148話 崩壊する神殿と小悪党
神殿はなにもしていないのに自爆機能が働いています。意味がわかりません。悪魔たちを倒したと思ったら、ほぼ同時に地震が発生したのだ。
壮大な祭壇はヒビが入り割れてきて、天井から壊れた岩塊が落ちてくる。足元は激しく揺れて、人を超えし体術を持たなければ立つのも難しい。
「なんで自爆機能が働いてるんだよ! 精霊王、精霊王たちはどこに? あの弱すぎる悪魔たちはもしかしてブービートラップ? わざと倒される存在だった!?」
舌を噛みそうな揺れに、驚異的なバランスを見せて耐えるランピーチは、理由がわからないと絶叫する。
「あの悪魔たちはチート行為があったからこそ強かったんです。無敵の身体と即死攻撃のコンボ。ダメージを負うことを恐れずに攻撃してれば、どんな敵でもいつかは攻撃が掠るはずですからね」
納得の答えだ。FPSでも、安易に無敵コードを使うチート野郎は腕が悪い。チート行為の中でも垢バン上等な子供のようにはしゃぐだけの奴らだからだ。
「あ〜、チート行為に慣れた奴って、だいたいそんな奴らばかりだよな。で、救ってくれてありがとうと、厳かに俺に褒美をくれる精霊王たちはどこかな? 多くの場合、美少女に人化すると思うんだけど?」
鎖から解き放たれて、閃光とともに美少女に変わるのだ。のじゃロリとか、ボンキュボンの艶めかしい美女とか。そんなイベントはいずこ?
「プーさん………自分の顔を見てください。そんなハーレム主人公のようなことが本当にあると思ってるのですか?」
本心から憐れみを送ってくるミラさんの言葉が鋭いナイフのように痛いよ?
「小悪党だもんね、ソルジャーは」
ライブラよ、付け加えなくてよろしい。わかってるから!
「本当のことを言うと、あの精霊王は概念を固めたような偶像だったんです。宇宙に散らばるエネルギーを一つに固めて太陽にしたようなもので、その存在が熱を生み出し周りに影響を与えるといった感じです。この場合は精霊力を撒き散らし、狂いし精霊を延々と作り出して世界を構成するエレメントストリームを歪めていたということなんです」
もしかしてと、顔を引き攣らせるランピーチに、最後の決定的なセリフを投げてくるミラ。
「封印が解けたので、精霊王という個体は気体に変わり世界を構成するエレメントストリームに戻りました。おめでとうございます、これで世界を元に戻す鍵を二つ解放しました。なので精霊王からの報酬なんかありません」
あぁ、そういうことだったんだ……えっと、解放される前の僅かな時間を使って精霊王が報酬をくれるイベントとか、後は頼んだぞ、定命の者よとか、そういうありがちな美味しいイベントは……ないんですね、わかります。これも俺が小悪党だからかな?
膝をついて落ち込みそうになるが、世界は小悪党に厳しかった。いよいよ天井から細かい砂も落ちてきて、崩壊一歩手前と言う感じだ。ランピーチ難易度は報酬も厳しい。
「ぬぐぐぐ、仕方ない、逃げるんだよぉ〜! その影の少女がこっそりと回収しているのは、脱出してから山分けだ!」
祭壇の上でちょこまか動いて、精霊王のいた場所に落ちてる何かを回収している影幼女の存在は気づいてるんだからな!
とはいえ、ここで話す時間も惜しいので、アスリートのように綺麗なフォームで手足を振ってダッシュする。
「幼女たちから宝物を奪おうなんて非道すぎると思いませんか? シクシク泣いちゃいますよ?」
「小悪党なんで思いませーん。ほら、逃げるぞ!」
泣き真似をするミラを放置し、勢いよく駆け出す。もはやこの神殿に用はない。宝は手に入らなかったが、経験値が入っただけでも良しとしよう。ここまで来るのに結構時間がかかった。早くしないと生き埋めエンドはゴメンである。
ゴゴゴと天井が崩れてくる。音速の世界を走るランピーチでも、命の危機に冷や汗が流れて気が急く。
「あれだけの兵士の血を吸ってきた神殿悪魔をあれだけあっさりと倒せるとは………。私たちはどうやら最初の賭けに勝ったようです。これからは私たちのターンとなることを悪魔に思い知らせてやりましょう。ふふふ、大黒字確定です」
祭壇を見て、遠く懐かしい目をして、すぐに金貨の袋を目に宿し、ミラもランピーチを追いかけて駆け出すのだった。
◇
「ゴールッ! あ、あっぶねー!!! ぐへっ」
コロニーのテレポートポータルからランピーチはスライディングで飛び出すと勢い余って、コントのように床を滑って壁に激突した。オチまで完璧な男、それがランピーチだ。
「危ないところでした。もう少しで……あ、アイテムヲカイシュウシタフクロヲオトシタヨウデス」
「もうエイプリルフールはとっくに過ぎたよ」
カクカクとブリキ人形のように下手な演技をするミラへとジト目を向けつつ、融合を解除する。
「ふぅ、私がいなかったらソルジャーは死んでたよね? やっぱり私がいないと駄目駄目なんだから」
とっても嬉しそうに、実際嬉しいのだろう、口元をニマニマと笑みにして、ミラがランピーチの肩によりかかる。
苦労をした割には、あまり実入りのないダンジョンだったと、嘆息しながらミラを後ろから抱きつき持ち上げる。
「きゃー! ストーカーが遂に接触してきました! お触り厳禁、ノータッチ!」
無視して、足を掴むと逆さにして振る。するとミラの亜空間ポーチから、ジャラジャラと精霊晶石やら、弓やら斧、指輪や鎧が落ちてきて山を作る。
隠すこともできたのにノリの良い娘である。
「コントはもう疲れたから今度にしようぜ。あの悪魔たちは弱かったけど、それでもドロップアイテムは一級品だったようだな」
悪魔の持っていた武器の一つを手にする。レラジェの持っていた弓だ。腐る呪いは解けているようで、生命力溢れた木の弓に変わっている。
「世界樹の弓ですね。持っているだけで、毎秒で体力が回復していきます」
「なるほどな。それじゃ弓の得意なヒロインに太っ腹であげるよ」
「きゅー」
足元にいつの間にかいるうさぎに手渡すと、今度は斧を手に取る。
「砂塵の斧だよ、ソルジャー。土を操る効果がある斧さ」
「そうかそうか。それじゃ、斧が得意なヒロインにやるよ」
「きゅきゅー」
太っ腹なので、またもやうさぎに上げるランピーチ。その姿は最強主人公が手に入れた伝説のアイテムを惜しげもなくハーレムにあげるシーンのようだ。
「やったうさ! この枝美味しいうさ?」
世界樹の弓をカリカリとかじり始めるうさぎさん。うさぎは齧れるものがあると齧っちゃうのだ。
「この斧重いよぉ。ダンベル代わりにするうさ?」
早くも斧に飽きて捨てるうさぎさん。とても重くて持てないらしい。
そして、ランピーチはガクリと膝をついて号泣する。
「なんだよ、もぉ~! せっかくクリアしたのに使えない武器ばっかじゃん! ランピーチ難易度酷くね? 確かにこういうドロップあるけどさぁ。自分の使えるアイテムが一切ドロップしないボス戦。やり直しプリーズ!」
現実に顔を向けて、運営にクレームを入れなければと、トドのように転がる小悪党である。悔しくて悔しくて今日は寝れないよ。
「ん〜、弓はともかくとして、斧は小野寺家に渡せば? ほら、次の神殿の鍵と交換で。たぶん保管してるよね?」
「え?」
「え?」
顎に人差し指を添えて提案するライブラを二人は凝視してしまう。ランピーチとミラの凝視を受けてたじろぐライブラ。
「な、なにさ? だってその斧は強力なんでしょ? それなら当然の帰結だと思うけど?」
「いや、そうなんだけど……なぁ、ミラ?」
「その通りですね、でも………」
二人は、顔を見合わせて同じことを思った。
「ライブラが建設的な提案をするとは思わなかった」
「知能は乳能に変換されていると思ってました」
まさかのサポートキャラっぽいライブラにおふざけなく、真剣に驚くランピーチとミラであった。
「うわ~ん! 私だって普通に『宇宙図書館』からの支援を受けることができるんだからね! あまりばかにすると怒るよ!」
プンスカと両手を振り回し涙目となるライブラに、ゴメンゴメンと謝ることになったが━━。
「おおっ!? これは?」
テレポートポータルから流れ込む精霊力が精霊の篭手に引き寄せられるように吸収されていく。どうやら、イベントはまだ残っていたらしい。
『精霊の篭手:筋力と同等の攻撃力を持つ。付与効果として筋力を4倍にする』
確かにエレメントストリームを正常化させると精霊の篭手はパワーアップしたけど、2倍から4倍にアップか。しかもこの篭手は支援魔法で向上する筋力も攻撃力に換算されるから、支援と神霊融合を使った時は、一気に千越えの攻撃力となった。ヘイズもかなりのものだが、精霊の篭手も頼れる武器だな。
「これで装備の方はしばらくは更新しなくても大丈夫そうだな。そして、うさぎたちよ。アクセサリーはあげるとは言ってないぞ」
「バレちゃったうさ。でも、このピカピカきれいうさよ。ちょーだい?」
つぶらな赤い瞳をうるうるさせて、上目遣いに小さなもふもふおててに乗せた宝石をお強請りしてくる。たしかに綺麗なエメラルドだ。とっても強い精霊力を感じるし、欲しがるのも無理はない。
「それを手に入れろって、どこかの黒髪美少女に言われなかったかな? 報酬の人参を倍出そうかなぁ」
「さ、ごほ、百本貰える約束だったうさ! 二百本ちょーだい? 犯人はミラうさ」
「欲張りすぎだろ!」
「うさもこの布切れを貰ってこいって、言われたうさ。二百本ちょーだい?」
「この小石も欲しいって言ってたうさ。二百本ちょーだい?」
「えと、えと、うさはとにかく人参ちょーだい?」
わらわらと集まってきて、依頼を捏造する強欲うさぎたち。そこら辺に転がってる布とか小石を持ってきても説得力ゼロだぜ。最後なんか、ただのお強請りじゃねーか!
人参という言葉が、うさぎたちの心の琴線に触れたらしい。うさもうさもと、集まってきて、ランピーチはもふもふに埋もれてしまうのであった。




