180話 オセと小悪党
オセは人間に教養を教えて、偽りの王様だと思い込ませる理由のわからない能力を持っている豹の悪魔だと言われている。実際に王様だと思わせてどうするのと、ハテナマークを浮かべちゃうが、ソロモンの悪魔の一人だ。
西洋の悪魔なのだ。それなのに━━━。
「こいつ、なんで侍なんだよ! 全然悪魔と関係ないじゃん!」
「答えは簡単です。人を超えた身体能力を欲した強さを求める脳筋なんですよ。だから力を手に入れることができれば、どんな悪魔でも気にしないんだと思います」
ランピーチとミラはオセと打ち合いながら、愚痴っていた。愚痴りながらも極まった体術を持つ二人の剣撃は既に達人でさえ視認することは不可能な速さとなっていた。振るう剣撃は軌跡としてしか残らず、敵の死角を狙い、一撃一撃が必殺の威力を伴っている。
しかし、二刀を構えるオセは超越たる剣撃を全て防いでいた。腕を狙っても軽く先端を合わされて弾かれ、脇腹に横薙ぎを入れようとしても、掬い上げられて軌道を変えられる。脚へと打ち込めば上から突きにて押さえつけられ、二人が息のあった同時攻撃すらも見切られて、刀にて受け流されてしまった。
「こいつ、しかも上半身だけしか動かしてない! 俺たちの攻撃を防ぐのに歩法を踏むことも、移動することもないぞ!」
「予知ではなく、単純な剣術の冴えのようです。これだけ純粋な格闘術の力を持っている悪魔とは珍しい」
焦りで顔を歪めるランピーチに、冷静沈着に淡々とミラが答える。そうなのだ、オセは信じられないことに、完全にランピーチとミラを技術で上回っていた。
「某も驚いている。まさかこれだけ格闘術に長けた兵士が現れるとは。どの程度の時間が経過したかは分からぬが見事なものだ」
褒めながらも余裕の笑みを浮かべるオセに、ランピーチはグッと歯を噛み締めると、更に間合いを詰めるべく一歩前に踏み出す。腕に超力を収束させて、手刀の切れ味を跳ね上げいく。
軽く息を吐き、超越たる光を宿した手刀にて、刀ごとぶった斬ろうとするランピーチ。
「切れ味を比べようじゃ、へべっ」
━━━そして、横合いからの蹴りで吹き飛ばされました。ずささと肌が地面を擦って痛そうに見えるが、理外の身体はダメージは負わない。
「いてぇな、なにするの? 裏切り? ここに来て裏切り?」
すぐに立ち上がって、蹴ってきた相手。今も脚を繰り出したままでいるミラを睨む。こいつはいきなり蹴ってきたのだ。相当の理由がない限り許さないよ? ライブラが胸元をはだけてしがみついてくれないと許さないよ?
「そこまでです、プーさん。この罠の内容を理解しました。これでは敵の思う壺だと思います」
だが、けろりとした顔でまったく悪びれる様子を見せないミラが気になることを口にする。
「罠? 俺たちを倒すためにホームに誘い込んだんじゃないのか? そーゆー話だったろ?」
「いえ、ライブラの一言で考え直し、オセが私たちの前に立ちはだかったことから、二重、三重の罠であると確信しています。一つは私たちが戦闘をすることにより、エネルギーの余波が発生しますが、それをウァプラが吸収してるんです」
「なぬ? 俺たちの戦闘の余波を吸収なんてできるのか? え? とするとウァプラの核に行くまでは本気を出せないということか?」
やばい罠である。単なるホーム有利の戦闘をするつもりではなかったのか。
「なので、無駄にエネルギーを放っている老朽化した蓄電器みたいなプーさんは先に行ってください。この悪魔は私が倒しておくので」
スチャッと刀を構えて、オセへと向けるミラ。いつになく真面目であり、ここはおちゃらけるシーンではなさそうだ。
「ふたつめの罠は普通なら気づかれない罠です」
「どんな罠なんだ?」
「ウァプラを守る、もしくはこの区域を守る悪魔の部隊がいたようです。敵の脅威レベルにより覚醒させる悪魔を決めているシステム付きの」
ミラの言葉に、オセが苦笑しつつ顎を撫でる。
「ほう……そういうことか。なるほど、システムの穴を見つけた輩がいるということだな」
思わせぶりな言葉を呟いて、キニナルその先は口にしないテンプレの敵だ。なんで、漫画やアニメで謎の組織は思わせぶりなセリフばかりなの? あの方とか、偉大なものとか、はっきりと言ってほしい。
「グレーターデーモンをあっさりと倒しすぎました。そして、このような罠を使う理由は唯一つ。目覚めた悪魔を自分の戦力として抱え込もうとしているに違いありません。現状で起きているハーケーンの悪魔たちは不滅であっても、そこまで強くはありませんからね」
「俺たちを気にせずに起こせば良いじゃん?」
敵は自分の施設なんだ。なんで、そんな遠回りの方法を使うわけ?
「できないんです。眠っているものたちを起こすことは禁じられているに違いありません。融通の利かない命令の穴をつくために、色々と検証しているのでしょう」
禁じられていると断言するミラに、ハーケーンの組織体制がぼんやりとわかってくる。永遠とも言える長い間を起きている悪魔たちはなにがしかの規制を受けているのだろう。その規制は悪魔たちの行動を大きく制限してしまっている。なんでそんな規制、規則? を作ったのかは知らないけどさ。
━━━少なく見積もっても、上から押さえつけるブラック企業だなぁ。
「これ以上、敵の思い通りにさせるわけにはいきません。少なくともウァプラは倒しておいてください。さぁ、プーさん。ここは私に任せて先に行ってください。ここで時間を稼がれるのはまずいです」
「死亡フラグにしか見えないが、ここは任せたぞ!」
「ソルジャーのサポートは私に安心して任せてね!」
ミラの悲愴な、たぶん悲愴な言葉に頷くと、身体を翻して駆け出す。
「気をつけてください。第二形態を美味しそうなクッキーに変身する魔王とかいるかもしれませんので!」
「あの魔王の第二形態はクッキーじゃねぇよ。お菓子に変えられたのを第二形態扱いするんじゃない! たしかに少し食べてみたいとは思ったけどな!」
それでもボケるミラへと軽く手を振ると、ニヤリと笑って奥へと向かうのであった。
◇
ミラはプーさんたちが離れていく姿を見送りながら、安堵する。これでプーさんはウァプラが復活する前に倒すに違いない。そういう裏技的お約束展開を破壊するのは、プーさんの十八番なのだ。
「ですが、追わないのですね、やはりウァプラを守るために配置されたのではないのですね」
追おうともしないオセへと凍えるような視線を向けて、再確認のことばを口にする。オセは私の言葉にククッと笑い肩を竦めてみせる。豹なのに、その姿がやけに似合って、プーさんとは違う貫禄がありますねと、内心でプーさんをディスるネタを記憶しておく。
「ウァプラは兵器だ。大型要塞ウァプラは守るものではない。利用するものだ。某が起きたのは、基地を破壊することができるであろう脅威度を防衛システムが感知したからだ」
「やはりそうでしたか。………そして、今思念で合流するように命令が、いえシステムを誤魔化すとなると、偽装や誘導といったところでしょうか」
「当たっておる。どうもシステム運用員に欠員がでたらしい。欠員など出るはずがないのに、発生した。思い当たることがあるのではないか、ハンターよ」
ボティスのことだと、すぐに察する。だからこそ、ハーケーンはこれまでの作戦を変更することに決めたのだろう。ボティスは敵の運用員の中でもトップクラスの幹部だったはず。ソレを補うために、戦闘要員を手に入れようとしているのだ。
規制により普通には起こせないので、敵が入り込んだという緊急事態を引き起こすようにたくらんだに違いない。
「それなら、合流する前に倒すのみ。私がこの間手に入れた研究の集大成、ミリオンブレードの力をお見せします」
きらりと光る刀。コロニーで莫大なリソースを使って作り上げた刀だ。なにがミリオンなのかはネーミングからは推測不可能であろう。
「見えますか、オセ? この刀は切れ味と頑丈さだけを極めた刀です。プーさんのように全力で攻撃せずとも、触れたものは全て切り裂くと宣言しましょう」
ミリオンブレードはよくよく見ると全て精霊結晶の粒を組み合わせて作られていた。例えて言えばダイヤの一粒一粒を組み合わせて作ったような馬鹿げた作り方で創造された武器だ。古今東西の中でも最強格と言えるだろう。
「面白い。武器の力で彼我の差を埋められると考えているお花畑の頭が面白い。その幻想を現実で乗り換えてみせよう」
「余裕の言葉はやられ役のテンプレだと思います」
静かに答えると、摺り足で滑るようにミラはオセの懐に入る。そうして抜き放つことすらも気づかせない自然な動作で刀を振るう。先程までの剣よりも、また一つ上の技術であった。
カキンと金属がぶつかり合う音がして、ミラとオセの刀が鍔迫り合いをしていた。ミラはその結果に驚かないが、オセは僅かに驚きを目を見開くことで示していた。
「先程よりも洗練されている。どういうことか?」
「私の第三の目が覚醒したんです。オセの頭が落ちるようにと祈っていたら腕が上がりました」
木の葉が落ちるような、舞い散るような変則的な動きでミラはオセへと連撃を入れていく。オセは先程と違い、上半身のみでの受け流しは止めて、今度は全身を使って防いていった。
「さすがは判断が早いですね。上半身の動きのみで防ごうとしていたら、真っ二つにしていたのですが」
「常在戦場、某が油断することはないゆえに。驚きはしたが、隙は突かれぬ」
舞うように刀を振るうミラ、その姿は残像となり、木の葉が舞い落ちるように美しく優雅に、そして冷たき残酷さを兼ね備えてミラが踊っていく。
オセは、ミラの猛攻を先程とは違い余裕なく防ぎながらも、口元は微笑んでいた。
「そうか。そなたは相手の動きをトレースして真似ることができるのだな?」
「どうでしょうか、それならばもはや貴方は相手にならないと思いませんか?」
コマ送りの舞踏のように剣を振るう姿を残像に残しながら、ミラはオセを追い詰めていくが━━━。
「残念だ。その姿は見知った者ゆえ、戦闘も楽しめると思ったのだが」
スルリと入り込み違和感なく肉体を分断する剣撃がオセの頭に振り下ろされるが、オセは手首をひねり、右足を支点に回転すると、ミラの一閃を弾く。
それどころか、今度は二刀を使い、ミラがやったように残像を残しながらミラへと襲いかかる。
「くっ!?」
ミラはその動きをトレースして、全く同じように剣を振るおうとするが━━━。
「これは!?」
オセを倒すどころか、その刀の舞を全て防がれてしまう。
「物まねタイプだな? だが某には通用しない」
円を描く大雑把な動きで刀を振るうと、まるで嵐のように突風が巻き起こる。
「そなたでは相手にならぬ。肉体を封じられたと聞いたが、今の情けない小技ではな」
風圧で押し付けられて滑るように壁へとぶち当たってしまう。
どうやらオセとの戦闘は生半可ではなさそうだと、ミラは最近ではめったに見ることのない深刻な表情になるのであった。




