124話 宇宙船ドックと小悪党
宇宙船ドックにもテレポートポータルで行こうとしたところ、うさぎの一羽がトテチタと近づいてきて、手を掴んできた。
「ポータルを利用するのはもったいないうさよ。無重力トラムを使ううさ」
「無重力トラム? なんだそれ?」
「ついてくればわかるうさよ。こっちこっち。遅れちゃ大変うさ」
トラムということは、電車みたいなものなのだろうとは思いながらも、無重力という響きにワクワクして、案内をするうさぎの後ろについていく。
よくよく観察すると通路や部屋にもうさぎたちがいて、このコロニーにかなりのうさぎたちが住んでいるのがわかる。ランピーチを見るとちっこい手を振ってくるのでとても可愛らしいが、SFチックなコロニーにうさぎは似合わないかも。
柔らかくも歩きやすい不思議な素材でできている通路を進むと、チューブ型の通路に到着する。ここでトラムが来るのを待つのかなと思いきや、うさぎはとうっとチューブに飛び込み、泡に包まれた。
「このチューブ内は無重力で、この泡がトラムうさ。衝撃緩和、慣性無効、高速移動が思念伝達でできるうさよ」
「おぉ〜、未来的じゃん!」
「きゃぁ~、みらいてきじゃん」
面白そうだと飛び込むと、パパしゃんの真似っ子をするコウメも飛び込む。と、二人を泡が包み込む。ミラとライブラはテレポートポータルでさっさと移動したようで、いつの間にかいなかった。冷たいサポートキャラたちである。
「えっと、君の名前は?」
「なに言ってるうさ。テテうさよ?」
「帽子を被ってないからわからなかった!」
コテリと首を傾げる提督うさぎ。今日は帽子を被ってないから、全然見分けがつかなかった。
ふよふよと浮く無重力感覚は空を飛ぶ感覚とは違い面白い感覚だ。意思を込めると滑るように泡は移動して、高速で宇宙船ドックに向かう。
………なにか怪しい。提督うさぎが親切で案内するかぁ?
疑問が頭によぎるが、壁が高速で通り過ぎていき、それなのに風圧すらも感じない安全なジェットコースターのような面白さを堪能し、宇宙船ドッグに到着した。
「うは、これはすごいな。自然の作る雄大な光景とタメをはるよ」
扉を潜り抜けて、目に入る光景は圧巻の一言だった。ミツバチの巣のようなハニカム構造で、その穴に蜂の子ではなく、戦艦が入渠している。宇宙船ドッグとはなんぞやと思っていたが、スケールが海の造船所とは全く違う。
一辺が30キロはあるのだろうか。地平線が見えそうで、施設のドローンが多数浮いており、たくさんのうさぎが忙しく……のんびりと浮いて、寝てたり漫画を見ていた。一部のうさぎだけが、百メートル級の宇宙船に張り付いて働いている。相変わらずのうさぎたちである。
「親分、この端末に手を当てると船に入ることのできるテレポートポータルが稼働するうさよ」
「こうか? お、稼働した」
スンスンと鼻を鳴らして、テテが親切に円柱状の端末を勧めるので、手を添えるとピピッと音がしてテレポートポータルが目の前に現れて━━━。
「うぉぉ、テテが宇宙船の船長登録するうさ! 誰にも譲らないうさよ!」
きゅーと叫んでテテが無重力空間をバタフライで進むと、テレポートポータルに飛び込んじゃうのであった。
「…………なにあれ?」
「戦艦の船長登録は最初にした者になります。まぁ、どうせうさぎが船長になるんですけど、テテが狙っていたようですね」
「あぁ、だから親切めかして俺に付き纏っていたのか。策士だなぁ。うちの子は寝てばっかなのに」
「きゅー。テテは頑張るよねぇ」
無重力空間を泳いでミラがやってきて、後ろにライブラも続く。ミミはテテと違ってパーカーの中ですよすよと寝てるし。うさぎたちって、本当に色々な自我があるよな。
テテはどうしても船長になりたかったのか。
「えへん、この初回プレゼントの宇宙船の名前は高速巡洋艦『ライオンラビット』さ。全長120メートル、総重量10500トン、126基のホーミングラビットビーム、主砲が二連装大型ラビットカノン三門、ミサイル管24門。戦闘機二機搭載の、えーと、宇宙、空中両方で活躍できる万能巡洋艦だよ!」
「ほほぉ〜、たしかにうさぎが座っているような宇宙船だな」
ここぞとばかりに、ライブラが戦艦の説明をしてくれたけど、なるほどライオンラビットのような宇宙船だ。船体は純白で尖った水晶でできている毛皮のようなホーミングラビットビームが設置されていた。
「あーおー、うさうさうさ。マイクのテストうさ。こちら提督にして艦長のテテうさ。ライオンラビットの慣熟航行を開始するので、各員は至急船に搭乗するうさよ」
そして、戦艦を掌握したテテの得意げな声が響いてきた。早くも艦長として偉ぶっている模様。
「ガーン! なんでテテが船長になってるうさ?」
「あいつだけは船長にしたらいけなかったうさよ!?」
「親分に張り付いていたうさ。やられたうさよ」
「気をつけるようにミミに言っておいたのに、あいつはなにをしてたうさよ!」
なんか物凄く不評な模様で、うさぎたちがきゅーきゅーと文句を言うが、それでも戦艦に入っていくのだった。
「でも、こんな宇宙船使い道なくない?」
「なに言ってるんですか。この船でデモンシードを制圧する予定です。あ、残り経験値二千を研究所に支払って、剣聖の衣に追加装甲とバーニアを追加改造しておいてください。これからは空中戦を想定しますので」
「へいへい」
的確なる指示のミラだ。間違いはないだろう。でも経験値が尽きたけどな!
素直に聞くランピーチの姿は攻略サイトを見て行動するかの如し。ボスに顎で使われる小悪党のようでもあります。
「親分、早く乗って〜。港でもお友だちが待ってるうさよ」
「このマイクはターミナルにも共有されていたのかよ」
苦笑気味にランピーチも無重力空間を泳いで、ライオンラビットのハッチから中に入る。ブリッジに到達すると、まさにアニメの宇宙船のように半円形型のブリッジで階段状に段々が作られてオペレーターたちのデスクが備え付けられていた。既にエンジンは稼働しているようで、半円モニターが前面の隔壁を映している。
ランピーチも椅子に座り、膝の上にコウメを乗せる。コウメはワクワクと目を輝かせて、周りをキョロキョロと見渡していた。
「システムオールグリーン。ライオンラビット発進うさ!」
「え、隔壁が開いたら空気が宇宙空間に吸い出されないか?」
「大丈夫ですよ。制御システムで、このドックは守られているので、展開されているフィールドの一ミリ先が真空でも、空気は残りますし、害のある紫外線や放射線はシャットアウトされます」
「うへぇ、想像するのも難しい技術力だなぁ。こんな技術力があるのに俺っているの?」
「今は中古のテレビみたいなものですが、やがて必要になります。早く強くなるために最善を尽くしますので、覚悟しておいてください」
「そうそう、ソルジャーが強くならなかったら、私たちは終わりなんだし。そろそろ後戻りできない分岐点に到達するはずだしね」
「思わせぶりな科白をありがとうよ」
肝心なことは教えてくれないサポートキャラたちに嘆息しつつ、モニターを眺める。前世でも無理だった宇宙に飛び出すと聞いて内心ワクワクしているのだ。
ほとんど震動がないので、遊園地のアトラクションよりもつまらないなと、すぐにがっかりするが。
「港に到着したうさ。補給開始します」
「残りの搭乗員を乗せるうさ」
オペレーターうさぎの報告に提督うさぎがコクリと頷き、ライオンラビットは宇宙港に到達するとチューブ型の搭乗橋とドッキングする。
そして、どやどやと少女たちが入ってきて、一気に騒がしくなった。
「えーと、ラン、こ、ここに乗って良いのでしょうか?」
「ドライはこの椅子に座るね」
「義兄さん、こんな船まで乗れるほどに出世したんですね……正直殴っても良いかな?」
大人しく、いや、とりあえず椅子に座ってくれたチヒロ、ドライ、ノノ。それぞれ引いていたり、楽しそうだったり、仕送りしろよと怒りの眼差しだったりするが。
「うわぁ、宇宙船だよ、宇宙船! 私はこれが夢だったんだ。えーと、このボタンを押せば発進?」
「むむむ、ここに地下街区の未知の技術が! なぁ、エンジンルームに見学に行っても良いだろうか? なにも触らないと誓うからさ」
興奮してちっとも座る気のない灯花と真奈である。二人にとっては夢の世界なのだろう。
「少女たちばかりでハーレムに見えるはずなのに、生徒を引率する先生にしか見えませんね」
「言われなくてもわかってまーす」
常にランピーチをディスる隙を狙うミラである。そうだよね、ここで恋愛的な感情を持ってるのは、多分チヒロだけだからな! わかってるよ、泣いても良いかな?
「慣熟航行は地球を一周するうさ」
「その椅子代わってくれないかな、オペレーターちゃん」
「ダメうさよ、スイッチ押すの禁止うさぁ〜」
「おい、灯花やめなさい。コウメ、灯花おねーちゃんの膝の上に乗ってあげなさい」
オペレーターうさぎの椅子を奪おうとする灯花である。きっと灯花にとってはうさぎの群れに入れた狼の気分なのだろう。即ち、ろくなことをしない。
コウメが素直に灯花の膝の上に乗ると、諦めて落ち着く。なんか灯花は自爆スイッチも面白そうだと押しそうな気がするんだよなぁ。
「あー、地球が見えてきたよ。うん、地球は賽の目だった!」
「本当です。地球ってこんな形してたんですね」
「おー、感動する! 豆腐の味噌汁飲みたくなってきた」
「あれ、惑星って球体じゃなかったっけ? あたしの記憶違い?」
「ほほぉ〜、だからテレポートポータルを使わないと、世界を旅することができなかったんだね。これはすごい発見だ」
少女たちが声を上げて驚くが、その言葉のとおりで、地球は球体であるが賽の目に数万のブロックとして分かたれていた。一辺が千キロほどだろうか? 正立方体であり、大きさはよくわからないが、不思議なことにそれでも雲や海もあり居住可能のようだ。どういうこと?
たしかにゲームではエリア外に行こうとすると見えない壁があって進めなかった。それが現実だと実際にエリアごとに分断されてるなんて、非常に驚きだ。
『『悪魔戦争』、いえ、『精霊戦争』の跡です。結局次元断を行い各地を封印するしかありませんでした』
静かな瞳で、地球を眺めて淡々と口にするミラ。次元断? なにやら面白そうな話である。ワクワクとしてランピーチはミラに期待の目を向けちゃう。
『その心は?』
『びっくりな地球を見れて良かったですねというところです。それよりもデモンシードとの戦争はどうなると思います?』
『うーん、鎧塚も勝算があるんじゃないのかな。そうじゃなかったら、アホだろ』
秘密主義のミラへと軽く息を吐いてジト目で答える。教える気ゼロの少女め!
『そうですね、私も単体との戦闘なら勝てると計算を修正します。ですが、デモンシードの厄介さは単体ではないんです。数日眺めていればわかります』
そう言うミラの言う通り、国軍は初日は圧倒するが━━━。




