126話 ジャングルと小悪党
出雲の放った焔は魔植物が繁茂して、3日間の間に古くから廃墟であったような世界に広がっていった。舐めるようにブレードフラワーや芝生や元は学舎だと思われる施設を焼き尽くしていく。
地面に生える芝生は焚き付けの良い素材であったかのように燃えていき、出雲たちをまるで防ぐかのように生えていた魔植物たちを灰へと変えて、出雲は手応えを感じて、口角を吊り上げる。
「よし、これならいけるだろ。さすがは二百億エレの精霊鎧だな。今までの精霊鎧とはパワーがダンチだ」
「隊長、古語も使えるところを見せないで良いですぜ」
「そうそう、予定通り、全て燃やしていきましょう」
笑いながらからかう部下たちが同じように上位火炎魔法を使い、魔植物を燃やしていっていた。今までの戦闘評価どおりの性能を見せており、出雲も満足していた。
精霊鎧『六文銭』は、最新鋭の精霊鎧であり、ロールアップされたばかりのため、一機二百億する。量産されれば、コストダウンされて値段も下がるだろうが、今は規格品としては最高の精霊鎧だ。
赤い衣を羽織った武将鎧のシルエットをしており、古銭のようなビットが両肩合わせて六機。六文銭ビットには人工精霊『プラズマウィスプ』を付与されており、展開することで、プラズマフィールドを張ることができ、人工精霊のAIは操縦者を守るため、自動防御をしてくれる。精霊鎧自体も超高性能であり、身体能力を人外へと高めてくれる。
装備は魔法の槍であり、高位火炎魔法を使うために特化しているが、特化している分の増幅率は今までの国軍の精霊鎧の性能より50%近く高めてくれていた。
遠距離攻撃では広範囲魔法『極大火炎』か『極大火炎槍』。近距離戦では槍へと変えて、敵を超高熱で貫き倒す。
まさに今までの精霊鎧を旧世代にしてしまう性能を持つのが『六文銭』であった。
「よし、後続の仲間が通りやすいように全て燃やしていくんだ。各分隊、鋒矢の陣形にて雑草を刈っていけ」
この二百人の隊の隊長として出雲は指示を出す。
「了解、こちらは右側から入る」
「少しは俺たちの分もとっておいてくれよ?」
ヘリから降りてきた部下たちを見ると、多少ダメージを負って撤退した者はいるが、ロストした者たちはいない。さすがは真田丸隊のエリートたちと、最新鋭の精霊鎧六文銭、奇襲じみた対空攻撃の中でも問題なく離脱できたようだと安堵する。
各分隊は素早く移動を開始し、与えられた場所へと配置につき、各機で攻撃を開始した。生き残ったのか、焔の中からブレードフラワーたちが根っこを動かして現れるが、花びらのブレードは六文銭ビットによるオートプロテクションにより防がれて、決して刃が届くことはないし、クレイモアヒマワリの弾丸も全周囲にフィールドを変えた六文銭ビットにより簡単に弾かれていった。
そして反撃と高位火炎魔法にて真田丸隊は敵を焼いていき、順調に進軍を開始するのであった。
「楽勝だな。ここまでお膳立てしてくれなくとも、六文銭の性能はずば抜けてるんだがなぁ」
崩壊した周りの廃墟を見て、多少気まずく思いながら進軍する。もはや作業という感じであり、やはり六文銭のデモンストレーションとして用意された場だということなのだろう。
「劇的なデビューにて、他のエリアにもこの精霊鎧を売ろうということなのでしょう」
「この機体は金がかかっていそうですからね〜。小野寺と鎧塚が組んで作成したとか。しっかりと開発費は回収したいと言うことなんでしょう」
「やだやだ、政治の世界ってのは首を突っ込みたくないところだ」
苦々しく顔を顰めて、出雲は前進を続ける。兜内のモニターに映るマップによると、現在は5キロメートルくらい。そろそろ目的地までの中間地点となる。
「そろそろ、敵の対空攻撃可能の魔物が見えてくるはずだ。…………あれか?」
今もエネルギー光球は奥から飛来してくるので確認すると、多くの巨木が聳え立ち、巨大な森林を形成している奥地で、巨木の横にチューリップが蕾を作ったようなサイズが十メートルはある化け物花が蕾を膨らませると、空へと向かって光球を放っている。
砲弾の速度は六文銭には遅く、回避できなくても六文銭ビットにより簡単に防げるが、後続の部隊にとっては脅威となる可能性が高い。
「ここは無理をして、あの森林まで一気に進むか? いや、囲まれたらまずい、ここは確実に進軍をするべきか」
隊長は慎重なくらいが丁度良い。森林前にも未だに魔物は数多く展開しているし、無理をすることはない。部下たちの命を預かっているのだ。迷いながらも出雲の判断は安全をとった。
━━━だが、それは魔物の戦闘力が同じであり、ただ突撃してくるだけの単純な戦法をとっていることを前提としていた。心の片隅に魔物の知性の低さを前提に考えてしまった。
そして、それは他の分隊からの連絡で変わる。
『あ〜、隊長、火炎に耐えるブレードフラワーたちが増えてきていませんか?』
怪訝な声の分隊長からの通信に眉を寄せて、燃えている前方を眺める。
「ん? そうか? ………たしかに今までは数匹だったのに、燃え残ったのが十を超えている?」
『極大火炎魔法』により、ブレードフラワーたちは灰と変わっている。当然だろう、所詮は低レベルの魔物たちだ。耐えられるわけがない。
そこで違和感に気づく。
(そうだ、奴らは本来なら『極大火炎魔法』を喰らえば一匹も残らないはずなのに、最初から一匹残っていた。なぜだ? ……嫌な予感がする!)
戦闘経験の高い出雲はそれだけで、違和感と共に通信を後方に送る。
『こちら真田丸隊の隊長出雲少尉だ。後方の指令は誰だ?』
『こちらは戦車隊の隊長トヨミだ。な、なにかあったか?』
動揺した恐怖の声音に、なにか自分たちの知らない情報があると舌打ちする。よく調べればよかったが、敵の種類を聞いて、素直に司令官の言葉を受け取ってしまった。
『なにか変だ。敵がこちらの『極大火炎魔法』に耐えている。しかも耐えている魔物が少しずつ増えている。何か知っているか?』
『!!! そうか、それはまずい! 予想よりも遥かに適応力が早い! 出雲少尉、急いで進軍するんだ。こちらも全速で合流することにする!』
『適応力? なにを言って━━』
問い質そうとする出雲だが、廃墟の屋敷にて視界が通らない右前方から爆発音がして、通信を切り槍を構える。
「どうした? なにがあった?」
右前方からは連続的に爆発音をしてくる。明らかに激しい反撃を受けているのだ。
『こ、こちら第三分隊、分隊長は突然の奇襲により死亡! これより私が、うわぁぁ!』
またも爆発音がして、通信が途切れてしまう。
「各員、周囲を注意しろ。奇襲を受けたらしい。どんな攻撃か見極めて、報告しろ!」
「了解! うおっと」
部下の一人が驚きの叫びを上げて、出雲は叫んだ相手を見る。六文銭ビットが部下の手前に自動展開して、空間を歪める攻撃を防いで激しく放電していた。
「あぶねー、六文銭ビットがなければ死んでましたよ。六文銭ビット様々ですね」
「なにがあった?」
「不可視の音波ビームのようです。かなりの威力のようですので、分隊はこれを喰らったのでは?」
「ちっ、あれか。あんなのを隠し玉にしていたのか」
崩れた屋敷の陰に音叉のような茎を持つ植物が揺ら揺らと体を揺らして立っていた。音叉の間に魔力を集中していくと空間を歪ませて、音波ビームを放ってくる。その威力は通過した地面に深い溝を作り、砂埃を巻き起こす。
「あれはまずい。かなりの威力だぞ、まともに喰らったら六文銭の精霊障壁じゃ耐えられないかもしれん。コードツー、スリー、撃破してくるんだ」
「コードツー、あの敵を撃破します」
「コードスリー、コードツーの後衛に入ります」
部下たちが地面を蹴って、芝生を踏み荒らし放置車両を潰しながら隠れている音叉の魔物へと接近しようとする。
槍を向けて、火炎魔法を使おうとしたときだった。そばにいたブレードフラワーが膨れ上がり若木へと変わっていく。
「は、なんだ? このブレードフラワー、進化したのか?」
ブレードフラワーは根っこが縒り集まり、枝葉が腕と変わり、みるみるうちに木人形へと姿を変えると、今までよりも巨大化した花刃を放ってくる。
「うおっ、こいつ!」
六文銭ビットが自動防御をして花びらを防ぎ、驚愕した部下がなんとか態勢を立て直そうとするが、人形と化したブレードフラワーは、精巧な西洋騎士のような人形となっており、驚くべき速さで間合いを詰めると、腕を剣へと変化させて振るってきた。
「この野郎、そうはいくかっての! な、なにっ!?」
槍を回転させて剣を防ぐ部下だが、その脇腹に反対側の草むらから放たれてきた極細の音叉ビームが命中して、大きく肉を抉られてしまう。
思わぬ攻撃に態勢を崩す部下に、ブレードフラワーは連撃を繰り出し、切り裂いてしまうのであった。
「こいつめっ! よくもやってくれたな!」
火炎を纏った槍を振り上げて、コードスリーが斬りかかる。フラワーブレード、いや、今やブレードトレントとでも言ってよいのだろう相手は力任せで雑な動きではあるが、コードスリーの槍を受け止める。
「いかんっ、コードスリー撤退しろ。その位置は、くそっ!」
出雲は跳ねるようにその場を逃れると、極細の音叉ビームが通り過ぎていく。他のブレードフラワーたちも成長して、ブレードトレントへと姿を変えて出雲たちへと向かってくるのを立ち向かうために槍を繰り出して間合いを保つ。
その間にもコードスリーの戦闘は続いていたが━━━。
「だ、駄目だ、六文銭ビット、その攻撃は槍で防げる。防御をするんじゃない、見え見えの罠だ、く、くおぉぉ!」
六文銭ビットが飛来してきた花刃を防いでしまい、コードスリーはブレードトレントの剣を防ぐ間に、僅かな隙を狙われて音叉ビームに貫かれて爆散するのであった。
「た、隊長、まずい。敵はこちらの自動防御を見切ってやがる。対応方法を学んでやがるぞ!」
敵は軽い攻撃で六文銭ビットを展開させて、隙を作ると部下たちを狙い撃っている。しかもブレードトレントが間合いを詰めて動きを妨害し、幾重にも及ぶ音叉ビームにより回避が極めて難しい。
「くっ、なんて連携だ。こんなの人間でも不可能だぞ。トラップだ。俺たちは馬鹿みたいに敵へと戦闘能力を見せてしまった! 司令官め、この高い適応力を敵が持っていることを知っていたな!」
戦車隊の隊長が青褪めていた理由。進軍をしていない理由を悟る。既に味方は敗北していたのだ!
『極大火炎魔法』を放ちながら、苛立ちを露わにして顔を険しくする。ブレードトレントたちはもはや『極大火炎魔法』を受けても、焦げ目一つ作ることなく、出雲たちに襲いかかってくる。
(『レジストファイア』だ! どこだ? どこに支援魔法を使う魔物が隠れてる?)
こちらの手持ちが火炎魔法だと理解したのだろう。これは致命的だ。火炎魔法に特化したのが仇になった。
どんなに目を凝らしても、ブレードトレントに支援をかけている魔物の姿が見えない。恐らくは火炎耐性だけでなく、身体強化もかけているはず。
激しく打ち合いながら、出雲は全身から魔力を吹き出して猛獣のように咆哮する。
「ぬおぉぉ! 火炎が効かなければ、そのままぶっ倒す!」
『修羅分体連撃』
オーラを身体に纏い、四人に分身すると出雲は同時に槍を繰り出す。四本の槍がブレードトレントに突き刺さると、木片へと変えて打ち倒すのであった。
息を吐いて周囲を見ると、部下たちは敵の連携とブレードトレントの攻撃に反撃することも難しく、防戦一方だ。
まずいことに後方からも爆発音が響いてくる。確実に合流しようした戦車隊が奇襲を受けたのだろう。
「………全員撤退だ! もはやここにいても勝ち目はない。整然と退却する必要はない。脇目も振らず撤退せよ!」
出雲は苦渋の顔となり、部下たちへと無念なる指示を出すのであった。




