163話 お菓子と小悪党
「くくくくく、見給え諸君。俺の鬼謀にて怪しげなカードを手に入れちゃったよ。ふふふ、計算通り」
ランピーチは手にした金属製のキーカードを手の中で弄びつつ、ニヤニヤと嗤う。その笑いを見て、スイーツバイキングに来たお客は横をそそくさと通り抜けるが気にしない。
「幼女へお菓子をあげる代わりに、相手の大事な物を奪い取るとは、さすがはソルジャーだね! ライブラちゃんもその頭脳には頭が下がるというものさ」
「おい。それだと俺が酷く悪人っぽいじゃねーか。違うよ? ヒントは貰えるだろうとは思ってたけど、重要なアイテムを手に入れることができるなんて、俺も予想していなかったよ?」
スイーツバイキングと聞いて具現化しているライブラが最中をはむはむ食べながらジト目で見てくる。
たしかに見た目は悪人の行動だ。幼女にお菓子を渡して、アイテムを騙し取る。どこからどう見ても小悪党のやることである。即ちランピーチにピッタリの行動だ。
でも、俺は悪人じゃないからねと、スキルのせいだと訴えるランピーチだが、その行動が悪人まんまであることは、まったく自覚はなかった。
「まぁ、良いのではないでしょうか。これでウァプラが復活することはなくなりました………と言いたいところですが、確定ではありませんね」
皿に山盛りのお菓子を載せて、フードファイターミラがおかしなことを言ってくるので、はて、と首を傾げる。キーカードがこちらにあれば、復活は不可能と思うんだけど?
「わふれたんですか? あちらは運命を選択することができるんです。きっと『キーカードが無くてもウァプラを復活できる運命』を選択するはずでふ。そのキーカードは絶対に復活を防げるというものではありません」
「なるほどな。そんな可能性があったのか。たしかにその可能性はあるな、失念していたよ。だが………」
ミラの忠告に深刻そうに顔を歪めて言葉を返す。
「ねぇ、そーゆー食べ方をしたらだめだと思わないか? 他のお客様に迷惑だろ」
テーブルに置いてあるホールケーキに顔を突っ込み、むしゃむしゃと食べる黒髪少女にツッコミを入れるランピーチだった。
ミラはちらりと俺を見て、再びホールケーキへと顔を向ける。
「大丈夫ですよ、おかわりのホールケーキはたくさんあるじゃないですか。それに食べ散らかすなんてもったいないことはしませんよ」
あ~んとちいさな口を開けると、再びホールケーキを食べ始めるミラ。その速度は強力吸引掃除機も真っ青の速さで、数分で欠片も残さずに食べてしまうのだった。この子のお腹はどうなってるんだろうね。全然膨らんでいないけど。ライブラなんか今の食べっぷりを見て、げんなりとして食べるのをやめちゃっただろ。
「まぁ、言いたいことはわかった。だが、それならそれで、このカードキーの違った使い方があると思わないか?」
「違う使い方ってなにさ?」
「またなにか悪巧みを思いついたんですね」
「まぁ、ふたりとも聞いてくれ。ほら、これってさ━━━」
3人で顔を寄せ合って、ひそひそと話す。ランピーチの話が進む毎に、ライブラとミラの顔が驚きに変わり、感嘆の吐息を吐く。
「ソルジャー………よくそういうあくどいことを思いつくね」
「合理的ともいえます。なるほど、それならそのキーカードの使い道もあるというものです。きっと相手を出し抜けると思います」
「だろ? ふふふふ、今孔明と呼んでくれ」
うけけけと嗤うその姿は賢者もかくやの理知的な二枚目の笑みだったので、お客様たちはますます怯えた顔となり、遠巻きに離れていくのでランピーチの周りは空白地帯となりました。
だが、小悪党の力を見せつけても、ライブラもミラも気にせずに、反対意見を口にすることもないので問題ないのだろう。
「にしても、運命の悪魔って、最強なのはわかるけど、あんまり幸せそうじゃないな………」
コウメといっしょにお菓子を食べているメイを見て少し悲しげとなる。この間も思ったことだがお菓子に弱すぎる。あの娘は家で贅沢に、いや、普通におやつを貰える環境ではないのだろうか?
「そういえばそうですね。戦闘時は大人の女性が相手だったので気づきませんが、贅沢に暮らしていればたしかに飴玉一つで大喜びはしませんよね」
「あ、その飴玉だけど、まだこの間の飴残ってるんだよね」
「ください。まったくプーさんは焦らすのが得意なんですから。ありがとうございます!」
飴玉一つでミラは大喜びする。彼女も贅沢に暮らしているはずなので、さっきの言葉に説得力がまったくなかった。
「ミラは特別だよ。普通はあまり喜ばないと思うよ?」
ライブラにも手渡すと、特段なにも思わずに亜空間ポーチに入れようとして、子犬と化したミラにそれくださいとまとわりつかれていた。たしかにミラは特別だな………。
「あの娘を操っているサポートキャラは誰だかわかるのか?」
「そういえば見たことありませんが、だいたい推測はできます。恐らくは全幅の信頼を寄せる相手。即ち両親です」
飴玉をライブラから貰って亜空間ポーチにしまったミラがどら焼きを頬張って言ってくる。もう少しシリアス感を出しても良いんだけどなぁ。
「両親か………たしかにその推測はあたってるかもな。でも、両親は戦争に出てこなかったのか? 存在するかわかるだろ」
「いるのは間違いないのです。企業の社長紹介に顔写真載ってますし。でも、戦争では前線には絶対に出てきませんでした。会長もそうですけど、彼らは奥にいて指示を出すだけだったんです」
「あ〜、だよなぁ。司令官が前線にでてくるわけないか。でも、敵の顔が企業紹介のサイトとかでわかるって、なんか現実感ありすぎだよな」
企業紹介には社長の顔が載っていることが多い。にしても世界征服を企んでいた敵の正体を見つける方法としては間抜けすぎるんじゃないかな?
「でも、精霊戦争が開戦する前に父親は事故死して死んでいます。大々的に葬式をしてましたし………そういえば唯一の後継者を失った頃から会長の様子が変になったと言われてます」
「ふむふむ。ありがちだけど、息子が死んで絶望し狂気に至ったってことか? 権力欲だけが残ったとか」
「アニメや小説でそういうパターンはたくさんあるよね。よくある話だったんだ」
俺の推測にライブラも乗っかってくれる。ライブラのお皿はカレーが載っている。甘いものはもうギブアップの模様。カレーだけは甘いものが苦手なおっさんたちのためにたくさん用意しておいたのだが、意外と大勢がカレーを食べている。
「一般的な思考というわけですか。でも、その推測どおりとしても許されません。世界はそのために大混乱となったのですから」
チョコレートの滝にコップを差し出し、チョコレートを汲んで、グイグイと飲むミラ。その様子を見て、げんなりとした顔となり、カレーを食べに行く人がいました。この子のせいだったのか。
「もう少し自重しろよ。あまりの食べっぷりに周りは食べてないのにお腹いっぱいになってるだろ」
「むむむ、それは悪いことをしました。では石ころの術を使っておきます。私はこれから小石としか他の人には認識不可能となるでしょう。大丈夫、魔界でもこの能力は魔王以外には通じましたから」
「あれってタイムマシン最強ってことだけわかるよな」
ミラが認識不可能となると、周りの人たちは再びスイーツを食べ始めるので安心する。たくさん食べてほしいのだ。
「ピーチお兄ちゃん。ケーキ食べてる?」
「ん? ドライか。まだ食べてないな」
ヒョコリと近づいてきたのは青髪の美少女ドライだ。チーズケーキをたくさんお皿に載せている。ドライはチーズケーキが好きな模様。
「ピーチお兄ちゃんが用意したスイーツバイキング凄い。チーズケーキがこんなに種類があるなんて知らなかった。柔らかいのや、ムースとか、さっぱりしたのとか、食べるのが大変」
むふーむふーと、興奮気味にチーズケーキにフォークを刺すと、口に入れてとろけた顔となる。
「ケーキってのは同じ名前でもたくさんの種類があるもんだ。たくさん食べておくんだな」
その幸せそうな顔に、ランピーチは嬉しくなり、ドライの髪を乱暴に撫でる。
「むふー、ドライはたくさん食べる。チーズケーキは他にも隠れていそう」
髪を乱暴に撫でられて、ドライはくすぐったそうに微笑む。
「そうだな。結構いろんなところに置いたから探してくると良い」
「ん。探してくる!」
そう言って、ドライは他のテーブルにチーズケーキを探しに歩いていった。チヒロたちはどこかなと探したがいないので、たぶん他の会場にいるのだろう。なにせ甘味界をこのマンション全体で作り上げたのだ。
「じ~っ」
と、気づくとコウメとメイが足元に立っていた。なにか用があるのかな?
「パパしゃん、コウメもあたまなでて、なでて! いいこだねって、なでて!」
ぷっくり頬を膨らませてご不満なコウメがおねだりをしてきた。どうやらドライの頭を撫でたところを見られたらしい。コウメは頭を撫でられるのが大好きだからなぁ。
「ほら、よ~しよ~し。コウメはよいこだなぁ」
「きゃあ〜、なでてなでて、だっこも、だっこもしゅるの」
頭を撫でてあげると大喜びのコウメだ。腕にしがみついてくるので、その微笑ましさに頰を緩めてしまう。
「む〜、ずるいでしゅ!」
「ん? なんだ? なにがずるいんだ?」
なぜか、メイが睨んでくるので、不思議に思うと━━━。
「お仕事を成功させないと頭は撫でてもらったら駄目なんでしゅよ!」
メイがコウメを見て怒ってきた。
「………仕事を成功させないとか。そうか………それは違うな。子供ってのは無条件に撫でられて良いものなんだ」
なんとなくその言い分からメイの環境が推測できてため息を吐いてしまう。
「親にとって、子供はいつも良い子だし、頭を撫でたいものなんだ」
「え〜っ、本当でしゅか?」
「パパしゃんはいつもあたまをよしよししてくれるよ。だっこもしてくれるもん」
コウメがよじよじと登ってくるので抱きかかえてあげる。それを見て、羨ましそうにするメイ。
「メイしゃんもパパしゃんにあたまをなでなでしてもらうとよいでしゅ」
「………頭撫でてくれるでしゅ?」
「もちろんだ、ほら、メイは良い子だな」
おずおずと頭を突き出すメイを撫でてあげると、幸せそうに目をつむる幼女。
「えへへ。うれしいでしゅでしゅ。………はっ、わかったでしゅ。こんなに優しいのはお父さまだからでしゅね! お父さまはあたちにもいたんだ! あたちもだっこ、だっこして!」
なぜかコウメとまったく同じ思考で、メイがしがみついてきたのでだっこをしてあげるランピーチであった。




