125話 国軍と小悪党
国軍は精強である。『エルダージュ15』と周囲の衛星都市を含む都市を守護する国軍は、恐るべき魔物やダンジョンから国を守るため、その予算は膨大であり、装備は最新鋭にして兵士の能力は全員探索者の中では星5、訓練も地獄のように厳しく最高の練度だ。
最近、ある家門の若者が論文発表をしたレベル理論によれば、新型能力スキャナーによるとレベルは50を超えてもいる。
今まで出現した都市を襲う魔物は駆逐しており、敗北という言葉は彼ら国軍の辞書には記載されていなかった。しかも今回は画期的な発明により作られた装備が配備されて一新された軍は絶対の自信を持っていた。
『持っていた』。その言葉は過去形になろうとしていた。
◇
「出雲少尉、今回の出撃要請どう思います」
ガタガタと椅子が震動で震えて、鉄の匂いが鼻につくヘリの内部で、出雲少尉は部下の声に、うつらうつらしていた意識を覚醒させた。
「この出撃要請か? そうだなぁ、戦闘評価のために他のエリアに遠征していた俺等を呼び戻すんだ。結構な数の魔物が出たんだろ」
大型輸送ヘリの荷物落下防止用のネットが貨物を押さえており、無骨な魔鉄の壁、座り心地の悪い硬すぎる金属製の椅子が壁に設置されている殺風景な貨物室にて、椅子に座っている部下たち30名。全員、まだ一般兵への納品前の最新鋭の精霊鎧を着て、国軍の兵士たちの中でも最高のエリート部隊だ。
出雲少尉。最近まで精霊鎧『六文銭』と呼ばれる新型精霊鎧を配備されて、テレポートポータルにて移動した人が永住するには危険すぎる無人地域、強力な魔物が徘徊し、高難度のダンジョンが存在するエリアで、戦闘評価をしていたところ、急遽呼び戻されたのである。
「基地の設置も苦労して終わったところを呼び戻すなんて、上はなにを考えるんだか。ぜ~んぶやり直しっすよ、やり直し。戻った頃には設置した基地は魔物によって蹂躙されてるはずですよ」
「そうですよ、見て下さい、他のヘリも落胆した顔をしてませんかね」
窓越しには十数機の歩兵輸送用大型ヘリが飛行しているのが見えて、おどけて愚痴る部下に、周りの部下たちも笑ってしまう。
「ヘリに顔なんてあるか? たしかにこの一ヶ月の成果がパーだ、気持ちはわかる」
エリート部隊『真田丸隊』総勢200名。魔物たちを駆逐していき、ようやく基地を設置できたのだ。ようやく戦闘評価試験ができると思っていたところ、呼び戻されたのだから文句の一つもつけたくなるのはわかる。
軍で使用するには精霊鎧の性能を正確に評価しなけばならない。それは単機での能力から、継戦能力、メンテナンスの方法は簡単か、弾丸やエネルギーパックの規格から、複数人での連携をする際はどうかと、うんざりするほど評価項目があるのだ。今回はだいたい半年から一年を戦闘評価にかけるだろうと思っていたが、今回の呼び戻しで確実に一ヶ月は延長だ。
「俺も娘に顔を見せないと、忘れられちまうからなぁ、早く仕事を終えたかったんだが。まぁ、今回の作戦は地上街区だ。任務が終わったら有休をとって、家に帰るとするさ」
「あ、私も有休とろうかな。婚約者に指輪を渡して結婚しようと告げるつもりです。今回の戦闘評価試験、結構長くなりそうなので、浮気される前に結婚しておかないと」
「結婚しても浮気って言葉を知ってるか?」
「あー、聞こえない、聞こえない」
耳を塞ぐ部下に、他の部下がからかう。和気あいあいとした軽い空気に、出雲少尉も緊張しているよりは良いし、部下たちは戦闘前の精神を保つことに長けているので、お喋りも気にはしなかった。
「少尉、今回の事件、結構な数の魔物が発生しているようです。どうやら古代遺跡の魔物を解放したとか」
「地上街区が危ないのか?」
「いえ、魔道学園と周囲の屋敷が呑み込まれた程度です。影響範囲は狭いですが数が多いらしく、国軍が駆逐しているようですが、どうも手が足りないようですよ」
膝の上で端末を操作して送られてきた任務の背景を調べていた部下が不審な顔で報告してくる。たしかに任務内容としては変だと出雲少尉も気づく。
「数が多いだけなら、地上街区の防衛部隊だけで良いだろ━━━。そういうことか、この六文銭に華々しいデビューをしてもらいたいと」
「戦闘評価試験を省いて納入をしたい奴がいると。なるほど、納得だよ。地上街区の魔道学園を救ったら、ライトアップされたビルのように目立つし賞賛されるだろうからな」
「そうですね、敵の種類も送られてきましたが、通常個体よりも強いブレードフラワー、クレイモアヒマワリ、その他にも低レベルの植物系魔物ばかりです。植物系の特徴で数は多いですが、弱い魔物で構成されてますよ」
「やだやだ、なんでお偉いさんはそうやって金のことしか考えていないのか。新型ってのは時間をかけて試験をしないと、どこに落とし穴があるか分からないというのにな」
政治もどうせ絡んでいるのだろう。面倒くさい世界だが、それに翻弄される自分たちにため息しかでない。
他の部下たちも任務の真実を知り、苦笑を隠さないでお互いに顔を見合わせて苦笑いをしていた。
「出雲少尉、そろそろテレポートポータルに入ります」
「了解だ。任務とあれば仕方ない。草むしりといこうぜ」
エルダージュに戻る光の柱、テレポートポータルへとヘリは侵入し、自分たちの住む都市へと戻るのであった。
◇
「あー、あれか? 確かに少し緑が多いな。ありゃひどい」
「ですね。結構な範囲が植物に覆われてます」
エルダージュに戻り、ヘリは目的地へと飛行する。空での移動だ。多少の時間で目的地へと辿り着いたが━━━。
広大な敷地にある魔道学園は百メートルを超える高さの巨木が無数に生えており、森林を形成している。魔道学園の周りのある金持ちたちの屋敷には丸太のように太い蔦が絡みついており、内部も侵入されており穴だらけだ。あれでは住むことはもはやできないだろう。
「こりゃ金持ちたちがピーチクパーチクと文句を言うぞ」
「楽しそうな顔で言わないでくださいよ。まぁ、私も同じ気持ちですが」
魔道学園の周りに住むことがステータスだと考えている金持ちたちの屋敷が破壊されて、ザマァ見ろと、思わず笑ってしまい、部下たちも同じ気持ちで笑う。
しかし出雲は違和感を感じて、すぐに顔を顰める。
「だが、ここまで魔物が跋扈しているのを放置しているなんて変じゃないか? 同僚はサボっているのか?」
最前線はさわさわと風に揺れる無害そうな芝生が広がっており、ブレードフラワーたちが根を張って花畑となり、風に揺れている。
「えーっと、戦闘開始から三日間経過しています。そうですね、確かに報告ではもうかなりの数を駆逐して、あとは敵の中心地を破壊するはずですが………おかしいな?」
国軍は最前線、芝生の手前でバリケードを展開されて防衛に努めているようだった。戦車や野砲は設置されてはいるものの、撃つこともなく待機状態だ。
「あれか、もしかしなくても俺等が全部解決しろということか? そこまで華々しいデビューを用意してくれるなんて泣けてくるね」
「少尉、鎧塚中将から連絡です」
「あ〜、だいたい予想できるけどオーケーだ」
部下の一人が通信機を渡してくるので、通信を許可するボタンを押すと、野太い声が響いてきた。なぜか焦った声だ。
「こちら鎧塚中将だ。真田丸隊に命令する。各機、すぐに敵を駆逐するため、突撃せよ。地上に展開している部隊も合わせて突撃する! 急げ、出撃可能地点にたどり着いたら、すぐに出撃だ。すぐにだ!」
「任務受領しました。了解であります。」
「うむ、敵の反撃を許さずに、すぐに駆逐せしむことだ。躊躇うことなく、中心地点へと向かう通路を作ることを命令する。以上だ」
一方的に命令をすると、通信が切れて出雲は嘆息しつつ、通信機を放り投げる。
「なんで中将は焦ってるんだ?」
「この程度の魔物も短期間で駆逐できないから責任問題になりそうだとでも思っているのでは?」
「宮仕えは疲れるよな。可愛い妻と娘に癒やされたいよ、まったく」
「そろそろ最前線です。ハッチ解放しますので、順次出撃をしてください」
「あぁ、了解だ」
ハッチが開き始めて、急速に気圧が下がり突風が入り込んでくる。街の様子が広がり、出雲は軽く深呼吸をする。
「全員、仕事の時間だ。給料分は働かないとな」
「ですね。結構な給料をもらって━━━」
ドカンと爆発音が響いた。
「な、なんだ?」
見ると、隣を飛行していたヘリが爆発して、粉々に吹き飛ぶ。
「少尉、敵の対空攻撃です。巨大な光弾が敵方面から発射されております!」
ヘリのパイロットが悲鳴を上げて報告してくる。その報告どおりに、ヘリと同じくらいに巨大な光弾が何発も通り過ぎていき、飛行していたヘリが撃墜され始めていた。ヘリももちろん精霊障壁があるはずなのに、まったく意味をなしていない威力だ。
「くそったれ、敵に対空攻撃があるなら教えろよ! 全員ヘリから緊急発進。マイク、俺たちが出撃するのを待つ必要はない。旋回して退却しろ!」
「りょ、了解だ。これが終わったら、酒場で一杯を、うわぁぁ」
ズンと衝撃が奔り、後を振り向くと運転席がもげて、ただの大穴となっていた。ヘリのパイロットであるマイクの姿はどこにもない。
「全員、脱出だ!」
六文銭を稼働させて、返事を待たずに出雲は飛び出す。厳しい訓練を乗り越えてエリート部隊に配属された歴戦の部下たちだ。返答など待たなくても、ここで落ちる者は誰もいない。
風が頬をなでて、すぐに精霊障壁でシャットアウトする。古代戦国時代の武将鎧にも似た六文銭が浮遊して、地上へと緩やかに落下し始める。
爆発してヘリの残骸が辺りに落ちていき、爆風が出雲たちの背中を押す。その中で出雲は思念を送り、六文銭を戦闘態勢にする。
「六文銭ビット展開」
六文銭の肩に搭載されていた古銭のようなビットが放たれて、出雲の周りを回る。六個の自動防御ビットは、精霊障壁よりも遥かに硬いプラズマ防御壁を展開し、放電してバチバチと空気を焼く。
「全員、魔法杖を構えろ。ここは炎で焼き尽くしていくぞ」
槍型魔法杖を構えて、撃墜されていくヘリを悲しげに見ながら、出雲は芝生の上に着陸する。どうやらこの芝生は本当にただの芝生のようで危険を感じない。
「この雑草野郎。俺たちのヘリをよくも撃墜しやがったな。これはお礼だ」
『極大火炎』
太陽のように光り輝き、超高熱を内包する焔を作り出すと、出雲は魔物の群れへと叩き込むのであった。




