162話 すいーつばいきんぐと小悪党
メイにとってはすいーつばいきんぐという名前は心の琴線に触れるものだった。触れるというか、ギター並みにジャカジャカ鳴ったのだ。
見たこともないほどたくさんのお菓子がテーブルに載っているのだろうとワクワクして、ソワソワと体を揺らしちゃう。
「あたちのために………クーコたちには後でお土産を持って帰るのでしゅ」
命をかけてお母さまの眷属たちの足止めをしてくれた3人に感謝の念を送る。お土産はなにが良いかなぁと、早くもお菓子に心は向かって幼女は窓の外を見る。
基地の外にいる悪魔に車で送ってくれるよう頼んで、今は車内だ。だが、それも新築の巨大なマンションの前で停止した。
「メイ様、ランピーチマンションに到着しました。しかし、ここにはなんの用なんですか? フォローするための部下は必要でしょうか?」
運転手さんは、仮想のメイ、即ち大人の女性に話しかけている。メイが使っている遠隔自動の未来のメイだ。受肉はしていないけど、誰も疑問に思わないので問題ない。
「ありがとさんでしゅ」
なのでおしゃべりをしている運転手さんにお礼をいうと車から降りる。到着できるのはわかっていた。なぜならば『すいーつばいきんぐの会場に到着する運命』の糸を選んだからだ。
メイの望む物は必ず手に入る。それが無敵たり得るメイの能力、運命の糸を選択できることなのだから。そして、今一番の目的はすいーつばいきんぐだ。
ぽてぽてと歩いて、ランピーチマンションを見て、少し不安顔になる。それは本来のメイの能力での力が届かなかったからだ。
「本当は『すいーつばいきんぐを楽しむ運命』を選ぶつもりだったのに、会場に到着するまでしか運命の糸がなかったのでしゅよね………」
運命の糸はこの会場前で途切れていた。無限の運命が存在するはずだったのに、まるで見えない壁があるように運命の糸は断ち切れており、メイの望む運命を選ぶことができなかったのだ。
こんなことは初めてなので不安に思って、こっそりと入口を窺う。入口では可愛らしいうさぎがタキシードを着て立っていた。
「すいーつばいきんぐの招待状を拝見するうさ〜、はい、オーケー」
中に入る人は何やら手紙をうさぎさんたちに見せて入っている。いや、手紙ではない。招待状だ!
「あわわ。大変でしゅ。招待状必要だったんでしゅか。持ってない………」
オロオロしちゃう幼女。見ている間にもマンションに招待状を持った人たちが続々と入っていき、お菓子がなくなっちゃうかもと悲しくなってしまう。
いつもなら、招待状を手に入れられる運命を選ぶのに、その運命がないのだ。なので、メイはしょんぼりしながら、観察することにした。
「なにか用うさ?」
うさぎさんの隣にちょこんと座って観察してます。なので、うさぎさんが鼻をスンスン鳴らして心配げに見てくるので、クスンと涙目で口を開く。
「招待状がないのでしゅ。どこに行ったら招待状はもらえましゅか?」
「招待状持ってないうさ?」
「持ってないうさでしゅ」
「それは残念うさね」
そっとうさぎさんの足を摘むと、毛皮のもふもふさに顔を緩めてしまう。とっても柔らかで、安心するような体温。むぎゅうと抱きしめて、体育座りのポーズ。でも、ヘチマのスポンジのごとき意思の固さをみせて、入場者へと意識を向ける。
「ねぇねぇ、スイーツバイキングってなぁにお父さん?」
「お菓子がたっくさん食べられる祭りらしいぞ〜」
「見たことのないお菓子が出るらしいよ」
皆は期待に顔を輝かせて、はしゃいだ声で中に入っていく。その声に、中に入れない自分を顧みて、ますます悲しくなって、目元からポタリポタリと涙が落ちていく。
「あの時、なんとかさんにすいーつばいきんぐに招待してって、お願いすれば良かったでしゅ」
人相の悪いおじさんになんでお願いしなかったのだろうと、自分の迂闊さにがっかりだ。じ~っと入場者たちを見つめるけど、皆はこれから食べることのできるお菓子を夢想して、まったくメイには顔を向けなかった。
このまま、あたちはすいーつばいきんぐを眺めるだけに終わるのかな、お菓子が載ってるテーブルだけでも見れないかなと、ますます哀しくなるが━━━。運命を超えて、メイは出会うことになる。
「どうちまちたか? なかにはいらないの?」
自分と変わらない年頃の少女の声が聞こえてきて、俯いていた顔を上げる。
目の前には自分よりも少し背丈の低い可愛らしい幼女が立っていた。髪をサイドテールにリボンでまとめて、ぱっちりおめめが心配げにメイを見ている。一張羅なんだろう新品のワンピースを着て、肩にかけたポシェットにはうさぎさんのパッチワークが刺繍されている。
「んと………すいーつばいきんぐに来たんでしゅけど、招待状を持っていないのでしゅ」
「そうでちたか。うーんと、うーんと、コウメのしょーたいじょーは、おともだちもはいれゅの。いっしょにはいりゅ?」
迷った素振りでポシェットからカードを取り出す幼女を前に、メイは目を輝かすが、すぐに落ち込む。
「あたち、おともだちじゃないでしゅ………」
おともだちではないから、招待状でいっしょに入れない。そのことに思い至ってがっかりするメイだが、目の前の幼女はニパッと笑って、ちいさなおててを差し出してきた。
「それじゃあ、いまからおともだち! コウメのなまえはコウメ・コーザでしゅ。あなたのおなまえは?」
「あたちの名前はメイでしゅ。おともだち?」
コテリと首を傾げるメイにコウメはこくこくと頷く。
「うん、おともだち! それならいっしょにはいれるよね! はいろー」
「おともだち! あたちのおともだち。初めてのおともだちでしゅでしゅ! ありがとうでしゅ!」
コウメのおててを握って立ち上がり、さっきまで泣いてたカラスが、ピヨピヨと嬉しい鳴き声をあげちゃう。
同年代のおともだちは初めてなのだ。しかも、すいーつばいきんぐに誘ってくれる良い子だ。
「本当におともだち? すいーつばいきんぐに誘ってくれるのでしゅか?」
「うん! いっしょにたくさんすいーつたべよー!」
「食べましゅ! お菓子!」
「うん、おかし!」
メイとコウメはしっかりとおててを繋ぐと満面の笑みでランピーチマンションに入るのであった。
ここにメイはしんゆーと出会うことができたのだ!
テテテと二人仲良く中に入っていくのを見ながらうさぎはコテリと小首を傾げる。
「メイって人は中に入れるようにと言われていたような………でも、コウメと中に入っていったから別に気にしなくて良いうさね」
適当極まるうさぎは親分に言われたことをすっかりと忘れていたが気にするのは止めて、フワァと欠伸をするのであった。
◇
「すいーつばいきんぐ、すいーつばいきんぐ」
「すいーつばいきんぐ、すいーつばいきんぐ」
ルンルンと鼻歌を歌いながら、二人の幼女は仲良く歩き、周りに癒やしを与えながら目的地の食堂に向かう。
「たくさん人がいるけど、大丈夫でしゅかね? あたちたちの分がなくならないかなぁ」
心配しちゃうメイだ。なぜなら大勢の人々が廊下を歩いているからである。
「うーんと、パパしゃんはたくさんよーいしゅるからだいじょーぶっていってたよ」
顎に人差し指をつけると、うーんと迷いながらコウメはパパしゃんの話していた内容を思い出す。
「でも、たくさんお客さんいまつよ?」
メイの想像だと、一つのテーブルにお菓子が置いてあるのだ。皆が食べたら1個ずつになるだろう。せめて3個は食べたい欲張りメイなのだ。
「それじゃあ、はしろー。かいじょーはすぐさきでしゅ」
「うん! 急ごー!」
おててを繋いで走り出し、大人の人たちの間をすり抜ける。メイたちが走ったことに釣られて、他の子供たちも駆け出しちゃう。
負けないぞと、フンスと気合を入れて、二人は食堂に入って━━━。
そこには楽園があった!
テーブルがずらりと並べられて、その上にはお皿代わりのウエハースが敷き詰められて、バームクーヘンやクッキーの上に様々なケーキやドーナツ、どら焼きや羊羹、キャンディにマカロンがジオラマのように森や山を模して、載せられていた。
「はわわわわ。な、なんでしゅか!?」
「ジュースのいけがありゅよ。あれはチョコレートのたき?」
「かき氷の山脈にアイスも載ってましゅ。ま、まぶちー!」
メイは眩いばかりのお菓子の楽園前に、わなわなと震えちゃう。予想の千倍しゅごい!
アワアワと慌てて混乱すると、メイは踊りを踊っちゃう。身体をくねくね、お尻をゆらゆら、幼女ダンスだ、それを見て面白そうと、コウメもダンスを踊っちゃう。
可愛らしい幼女ズの終わらないダンス。だが、そこに野太い男の声がかけられる。受付の人らしく歓迎してくれる。
「新しいお客様だな。ようこそ、お客様。このお皿に載せていくらでも食べてくれ。ジュースはそこのグラスを使ってくれよ」
どこかで見た覚えがある小悪党面の男だが、メイはそれどころではない。こんなお菓子の世界があるとは想像もしなかった。
「いくらでも食べてよいのでしゅでしゅ?」
震えるお手々でお皿とトングを受け取りながら小悪党さんに話しかける。
「もちろんだ。あ、でも特別コースはクイズをクリアしないといけないんだよなぁ。特別コースは特別なお菓子を食べることができるんだ。コロネスライムやチョコーレムとかがあるんだよなぁ」
困った顔の小悪党さんの言葉に、こんな楽園にさらに上があることに興奮しちゃう。
「クイズでしゅか? あたちは頭良いから答えることができましゅよ」
「パパしゃん。コウメも、コウメもこたえりゅ!」
興奮仕切りの幼女たちを前に小悪党さんは重々しく頷くと、真剣な顔となりクイズを口にする。
「では、コウメにクイズだ。いつも寝ているうさぎの名前は? 難しいぞ〜」
「ん~と、ん~と。ミミしゃん!」
「ピンポーン! コウメは正解だ。はい、ウルトラスイーツカードをプレゼント」
「わ~い! やりまちた。コウメはせいかいしまちた!」
飛び跳ねて喜ぶコウメ。メイはおともだちが正解したので、自分も正解するぞと気合を入れる。
「では、メイにクイズだ。ウァプラの完全復活の鍵はどこにあるかな?」
「ふふふ、そんなの簡単でしゅ! 最後のキーカードはあたちが持ってましゅ! これでしゅよ!」
この間、お母さまに任されたお仕事だ。ウァプラの充電率が90%を超えたら東光に渡す予定。
むふーと、キーカードを取り出して、これだよと見せつける。
「おー。それはすごい。それじゃあ、ウルトラスイーツカードと交換で良いかな?」
「もちろんでしゅ。交換しましゅ!」
小悪党さんの差し出すウルトラスイーツカードとキーカードを交換する。なにか忘れている気もするが、すいーつの方が大事なので、幼女は気にしないのだ。
「メイしゃん、おかしをたべにいこ〜」
「うん! 行くでしゅ!」
そうしてメイはコウメとともに、満面の笑みで楽園へと足を踏み入れるのであった。




