186話 再就職先と小悪党
『ボス戦:要塞悪魔ウァプラを倒しました。経験値5500取得』
『炎の精霊王を解放しました。経験値50000取得』
今度こそウァプラを倒した模様。ホッと一安心である。
『熱血プロレスラーみたいな悪魔だったな。粘体で倒しやすくて良かったよ』
ようやく一息ついて、ため息を吐きながら辺りを見渡す。ドロップアイテムはどこかな? せっかくアイテムドロップ大幅アップのスキルを身に付けたのだ、期待しても良いよな?
溶岩が冷えていき、元はウァプラの肉体であった欠片のいくつかがキラリと光る。ドロップアイテムだねと、盗む宝石を見つけたかのように、小悪党はウヒヒと笑って近寄ってみる。
『精霊核の欠片:レベル11』
『なんだこれ? ライブラはわかるか?』
雲母みたいだなぁと、ジロジロと確認しながらライブラへと尋ねると━━━パアッと身体が光り、神霊融合が解ける。
ふわりと裾を翻して、巫女風コメディアンは幻想的な雰囲気を醸し出し、ニコリと微笑んできた。目が妖しく光っており、なにか碌でもないことを考えているような気がするな。
「だいたいわかると思うよ? 貸してくれない? 大丈夫、すぐに返すよ。ほんと、ちょっと見るだけだから」
下手くそな詐欺師みたいな口調で、ニコニコと可愛らしい微笑みを浮かべ、白魚のようなおててを差し出してくるので、欠片を手のひらに乗っけてやる。総計5個あった。そして、ライブラの目には魚群がバッシャバッシャと泳いでいた。
全て手渡すと、ライブラは後ろへとそそくさと下がり、顔を俯けてクククと笑い始める。
「なんだ、一発芸でもやるのか? それは忙しいから後でにしない?」
「む、一発芸じゃないよっ! はっ、いけないいけない。くくく、この精霊核の欠片は精霊エネルギーの純粋結晶なのさ。これを使えば、とんでもない威力の装備を作れるだろうね」
ムキーと子犬のように吠えるライブラさんだが、すぐに気を取り直して、再びクククと妖しく笑う。
「それは凄いな。で、もう一つの効果はなんだ?」
たまにはライブラのためにエチュードにでも付き合ってあげるかなと、たっぷり経験値が入ったのでいつになく優しい小悪党だ。その優しい眼差しを見て、ウッと怯むライブラだが、ブンブンとかぶりを振ると、かけらをこちらに見せびらかすように突き出す。
「これはね………精霊王のエネルギーを取り込むことができるのさ! くくく、私が人工精霊から真の精霊、いや、神霊となる日が来たのさ! ゴゴゴゴ」
高笑いをして、擬音まで口にしちゃうアホかわいい少女だ。なるほど、ありがちなアイテムだな。
『精霊核の欠片:素材。人工精霊ライブラが食べると大幅にステータスを上げる。上がるステータスはランダム』
ログが表示されるが、たしかにライブラの言う通りの力を持っている模様。
「わかった、それじゃお遊びは終わりだ。その欠片を返してくれ。食べたらどうなるかわかるよな?」
あくまでも優しく微笑んで手を差し出すと、なぜかますます顔を引き攣らせて、ライブラは後ろに下がると、子犬が威嚇するようにキャンキャンと鳴く。
「わかってないね。これからはライブラ様が主導権を握るのさ! ランピーチ・コーザ、これが新生する私の姿だっ!」
「おい、マジにやめろって。オチがわからないか? フレーバーテキストちゃんと読んだか?」
高笑いをして欠片を口に放り込もうとするので慌てて止めようとするが━━━。
「ステータス大幅アップでしょ! 大幅アップしたら、ブイブイ言わせちゃうからね。今度は私がセクハラしちゃうから。お風呂に乱入したり、ベッドに押し倒しちゃうから!」
ライブラさんの気迫に負けて身体が動かなくなってしまった。凄まじく強力な威圧感に金縛りにでもあったかのようだ。おのれ、ライブラ。ここにきて隠し持っていた真の力を見せてきたか!
「ふはへはへ! ごっくん」
笑いすらも噛んじゃうお茶目さんだが、呑み込んだ途端に身体が眩引く光り始める。その光は強烈で、まるでライブラに後光が発生したかのようだ。
「ふふふ、凄まじい力だ。我はここに新生したり!」
『ライブラの髪のキューティクルが9999アップ』
『ライブラのアホ度が9999アップ』
『ライブラのかしこさが9999アップ』
『ライブラのアホ度とかしこさが相殺されて0となった』
『ライブラのかっこよさが9999アップ』
『ライブラの可愛らしさが9999アップ』
『ライブラのかっこよさと可愛らしさが相殺されて0となった』
「………」
「………」
予想よりも遥かに酷い新生ライブライベント終了。
ふむ、とライブラは自身の髪を触り、キューティクルだぁと笑顔でキュッキュッと髪を鳴らして、ポテポテと近寄ってきた。
「見てみて、ソルジャー。私の髪のキューティクル、キューティクル」
「そうだな、ライブラ。で、冥土の土産はなにが良い?」
「そ、ソルジャー。アイアンクローじゃ、キューティクルはわからないよ」
髪のキューティクルを確かめるために、ライブラの顔を鷲掴みにしてあげると、苦しげにタップしてくるライブラさん。
「オ、オムライスにはケッチャップで、はーとをよろしく……」
「まだまだ元気がありそうだな、コンニャロメ! 俺のせっかくのアイテムを無駄にしやがって。ああん、この詫びはどうするんだゴラァッ!」
小悪党怒る。これを許すことはできない。龍が獲物を食い殺すかのように大口を開けて怒鳴ると、ますます激しくタップして、震える声で返してくる。
「だ、大丈夫! エネルギーは吸収したけど、それでも欠片よりも良いものになったから。私の中で変化したからさ」
「なぬ? 嘘だったら承知しないからな」
「その時は私の毛がどこまでキューティクルか、どこでも触ってもいいよ!」
「仕方ない、長い付き合いだから許してやるよ。どこでも良いんだよな?」
仏のような心を持つランピーチだ。なので穏やかな顔になり、許してあげる。罪を許して人を許さずの気持ちだ。反対だっけ?
アイアンクローから逃れたライブラが手を合わせると、仄かな輝きが漏れてくる。その輝きの中に、水晶のような球体が現れて、神々しい光を放ち宙に浮かぶ。
「おお、これは?」
「欠片が組み合わさったのさ。この球体だけでもさっきの欠片よりも良い素材となるよ。失ったエネルギーは経験値で補充すれば完璧だと思う」
神々しい光の球体を感嘆して見上げていると、ふふんと得意げに人差し指を振るライブラ。得意げになるだけはあるな。
『空の精霊核:素材。純粋なる精霊エネルギーの結晶。エネルギーを補充すれば、良い素材となる』
テキストもライブラの言う通りだ。なるほどねぇ。たしかに欠片よりも良いアイテムの模様。
「でも、エネルギーが空じゃなぁ。やはりキューティクルを確認するしかないな、うんうん」
ゲヘヘと顔をニヤけて、借金を返しに来た客にいちゃもんをつけるような態度をとる小悪党だ。いや、純粋に9999のキューティクルさを確認したいだけなんだ。学術的興味ってやつだよ、本当だよ。
「もぉ~、それは後で要相談にしておいてあげるよ。それよりも私の技を使ってたでしょ! え、なんであんなに強いの!?」
新生ライブライベントのことは、あっという間に記憶から消して、鳥頭のライブラはペチペチ叩いてくる。ウァプラとの戦闘時に使用したライブラ技の威力が気になったらしい。
「『ブレードボンバー』を受けた時に使った『ウルトライブラシールド』はだな。ライブラが気づいていないだけで、あれは元々強力だったんだよ」
炎の刃を受けた時、実は『ウルトライブラシールド』で防御していたのだ。そのために俺は無傷だった。
「え? でも、私はいつも死んでたよ?」
コテリと小首を傾げるライブラだが、それは見方が違うのだ。
「思い出せよ。どんな攻撃もライブラは受け止めていただろう? 貫通させなかったじゃん」
矢でも氷の魔法でも、ライブラは全て受け止めていた。これはライブラのステータスを考えるとおかしなことだったのだ。紙装甲であれば貫通しても良いのに、全て受け止めていた。
「あー、確かにそうだったけど、それでも死んだよ?」
「それは受け止めた際の衝撃と効果が終わったあとの敵の力の余波を受けて、ひ弱な身体だから死んだんだ。実際は全て防いでいる無敵のシールドだな」
「ガーン! それじゃあ、私の技はやっぱりすごかったんだ! ん~~? それでなんでソルジャーが使えるようになってるの?」
「良い質問だな。ほら、ライブラ技の能力大幅アップとあっただろう? あれは合体した相手も使えるようになったってわけ」
ちなみに『ウルトライブラチョップ』は敵の体内に衝撃を巡らせて倒すのだが、その威力が跳ね上がっていた。
威力が跳ね上がっていると確信したのは、ライブラがうさぎを殴った時だ。ステータスが3の雑魚がレベル7のうさぎに痛みを与えることができるわけない。ステータス3でも痛みを与えられるほど、パワーアップしていたのだと、その時に理解していた。
「そっかぁ、やっぱり私はすごかったんだね! えへへ、えへへ? んんん? 待てよ、もしかして、もしかしなくても私だけじゃ弱いのは変わらないじゃん!」
身体をくねらせて、エヘヘと嬉しがるライブラだが、気づいてはいけないことに気づいてしまった模様。
「うわ~ん! 酷いよ! 私の技なんだから私にも良い思いをさせてよ。かっこいいところを見せたいよ!」
「待て待て、ライブラ。そんなことよりも重要なことがあるんだ、聞いてくれ」
半泣きとなり、ぽかぽかと殴ってくる巫女モドキの肩を掴んで真剣な顔になる。
ランピーチの真剣な顔に、ライブラも涙を拭って、何事かと見つめ合う。愛の告白かなと、ライブラは少し赤くなったりもした。
「技の名前、変更しようぜ。ものすごくダサくない?」
今、もっとも大事なことだと思うんだ。
「ひょぉぉぉ、ソルジャーの馬鹿ぁっ! 許さないからね。もー、キューティクルな毛を触らせてなんかあげないから!」
なのに、何故かライブラは顔を真っ赤にして怒り始めた。だって大事なことじゃん。だから、キューティクルな毛を触らせくれ。
あんぎゃーと、怪獣ライブラとなって、ぽかぽか殴ってきて、なんとか宥めようとランピーチが防ぎ━━━。
「なにをいちゃついているんですか。ウァプラを倒したのは良いですが、この戦利品を確保しておかないとだめじゃないですか」
冷静なツッコミが扉の方から聞こえてきて、二人はピタリと動きを止める。
ギギッとブリキ人形のように顔を向けると、腕を組んで呆れ顔のミラが立っており、戦利品扱いされている元悪魔兵士たちが興味津々で覗いているのであった。
「あー、ごめんなさい」
「申し訳ありません」
なので恥ずかしさで顔を赤らめて頭を下げる二人だった。




