179話 侵入する小悪党
ウァプラの巨大な身体が地震があったように震動し、パラパラと埃が落ちる。暗闇の中で遠くより爆発音が聞こえてきて、影に潜む者はにやりと面白がるように口元を歪めた。
「どうやら、うさぎたちは上手く陽動できたようだな」
男性の声が小さく囁かれて、灯火が灯るとその周辺が明るくなる。その顔はどこからどう見ても小悪党だ。盗掘にきた盗っ人に見えるのはランピーチ・コーザだ。これでどでかいリュックサックを担いでいれば完璧だろう。
「だね。バレないか不安だったけど、意外とバレないもんなんだね」
ランピーチの肩の上に幽玄体となってふよふよ浮くのは銀髪ツインテールの小悪魔美少女ライブラだ。元サポートキャラで今は賑やかしの可愛らしい子だ。
「………今、なんか変なこと考えなかった? 私はゆーしゅーなソルジャーのサポートキャラだからね?」
最近は人の顔を見るだけで考えを読んでくるので、ランピーチと仲は良くなっているのかもしれない。
「これからはサポートキャラ顧問という名前にした方が良いと思います。あとは都合の良い合体相手の女とか」
同じく影の中から現れるのは黒髪の乙女だ。小柄な体格でロングコートを羽織り、少女には似つかわしくない鋭い眼をして、モキュモキュとチーズケーキを食べていた。その一点でクールな女の子の姿は台無しである。誰あろう真のサポートキャラである食いしん坊のミラだ。
「都合の良い合体相手って、激しく抗議するよ!? 私がエロ要員みたいじゃん。なんだかいつでもやれる女の子に聞こえちゃうよ!」
「気の所為ですよ。でも、小悪党さんと合体って、なにか卑猥なあいたっ」
むきゃーと涙目で抗議するライブラに、ミラがクスクスと笑い、ポカリとランピーチに殴られた。
「あまりライブラをからかうなよ。それよりもこの先に急ぐとしようぜ」
「ですね。本隊とは別に私たちが侵入する作戦は上手く行っているようですし」
ミラが頷くように、今回は少し作戦を講じたのだ。それは待ち構えているはずの敵と対峙するのではなく、偽ランピーチを用意して、本隊を進行。そして、ランピーチはこっそりと侵入する作戦だった。
「どうやらバレてないようだけど………これって敵は待ち構えているんだよね?」
ミラとじゃれるのを止めたライブラが不思議そうに小首を傾げるので、そりゃそうだろと顔を向ける。
「ん? あぁ、そうだろ? 火の神殿が活性化されるようにウァプラはエネルギーを吸収している。それは内部で誰かが暗躍して俺たちを嵌めようとしているんだろ?」
「わかりやすい罠です。エレメンタルストリームの流れをみれば、敵が行動しているのは確かですからね」
「でも、それならこんな面倒くさいことをせずに、ランピーチマンションに攻め込んでくれば良いんじゃないの?」
尤もな疑問を口にするライブラだが、その答えは既に予想している。
「敵も俺達の本丸に攻め込んで大打撃を受けるのを恐れてるんだろ。これまでの敵の行動から、そんなに戦力はないように思えるしな」
「そっかぁ。だからこそ、マイホームで倒そうと言うわけだね。なにか仕掛けがあるみたいだし」
納得するライブラだが、ミラが顔を顰める。
「そういえば、変なところがありますね。どうしてわかりやすい罠にしたのか。ボティスのように自身の世界に引きずりこめば良いはずなのに………?」
なにか疑問をもったミラだが、その疑問を問いかけようとして、ランピーチは前方へと視線を向ける。
「どうやら考え込む時間はないようだ。こっちにも防衛戦力がいたようだ」
前方の闇からヒタヒタと足音がすると、悪魔が姿を現す。現れたのは大柄な悪魔3体。コウモリのような羽を生やし、紫色の肌を持つ三メートルほどの背丈の悪魔だ。頭には二本の角を生やし、サーベルのような牙を生やしている。
「リッチとは違う大きな魔力を感じます。どうやら本隊が出会ったのは雑魚だったようですね」
腰を落として、身構えるミラに、横入りするようにライブラがむふんと得意げに前に出るとピシリと指を突きつける。
「ライブラあ~い!」
『グレーターデーモン:レベル7』
ピピッと解析が行われて、敵の正体がわかる。レベル7とはたしかに強敵ではあるが………今のランピーチの相手ではない。
「と思うんだけど、どう思う?」
でも、少し気弱にもなる小悪党です。悪魔らしい悪魔って、これが初めてかもしれないので、警戒するのは当たり前だと思うんだ。
「それは相手の使う魔法でわかります」
魔法でわかるのかと、さらに問いかけようとして━━━。
グレーターデモーンが指を指してくる。
『灰へと変えよ、炎よ』
詠唱を口にすると、グレーターデモーンの指先から炎が放たれる。炎は空気を熱して、肉塊を容赦なく灰に変えて迫ってきた。
「なるほど、『力ある言葉』というやつか! そこまで熱量は感じないのに、威力があるな!」
今までの敵が使うような空間自体を燃やすような熱さは感じない。だが、炎が触れた箇所は灰と変わっていく。それは触れたら灰になると決まっているかのようだ。
「世界の理を歪める『力ある言葉』です。真の魔法は、今までの敵が使う魔法とは格が違います。あれは概念をねじ曲げる炎。対抗するには魔法か小悪党パワーしかないんです」
「ただの厨二病的な詠唱だと思ってたよ!」
真面目な顔で答えるミラに、ライブラがアホなことを言う。うん、実は俺もそう思っていた。魔法を使うのは一言で良いじゃんと思ってました。
「とはいえ、小悪党パワーで対抗させてもらおうか! ネーミングは後で変えるとしてな」
指を揃えて手刀へと変えると、ランピーチはスッと手を振り上げ、冷たき視線を迫る炎へと向ける。
「火力はこちらの方が上なのは変わらない」
振り上げた腕が霞むように消えると、空間にピシリと線が入り、炎が二つに分かれて霧散していく。
「まぁ、レベル7では既に雑魚というところですか」
刀を亜空間ポーチから抜きだすと、ミラはなんでもないかのように消え去った炎をスルーして、背後で構えを取るグレーターデーモンへと刀を向ける。
「それでは敵は3体。こちらも3人。一人一体の分担で良いでしょう」
そして、鬼畜なことも平然と口にする娘である。ライブラが可哀想だから、からかうのはやめなさい。ほら、ライブラは━━━。
「ちょわー! パワーアップしたキックだ!」
のりのりで、グレーターデーモンへと蹴りを入れていた。幽玄体となると誰にも気づかれないし、瞬時にテレポートできるライブラの能力は大したものなんだけどねぇ。
「てい、とや、たぁ~!」
ペチンペチンと儚げな音を立てて、めげずにグレーターデーモンへとキックやパンチを繰り出すライブラさん。その頑張る姿には涙なしには見られない。グレーターデーモンもどうしようかと戸惑っているじゃん。
「ナイス囮です。フォローします」
だが、ギャグめいたグレーターデーモンとライブラのやり取りに、懐に入り込んだミラが横薙ぎに一閃する。あっさりと真っ二つとなったグレーターデーモンが唖然とした顔で地面に落ちる。
その倒された姿を見て、慌てて他のグレーターデーモンたちが魔法を口にしようとし━━━。
銃弾が正確無比に口の中に入り込んで、頭を爆散させるのであった。敵の隙を逃さずにヘイズで狙い撃ったのだ。
「やったぁ。私のウルトライブラ回転蹴りで敵は真っ二つになったよ」
そして、ミラが抜き放った刀を視認できなかったライブラがクリティカルが入ったよと喜ぶ。うん、ライブラさんがそれで良いなら俺はなにも言わないよ。
「………おかしいですね。リッチのようにぞろぞろと現れると予想していたのですが、これで終わり?」
「グレーターデーモンを全部倒したのがいけなかったんじゃないか? グレーターデーモンの養殖稼ぎは一体は残しておかないといけないんだぜ」
「はっ、そういえばそうでした。何で全部倒しちゃうんですか! ひどいですよ、プーさん!」
楽勝すぎる相手を前に気を抜いて、また漫才を始めようとして━━━。
「むっ!?」
鋭き眼光を光らせてミラが素早く後に下がり、ぼーっと浮かんでいたライブラがグレーターデーモンのように真っ二つとなった。
「………ほら、ボス戦となった」
「グレーターデーモンを全部倒しちゃうからですよ。でも連戦って、死んだらやり直しなので、稼ぎには使いにくいですよね」
奥へとランピーチとミラが目を向けると
「ふむ………警戒度が上がり目覚めさせられたと思ったら、これはどういう状況だ?」
渋い男の声と共に、豹の頭を持つ侍が姿を現す。その手には刀を持って、達人の風格を醸し出していた。
「ウァプラが目覚めている? いや、再生中か。なぜか分からないのだが、この状況をそなたらは説明できるかね」
猛獣の目を向けてきて問いかける男。明らかに魔物だ。いや、悪魔だ。黙して敵の様子を窺うランピーチたちに、答えないのかと鼻で笑うと、悪魔は刀を向けてくる。
「どうやら教えるつもりはないらしい。ならば、先程殺した巫女と同様に切られて死ぬが良い」
「いつの間にか倒されちゃったみたい! この豹の悪魔を解析〜」
『オセ:レベル10』
「…………」
クールに告げて来る悪魔に、空気を読まないライブラがランピーチの肩の上に復活し、すぐさま解析だ。とっても気まずい空気です。
「まじかよ。この悪魔もレベル10だぞ」
「しっかりと育った悪魔は全員レベル10の可能性がありますね」
敵のインフレが酷いと思うんだけど………。
「なんだ? 手応えはあったはずなのに、ダミーであったか?」
「ふふーん、ライブラちゃんにその程度の」
胸を張って威張ろうとするライブラがまた真っ二つとなった。
「よくわからぬが、切れぬのならば、切れるまで切るのみ。残りのそなたらも同じだ」
居合の構えをして、オセが牙を剥く。
ランピーチとミラは摺り足をすると、腕をブレさせる。ギィンと火花が散り、金属音が響く。
「ほほう、某の居合いを防ぐとは、二人は強者らしい!」
一瞬で見えぬ剣閃を見せたオセが笑いながら駆けてくる。戦闘狂なのか、その口は牙を覗かせて楽しそうだ。
「二人がかりでも文句を言うなよ、猫野郎!」
「私たちのコンビネーションを見せるとしますか」
ランピーチとミラも武器を取り出して、オセとぶつかり合う。そして、悪魔との激戦が開始されるのであった。




