146話 神殿奥と小悪党
神殿奥にある黄金の扉。見上げないと全体像がわからないほど巨大で、全て金で作られている上に、精緻な意匠が彫られている、立派な扉というよりも、いかにもこの先は強ボスが待ってますよという嫌な予感しかしない扉である。
「なぁ、この先は危険な匂いがプンプンしないか?」
「お宝の匂いならプンプンします。ここは半々で山分けというところで手を打ちましょう」
「ナチュラルに私を外さないでよ、ミラ! この鬼、小悪魔、強欲の精霊!」
うわ~んと泣き叫ぶライブラちゃんに、ミラさんがやれやれと肩をすくめて、ポンポンとライブラちゃんの肩を叩く。
「何を言ってるんですか。ライブラの分はちゃんと貯金しています。必要なときにいつでも下ろせるようにと、私が管理しているので、なにか必要なものがありましたら、遠慮なく希望してくださいね」
「そうだったんだ! ごめんね、勘違いしてたや」
「私はなぜか勘違いされやすいので大丈夫です。おろす時は申請理由を書いた申請書を出してください」
天使かと、思うような優しさで笑顔で告げるミラ。その笑顔にライブラがエヘヘと笑い泣き止むが、ランピーチにはわかる。申請書に色々と難癖つけて、許可をしないだろう未来が。なぜならば、ミラの影がコウモリの翼を生やして、ニタリと笑っているからだ!
と、アホなトリオの漫才にて、肩の力を抜いてランピーチは腕組みをして呼気を整える。ふざけるのはここまでだ。
「神殿にしては建築方法が近代的に見えるけど理由はあるのかな?」
「呪術的な様相を整えるために、わざとこのような神殿風にしてるのです。なぜならば━━━」
ミラが扉に手を添えると、重機でもないと開かないような扉が開き始めていく。
「なにかを封印するには、このような神聖な神殿が概念的なパワーを使うのに相性が良かったのです」
━━━そして、扉の先に広がる古代の生贄を捧げそうな禍々しい祭壇には、強力な精霊力を宿した巨人が2体、鎖に雁字搦めとされて、封印されていた。
◇
「これは?」
巨人がなにかは本能で分かった。風の精霊と土の精霊だ。一人は身体が半透明で、微風を常に身体に纏わせている。もう一人は岩の表皮をしており、人型に削った岩というべきイメージを与えてくる。
「あれは悪魔の封印に掛けられた風の精霊王ジンと土の精霊王タイタンです。彼らが封印されたために、世界のエレメタルストリームは大きくねじ曲がり、精霊たちは受肉をし、轢き潰されて粉へと変えられてしまったんです」
おふざけなしで真剣な顔のミラが語る。それは古代に行われた禁忌の技であったのだろう。過去の出来事を苦痛の記憶と共に言葉として吐き出しているようだった。
「大昔の世界崩壊の精霊戦争の原因の一つってやつか」
「へぇ~、そうだったんだ。それじゃ、あの2体を解放すれば世界は元通りになるの?」
そして感心するのはいいんだけどさ、なんでライブラはミラと違って記憶がないの?
「そうはいかないだろ。世界を構成する元素精霊は7人いる。あの2体を解放しても元通りとはいかないんだろ?」
ゲーマーなら当然の展開だよなと、口端を吊り上げて、少し得意げなランピーチがドヤりたいのを我慢して、平然とした顔で言う。
「世界を構成する元素は192種類ありますけどね」
以前の地球と違って元素は多いらしい。そして恥ずかしいから真面目な顔でツッコミを入れないでほしい。
「元素はファンタジーらしく7個で良いじゃん。もしかして192体も精霊王が封印されてるとか言わないよな? そんなに解放していくの、俺やだよ?」
嫌そうな顔のランピーチを見て、ミラは口元に手を当てるとクスリと悪戯そうに笑う。
「この技術を使った相手も同じことを考えたようで、世界を構成する概念を雑に7つに分けました。今ならばそんなことをさせないのですが、以前のこちらの技術は劣っており、防ぐことが叶わなかったのです」
なるほどねぇと、ピラミッド型の祭壇を見上げて嘆息する。その雑な概念を作った相手が誰なのか理解したのだ。
「コングロマリットのハーケーングループが行ったということなのか。それが真実なのかはそこに隠れている二人に聞こうか。コソコソと隠れていても、気配が禍々しすぎるんだよ、悪魔野郎」
祭壇の鎖で封印されている精霊王たちへと指差すと━━━。
「くくくく、卑賤なる人間の身で我らに気づくとはな」
「ガハハハ、卑賤なる人間の身で儂らに気づくとはな」
エルフのように耳が笹のように伸びた狩人のような服を着た男が一人。上品そうな笑いの中に傲慢さを隠しもせずに見せつけて現れる。
もう一人は樽のような身体に、短足の矮躯の男だ。手足が丸太のように太く、力強さを見せており、顔は髭モジャでやはり耳が尖っていた。
「エルフとドワーフか? いや、その体に纏わりつく魔気はエルフやドワーフのものじゃないな」
ランピーチはヘイズを向けて、白けた目を向ける。その顔を見て、二人はわずかに不愉快そうな表情へと変えるが、すぐに余裕の笑みを浮かべてみせる。
「その通り、私は高貴なるエルフから悪魔に進化せし、7人の悪魔の一人レラジェ」
まるで貴族のように恭しく、上品な所作で頭を下げて見せるレラジェ。上品な所作なのに、傲慢さを見せるので、エルフの美しさを帳消しにしている。
「儂の名は7人の悪魔の一人グシオン。ドワーフたる儂の武器は作り出すもの。その技術の冴えを見せてやろうぞ」
二人の悪魔は名乗りをあげて、こちらを祭壇の上から睥睨してくる。吹き出す瘴気は腐ったヘドロよりも臭く、そして禍々しい。
「7人の精霊王を封印する悪魔も7人か。なるほどねぇ。地上に残った人間たちはハーケーンの生き残りか」
ピンと来てしまう。だって元は武装家門は7つ。その中でエルフとドワーフがいたもんな。あまりにもその数は合いすぎる。
「まぁ、そんなのは遥か昔の話だから悪魔を出した一族だとか関係ない。お前たちを倒すだけだ」
「くくくく、ハハハ、これは可笑しいことを暫くぶりに聞いた。耳を洗った方が良いかなグシオン?」
「ガハハハ。そう笑ってやるな、レラジェ。あの貧相な小悪党の顔を見ればわかる。既に1200年の時を経て、この研究所の意味は忘れられたのだろう。外の世界は崩壊し生きるのに精一杯か? どうせここにも盗掘をしにでもきたのであろう?」
大笑いする二人に憮然となるランピーチ。小悪党スキル大活躍で、全然嬉しくない。
「教えてやろう。遥か昔、ここは戦場であった。たとえ無限に召喚できる精霊がいても、人類側も強力な兵士を持っている。儂とレラジェだけで最終防衛線を守りきれると思うか?」
「ゲームならあり得るな。魔王とか勇者パーティーだけで攻めるもんだし」
とても真剣なる返答をするランピーチ。
「………い、いや、ゲームではないのだ。軍で攻めるのが妥当だろう?」
コヤツアホかとグシオンがドン引きして後退るが、それでも久しぶりの話し相手なのか、めげないで話を続ける。
「多くの兵士がやってきた。儂らを殺し、精霊王を解放せんと」
両手を掲げて、グシオンが恍惚の顔となり、レラジェが話を引き取り、クールに笑う。
「全ての敵は我らに傷一つ与えることなく死んでいった。その戦いは退屈でもあった。いかなる魔法も、武器も我らには届かなかったために」
ミュージカルのように語る二人に違和感を覚えてしまう。そこまで強いとは感じないからだ。少なくとも最高レベルの武装を持つコロニー側の兵士たち相手に傷一つないとかあり得ないと思うので、平然とした顔を維持しながら、ミラへと思念を送る。
『なぁ、コロニー側も強力な武器を持っていたんだろ? 傷一つないって、本当なのか?』
『彼らは悪魔なのです、プーさん。その意味がわかりますか? 彼らは不滅。そして、この部屋には不滅を増幅させる効果が増やされています。傷を負わなかった、命を失うことはなかったと、都合の良い運命を選択して不滅を維持してるんです』
『運命? そんなもんを選択できるのか!?』
どんなチートなわけ? そういうの実装禁止にしてほしいんだけど。
『この広間のように不滅の効果を増幅されていなければ、倒しても結構復活には時間がかかるのですが、ここでは無敵だったと返答します。倒せない相手のために攻略は不可能だったのです』
『なるほどねぇ。過去形で俺をここまで案内したということは、倒せるんだな?』
『もちろんです。プーさんが敵を倒した際に奪うのはなんでしたっけ?』
『経験値だな! もしかして俺は対悪魔用の力を持っている?』
『偶然にも持っているようですね』
どんな偶然だよと苦笑を浮かべてしまうランピーチであるが、これはチャンスだ。
「お、俺らの攻撃が通じないとか、は、ハッタリだろ! そんなことが現実にあるわけねぇ。ヘヘッ、俺の武器は古代兵器だぜ? これさえあればどんな敵もズドンだ、ズドン!」
ヘイズを見せつけるように揺らして、たまたま強力な武器を手に入れたために、調子に乗る小悪党を演じるランピーチだ。演技がうますぎて本気にしか見えない。
レラジェもグシオンもニヤニヤと小馬鹿にした笑みで手を広げてみせる。
「くくくく、いつの時代も滑稽なピエロは見ていて楽しいものだ。なぁ、グシオン?」
「そうだな、レラジェ。まぁ、ご自慢の武器がどれくらいの力を持つか、教えてやっても良い。さぁ、儂は一歩も動かないから、撃ってみるが良いぞ」
予想通りの余裕さに、小悪党は内心でガッツポーズをとる。このパターンを待ってたんだ。
「ヘヘッ、ここまで来るのを邪魔した精霊たちのように一撃だ。受けてみろやぁ!」
『ピアッサー』
『レインスナイプ』
あくまでも小悪党の演技を崩さずに、内心でゲハハと嗤って引き金を引く。しっかりとスキルも付与していきなり最強の攻撃だ。
硫化エネルギー弾が放たれて、空中で細く糸のように分かれて豪雨のように二人を襲う。
二人は躱すこともなく、余裕を見せてエネルギー弾の雨をまともに受けて、大爆発が起こるのであった。




