198話 黄金竜と小悪党
なんと精霊王を二匹も吸収した模様。こーゆーのって、普通はダンジョン奥とかで、遅かったな愚か者と哄笑して、待ち構えていた敵が精霊王を吸収するとか、そんなパターンじゃないの? なんで先に吸収しているんだよ、こいつ戦闘の美学を知らないだろ。
『黄金竜イポス:レベル12』
しかもレベルがまたもやインフレーションが起きています。ありがとうございました。精霊王一匹吸収するごとに、レベルが1上がるのかしらん。
「未来予知で戦っても良いんだぜ? 竜の姿から人に戻らない?」
竜って、最高のやられ役のイメージがあるが、実際に目の前にいると、恐ろしい威圧感を与えてくるんだ。本能がこいつは人間では敵わないと教えてくれる。なので精霊戦士たる俺の人間の部分が恐怖している。
「馬鹿だね、未来予知は完全に見れる敵にしか使わないよ。お前みたいな中途半端にしか見えない敵には逆に罠を仕掛けられる可能性があるから使わないのさ!」
「このアマゾネス、脳筋と思いきや頭を使ってるじゃねぇか」
『まずいよ、ソルジャー。この敵は今までとは次元が違う。モンスターレベル2差は大きすぎる力の差だよ』
ライブラが焦った様子で伝えてくるが、俺も同意見だ。モンスターに対してレベル10からのレベル差は技では1くらいしか埋められない。2差では攻撃が通じないと、勘が囁いている。戦闘レベルではない他のスキルがレベル12なら大丈夫だろうけど、全体の能力がレベルと比例するモンスターレベルとライブラが言ってくるので望み薄の予感。
「あんたの強さを確認しろと命じられたが、倒しても構わないんだ。シトリー様には悪いが、ランピーチはさっさと殺すべきだとあたしは考えて先回りして精霊王を吸収しておいたのさ!」
「せめて一匹にしておけよ。なんで、二匹も吸収してるんだよ。欲張りすぎだろ」
「一匹吸収したウァプラを倒した奴と戦うんだ、当たり前だろうがさ!」
「ご尤も」
正論だ、正論すぎるけど、準備万端のアマゾネスって、イメージを破壊させていないか?
イポスは竜の口を大きく開けて、口内に炎を溢れ出す。早くも竜の必殺技であるブレスを吐くつもりだ。油断しない奴だな、まったく!
「さぁ、本当のバトルの始まりだ!」
イポスの口がさらに開くと、炎のブレスが吐かれるのであった。
◇
イポスは戦いにおいて一切油断はしない。それは、相手がどんな雑魚に思えても同じ心構えだし、戦いとは格闘戦だけではなく、権力争いにおいても同等だ。会社内では熾烈な出世争いを繰り広げており、裏切りも横行し足の引っ張り合いも日常茶飯事。その中で、イポスは警備会社全体の社長にまで上り詰めたのだ。
なので、シトリー様の命令を忠実には聞かない。彼女の命令には、メイを取り返すついでにランピーチの戦闘力を確認しろとの内容には裏があると悟っていた。
イポス自身が殺されることにより、ランピーチの危険度を示せとの思惑があることを。イポスの死を契機に、軍の上層部を説得するつもりなのだ。
だが、シトリー様は眷属となったことで、イポスたちが命令を絶対に守ると思っているようだが、その命令は絶対ではない。
会長が眠る前に、命令を下した際の内容は実に千項目以上に渡る。それは曲解や拡大解釈をして余計な行動を、反乱などをさせないようにと考え抜かれた命令であるが、それでもシトリー様は命令を出し抜いて、軍事施設の封印を解いたではないか。
それなのに、たかだかあの程度の短い命令で、イポスが素直に行動するとは甘い。甘すぎる。
たしかにランピーチは強い。しかしながら、ハーケーンの全軍の前には象の前のアリンコであり、プチッと潰せるゴミみたいな相手だ。
だからこそ、シトリー様も本当に強敵だとは考えていない。単なる駒の一つとして、火薬に火をつけるマッチのような存在であり、自身がハーケーンを支配する契機だと考えているのは明らかだった。そのマッチに火をつける役目をイポスに与えたつもりのようだが、そうはいかない。
命令を受けた際にイポスは考えて、考え抜き、一つ良いことを思いついた。
シトリー様よりも強くなり、その立場を頂こうではないかと。そのためにランピーチを倒すためと命令の拡大解釈をして、残った3体の精霊王のうち、2体を吸収してきた。守っていた悪魔たちには自身が副社長になれば、大きな便宜を図ると告げて裏取引を行い、精霊王の解放をしたのだ。
ウァプラの戦闘時、炎の精霊王を吸収した方法は既に解明している。簡単なことであった。
万が一倒されると危険なために精霊王の吸収は禁じられていたが、古代とは違い現在は精霊王を2体吸収すればどんな敵にも負けないとの資料も苦労して用意して、この規則を回避したのだ。
なので——。
「後はランピーチ、あんたを殺せばあたしの未来は輝かしいんだよ!」
口内に溜めた炎をランピーチに向けて吐く。『ドラゴンブレス』、それは単なる炎の息ではない。高密度の魔力の塊であり、その熱量は千度程度だが、効果は熱量に比例しない。
『燃やす』という概念で形成された息吹であり、小石だろうがオリハルコンだろうが、等しく燃やし尽くし灰へと変える。
現に炎が触れた箇所は熱せられて炎に覆われるのではなく、触れた箇所は灰へと変換されていった。『ドラゴンブレス』は伊達ではない。最強の幻想種たる竜のブレスに対抗するには膨大な魔力が必要となるのだ。
逃れても追いかけると、視力を魔力により引き上げて、イポスはランピーチを注視し、どんな対抗手段を取るか観察する。
ランピーチは半身となり構えながら、苦痛を耐えるかのように歯を食いしばっていた。
「俺も『超越者』なんだぜ。バトルインフレに乗っかってやろうじゃないか! うぉぉぉぉ!」
炎が迫る中でランピーチが雄叫びをあげる。そして、ランピーチの周囲の空間が歪み、なにかイポスには知覚できないエネルギーが発生していく。
「体術、レベル11、12、13………14、15だぁぁぁぁっ!」
ランピーチの肌に血管が浮き出し、身体が熱したように赤銅色に変わっていく。それとともに気配が——。
(気配が薄くなっていく!? 力を感じなくなっていくとは、どういうことさね!? 嫌な予感がする。さっさと焼き殺さないと!)
なにかよくわからないが、勘が囁いている。幸いなことに炎はもはやランピーチの目の前まで肉薄している。回避しようがなく、この攻撃を受ければ、たとえ防御をしても、魔力を大幅に失うだろう。
イポスはランピーチが行動に移すには、もはや時間はないと考えていた。
『次元拳』
ピシッとガラスを引っ掻くような音がして、『燃やす』という概念を持つ竜の息吹は、中心から渦を巻いて、霧散していってしまった。
概念を砕く攻撃。イポスには理解できない技を使ったのだ。
残るのは拳を繰り出した体勢のランピーチのみ。ブレスの影響などまったく受けなかったのか、涼しい顔でその体には火傷一つない。
「はっ、新しい技は強そ、あだぁっ!」
不敵な笑みを浮かべるランピーチだが、すぐに腕を押さえて蹲ってしまう。見ると身体全体から出血したのか、血がにじみ出ていた。
「は、ははっ、驚かせるじゃないよ。たしかに強力な攻撃のようだけど、肉体が耐えられないようじゃないか」
心の奥底にシミのように浮かんだ恐怖を塗り潰して忘れるようにイポスはせせら笑い、攻撃を仕掛けることにする。
『天よりの雷は、我の爪に宿り、敵を撃たん』
どのような神剣、魔剣よりも切れ味鋭く強力な竜の爪にバチバチと雷が宿り、雷光が閃く。
「最強種たる竜の力を見せてやろうじゃないか!」
イポスは前のめりに爪を振りかざすと己の体重をかけて、魔力による強化をした爪を苦しむランピーチへと繰り出す。
その攻撃速度は竜の大柄な体躯には似合わず、高速の世界の中でゆっくりとした時間が流れていく中でも、なお速く視認も難しい。
「ちきしょう、だが、それでもレベル15になってんだ!」
罵りながらもランピーチは顔をあげて、指を伸ばすと手刀の形へと変える。丸太のようなイポスの竜腕に対して、マッチ棒のような小さな腕を振るい、雷光の爪へとぶつけてくる。
——瞬間、質量的にも、魔力的にも、悪魔の中でトップクラスの攻撃力を持つイポスの爪はまるで剃刀で切られるように、綺麗に切断されてしまった。
「くっ!?」
イポスはまさかの火力に驚愕しながらも、残る左手の爪を繰り出す。ランピーチは円を描くように腕を振るい、同様に左手の爪もあっさりと切断してしまう。ゴロンと切られた爪が地面に転がり、その断面はまるでケーキでも切ったかのように綺麗なものであった。
「どんな切れ味の手刀なんだい!」
「それは身体で味わってくれ」
睨みつけるイポスへと、余裕ぶった表情でランピーチが言ってくる。ランピーチが追撃に入ると悟り、イポスは後ろへと大きく飛び跳ねながら、尻尾を下から掬い上げるように振るう。
「グワッ、こいつ!」
予想は的中し、飛び跳ねて後ろに下がろうとしていたイポスに飛翔して肉薄してきたランピーチは跳ね飛ばされて床に転がる。
その隙を逃さずに、イポスは自身の力を使うことにする。
「こんな狭いところで戦ってはいられないやね」
『世界よ在れ。我が望むは竜の世界なり。疾く世界を支配するは竜なり』
その言葉と共に、イポスが作り上げていたビルの世界は絵の具でも上から塗られていくように変わっていく。コンクリートは消えていき、緑織りなす草原が広がり、空は青く澄み渡り、そよ風の吹く世界へと変わっていった。
「………すいぶん気持ちの良い世界に変えるじゃないか。もっとおどろおどろしい世界を作ると思ったんだが、もしかして仲直りをしてバーベキューでもするつもりか?」
「ふん、減らず口を閉じない男さね。だが、これこそが竜の望む世界。溢れる自然が竜の力を高め、広大な大地が竜を支えるのさ」
風を感じ、大地の力を身体に流し、自然の世界の中で、支配者たる竜は大きく笑う。
「さぁ、第3ラウンドといこうじゃないか。果たしてあんたはいつまで耐えられるか見ものだね」
「いつまででも」
牙を剥いてイポスが嗤い、ランピーチも身構えて、対抗するように不敵に嗤うのであった。




