203話 月面基地と小悪党
月面基地は宇宙に張られた蜘蛛の巣のような施設だ。ランピーチは宇宙より落下しながら、その光景に多少感動する。SF映画とかでは時折見かける光景だ。これだけの都市を作るのにはどれくらいの苦労があったのかわからない。
「まぁ、破壊するんだけどな。諸行無常、栄枯盛衰の理に従い、この月面基地は没収だ」
白き天使……ではなく、白い毛玉に見える小悪党は幸せを齎すケサランパサランのように基地へと降りてゆく。実際は不幸を撒き散らすので、ケサランピーチコアクトーとでも名付ければ良いかもしれない。
「迎撃が開始されたようですよプーさん」
ミラがつまらなそうに月面を見て、ふんと鼻を鳴らす。その言葉どおりに、月面基地からは激しい攻撃が始まる。銃弾や魔法が月面から空間を埋め尽くすかのように発射されて、すぐそばで爆発が起こり、弾丸が通り過ぎてゆく。
高射砲が火を吹き、ミサイルが噴煙をあげて飛んでくる。ビームが光条を作り、悪魔鎧を着込んだ兵士たちが出撃してくる。
「そろそろお前らも離れろ。ほら、そろそろ離れなさい、お仕事の時間だ」
「はぁい、それじゃミミたちも行くのぅ」
「きゅー、やっちゃううさ」
「レベル10の力を見せちゃううさよ」
ミミたちが離れていき、精霊鎧を着込み、ガトリングカノンを手にして、お鼻をひくひくさせる。もふもふうさぎの可愛らしい姿だが、その力は可愛らしくない。
「迎撃〜」
スラスターを吹かせて、うさぎたちは散開すると月面へと飛んでいく。その速さは以前と段違いのものだ。ランピーチのレベルが上がったからである。
現在のステータスはこんな感じ。
ランピーチ・コーザ
経験値:113000
HP:1160
CP:13960
体力:580
筋力:580(+580)
器用度:700
敏捷:600
精神:6980
超力:590
固有スキル:小悪党レベル10、宇宙人レベル5、超越者レベル10
スキル
体術レベル15、銃術レベル6
超能力レベル10
気配察知レベル5、集中レベル5、看破レベル1
身体強化レベル5、偽装レベル2
錬金術レベル1、解体レベル1
拠点防衛術レベル10、機械操作レベル2、電子操作術レベル5
もはやスキル構成はこれで完成ともいえる。その中でも拠点防衛術がレベル10となったので、うさぎたちは最強となった。
迫りくる弾丸を視認してスラスターを精緻に動かし、ギリギリで回避をして、ミサイルはガトリングカノンで撃ち落とす。弾丸で撃墜でするという神業を見せて、ビームはチャフにて威力を減衰させて、魔法は精霊障壁で受け止める。
「この人工精霊たちが! この月面基地に襲撃をするとは命知らずの奴らめ!」
「悪魔たちは殲滅だよぅ。降伏するなら今のうちぃ」
悪魔鎧を着込んで、その顔を憤怒に歪めた兵士たちが間合いを詰めながら銃を撃つ。さすがは軍用装備なだけはあり、うさぎたちの精霊障壁がガンガン削られてゆくが、それでもミミたちは恐れることなく冷静に立ち向かう。
「やってみるよぅ。全員、『小悪党システム』を使うんだよぅ」
「りょーかいうさ!」
「小悪党システムスタンバイ!」
「親分の小悪党パワーを見せてやるうさ!」
『小悪党システム起動』
「ランピーチシステムにしようって決めただろ!」
ミミたちの身体が銀色に輝くと、残像を残しながら空を駆ける。うさぎたちの残像は無数に生まれて、悪魔兵士たちはその速さに翻弄されて、銃口を向けるが、その場には既におらず虚しく銃弾が空を飛んでいくのみ。
「な、なんだ、この速さは!」
「こいつら昔と性能が違う。ち、違いすぎる!」
「だ、だめだ、敵を捕捉できない、うわぁぁっ!」
悪魔兵たちはうさぎたちの機動についていけず、悲鳴をあげながら撃墜されてゆく。それでも悪魔兵士たちの数はうさぎたちよりも遥かに多く、倒しても倒しても基地から増援がやってくる。
「どんどん行くよぅ。新たな装備で道を切り開く!」
ミミが手をかざすと、亜空間ポーチから巨大な人参を、いや、人参型のビームカノンを取り出す。
「これぞ最新鋭武器人参カノン! 一気に切り開くよぅ」
新型武器人参カノンらしい。人参よりもちっこいミミは引き金に手を添えて突撃する。人参カノンの銃口が太陽のように輝くと、膨大な光線が白光となり空間を切り裂く。
星空にいくつもの光が爆発とともに生まれて、瞬いては消えていく。
「てーい」
人参カノンはその銃尾から粒子が吹き出して、ロケットのようにミミは飛んでいく。小悪党システムの力も重ねがけされて、ミミは一条の流星のように飛行して、その速さをも精妙に操り、敵の動きを正確に見切り、ビームで薙ぎ倒していった。
「この、うさぎ、なんて威力の武器をっ」
悪魔兵たちが懸命にシールドを張って対抗しようとするが、オブラートよりも儚い装甲で、簡単に貫いて吹き出していき、無数の兵士たちを薙ぎ倒して地上へと道を切り開いていき、他のうさぎたちもその活躍にやんややんやと大喜びだ。
「あれは人参の魔兎うさ!」
「きゅー。使いすぎるとお腹いっぱいになっちゃうよ〜」
「このまま一気に突撃うさー!」
その七面六臂の活躍を見て、ミラがふんすと胸を張り、胸を張りすぎて、得意げに後ろ回転をしちゃう。だが、何事もなかったかのように、平然と話を続けるメンタルの高い少女だ。
「ふふふふ、ミミに渡した人参カノンは最高レベルの武装です。ただし強力すぎて、副作用として身体に異変が起きて一ヶ月程眠くなります」
「うん、ミミが仕事をサボるのに良い言い訳になる武器だな」
それ副作用じゃねーよ。ミミにとってはご褒美だよ。
「フルパワーだよぅ。フルパワーだから、これからは副作用が大変なんだよぅ。寝るしかないんだよぅ」
はしゃいだ声で、流星兎は敵を倒して、月面上に接近していく。トリガー引きっぱなしで、力を抑えるつもりはゼロの模様。後でミミ専用のベッドでも作ってあげようかな。
ミミの作った道を進み、苦笑しつつ俺たちは月面に着陸するのであった。
◇
「これ以上敵を進ませるな。防衛するんだよ、壁を作れ、防壁を降ろせ!」
月面基地にはさらなる敵が待ち構えていた。重装甲の大型機動兵器や要塞防衛用の無数のトラップやタレットにドローン。ずらりと並ぶその威容は立派なものだ。
ミミがいなければ。そして、うさぎたちがいなければ、かなりの消耗をしていただろう。
「たぁ〜! ここは通させてもらうよぅ」
「きゅー、一気に片付けるうさ〜」
「うさたちのお仕事〜」
圧倒的な数を前にしても怯むことなく突き進むうさぎたち。その攻撃を前に、敵も迎撃して、一歩も引かない。さすがに月面基地内には一段上の戦力を敵も用意していた模様。
どちらも決め手にかけて、戦局が膠着する中で、ミラがちょいと裾を引っ張る。振り返ると、人差し指を口元に添えて、怪しい笑みを浮かべていた。なにかろくでもないことを思いついたらしい。
「この月面基地は月の内部にネジのように施設が広がっており、30層にも及ぶ階層となっています。攻略するには最難関のダンジョンレベルを攻略するレベルで時間がかかるはずです」
「………マジで? 30層もあるのかよ。え、それじゃじっくりと攻略するしかないのか? と驚きはしないぞ。なんか裏技があるんだろ?」
「もちろんです。ふふふ、このダンジョンを攻略するのに、そこまで時間も掛けられませんし」
お互いに顔を見合わせて、くくくとほくそ笑む二人は他人から見たら小悪党たちである。怪しい笑みで、狡猾なる企みをしています。
「で? 地下直通のエレベーターがあるんだろ? セキュリティに忍び込めば一発だもんな」
「くくくくくくくく、ここのゲートのセキュリティは手動なので、セキュリティは遠隔では突破できません」
「………それじゃ、どうやって最下層まで行くのですか? ミラさんにはナイスアイデアと拍手したくなるアイデアがあるんだろ?」
「もちろんです。ほら、ここの辺りが中心だと思うんです」
金属製の地面をコンコンと叩いてどや顔のミラさんだけど………なんだって? なぜ床を叩くわけ?
「あの………ミラさんや、それってどういう意味? 意味を理解したくないんだけど? この床は分厚いよ? 分厚いという語句を使う意味がないレベルで分厚いよ? 地面だよ?」
「身体強化をレベル10にして、最後の強化を終えればいけると思いますよ?」
飄々とした顔で言ってくるミラさんには疑問はないらしい。
「まぁ、その通りかもなぁ。ぬぬぬ、わかったよ。それじゃ、経験値を使ってやるよ!」
『身体強化レベルを10に上げる』
『身体強化レベル10を取得しました』
『身体強化レベルが10に達成した為に、ステータスが3倍となります』
ステータスは一気に4桁に突入し、跳ね上がった身体能力は生命体では不可能なレベルに入り、世界の理を超えた存在となったことを感じさせる。それ以上に自身の力が限界へと迫った感覚を与えてくれる。そして、俺の感覚が教えてくれるのだ。
「………これが、『宇宙図書館』の最後の支援のような気がするが、気の所為か? もう経験値を使っても、スキルは取得できない気がするんだ」
「身体能力が最高となったために抵抗力が最大となり、他の存在からの侵入を弾くようになったのです。それは貴方が独立したことを示しています」
手をグーパーと握りしめて、思ったことを口にすると、ミラがクスリと面白そうに探るように笑う。
「もはやスキルレベルは簡単に取得できません。ライブラからの超演算能力は使えますけど。貴方は完全体となりました」
そうか………独立した存在にねぇ。ミラよ、俺の亜空間ポーチには満漢全席が入っている!
「なにか、私の第六感が叫んでいます。美味しい物を持っていると! 何を持っているんですか? さぁ、教えてください」
顔色を変えて、ゆさゆさと人の身体を揺するミラさん。あんまり参考にならなかったがわかった。
「よし、これなら行けるだろ。床を破壊しながら進めば良いんだろ?」
揺するミラをどけて、トンと軽く床を踏む。ただ軽く踏んだだけであるのに、床が大きく凹み捲れ上がり、轟音と共に穴が空いていく。
「おぉ………予想以上に凄まじい力だな」
「まだ話は終わってませんよ! 待ってください!」
自分でやって感心してしまいながら、やってはいけないショートカットで小悪党は奥へと進むのであった。




