164話 誘拐犯の小悪党
「ラン………この子はどうしたんですか?」
チヒロが腕を組んで目の前の光景を見ながら尋ねてくる。その顔は困惑に染まっていた。
「あぁ、え~と、あれだ。コウメのお友だちだな。今日のスイーツバイキングで仲良くなったらしいぜ?」
脂汗を流して、オロオロと答える小悪党ことランピーチ。ちょっと予想外の光景が目の前にあるのだ。
コウメのお部屋。お昼寝する際に使うベッドに、幼女が二人スヤスヤ寝息を立てていた。
誰かといえば、コウメとメイだ。スイーツをお腹いっぱいに食べて、歯磨きをして、お風呂に入って、パジャマに着替えて、ふかふかベッドで寝ています。川の字で寝ていて、ちゃっかりとミミが真ん中で寝ているのは、眼鏡の子供に匹敵する睡眠欲があるうさぎなので当然の流れかもしれない。
「コウメのお友だちですか。それなら、ご両親に連絡をしないと心配してしまいます。連絡先はわかりますか?」
ランピーチの言葉に安堵して、当然の流れで当たり前の選択肢を取ろうとするチヒロ。
「このライブラちゃんが書いておいたよ。じゃじゃ~ん! ちゃ~んと文字は定規を使ったから安心して!」
ぱちりとウインクして、全然安心できないセリフを吐く巫女が、手紙を見せてくるので、中身を確認。
【鎧塚メイは我らが保護している。騒ぎ立てずに次の連絡を待て】
「誘拐犯だろぉ! なんでこんな本格的な手紙なんだよ。誘拐犯もびっくりだよ?」
手紙を乱暴に破いて絶叫する。これだと完全に幼女誘拐拉致の犯行声明にしか見えない。
「ああっ! せっかく頑張って書いたのに! 私たちの身元がわからないようにうさぎに運ばせるから大丈夫さ!」
「大丈夫な要素がどこにもないっ!」
うさぎが運んだら、メイがどこにいるか、丸わかりだ。
「やっぱり誘拐してきたんですか!? どこの家門の子供なんですか? そこは潰す気なんでしょうか」
頬を押さえて、チヒロがわなわなと身体を震わす。やっぱりとか、ランピーチが悪事を働くことに不思議に思わない恋人である。そして、今の状況から、まったく否定できない。でも、邪魔者は消すとか、敵対組織を全部殺しておくつもりはないよ?
お父さまだと言ってから、メイはここから離れないよと、コウメと共に行動しているのである。コウメもお友だちが増えて大喜びで、しかもおねえちゃんがふえたよと、ニコニコ顔だった。たぶん単純に家族が増えたと考えているのだろう。
メイがここまで無邪気だとは思わなかった。この子何歳? 5歳くらい?
『恐らくは自分で考えて行動することはなかったのでしょう。なぜなら困った時には未来の自分に任せれば良いのですから。これは比喩ではなく、実際に具現化して行っていたと思われます』
思念にてミラが意見を言ってくる。運命を操る源は意思を持ってはいけないと暗に伝えてきている。たしかに多様な運命を選択するなら確固たる自我を持って頭が良かったら、それだけ選択肢は減るのかもしれない。頭の良い人間の運命のみとなり、ヒャッハー系統や脳筋の運命はなくなるだろうからな。
だが、そうなるとメイを幼女のままで成長させない思惑の人間がいるわけで………。それはきっと母親なんだろうなぁ。そういうことを平気でする親とか、少しげんなりするぜ。
『………そうか。ある意味コウメと同じく純粋だったのかぁ。困ったな、大人しく帰るかな? 家まで届けるつもりだけど』
ついでに敵の基地の一つを破壊もしておこうと考える小悪党。でも、基地ってあるのかなぁ?
『ウ~ン、それなんですが、ここまで考えなしだと、自分の家を覚えてるでしょうか。能力を使って移動をしていたとしてもおかしくありませんよ』
『………あり得るな。この子の記憶力は豆腐幼女並だ。ぷにぷにしていて、覚えた内容はすぐに消えていきそう。能力に頼り切りの予感がするな』
なにせ願えば叶う能力者なのだ。どんな能力者よりも優れた最強チートの能力者なのだから。しかもその能力の持ち主は幼女である。使用を控えるといった考えもなさそう。
『それにもう一つ、実は問題があるよ、ソルジャー。鎧塚メイはエリート秘書の大人の女性というのが、他の人間の認識だよ? 幼女を誘拐しましたと、鎧塚家に伝えても意味がわからないかも?』
『それがわかっていて、あの手紙書いたのかよ。………悔しいがライブラの言う通りだ。メイの正体を知っている奴とコンタクトを取らないといけないが、それが誰かさっぱりわからないんだよな』
やはりメイを預かっていると鎧塚家に伝えるのは無理だと判断し、その面倒くささに舌打ちしてしまう。
「全面戦争ですか? ランピーチシティの兵隊も良い性能の精霊鎧を着た元冒険者が加入していることもあって使い物になると思いますよ?」
フンスと息を吐き、拳を握りしめて、強い意志を見せてくれるチヒロ。ここが手伝える大きなチャンスだとも考えて、一際気合を入れていた。
その気合の入ったチヒロに可愛らしさを見て、微笑みながら頭を撫でてあげる。
「大丈夫だ。このランピーチシティはうさぎたちによって強固な要塞並みに堅固だからな。全面戦争だと大きな消耗となるのが目に見えているのに、仕掛けてくるやつはいないさ。暗躍はしてくるだろうが、それはこれまでとあまり変わらないしな」
ランピーチシティには毎日飽きもせずに工作員が潜入してくるし、その中でも行き過ぎた行動を取るやつは、うさぎが鼻をスンスン鳴らして追い出す。追い出された奴が息をしている可能性は考えない。
「むぅ、私もランのお役に立てると思ったんですが残念です」
「チヒロはいつも役に立ってるぜ。このランピーチシティの経営はチヒロがいなかったら、既に崩壊していただろうからな。多分世紀末ヒャッハー系の組織になっていた感じがするよ」
経営を放置して、武力だけで支配するランピーチ。治安などという言葉はなく、弱肉強食の世界となって、最終的に一子相伝の拳法家に殺されそうな予感がヒシヒシとします。
「そう言って頂けると嬉しいです」
頬を染めて照れるチヒロ。ここでランピーチが二枚目主人公だとほのぼのシーンとなるが、あいにく小悪党なランピーチだと、手から怪しげな電波を出して美少女を洗脳する悪魔にしか見えなかった。
「でも、この子はどうするんですか? 名門の子供なんですよね?」
「うう~ん。それなんだがなぁ………。そうか、その手があったか」
心配げなチヒロの顔を見て思いついたことがある。そういえば、最初の目的はまったく違ったものだったのだ。
なので、薄目を開けて不安そうな幼女に声をかける。少し前に起きたのは気づいていた。自分の扱いがどうなるか、心配していたようだ。
「なぁ、メイちゃん? しばらくコウメと一緒に暮らすかい? お友だちのお家にお泊りだ」
世界一安心する優しい声音でニコリと微笑む。多分世界一安心できる男だと思います。なお、他者の意見は聞きません。
メイは喜んで頷くと思ったが、クワッと目を開くと口を尖らす。
「やでしゅ!」
「嫌なのか?」
予想外に強い口調での拒否にたじろぐランピーチがメイを見ると
「お父さまになってくだしゃい! もうあたちのお父さまに決まったの〜。お泊りじゃなくて、ここはあたちのおうち! コウメと一緒に住むのでしゅでしゅよ!」
幼女流お強請り一式、ベッドの上で手足パタパタの技を見せてくれた。暴れるメイを寝ているミミが薄目を開けて迷惑そうに見ると、コロコロとベッドの端っこに転がる。
「あ〜、でも、ここをお家にすると、お母さんが心配するだろ?」
「大丈夫! お母様は滅多にメイに会いに来ないから大丈夫。いつも連絡だけだもん」
聞きたくない哀れな環境の幼女だった。
「頭なでなでして! 良い子だよってだっこ、だっこして!」
コウメの真似をするメイ。幼女が人の話を聞かないのは、古来よりのルールのため諦めて、抱っこして背中をポンポンと優しく叩いてあげる。
「お父さまは難しいかもしれないけど、しばらく暮らすことはできる。良い子のメイはしばらくここで暮らせるかなぁ?」
「暮らせましゅ! やったぁ、あたちのおうち〜。コウメと一緒〜。お父さまと一緒〜」
都合の良いことしか耳に入らないはしゃぐ幼女に苦笑しつつ、ランピーチはこれならしばらくここにいても大丈夫だとにやりと笑う。
「うわぁ、チヒロ。あのソルジャーの姿を見てどう思う? 子供を拉致して言葉巧みに騙す悪人にみえるよ」
「どこからどう見てもそう見えますが、そこは黙っておきましょう。ランが傷ついてしまいます」
二人でコソコソと小声でやり取りするライブラとチヒロ。自分でもわかってるから、ほっといてほしい。
「チヒロ、この子は数日預かることにするから、デザイナーを連れてきてくれ。メイとコウメのドレスを作るから」
「それは良いですけど………ドレスを作るんですか? あ、もしかして七夕祭のため?」
さすがはチヒロだ。すぐにピンときた模様。
「そうだ。チヒロもドレスを作っただろ? そのお披露目もしないといけないしな」
本来は小野寺バッカスに会うための七夕祭だったが、目的を変更しても良いだろう。どちらにしても、そろそろランピーチ・コーザの力を見せつける必要もあるだろうし。
ハーケーンという古代の亡霊たちが相手となるならば、地上街区の武装家門など相手にする暇はない。ちょっかいは止まないだろうが、それでも最小限に抑えることはできる。
そして、メイを伴ってパーティーに出席すれば反応する者たちもいるはずだ。これなら相手がわからないから連絡が取れないということもない。我ながら名案といえよう!
「この間のバッカスの勧めてくれたデザイナーをもう一度紹介してもらおう。小野寺家としても、俺達と親交があるのはメリットだしな」
金に糸目をつけずにいこうじゃないか。七夕祭は派手に出席をしようじゃないか。
「お父さま、コウメとおそろいね! お揃い! リボンもおんなじの!」
そして、幼女はその話を聞いて、ペチペチと頭を叩いてはしゃいでいた。




