149話 展望ラウンジと小悪党
パウダーオブエレメントの主人公たちの話をしよう。
パウダーオブエレメントは、無限に発生する多岐にわたるクエストやストーリーの攻略の仕方で、様々な勢力や街の様子が変わるゲームであった。そして、その中でオリジナル主人公たちは7人。それぞれ、異なる背景を持つ主人公たちだった。
一人は氷のドライ。スラム街出身で成り上がりを求める一番自由度が高いが、初期資金や人脈などがゼロであり、そのためクエストなどは頭を使った攻略が難しい、脳筋プレイとなる主人公だ。ただひたすら敵を倒していけば、いつのまにか周りに敵はいなくなりクリアとなるわけ。このゲームに慣れていないプレイヤーに優しいキャラである。
次に土のガイ。農村出身で一応初期の教育は持っているため、ドライよりはマシなストーリーの進め方ができる。スラム街出身だと色々と立ち入れない場所にも入れるし、こいつも自由度が高い上に、特性が防御よりなので死ににくく、初心者向けだ。
その次が風のクリシュナ。ようやくと言って良いか分からないが、こいつから地上街区出身となる。地上街区出身者は資金も人脈もあり、装備も整えやすい。クリシュナは学園内でのストーリーが大半を占める、平民成り上がり学園編の主人公だ。実は俺強くてという、よくある弱いふりをして実は強いというムーブを楽しみたい人におすすめだ。
さらに学園編で楽しみたい人は、雷の鎧塚東光を選ぶと良いだろう。彼は最初から強く、スキルも優遇されている上に、武装家門の嫡男であるので資金も豊富、人脈もあり、仲間もタイプの違う少女ばかりという、無双を楽しみたい一番優遇されているイージーモードな主人公だ。
ただ、学園編の二人は自由度が低い。授業に出ないと退学エンドだし、連泊してダンジョンに潜るとかもできない。縛りがとても厳しいのである。
光の主人公は企業を経営し、勢力を伸ばせる黒幕経営者プレイが可能で、闇の主人公は地下街出身のために、他の主人公たちとはまったく違う裏技的な行動を取れる。まぁ、やったことないんだけど。光の主人公は戦闘がほとんどないと聞いていたので、後回しにしてたんだよな。闇の主人公はあり得ない行動を取れるらしいから、最後のとっておきとして、わざとやらなかった。
━━━そして、最後が生産職プレイを楽しめる主人公。炎の小野寺バッカス。小野寺家の当主なので、溢れんばかりの資金と、多様な人脈をもっているのだ。彼は主に理想の武器を作るためのストーリーとなり、オリジナルの武器が作れるので、カスタマイズにはまり面白い。
俺が会わなければならない小野寺家の当主であるおっさんドワーフだ。平民はもちろんのこと、企業でも大企業の社長とかでないと、アポイントメントも取れない大金持ちで権力もある主人公だ。
◇
コロニー内で一般開放されたのはターミナル。そして、原則スタッフオンリーが農園地帯である。ターミナルは窓の外に広がる星の光が絵画のように光っている宇宙を観覧できて、味噌汁に入れるためのような細かく立方体に切られた不可思議な地球が目に入る。
ターミナルに来訪する人たちは、だいたいが展望ラウンジにやってくる。目を輝かせて、地上街区では味わえない天然物を素材とした料理に舌鼓を打ち、観光旅行をする。なにせターミナルは宇宙港なだけあってかなり広く、ホテルもあるのだ。
そして、農園地区の見学者コースを辿り、魔物の恐れなく、せせらぎが涼しい川の音が聞こえる川辺でバーベキューをして、釣りを楽しみ、水遊びをして、地上街区では味わえない、この世界では一部の家門しか行けないはずの旅行を楽しむのであった。
今は口コミでぼちぼちしか旅行客はいないが、もう少ししたら入場制限が必要になるかもしれない。
「見てよ、あなた。あの漆黒の宇宙を。こんな光景が見れるようになる時代が来るなんてねぇ」
「遂に地下街区が地上に手を伸ばしはじめたという、良い宣伝だな。勢力分布が大きく変わるぞ。激動の時代となるな」
「ハンターを大量に雇わないといけませんわね。エレメタルが新たなる通貨になると思いますよ?」
「私のところは既に凄腕をハンターギルドに送り込んでおります。いやはや、大変なことになりましたな」
「安心格安確実に依頼を達成する今日は経営コンサルタントの銀河を跨ぐバウンティハンターを雇うと良いと思います」
既に目端の利くものたちは動いており、展望ラウンジの卓につき、優雅に料理を楽しんでいた。会話の中身は、これからの地上街区の在りようについてだ。約1名、料理皿をどこまで積めるかチャレンジしているけどな。
その中にランピーチもいた。真っ白なテーブルクロスが敷かれているテーブルにつき、優雅にハンバーガーを食べている。
メンバーはチヒロ、ライブラ、灯花、ノノ、セイジだ。ドライはイチゴ食べ放題ツアーに参加しているし、相変わらず真奈は忙しいのか姿を見せない。ミラはもしかしたらどこかにいるかもな。コウメはミミを手で引っ張って、展望ラウンジを走り回っている。
よちよちと店員うさぎがトレイに料理を乗せて危なかっしい歩みで歩いてくる。
「お子様ランチ4つと、コーヒーとケーキセットでうさ。2時間制となってはいないので、ゆっくりお過ごしくださいうさよ」
最近流行りの2時間制じゃないよと、微妙に世知辛いことを口にして、テーブルに料理を乗せていって、ペコリと可愛く頭を下げる店員うさぎ。そして、ランピーチの足にしがみつくと、よじよじ登って膝の上に乗る。ケーキセットに鼻をつけて、スンスンと鳴らすと、つぶらな赤い瞳を上目遣いにランピーチに向けてくるので、狡猾なところがあるうさぎだ。
ため息混じりにケーキを渡すと、生クリームに鼻を突っ込んで、もぐもぐと食べ始めるうさぎの頭を撫でながら、ハンバーガーをつつく。
「本格的なハンバーガーって、こうやって一品料理になるんだなぁ。手掴みしか食べたことなかったから、初めての経験だ。美味しいもんなんだな」
お皿に乗せられたハンバーガーは、手のひらよりもふた周りは大きいバンズに、ハンバーグステーキのように分厚いハンバーグとパイナップル、ピクルスとチーズ、玉ねぎスライスがのっている上に、ホワイトソースが掛けられて、フォークとナイフで食べるタイプだ。食べ甲斐があって美味い。
「上品な料理として食べられるんですね。ガドクリーハンバーガーとは味が違います」
感心しつつ、お子様ランチのハンバーグにぱくつくと、幸せそうに顔をとろけさせるチヒロ。こんなに美味しいものは初めて食べましたと、手が止まらない。
「ガドクリー製品と比べたら駄目だと思うなぁ。このお子様ランチって、色々乗ってて美味しいね。何から食べようかなぁ」
お子様ランチに手を付けずに、腕組みをしてどれから食べようか迷うライブラに、エビフライを口に放り込んで、窓の外を見て目を輝かす灯花。彼女は宇宙があれば料理はガドクリーでも美味しく食べそうだ。
「ここはエビフライからじゃないかなぁ。あ、プリンからという手もあるね。宇宙を見ながら、サイコーだよ」
「ここのラウンジの料理って、全部天然物なんですね。うう~ん、やはりお子様ランチ一択になるわ、義兄さん。でも、ハンバーグもエビフライも一品の方が多いし美味しそう」
メニュー表とにらめっこをしながら、やっぱりハンバーグステーキセットの方が良かったかなと、お子様ランチだとそれぞれの料理が小さいので迷うノノだ。周りのお客が食べている料理をチラチラと見て、う~んと唸っていた。
「これだけの料理を用意できるのは、ここぐらいだと思います。エレが使えないのが難点ですが。エレの通貨危機が起きなければと懸念しています」
セイジだけはコーヒーだけを飲み、香りを嗅いで満足そうに口に運び、手慣れているふうにゆったりと寛いでいる。話し合いをしたいと告げたので遠慮をしているのか、話し合いには料理は邪魔だと思っているのかはわからない。
「通貨危機は起こらない。なぜならばエレメタルが広がっても大金は扱わないだろうしな。俺以外はと注釈はつくけど」
なんと言っても、エレメタルを手に入れるにはハンターギルドでクエストをクリアして手に入れるしか方法はない。俺はコロニー運営の利益という名目でエレメタルがコロニーから支払われているけど、他ではガイが月給をもらっているくらいだ。
各企業はハンターとして代理人を送ってエレメタルを手に入れようとしているが、人海戦術を使っても、大金を手に入れるのにはしばらくは時間がかかるだろう。抜け道としては、精霊石や魔素の素材をエレメタルでの買い取りとかを求めてくることだけど、そんなことをしたらエレの価値が無いと証明するようなものなので、企業は絶対にしなかった。
「そうかもしれません。きっとエレメタルが一般で使われるようになるには、数十年の歳月が必要となるでしょう」
たしかにランピーチの言うとおりだろうと、セイジは一部ではその意見に賛成だ。だが、それは前提条件が今のまま変わらなければのことだ。地下街区が一歩踏み込み、エレメタルの大金を地上街区に流せば、エレの価値はすぐに暴落する。その可能性が高いことは否定できず、セイジのところにはなんとかエレをエレメタルと交換できないかと、水面下で交渉を持ちかけている企業が何社もいた。
だが、今はそのことを考えても仕方ない。セイジとしては、エレメタルが共通通貨になる可能性を考慮して、前準備をしっかりとしておくだけだ。
「で、少し用事があって、小野寺当主にあいたいんだけど、良いアイデアない?」
「ランピーチさんは、小野寺家の当主とアポイントメントをとりたいと言うことでしょうか?」
コーヒーカップを置いて尋ねると、ハンバーガーをバラバラに分解して、顔をしかめさせながらランピーチは頷く。
「自然な形で会いたいんだが、方法はあるかね? わざわざアポイントメントを取って目立ちたくないんだけど。なにかあると邪推されるからな」
「そうですね………正直、今のランピーチさんならアポイントメントは簡単に取れるでしょうが、こちらから動くとなにか思惑があると思われるでしょう。とすると、どこかのパーティーで知り合いになるのが良いかと」
「パーティーで自然にねぇ………そういや、パーティー好きな知り合いがいたな」
ランピーチはセイジの言葉に胡乱げに、知り合いを思い出して面倒くさそうなことになりそうだと嘆息するのであった。
「おかわりしていいうさ?」
いつの間にか、ランピーチの膝の上には何羽ものうさぎが乗ってたりもした。鼻に生クリームがついてるぞ。




