32話 レベルアップする小悪党
初対面の誰もが認める小悪党の男ランピーチ。その薄っぺらな笑みと、狡猾そうな目つきは、仲間にしても必ず裏切るなと、感じさせる男だ。
それもそのはず。ランピーチの固有スキル『小悪党』は最大レベル。自分で『小悪党』のスキルレベルをMAXまで上げたので、完全に自業自得である。
そんな小悪党。第一印象にて好感度マイナスから始まる男はツヨシの変から一週間。探索にはいかずに自室にて悩んでいた。
『なにを悩んでいるのさ、ソルジャー。早く探索に行こうよ。帰ったら高嶺の花の私がでぇとしてあげるからさ』
自身を高嶺の花と表現するライブラである。きっと主人公をからかいながらも、いつの間にか仲が良くなるパターンだ。
「ライブラが敵だということは理解した。というか、外は吹雪いて来てるじゃねーか」
窓の外では吹雪とも呼ぶには大袈裟だが、それでも外出はしないだろう強さの風が吹き、雪が降っているのである。ランピーチとしては、コタツに入ってぬくぬくとしながら、お餅でも食べながら暮らしたい季節です。
『絶好の探索日和というわけでね、わぁ、ワクワクしちゃうよ』
「町中で吹雪のさなかに出かけて死亡とか、もはや死亡フラグ関係ないからね? この小悪魔め」
ひらひらと巫女服の裾を舞わせて、宙を踊るライブラは、ニヒヒと楽しそうに笑っている。悔しいがライブラは愛らしく、しかも胸あたりははだけそうなので、悲しい男の性、どうしても目がいってしまうランピーチである。
その視線にライブラも気づいており、挑発的に仰向けになり胸間が覗けそうな、蠱惑的なポースをとるのでたちが悪い。ランピーチは発泡スチロール並みの意思の強さを見せて、目を逸らそうと頑張りチラ見程度に抑える。
「だが、探索に向かうのは大切だ。金もないからな。それに………この一週間ただのんべんだらりと暮らしていたわけじゃない」
それでもなんとか気を取り直し、真面目な表情となると、手をグーパーと動かして、肩を回す。
「完全完治だ。ようやく痛みはなくなった」
ジャコツとのバトルで負った痛みがようやく消えたことに、安堵と疑問が入り交じる。
「ステータス上は3日でヒットポイントは満タンになったのに、それ以降も身体に痛みが残った。これっておかしくないか?」
ゲームステータス的には、ランピーチは回復していた。だが、骨が軋むような痛さや打撲の痛みは消えなかったのだ。これは初めてツヨシと殴り合いをした時もそうだ。あの時はダメージは1しか受けなかったのに、頬は腫れるし身体も痛かった。
現実では痛みが残るのである。しかも重要なのは、ヒットポイントが満タンになっても、痛みが残るところだ。ステータスの数値を本当に信じてよいか不安があるのである。
『人類強化支援システムは完璧さ。たとえ頭だけになっても、ヒットポイントが残っている限り、ソルジャーの命は保護されているから安心してね』
「どこに安心する要素があるかわからないんだけど? 不安しかないぞ。解剖されてカプセルに保管されている俺の脳みそとか、サイコパス的なのは勘弁してくれ」
パチリとウィンクするライブラの頬をつついて、柔らかいなと癖になるかもと思いながらも、この差異は覚えておこうと心に誓う。そうしないといつか致命的なミスをしそうだ。
「現実との差異を考慮して、ビルドも少し変更することとした。というわけでスキル取得を開始する」
『ラジャー!』
抱きついてくるスキンシップ多めのライブラに少し頬を緩めつつ、レベルアップ開始。
この一週間考え抜いたランピーチだ。現在の経験値は11000。全て使い切るつもりである。ゲームならば取っておくのもありだが、この世界ではロードがないからだ。ランピーチは後で使っておけばよかったと死ぬつもりはないのである。
『銃術レベル3を取得』
『取得しました。特技を選んでください』
『『ピアッサー』だ』
『ピアッサー:銃弾に貫通力を付与し、次の攻撃で敵の防御力50%無効』
銃の扱いの知識、経験が脳内にインストールされて、『一流』レベルに昇華される。
『続いて、体術レベル3までを取得』
『取得しました。特技を2つ選んでください』
『『ガード』と『発勁』だ』
『ガード:使用時、敵の物理攻撃ダメージを半減する』
『発勁:次の近接攻撃で敵の防御力を50%無効』
体術のレベルも一気に3に上げておく。接近戦が現実では多いかもという考えと、体の動かし方が効率的になるからである。
防御力を無効化させるスキルはダメージ倍率が等倍で他のよりもダメージ量は落ちるが、このゲームは敵が硬すぎるとダメージゼロになるパターンなので取得した。どんなに少量でもダメージが与えられれば、倒せる可能性はある。そのためにこの特技を取得したのだ。
『続いて『看破』をレベル1まで取得』
『取得しました』
『看破:隠蔽スキルを無効化する。レベル毎に精神+2』
『鼠男』やジャコツと隠蔽スキルを使用する敵が予想よりも多かったので取得しておく。レベルが低くても一定時間毎に隠蔽スキルを無効化しようと働くので、たとえスキル1でも役に立つのだ。
『次に身体強化をレベル1まで取得』
『取得しました』
『身体強化:全ステータスをレベルを上げる毎に+5』
このスキルは全ステータスを上げる。が、貴重な経験値を使っても、ステータスが上がるだけで特技は覚えないので、プレイヤーはおすすめしないスキルであるが、あえてランピーチは取得する。
『超越者レベル2を取得』
『取得しました』
これで抵抗力、自然回復力が上がり一般人よりも肉体は強くなる。
『で、最後は宇宙人レベル2だ』
『取得しました』
『宇宙人レベル2となったことで、ランピーチ・コーザは一等兵に昇格。千キロまでアイテムを保管できる『亜空間ポーチ』を取得しました』
そうして、すべての経験値を使い切るランピーチ。『亜空間ポーチ』は空間の狭間にアイテムを仕舞う。ゲームにありがちなスキルといえよう。これはゲームの序盤で手に入る『アイテムボックス』の付与された腕輪と同じ能力なのであまり価値はないが、どうせ『宇宙人』スキルは上げるので、腕輪のイベントをしなくて良いので助かる。腕輪イベントは少し面倒くさいからだ。
ランピーチ・コーザ
経験値:0
HP:32
CP:28
体力:16
筋力:16
器用度:24
敏捷:16
精神:16
超力:14
固有スキル:小悪党レベル10、宇宙人レベル2、超越者レベル2
スキル:超能力レベル2、気配察知レベル1、集中レベル1、体術レベル3、銃術レベル3、錬金術レベル1、拠点防衛学レベル3、機械操作レベル2、看破レベル1、身体強化レベル1
装備
G1突撃銃:攻撃力6
G1防弾服:防御力4
時空の指輪
「ようやく少しは戦える体になったかね? 器用貧乏的な感じもするが仕方ねぇよなぁ。でも、あんまり実感はわかないかな? ステータス上は筋力は倍近くなったのに、身体も前の身体のようにムキムキのマッチョではないし」
『そりゃそうさ。人類強化支援プログラムは完璧だって。パワーアップしたから、身体が変わったと自覚する? ノンノン、それは自覚ではなく違和感。急に強くなったと違和感があれば自然に動けないでしょ。そんなことはないのさ。違和感なく行動できるのが、このシステムの素晴らしいところだからね』
ドヤ顔で恐ろしいことをのたまうライブラである。
「なるほどな、自分の体に違和感も与えないのがこのシステムというところか。たしかに力を手に入れても違和感を感じないということは、まるで自分が長年努力して手に入れた力のように使えるもんな。…………そう考えると恐ろしいシステムだよ、まったく」
目を細めて、このシステムの恐ろしさを改めて思い知る。
天才の力をぽんぽんとスキルを取得するだけで、今までも天才であったかのように自身が変わる。そして、その力への認識は元から持っていた力のように感じるわけだ。
ゲームシステムなら当たり前だが、これが現実にあるシステムだとしたらどうだろう。『宇宙図書館』の存在は改めて考えると素晴らしくも恐ろしい。
━━━いつか、『宇宙図書館』の存在と本当の意味で向き合わないといけない時が来るかもしれない。この世界にきた理由と共に。
ライブラはニヒヒと悪戯そうに笑い、その本心を見せない。彼女は単なる『宇宙図書館』の端末だ、その笑顔の裏には『宇宙図書館』の意思があるのだ。
(まぁ、今は気にしなくて良い。まだまだ弱い俺が考えることじゃない。ライブラが端末だとしても、長く付き合えば、よくあるテンプレのように俺へと情が湧いて、『宇宙図書館』に逆らって味方をしてくれるかもしれないしな)
今は『宇宙図書館』の力に頼り、誰にも負けないようにするだけだ。
『筋肉は見えない力、君の魂がパワーアップして見かけよりも強く力を出せるようになっている。だから、少し身体が引き締まったくらいで、もう見かけは変わらないよ』
そういうと、ライブラはランピーチの胸を人差し指でつつっとなぞり、妖しく笑う。その姿に少し見惚れつつ、納得する。姿見で確認すれば、痩せた身体から、少しは鍛えられた身体に変わったらしい。
ランピーチが見惚れたことに、ライブラも気づいており、フフッと満足そうに機嫌良さそうに微笑むと、くるりと身体を翻す。
いちいち魅せるリアクションをする巫女少女は、指を突きつけてくる。
「これで一人前のソルジャーとなったね。あの方もお喜びだよ!」
なぜか思念ではなく、普通の音声で。
「なんで、思念から普通の会話に変えるんだよ。それにあの方ってなんだよ?」
「気分の問題さ。ほら、思念だけだとなんとなく味気ないでしょ? やはり耳から私の小鳥のような可愛らしい声を聞きたいでしょ? 『宇宙図書館』をあの方呼びにすれば、他人に聞かれても詮索はされにくいしさ」
「そもそも思念なら問題はないだろ………まぁ、ライブラが満足なら別にいいけど」
いちいち演技が好きなサポートキャラは謎の人物を演じたいらしいと苦笑するランピーチ。面白そうなことには、常に首を突っ込みたいお年頃の模様。
コホンと咳払いをして、その瞳がお願いと潤むので、美少女のお願いは拒否できないランピーチです。頷き返すと、パアッと花咲くように笑顔となり、フンスと胸を張る。
「では、あの方のお言葉を告げる。先の戦闘は見事であった。あの方も実験が成功し満足であ~る!」
「うへへ、ありがとうございます。このランピーチ、常にあの方の忠実なる配下です」
小悪党演技にて付き合うランピーチ。揉み手をして、似合い過ぎるリアクションだ。
「うむうむ、あの方も満足している。次も頑張るように」
「へへ〜っ、て、少し声が大きいぞ。部屋の外に声が漏れたら恥ずかしいだろ」
いい歳したおっさんがこんな小芝居をするところを見られたら、一週間は落ち込む自信がある。
『えへへ〜、ごめんごめん。でも、たまには私の演技に付き合ってね。ムギュー』
思念に戻すと、ライブラはクスクスと子供っぽく笑う。妖しい魅力と子供っぽい性格を持つライブラは可愛らしいなぁと、そのギャップが良いねと、悔しいが思ってしまう。
『ムギュー、ムギュー』
「いつでも言ってくれ」
満足気にランピーチの顔を抱きしめて胸を押し付けてくるので、人工精霊はノーブラなんだね、素晴らしいとあっという間に懐柔されるランピーチであった。
「とはいえ、この吹雪で出かけないとは言ったが、出かけることにする。考えてみれば、こういう日こそ、他の探索者が少ないだろうから、精霊地区で稼ぐチャンスだ」
『おっ、やる気だね、強気だね、さすがはランピーチ。あたしゃ信じてたよ!』
「その軽い信頼に応えられるようにがんばりますよ……ん?」
コンコンとドアがノックされたので、向き直るとドアが細く開いてチヒロたちが顔を覗かせる。
「今、よろしいでしょうか、ラン? 徴収してきたお金を持ってきました」
「あぁ、良いぞ。こっちも伝えないといけないことがあるしな」
あからさまにホッとして、チヒロとドライが部屋に入ってくると、キョロキョロと周りを見渡す。なんだ? 部屋が綺麗なのが物珍しいのか?
ようやく瓦礫をインテリアにする部屋ではなくなったからなと、ライブラが隣でクスクスと悪戯そうに笑うことに気づかずに、ランピーチは見当ハズレのことを思うのであった。




