135話 ミミと小悪党
『エレメンタルパウダーコントロール』システムは親分の能力を解析して作られた兵器だ。親分が以前に行った精霊力正常化が基幹技術にある。その効果は周囲一帯の精霊力を一時的に正常に戻す。
精霊力を歪ませて悪魔力に変えるハーケーンの『悪魔化』システムも同等に防ぎ、使用を不可能とする。変身を無効化する卑怯なシステムなのだ。
「千二百年前はポコポコにやられたけど、もうそんな同じ轍は踏まないうさよーだ! もはや『悪魔粉』は過去の遺物。全機、敵を駆逐するうさよ!」
ウハハと笑って、おヒゲを揺らしてマァは敵の駆逐を命じて━━━。敵の艦長の悪魔力がまだ体に纏わりついているのを見て、きゅーと不思議そうに鳴く。
「あれぇ? あの悪魔だけ悪魔力が消えないうさ? スイッチの押し方が足りなかった? 斜め45度の角度から叩くうさ?」
ぺちぺちとボタンを連打して、マァは何度も『エレメンタルパウダーコントロール』を使用するが、いくら正常化をしても、艦長の姿は元の人間に戻らずに変身を続けていた。
ゴキゴキと身体が膨れ上がり、悪魔鎧を取り込み融合すると漆黒の毛皮を生やし、その顔は耳をピンと伸ばし尻尾を生やす狐となり、その手には草刈り鎌のような湾曲した爪が生えた。
「くくく、お前らも少しは進歩してたか。だが俺たちもただ寝ていただけじゃないんだ。わかるか、亡霊野郎」
そうして、変身が終わったあとには、漆黒の狐が存在していた。自身の力に満足げに拳を握り、牙を生やした口を裂けたかのような大きさで開けて、カラカラと嗤う。
「きゅー、悪魔化したうさ! 話が違ううさよ!?」
「どうやら佐官レベルは『半魔融合』から『悪魔融合』へと進化していたようです。たった千二百年で『悪魔粉』との融合を進めるとは、ハーケーンもなかなかやるものです」
淡々と言うミラに、きゅーきゅーと鳴いてマァは抗議する。予想外と言いながら、ミラは冷静そのもので、そんなこともあるんだろうなぁと、ワクワクしていたりもした。
「『悪魔融合』は将軍レベルだったうさ〜。佐官レベルが悪魔になるのは想定外うさよ。撤退していい?」
「駄目です。それに逃げられるとも思えないので、頑張ってくださいね。勝ったらプーさんにキャロットケーキを作ってもらいますから」
「きゅー! とっても安い報酬うさー!」
鳴き声を悲鳴にするマァだが、敵は待ってはくれない。変身を終えた狐男は、身構えて魔力を集め始める。
「俺は第21特戦隊のチェフェイ少佐だ。亡霊たちよ、恐怖をその魂に刻んで死ぬんだな」
『狐火乱舞』
チェフェイが名乗りを上げると、周囲に狐火を作り出す。十個近い狐火の色は黒くどこか禍々しい。
「くっ! ハーケーンの違法を見逃せないうさ!」
撤退することを諦めて、マァはラビィレイピアを構える。最早ここに至っては撤退はない。倒すのみだ。
レイピアが発光し、ビームがチェフェイに飛んでいく。余裕の笑みで回避行動を取るチェフェイに、マァは予測射撃で何発も撃つ。
だが、命中する寸前で回避されて、チェフェイは今までの兵士たちの数倍の速さで接近してくる。その回避には余裕があり、能力に差があるのを如実に示していた。
「兵士たちはタギョウ隊に任せて、マギョウ隊はあの悪魔を一斉に攻撃うさ!」
マァは部下に指示を出し、チェフェイを全機で囲み、一斉に射撃をしていく。
だが、チェフェイは空中を矢のように飛んでいき、マァたちが放つビームを縫うように回避していくと狐火を展開させる。
「悪魔の力を知れ!」
『狐火矢』
狐火が矢へと変化して、高速で空中を飛び交い、マギョウ隊のガンラビィを貫いていく。なんとかシールドで防いだり、回避行動を取ろうとするが、狐火矢の速さはガンラビィでは対抗できず、その威力も精霊障壁をただの紙切れとしていた。
「うさは持っていないうさぎだったうさ〜」
「きゅー、痛いのはヤー」
「追いつけないよ〜」
爆発して大破するガンラビィたち。たった一機で戦況を覆されて、マギョウ隊は全滅の憂き目に遭う。
「くっ! 悪魔になると自我を失い、最後にはただ暴れるだけの存在となるというのに! 危ないうさ、変身解いた方が良いうさよ?」
説得できないかな? 悪魔化を解いたら許すうさよと通信を送るが、チェフェイは軽蔑した目で鼻を鳴らす。
「はっ、不死を望み人工精霊となった亡霊の言うことか? 自我を失い、ただの兵器となったお前らこそ狂っている!」
「うさたちは世界の平和を望み志願したうさよ。この世界が悪魔により支配されてめちゃくちゃにならないように!」
「なら、次はもっと良い装備で来るんだな、あばよ亡霊!」
爪を振りかざして、チェフェイが接近してくる。対抗してレイピアを構えて━━。一瞬チェフェイの姿が消えたかと思うと、目の前に現れた。
「なっ! テレポート?」
「俺の速さについてはこれまい!」
ガンラビィのレーダーすらも追いつけない速さで間合いを詰められたマァ。レイピアでの迎撃は間に合わず、爪がコックピットを貫こうと迫り、マァは死を覚悟して━━━。
装甲に触れる寸前にチェフェイは後ろへと身を翻し、その場に上空から水晶のような煌めきのエネルギー光が通り過ぎるのであった。
マァはスンスンと鼻を鳴らして、お口を尖らせる。
「ミミ、遅いうさ!」
「でもぉ〜、ミミは追加パーツをつけたかったからねぇ」
呑気そうに眠そうな声が聞こえてきて、上空から援軍のガンラビィがやってくる。
マァたちとは違う、長大なエネルギー砲を手に持つミミの操る重装備のガンラビィが。
◇
水晶のような煌めくビームが空中に溶けるように消えていき、チェフェイは新たなる敵を睨む。
「ちいっ、まだ亡霊がいやがったのか。何羽いやがるんだ、虫みたいにウザい奴らだな!」
「ミミは亡霊じゃなくて、うさぎうさ〜。このミミ専用ガンラビィカスタムで倒すよぉ」
チェフェイの罵り声に合わせて、ミミは呑気な声で返す。
ミミの乗るガンラビィは両肩に6連装ミサイルポッドを搭載し、バーニアはウイングバーニアではなく、大出力エンジンの搭載されてランドセル型だ。大型スラスターは加速力はあるが、その分旋回力が低く、一般うさぎには使いにくいピーキーなタイプだ。
手に持つ長大な砲、キャロットバスターは大出力エンジンから供給されるエネルギーを使っており、精霊光の威力を跳ね上げていた。
椅子にちょこんと座り、ミミは目を動かして、モニターに映し出される戦況を素早く把握していく。
「うさぎと一般兵との戦闘は問題ないなぁ。問題は悪魔だぁ。なんだろう、なんの悪魔なのかなぁ。悪魔の種類がわかれば、対処もできるんだけど……妖狐? まぁ、いっか」
レバーを握り、端末のキーをタタッと軽やかに押していく。モニターにショルダーミサイルの残数と属性が表示されて、ミミは迷わずに入力をする。
「まずはあの狐火を破壊しないとねぇ」
『ミサイルの属性変更:ブリザード』
ガンラビィカスタムのスラスターを噴かせて、鋭角に移動すると、敵を狙うのに最適な場所に飛び、狐火たちをロックする。
「マルチロック、ミサイル発射〜」
両肩のショルダーミサイルを2発発射。ガンラビィを倒していく狐火へと向かわせると、近接爆発させる。爆発したミサイルからブリザードが発生し、キラキラと氷の結晶が舞い散り、雪が刃となって、狐火たちを消火していった。
「うにゅ~、残りも倒しちゃう〜」
スラスターを全開にして空中を駆り、ミミはキャロットバスターを構えて、引き金を引く。残りの狐火たちを狙い撃ち、キャロットバスターを振って薙ぎ払うと、残った狐火も消滅させちゃうのであった。
『魔に染まりし狐火』
背部から漆黒の炎がミミを呑み込むように現れて接近してくる。ミミはちらりと背後を見ると機体を横回転させて振り向くと、タタッとキーボードを押下する。
迫りくる炎へとミサイルを発射して、ブリザードにて氷の弾幕を作り上げて、炎を阻む。炎と氷がぶつかり合い、水蒸気が空中で生まれて視界を埋め尽くす。精霊力の濃度が高まり、レーダーが使用不可となり、モニターにノイズが奔る。
「敵予測〜、てやー」
だがミミは気にせずに、冷静に敵の動きを推測しキャロットバスターを撃つ。視界のきかない空間で敵の位置を推測するミミの得意技だ。
水蒸気がバスターのエネルギーで吹き飛ばされて、ちらりと垣間見えたチェフェイへと命中したことを確認する。
すぐに水蒸気により、視界が再び埋め尽くされるがミミはたしかな手応えを感じていた。
「倒してはいないと思うけど、大ダメージが、あれぇ?」
「やるな、亡霊! 元はエースか!」
水蒸気の煙を突き破り、爪を翻してチェフェイが楽しそうな凶暴な笑みで現れる。回避しようとするミミだが、長大なキャロットバスターは動きを妨げてしまい、チェフェイの爪により銃身を断ち切られてしまう。
使い物にならなくなったキャロットバスターを投げ捨てて、ミミはタタッとキーボードを叩く。
『ミサイル属性変更:ニードルレイン』
「無傷なのはおかしいよぉ」
疑問に思うが淀みなくミミは次の行動に移す。迫りくるチェフェイへと残りのミサイルを発射する。噴煙を残して飛んでいくミサイルは途上で爆発すると、細かい銀の針が雨のように飛び出して、チェフェイを襲う。
「厄介な攻撃をしやがる!」
チェフェイは迫りくる銀針の雨へと罵り、後方へと飛び退り、命中する寸前に加速して、緩急を上手く使い鋭角に機動していき、そのほとんどを躱していった。
接近からの拡散範囲攻撃のほとんどが躱されて、ミミは少しだけ残念に思いながら、レバーのスイッチを押していく。
「ショルダーミサイルパージ。スラスター角度調整。仰射角度38。エンジン出力制限解除」
ガンラビィカスタムのショルダーミサイルがパージされて、ランドセル型エンジンの出力制限が解除され、限界を超えることが可能となる。
チェフェイがこちらへと向き直り、一瞬動きを止めた事を確認し、レバーを思い切り引く。
「突撃で倒すよぉ」
『ストライカー』
ラビィレイピアを引き抜き、スラスターから爆発するかのように精霊エネルギーが粒子となって吹き出すと、慣性無効化システムの限界を超えてミミは椅子に身体を押しつけられて、ガンラビィカスタムは加速する。
一条の矢となり、ガンラビィカスタムはチェフェイへと突撃をする。エンジンが小爆発し、限界を示すアラートがモニターを埋め尽くすが気にしない。
「たりゃぁ〜!」
まさかエンジンを壊しながらも突撃してくるとは思わかなかったチェフェイが驚き固まり、その身体をラビィレイピアが貫く。
ラビィレイピアに内包されたエネルギーが解放されて、チェフェイの体に流し込まれて、驚愕の表情で悪魔の体は爆発し━━━。
煙のように消えていった。
「あれれぇ?」
幻ではなかったはずと息を呑むミミ。その背後からガンラビィカスタムに爪が突き刺さる。
「良いところだったが、悪魔の力を知らなかったようだな」
傷だらけのチェフェイが背後にいつの間にか現れており、鋭き爪が風のように振られて、ガンラビィカスタムの手足が切られて━━━。
「うちのミミを虐めてもらっては困るな!」
男の声が聞こえてきて、チェフェイは足を引っ張られて、地面へ向けて投げられ、隕石の如く勢いよく落ちていく。
浮上を開始していたフォルネウスの甲板にチェフェイは叩きつけられて、衝撃で息を吐く。
「くっ、何者だ? 人間?」
チェフェイが憎々しげに上を見ると、男が一人降りてくる。
「俺の名はミチビキ。ハンターギルド所属のハンターだ。どうやら人のクエストを横取りしたのはお前らのようだな」
ミチビキは涼しい顔で甲板に立ち、チェフェイへと不敵な笑みを見せるのであった。
本来ならかっこよかったシーンだが、大破したガンラビィカスタムから、ミミが飛び出してきて、ミチビキの頭に乗っかっていたので、少しだけほんわかする光景だったりもした。




