノが出現するイベントシーン。そこにはひとつ重要なシーンが抜け落ちていた。
『ぎゃーー』と叫んで、ローラーに喰われていく探索者のシーンがゲームにはあった。ショベルに捕まり、ローラーで探索者を挽き肉にすると、夥しい人間の血をショベルから流し、挽き肉にした探索者の死体を放り投げてから、咆哮して恐ろしげなボスとのインパクトを与えてくるのである。
その死体はランピーチです。
『ぎゃーー』と叫んで殺される探索者はランピーチであった。ランピーチでした。大事なことなので2回言いました。運営はランピーチ=やられ役だと考えて、使い回しすぎだと思います。
ショベルティラノが首を横に振りながら、地面を擦りショベルで薙ぎ払ってくる。ランピーチは後方へと体を投げ出し、回転しながら体勢を立て直し躱す。
だが、振り子のように首を振りながら、地面を削りショベルティラノは追いかけてくる。
「うひょー! なんで忘れてたんだ、俺の馬鹿、馬鹿。自分から死亡フラグに突撃とか!」
くるりと身体を翻して全力で逃げ出すランピーチ。ライブラが真剣な顔でランピーチの頭をペチペチと叩く。
『ソルジャー、馬鹿馬鹿って言う人は、可愛らしい女の子に限るんだよ!』
ランピーチをからかうことが、人生の目的になっていそうなサポートキャラだ。
「どうでも良いツッコミどーも!」
ショベルによる荒々しい地面の掘り返しにより鉄の殘骸が飛び散り、散弾のように身体を打つ。
「くっ、痛え!」
これもゲームではなかった事だ。敵がクレーターを作って土砂を吹き上げても、地面を抉って石ころを弾き飛ばしても、それは単なるエフェクトであってダメージを負うことはなかった。
『HP:31』
だが、身体にめり込んで、傷を負い血を流しダメージを負っている。
「くっ、躱していくだけじゃ、だめだ! ジリ貧になっちまう」
瓦礫の山へと踏み入れて駆け登ると、ショベルティラノはようやく追いかけるのを止めて、再び獲物の隙を狙うために、ウロウロとし始める。
『敵は様子を見ている!』
ショベルティラノをピシリと指差すサポート巫女。見れば分かるのに、ドヤ顔なのが可愛らしいと思ってしまい悔しい。
「ゲームでは一手無駄にする行動だけど、現実では、その行動に意味があったんだな」
銃撃を続けるが、やはり欠片も痛痒を与えていない。ショベルティラノはこれならば負けないと理解したのだろう。またもやじわじわと近付いてくる。
「くそっ、知性があるとこんなにも厄介なことになるのかよ。もう少し命を惜しまずに、殺られるように攻撃してこいよ」
『自殺する生命体っていないと思うよ!?』
「なら、こちらも裏技で遠慮なく倒すとするぜ」
ライブラとアイコンタクトをして、腰だめにDG5アサルトライフルを撃つ。銃弾が嵐のようにショベルティラノへと向かい、その装甲を凹ませるが、だからこそ自身を傷つけることができないと理解したのか、ショベルティラノは眼の前に迫り首をもたげる。
だが、それこそが油断。俺を一人と思ったことが間違いだ。
「殺られたシーンのように、俺は一人じゃないんだぜ?」
叫ぶ俺に合わせて、ライブラがショベルティラノの首根っこに姿を現す。
『ウルトライブラキック!』
巫女服を翻して、ライブラがショベルティラノに蹴りを食らわす。カチンと金属音が響き、突然現れた新たな敵にショベルティラノは混乱した。
人間が自身を破壊できる力を持つのはわかっていた。だがそれは首根っこに飛び移られて、弱い部分に攻撃を受けなければ、ダメージを受けないこともわかっていた。
なので、慎重に攻撃を仕掛けて殺そうとしたのに、よりにもよって弱点である首根っこに新しい人間が現れたのだ。
「GyaGyaGyaGyaGya」
ショベルティラノは慌てて首を振り、めちゃくちゃに蛇行運転をして、新たなる敵を剥がそうとする。
瓦礫の地面に溝を作り、スクラップの山を壊して、野生の馬が背中に人間が乗って混乱したように駆け回る。しかし、人間は浮遊できるようで、狂乱の暴走をしてもなかなか剥がれない。
先程の人間とは違い、ただの暴走では引き剥がすのは不可能だと理解して、今度はスクラップの積み重なる山へと突進する。
『うひゃー』
自身もスクラップに突進したことにより、多少身体が凹んだが、その程度ではショベルティラノは致命的でもなく、ようやく人間が剥がれたことに安堵する。
そして、落ち着いてハッと気づく。
━━もう一人、人間がいたことを。
「突進して動きを止めるとは、新たなる攻撃方法を攻略サイトに載せないとな」
ぎくりと体を震わすショベルティラノ。その体に素早くランピーチが乗り移ると、首根っこに銃撃を放つ。
『ピアッサー』
再びの強い衝撃に、命の危険を感じて、ショベルティラノは暴走する。今度の人間はすぐに引き剥がすことができて安堵して、向き直る。
なかなか剥がれない人間が銃を持つ人間の肩辺りに浮いていて、クスクスと笑い、銃を持つ人間はスリルを楽しむように愉悦の瞳をしていた。
命懸けの戦闘においてあるまじき二人の人間。その様子を見て、ショベルティラノは首をもたげて警戒しながらも、やはり敵は銃を持つ者だけだと認識をする。
先程突然現れた人間は引っ付くだけで、攻撃をしてこなかった。そのことを理解したのだ。
『ウルトライブラキック』
またもや浮遊する人間が消えて、首根っこに現れるが、今度は微動だにしなかった。予想通り、なんの衝撃もなく、ダメージを負うこともなかったからだ。
ランピーチはその様子を見て、へぇと感心する。予想以上に知性が高い。同じ攻撃を喰らわない学習能力がある。
「お前がもう少し耐久力があれば、俺は死んでいただろうよ。それが運命だったからな」
もはや乗り移られる隙は見せないと、ショベルティラノが唸るように駆動音を立てて、じわじわと近づくが、ランピーチはDG5アサルトライフルを向けて、悪いことを思いつく小悪党スマイルでニヤァと笑いショベルティラノに告げる。
「チェックメイト。残り一撃となった時点でお前は既に負けている」
『刹那』
最後までとっておいた必殺技をランピーチは発動する。
駆動音は消えて、ショベルティラノは彫像のようにピタリと止まる。世界がモノクロへと変わり、時間が停止した。
『ショベルティラノの首:命中率100%』
ショベルティラノの首根っこへと攻撃の選択をする。
『ピアッサー』
防御力を半分無効化する銃技を使い、ランピーチは時の流れを元に戻す。過程が削除されて、結果だけがあとに残る。
即ち、ランピーチが首根っこに飛び移り、銃口を突きつけている現実にと変化した。銃弾がめり込み、耐えきれなくなり爆発を始める。
そうしてトドメだとフルオートでランピーチは射撃をして、銃弾を叩き込む。
シャベルティラノは、なにが起こったかわからずに、混乱のまま首根っこが大爆発を起こす。強固なる鉄の首は破壊されて、轟音をたてて地面に落ちるのであった。
ショベル部分を失ったショベルティラノのカメラアイが光を失い、機体は動きを止めて横倒しになる。
『やったね、ソルジャー。ボスを撃破したよ。チェックメイトだ。チェックメイトだ。アハハチェックメイトだ』
「ねぇ、ライブラさんはからかわないと死んじゃうのかな?」
笑い転げるライブラに、黒歴史を作ってしまったかと落ち込むランピーチであった。
『ショベルティラノを撃破しました。経験値15000を取得』
『ボス撃破ボーナス。経験値3000を取得』




