174話 閑話 ミラの1日
ミラは『宇宙図書館』が誇るサポートキャラだ。その思考速度は光を超えて、あらゆる事象を読み取り、数億の未来を予測し、適切な行動を淡々と機械のように行うことができる。
だからと言って、感情が存在しない機械人形かというと違う。人間と同様の感情を持ち、細やかな気配りができ、相手の心に寄り添うことのできる優しい人間だ。
だが、妥協を許さない厳しいところもある。仕事については安心確実に行う。ハンターとしての信頼を崩さなとために、ミラは日々の仕事に対して自分自身にも厳しいし、相手に対しても厳しい。
━━━そう、今のように。なにか同じ始まりに聞こえるのはプリンのせいだろう。プリンが美味しいのがいけないと思います。
◇
サラサラとした感触にまだまだ眠いと、うつらうつらしながら、夢の中からミラは目を覚まして天井を見る。
「もう朝ですか。それにしては静かですが」
コロニーの自室。ふかふかベッドで寝ていたミラはコロニーの状況をすぐに把握した。これは長年生きてきた中で自然と身についた日課のようなものであった。常に常在戦場、焼き肉定食、ご飯大盛りスープキムチ食べ放題の世界にいるミラは起きたら、まずコロニーの様子を確認するのだ。
コロニーのマップでは活動している生命体はゼロと表示されている。
せっかく最近は起きている人たちが、いえ、うさぎたちが増えて嬉しかったのに、ほとんど誰も起きていなかった以前のような感じがして、少し寂しくなってしまった。
ベッドから起床して縁に座り、眠そうにコシコシ目を擦る。あくびをしながら、部屋を見渡して、あい変わらず殺風景な部屋だと眠くて朦朧としながら思う。
ベッド一つがぽつんとあるだけで他にはなにもない。というか、この間まではベッドすらなくて、カプセルの中でスリープモードだった。必要があれば『宇宙図書館』が起こしていたからだ。
今は最初にして最後だろう大作戦のために常時起きているため、ベッドが設置された。できれば冷蔵庫やおやつをしまう戸棚とか欲しかったが、スタッフたる人工精霊には必要ないと判断されて、ミラたちは自分からなにかを求めて所有はできない。
なぜならば人工精霊は道具であり、メンテナンスのみで問題ないとされているからだ。お菓子一つ、ベッド一つ貰えないのが当たり前なのである。精々、プーさんの言葉尻を曲解して、細々と欲しい施設などを用意するだけだ。
起きた時間は6時半。ちょうどよい時間だと、パジャマから着替えるとコロニー内に転移する。ターミナルにはうさぎたちがいて、やってくる観光客のためにはたきで埃を落としたり、売り物を並べたりと忙しいはずだ。
しかし、ターミナルはガランとしており、静寂が支配していた。即ち、うさぎたちは一羽もいない。とはいえ、敵襲なのではないことを私は知っています。
ランピーチマンションに仕掛けた防犯カメラで見ると、見慣れたうさぎたちの姿が食堂にあった。うさぎたちは仲良くカウンターの前に並んで、朝食の乗ったトレイを食堂のおばちゃんから受け取っていた。
「今日の朝ご飯はなにうさ?」
「ほうれん草のおひたしに、焼鮭と卵焼き、焼き海苔だよ。ご飯の量はどうするんだい?」
「やったぁ、これぞ朝食というレパートリー。漫画盛りでお願いするうさ」
「あんたたちはちっこい身体なのに、よく食べるねぇ。あいよ、漫画盛り」
おばちゃんが笑いながら、お茶碗にご飯をこんもりと山盛りにしてトレイに乗せる。混じりっけ無しの天然素材。合成食料など欠片も入っていない炊きたての白米である。
プーさんはランピーチマンション内では超格安でお米などの天然物を販売している。地上街区の人間でもかなりの金持ちではないと食べる事ができない貴重なレパートリーだ。
最近では外部の人たちも入り込んでくるので、シティの住人の証であるカードを発行していた。なにしろ、半コインで天然物を食べられるのだから、人が殺到するのは当たり前です。
「これが本当の米というものなのか。甘味があるし独特な匂いがするんだなぁ」
「本当ね、これが鮭なのね? アルコール度数はどれくらいなのかしら」
「ねぇねぇ、おとうさん。このお魚が泳いでるの? ふよふよって?」
「そうだなぁ、目とかなにもないんだな本当の魚って、魔物よりも変わってるんだなぁ」
鮭の切身を持って、珍しそうに話す家族は魚を見たことがない発言だった。そして、この食堂を初めて利用したとわかる発言です。
これは住人がカードを貸している事の証拠です。ですが、食堂のおばちゃんも、住人も元はスラム街の人々で、プーさんに救われたことを感謝している人たち。知り合いに貸すくらいは黙認しているのです。稼ぐために使う人はもれなくうさぎたちがスンスンと鼻を押し付けます。
朝食だけでも満員御礼笹持ってこい。この賑いは昼まで続き、次は昼食、そして夕食と続く。即ち、この食堂はずっと賑わっている。
プーさんは賑わっている騒々しい食堂を眩しそうに見ることが多い。まぁ、そんなことよりも大切なことがある。
うさぎたちは食堂で朝食をとるが、朝食マイスターの私は違う。
「ふふふ、真の朝食マイスターは別の所で朝食を盗るんです」
テレポートで移動する。殺風景な部屋から騒がしいリビングルームへと。安っぽい絨毯が敷かれて簡素なテーブルが置かれている、どこか家庭的な内装のリビングルームには幼女たちや自称恋人に獣人が揃っており、談笑をしていた。あと、ウドが寝っ転がっているので、座布団代わりに座っておく。むぎゅうと悲鳴が聞こえてきましたが、ウドが悲鳴を上げる理由はないので幻聴です。
「あ、ミラさん。おはようございます」
「おはようございます、チヒロさん。今日は良い天気ですね。まさに朝食日和というやつです」
私がテレポートしてきても、動揺を見せずに自称恋人が挨拶してくるので、天気から話題に入る。コミュ力の高い私なら、時候の挨拶から好感度マックスまで上げることができます。
「は、はぁ。そ、そうですね?」
私の言葉に適当に相槌を打つ空気の読める少女は、腹黒に見えて純粋です。駆け引きをするにも一歩足りないところがあるので、商人が苦労しているのを知っているが、別に気にしなくても良いので、挨拶だけで終える。
「今日も朝ご飯ピッタリ。今ご飯をよそったところ」
「当然です。私は膨大な情報から正しい正解を導く事が出来るのですから。あ、大盛りお願いします」
おひつからぺたぺたとご飯をよそっている獣人こと、ドライの横に座っておく。おひつの隣ではなく、人を一人はさむのが正解で正義なのです。この位置ならば、他人のおかわりをよそうことなく、自身のおかわりは簡単にしてもらえるベストポジションなのです! これは学会におかわりの法則として発表しても良いと思います。
「きょうのあさごはんは〜、ベーのんえっぐ〜、ういんなー、とーふのおみそしるだよ〜。ちょっぴりこげこげなの〜。さらだはとまとがすこしにがてなの〜」
「カリカリなのでしゅ〜、お父様の作る朝食をたくさん食べるのでしゅでしゅ〜。おかわりしちゃうのでしゅ〜」
朝から元気いっぱいな幼女二人がおててを掲げて、身体をゆらゆら揺らしダンシング。ウキウキとして、台所にいるプーさんをチラチラと見ている。もう少し遅かったら、懐いた子犬のようにプーさんの足元に踊りに行くに違いありません。
「ほいほい、できたぞ〜」
「じゃじゃーん! 今日は宇宙風朝食だよ!」
台所からのんびりと入ってきたのは、フライパンを持ったプーさんと宇宙人さん。ベーコンエッグがフライパンの限界を試すかのように、みっちりと詰まっており、じゅうじゅうと脂の音色が心地よいです。
「これのどこが宇宙風なんですか?」
不思議そうに皿に載せられていくベーコンエッグを見て、自称恋人さんが宇宙人に尋ねます。
「え? 宇宙風はこうやってベーコンエッグを宇宙船内で焼くもんだって、おじさんが教えてくれたんだよ?」
「そう言わないと、灯火は手伝わねーだろ、それに間違いでもないんだ。貧相な宇宙船内で焼けるとは思えないんだが………」
「なにかよくわかりませんが、宇宙風という名前にした理由はわかりました」
談笑している人たちを横目にお皿に乗せられたベーコンエッグを見て思う。まだ熱いためにバチバチと脂が弾けてアツアツそうです。このできたては食堂では無理です。そして、少し焦げていて、荒削りな漢料理がまた食欲を誘います。ともすれば旅館の朝食の様に整った料理よりも魅力がある。それが漢料理なんです。
プーさんの作るベーコンエッグは4枚のベーコンを置いて、その上に目玉焼きを置いてあります。ゴクリとつばを飲み込み、いただきますと、まずはベーコンを目玉焼きから引き剥がす。ピッタリとくっついているために、焦げた白身も一緒に剥がれますが気にせずにパクリ。
焼けた脂の甘味が口の中に広がり、カリカリのベーコンの固くとも、燻製肉の美味しさを魅せる味わいに、頬が緩んでしまいます。そして、すぐに炊きたてのご飯を頬張ります。カリカリベーコンを一欠片齧り、白米をグイグイと飲むように食べると、喉を通り過ぎる快感に陶然とします。
「ひと齧りでもうおかわり?」
「仕方ないんです。このカリカリベーコンの美味しさは白米と最強コンビなんですから」
半熟の目玉焼きの黄身にベーコンをちょちょんと漬けて食べると味変がおきます。黄身の味がベーコンの味わいを深くして、さらにお茶碗を空にします。
「コウメもおかーあり! ミラおねーちゃんにまけないもん」
ふんふんと鼻を鳴らして、まだご飯がたくさん残っているお茶碗を掲げるコウメに、プーさんが優しく頭を撫でる。
「コウメ、この娘の真似をしない方が良いぞ〜。ベーコンを黄身につけて味変とか、家風ラーメンみたいなことを考えていそうだしな。腹八分目という言葉があってだな。まだ食べられると思ったときがやめるときなんだ」
もしかしたら、プーさんは私の心を読めるようになったのでしょうか。ベーコンを頭に乗っているミミにあげながら、もっともらしいことを言うが、それは小人の言葉です。私は違います。
「私はチャレンジャーなんです。常に私は高き頂を目指す誇り高き挑戦者。おかわりください」
食堂で同じことをしたら、なぜか出禁になりましたが、私の挑戦は続くのです!
えっと、これはミラの1日朝食編とか小説とかだと言われそうですね。
活動報告にて、お知らせがあります。アースウィズダンジョンについて!




