137話 フォルネウスと小悪党
『神霊融合』をライブラと果たしたランピーチは銀髪碧眼の戦士へと姿を変えた。融合後に、遥かに力が上がったのを感じ取り、ニマニマと小悪党スマイルも浮かべちゃうランピーチだ。正直、スマイルを見せない方がカッコ良い。
なにせ、ライブラにはスキルを取り付けてあるので、本邦初公開というやつである。
ライブラ 現在スロット4
『スキルスロット:全ステータス二倍』
『スキルスロット:なし』
『スキルスロット:なし』
『スキルスロット:なし』
地味にステータスアップのスキルを取り付けてあるランピーチは、ステータスが一気に倍になったのだ。
『ふふふ、ソルジャーの潜在能力を引き出すスーパーサポートキャラライブラ! 舐めプをしないようにと忠告してあげるよ! 不意打ちで取り込まれたり、時間切れで元に戻るパターンもあるからね!』
フハハハと、ランピーチの脳内で得意げな様子で高笑いするライブラだ。融合技の弱点も教えてくれるサポートぶりを見せてくれる。
『激しく同意だ。油断なく一気に倒すのが正道にして王道!』
不敵に笑いながら、超力を体内に漲らせて、構えを取るランピーチ。チェフェイは力のある悪魔だ。ランピーチがどれだけパワーアップしたかを感じ取り、慄きながら動揺をするだろうと思っていたが━━━どうも様子が変だ。
凝視してくるその視線はありえないものを見るかのように、異形の狐の顔に畏れを宿している。
「な、なんで『精霊融合』をして、半獣の姿にならない? どうして人間の姿のままなんだ?」
「??? そりゃ、企業秘密ってやつだ。昨今、情報漏洩にはどこの企業も厳しくてね。懲戒解雇は望まないんだよ」
軽口を叩きながらも、チェフェイのセリフを反芻して、そういや皆は半獣の姿になっていたなと思い返す。俺だけ人の姿から変わらないや。なにか、意味がある……んだろうなぁ、その動揺っぷりを見る限り。
「まさか成功していたとは……絶対に貴様は殺さなくてはならなくなった!」
動揺しながらも、チェフェイは攻撃に移る。全力を出すことにしたのだろう。先程と違い、踏み込みからの拳の打ち込みが格段に速い。
「悪い、最初から、俺はお前を殺すつもりだった!」
だが、ランピーチも負けていない。対抗して拳を繰り出すが、その速さは先程と比べ物にならず、音速の世界へと入り込んでいる。
パシッパシッと風の壁が叩かれて、小さな衝撃波が発生しながら、互角の打ち合いをする二人。今度はジャブだけではなく、右拳も使い連撃を繰り返すチェフェイに、ランピーチも残像を残し、何本も腕があるように見せながら連撃を放つ。
「くっ、やけに速くなってやがる、本当に精霊融合したのか!? ハッタリではない?」
『影切り』
脂汗をかいて焦るチェフェイが爪を伸ばして、悪魔力を纏わせての魔技を使用する。漆黒の爪は悍ましい力を宿して、触れたら腐りそうな感じもするが、動揺からか、ほんの少しだけ体勢を崩しての攻撃だった。
ランピーチはギラリと眼光鋭く、拳を広げて手のひらとして立ち向かう。
『空転パリィ』
爪を鎌のように伸ばして振り下ろすチェフェイに、手の甲で螺旋を描くように触れると、漆黒の爪が強力な力に晒されたかのように捻じ曲がり、砕けてしまうのだった。
「グオォ、な、なんだ、いまのは?」
爪が碎かれて、指も余波でズタズタに折れ曲がると、痛みでチェフェイは仰け反る。
空気投げとパリィを融合させた、受け流しつつ敵を投げる融合技。それにより、見切りやすい単純な攻撃になった攻撃にカウンターを入れたのだ。
それはライブラの人を超えた演算能力を得たランピーチの新たなる技。スキルを超えたスキル。
━━━と、俺って凄いよねと、ドヤ顔になり追撃に移ろうと予定していたランピーチだが、顔を顰めてしまう。
「ぐっ!? なんでダメージを受けてるんだ?」
腕から赤くはあるが輝いている血が流れて、痛みでランピーチも驚く。触れることすら許さなかったはずなのになんでだ?
「ちいっ、厄介な技を持ってやがる」
『魔に汚染されし狐火』
ズタズタに折れ曲がった指を、無事な片手で無理矢理握りしめて元に戻しつつ、狐の口を大きく開き、闇の炎を出すチェフェイ。
莫大な闇の炎が視界を埋め尽くし、ランピーチを焼き尽くさんと迫る。対してランピーチは動揺を抑えて、腕を振り上げる。
「その技はもう見せてもらった」
『精霊の篭手』
『サイキックブレード』
精霊の篭手を装備すると、腕に超常なる力を纏わせて空間を歪ませて、縦に一閃。
ピシリと音がして、空間が切断されて、闇の炎が二つに分かれると、虚しく消えていく。そしてその剣閃は止まることなく、チェフェイの鼻面にもかすり傷を与える。
「ぐ、こんな事が!?」
バックステップを踏み、距離を取ろうとするチェフェイ。追撃に移ろうと手刀を構えて━━。
『ソルジャー! 相手をよく見て!』
『!? そうか!』
ライブラの警告に、踏み込むのを留まり、くるりと身体を回転させて、後ろへとバックキックを放つ。
メシリと手応えがあり、背後にいたチェフェイを吹き飛ばすのであった。
「な、また、俺の位置が!?」
驚愕するチェフェイが吹き飛ばされながらも身体を回転させて、甲板に足をつけて体勢を立て直す。
さっきまで存在していたチェフェイは煙のように消えていき、ちらりとその様子を見て、ランピーチは嘆息する。
「影に気をつけろ、か。なるほど、だいたいカラクリがわかったぞ。お前、影で攻撃できるんだろ? 足元に影がないぜ?」
本来ならばあるだろうチェフェイの影がない。
「最初は分身していて、影があるやつが本物かと思ったが、今消えた方もしっかりと存在していた。なんだ、自身の影を操れる『影従者』か? さっきの影斬りは、お前の影も攻撃してきたから防げなかったんだな?」
「………そうか、さっきのうさぎを倒すべきだったか。手品の種をバラすと嫌われるぞ?」
「俺の好感度は常にマイナスだから問題ない」
悔しそうに歯噛みをして、チェフェイが睨んでくる。そして悲しいことを堂々と口にするランピーチだ。
『フフン、ミミと共有した情報にあったよ。煙のように消えていき、無傷なところがね!』
ライブラがウハハと先程から脳内で笑いっぱなしで、少しうるさい。それだけサポートできない鬱憤が溜まっていたみたい。
『敵がどんな悪魔なのか判明しました。あの狐は影をドッペルゲンガーのように操り、忍び寄る悪魔『イビルナイトストーカー』ですね。ナイトストーカーの最高位バージョンの悪魔です』
『イビルナイトストーカー:レベル8』
ミラの連絡があり、敵の能力が判明して、納得する。影から忍び寄る悪魔で、最高位というくらいだから、影も操れたのだろう。
『ガーン! 私もわかってたよ。今言おうとしてたんだよ。ソルジャー、相手の名前は『イビルナイトストーカー』、『影転移』、『影との入れ替え』、『影従者』を使えます。強敵だから頑張ってね』
『それに加えて、自身の正体がバレないように、妖狐の魔法も覚えていたのでしょう。バレたら影の能力も半減してしまいますから』
『わかった、わかったから、ステレオで言い合わないでくれ。うるさい』
二人の声に顔を顰めてしまう。対抗しなくても、ちゃんと聞くから大丈夫だぞ。
「だが正体がわかったからといってどうする? 俺の優位は変わらない! フォルネウスよ、支援しろ!」
「クォォォン」
足元の戦艦が汽笛のように鳴くと、ランピーチたちを濃霧が埋め尽くす。そして相手の気配はまったく感じられなくなってしまう。魔力すらも感じ取れないので、ただの霧ではないらしい。
『魔霧』
『フォルネウスの能力です。まだ完全に稼働はしていないので中途半端ですので、今のうちに倒さないと厄介なことになりますよ』
『ええと、フォルネウスはソロモンの72柱の一人で、地獄の大侯爵です。天使の軍隊を持ってるんだってさ。なんで地獄の大侯爵なのに天使の軍隊を持ってるんだらうね?』
『了解だ、そして、無理して対抗しなくても良いからな?』
ミラに負けじとするライブラさん。フレーバーテキストを読まなくて良いからね?
「ここからが本番だ!」
『狐火矢』
霧の中から、狐火が何本もの矢となって飛んでくる。光線のように速く鋭い上に、気配が感じ取れないので、回避が厳しい。
ステップを踏み、ジグザグに動きながら回避していくが、それでも回避できずに何発かは食らってしまう。
「攻撃が正確すぎる。これ、敵は霧の影響を受けていないな?」
『だね。これはソルジャーだけに効果がある霧みたい』
『魔の霧とはよく言ったもんだ、まったく』
肩に掠り、脚が削られて、苦痛が身体を蝕んでいく。霧が深すぎて、本当に気配を欠片も感じないために、チェフェイを探すことができない。
警戒しているのだろう。トドメだ! とか叫んで襲いかかる様子もない。多分、狐火矢でこちらを確実に削るつもりなのだ。神霊融合が解けたら、ランピーチには勝ち目がない。
フォルネウスとイビルナイトストーカーの相性が良すぎる。これでフォルネウスが完全体なら、攻撃魔法も飛んできたのだろう。
フォルネウス………ね。
ちらりと甲板を見て、フムとニタリとあくどい小悪党スマイルを浮かべる。
『良いこと思いついた』
素早く思念を送りつつ、ランピーチは拳を握りしめて、思い切り甲板へと叩きつける。フォルネウスの装甲に深く拳が潜り込むと、フンヌと全力を込める。
「うぉぉおらぁぁぁ!」
『サイズ差無効』
『空気投げ』
フォルネウスの船体が大きく傾げて、メンコのようにひっくり返ると、空へと投げ飛ばされる。
意識があるのか、フォルネウスがジタバタと暴れるが、空気投げは発動し超力がフォルネウスの身体を奔り衝撃を与えていく。それはほんのちょっぴりのダメージだった。甲板が少しだけ傷がつく程度だ。
しかし、傷がつくと言う事は、展開していた悪魔障壁が破壊されたということ。フォルネウスは一瞬だけ無防備となった。
『今だ、テテ!』
『きゅー! ライオンラビットカノン発射ーーーー!』
テテの興奮した叫びと共に、霧を貫き霧散させ、天から白光がフォルネウスに降り注ぐ。フォルネウスは白光が命中すると、船体を膨大なエネルギーで貫かれて、真ん中から折れていくと、遂には耐えきれずに大爆発を起こして、墜落していくのであった。
「な!? 戦艦を投げるだと? めちゃくちゃだ!」
空中に滞空していたチェフェイが霧が消滅した中で、信じれないとこちらを化け物でもみるかのような目で見てきていた。
「スキルの使用方法は熟知していてね」
スラスターを吹かすと、ランピーチはチェフェイに肉薄して、手刀に超力を集め始める。
「くおっ、この野郎、我が軍の悪魔艦をよくも!」
憤怒に燃えたチェフェイも対抗して攻撃してくる。
『シャドウラッシュ』
左右の拳撃から両足を巧みに使っての、ミドルキックやローキック、フェイントを仕掛けての頭狙いのハイキックをチェフェイは繰り出す。
その体術は鍛えられたもので、これまでの努力を窺える達人のものだ。
だが、ただの達人では人外へと踏み入れたランピーチの体術には遠く及ばない。ステータスがほぼ同等ならば、相手ではない。
ランピーチは先読みして、チェフェイの拳を跳ね上げて、蹴りを防ぎ、フェイントにはかからずにスウェーでハイキックを躱す。
「まだだ、二人分の力は耐えられるか?」
『影従者』
チェフェイが二人に分身すると、さらに攻撃に激しさを増す。
「二人でも変わらない。もはやお前では俺に格闘戦で追いつけない」
高速戦闘での格闘戦は空中に衝撃波を生み出して激しさを増すが、チェフェイの攻撃は届かずに、ランピーチは軽く跳ね返して、段々と二人のチェフェイの体勢を崩していく。
そうしてチェフェイが完全に体勢を崩したところで全力を放つ。両腕をクロスさせて、スキルを発動させる。
『刹那』
『乱刃拳』
真後ろへと。
「な!? なぜ、わかった!?」
背後に激しさを驚愕の表情で爪を振り上げた姿のチェフェイがいた。体勢を崩したふりをして、こちらの全力攻撃を誘導しようとしており、全力攻撃の隙に背後から斬りかかるつもりだったのだ。
剣閃が身体に奔って、ズルリとズレていく。チェフェイ自身も全力攻撃での攻撃をするつもりだったので、ランピーチの攻撃は予想外であり、まともに受けてしまった。
「本体は細かな傷がある。お前、ミミの攻撃を治しておかなかっただろ」
トントンと自身の頬をつついて見せるランピーチの答えに、ハッと気づく。ニードルを受けて、たしかにチェフェイには細かな傷が残っていた。気にすることもない些細な攻撃であったが、偽物にはその傷は再現されていなかった。
「あ、あのうさぎめ、エースには気をつけるべきだったか………」
苦笑いをして、チェフェイは細かに切断されると、地下へと落下していった。
「あれが悪魔か。色々と教えてもらう必要がありそうだな。………『刹那』が効果を発揮しなかったのも問題だ」
その様子を見ながら、顔にかかる血を拭い、ホゥとランピーチはため息を吐くのであった。
そして地下へと続く大穴では墜落したフォルネウスが爆発し、炎が逆巻き、全てが消えていこうとしていた。




