117話 再会と小悪党
どうやらランピーチには妹がいた模様。
『朱光ノノを助けよう! レベル2』
昨日、短剣を持った危ない男子生徒から助けたのは善意からではない。いや、助けようとは思っていたが、半分はクエストが発生したからだった。お陰様で経験値10000を取得できたのだが━━━。
「こちら、あたしの義兄さんで、朱光新です」
「よろしくお願いするよ。僕の名前は楯野真奈。一応魔法使いの中では若いなりに頭が良いと噂されてるんだ」
ハーフアップで緑髪を纏めている美少女が、ランピーチを白衣の少女に紹介していた。馴れ馴れしいというか、慣れている態度で、直感で家族なのではと悟る。
『ソルジャーのことを兄さんって呼んでるしね』
『そうなんだよ。ランピーチ・コーザって、あまりにも酷い名前だと思ってはいたけど、偽名だったのか。ゲームの世界ならではの名前だと思って深く考えなかったぜ』
もしかしなくても、家族っぽい。冷たい態度だが、そこには『駄目な家族を世話しなきゃ』という愛情らしいものも感じたからだ。というか、ハーフアップの少女は自己紹介してこない。
もう一人の白衣の少女は自己紹介をして、握手を求めてきた。ニマニマと好奇心を瞳に宿し、ランピーチを実験体でもみるかのようだ。
『まずい、サポートキャラよ、俺の本名を教えてくれ!』
危機的状況を回避するため助けを求める。 驚きで妹の紹介は聞き逃していた小悪党である。
『ランピーチ・コーザでしょ?』
一人目の少女はサポートキャラではないことはわかりました。コテリと小首を傾げて、ランピーチの首に手を巻きつけてくるので、別に気にしません。もっと俺の頬に胸を押し付けてくれて良いよ?
『朱光新という名前が本名です、プーさん。まさかあんなへんてこな名前が本名だとは思ってはいなかったと思いますが、小悪党に相応しいので、これからもランピーチ・コーザと名乗りましょう』
二人目は頼れるサポートキャラでした。凛々しい顔で、あっさりと教えてくれた。もちろん毒舌つきだ。ここがどこもかしこも柔らかい一人目を優先するところなんだよな。
『目の前の少女は朱光ノノ。後妻の連れ子で血が繋がっていない義妹というプーさんの大好物の存在ですね。よだれを垂らして、お風呂に入ろうかと言ってあげれば好感度が爆上がりするでしょう』
地上街区のデータバンクに侵入し、人々の噂話から監視カメラに映る過去の履歴、あらゆる情報を集めて、ミラは推測にて補足した内容を教えてくれる。
『義妹………そんな奇跡の存在がランピーチにいたとは! というか、俺の好感度をマイナスにさせようとしないでくれる? たしかに義妹って憧れるけど。それよりも疑われないような素振りをしないといけないぜ』
『だから、お風呂に入ろうとのセリフで良いと思うんです。どうやら新は子供の頃に少し優しかったことをネタに、金をせびりに何回も会っていたようなので、下衆な行動をすればバレないはずです』
『金をせびりに行くのと、お風呂を一緒に入るのは、下衆の意味が変わりすぎてるだろ』
役に立たない助言だなと諦めるが、金をせびりに行くくらいに下衆な行動をする自信はあるぞと、内心でニマリと嗤う。全然自慢にならない自信だ。
「どうも。え~と真奈さんだっけか、よろしくな。それよりも久しぶりだな、ノノ。シカトをしていたのに、なんのつもりだ?」
ランピーチは以前のランピーチの演技にチャレンジすることを決めた。止めておいた方が良いと思われるが、チャレンジすることとした。
(アニメや小説で、こーゆーパターンは腐る程見てる! あれだろ、劇場版のいじめっ子のようにすればいいんだろ?)
謎の自信を見せて、ノノへと告げると、彼女はキッと睨んでくるが、違和感を見せなかった。
「義兄さんは随分立派になったみたいね!」
「立派にバイトしてるだろ?」
「昨日はビール飲んでたじゃない! 見るからに小悪党で恥ずかしかったんだから!」
どうやら、ランピーチの様子はバレていたらしい。憎しみを込めた、いや、羞恥の感情を込めて睨んでくる。当然といえば当然だろう。
ランピーチも家族がバイトで同僚に偉そうにして働いていなかったら、他人のふりをします。
「あれは、だな、うん、海よりも高く、山よりも深い事情があってだな………」
(ヤバい! まさかこんなペナルティがあったとは! こんなことなら真面目に働くんだった!)
『今更だけど、記憶が無いふりをした方が良いかな? 憑依した別人だとバレたらヤバくない?』
『憑依? あぁ〜………そっかぁ』
そっぽを向くと、ピーピーと口笛を吹くライブラ。ド下手すぎる誤魔化し方だ。
『そんなことを気にすると禿げますよ? 大丈夫です。別人だとはバレませんから』
そして、冷たい目を向けるミラ。二人して、何かを隠していそうだけど、教えてくれる気はなさそうだ。
(………憑依した別人じゃなくて、前世の記憶によって自我が上書きされた存在とでもいうのか? あり得る話か。そーゆー話は小説などでたくさん読んできたから納得はできるけど……)
二人の様子から、なにか違う感じがするんだよなぁ。
(まぁ、遅かれ早かれ、いつかは教えてくれるだろ。それよりも、今をなんとかしないとな)
僅か数秒で思考を終えると、ランピーチはノノへとニヤリと笑みを浮かべて、ペシと頭を叩く。
「俺は力を手に入れたんだ。とてつもない力だ。バイトの最中にビールを飲めるほどにな」
力に溺れた義兄を演じるランピーチだ。たぶん家出したのは、没落した家門を復興させるどころか、才能がないため、絶望したからだと推測したのである。
こーゆー場合は久しぶりに会った義兄は異常な力を手に入れて、性格が変わり果てたパターンが多いんだと、小説やらアニメを参考にする小悪党ランピーチ・コーザ。
バイト中にビールを飲めるくらいの力というのはかなりしょぼいが小悪党にピッタリかもしれない。
ひょぉぉと、息を吸い込み、ふざけないでと、怒鳴ろうとするノノだが━━━。
「その話は聞いてるよ。どうやら上手い交渉をしたみたいじゃないか、地下街区と交渉したんだよね? いやはや、地上街区の誰よりも優秀なネゴシエーターだよ。今は地下街区の任務をこなしているんだよね? 素晴らしいコーディネーターとも言えるだろう」
放っておかれた真奈が、ズイとノノを押しのけて、褒め称えるかのように口を挟む。ランピーチは殴って解決するネゴシエーターにして、遺伝子を調整した強化人間の模様。
「地下街区? さぁ、どうだろうな、俺はちょっとした伝手を使って、力をもらっただけだ」
真奈へとニヤニヤと小悪党スマイルを向けて、教える気はないと、適当にあしらうように手をひらひらと振る。
「ふふふ、古代遺跡を稼働させようと動き始めた途端に、エージェントがやってきて、偶然だとは思わないよ。僕が以前からランピーチ・コーザについて調査していなかったら、ただの小者だと誤魔化されただろうしね。なにせ、データバンクから閲覧したら、低レベル探索者の元締めのちょっとした小悪党としか分からなかったんだから」
「え? 義兄さんは地下街区と取引をしたんですか? だから、あんなに強くなったの? 大鼠にも苦戦していたのに?」
ノノが真奈のセリフに驚いて真奈に詰め寄ってくる。真奈はフフンと胸を張り、説明好きな博士のように教えてくる。
「そうさ。ある事件でランピーチ君の存在を知り、僕は足を使って、地道に情報を集めていたんだよ。なにせ完璧なセキュリティを持つデータバンクからは、なぜか有用な話は得られなかったからね。これでもフィールドワークは得意なんだ」
いくら電子の世界をミラが支配していても、現実で足を使われたら太刀打ちできない。しかもデータバンクが改竄されているとあれば疑いは確信に移るだろう。
「ふふ、地上街区の人間が歩いて情報を調べるとは思わなかったかい? ランピーチシティの話は広がっている。けど、不思議なことにこの現場では一切そんな話はなくて、君の名前も知られていなかった。電子データを誤魔化せば、バレないと考えるのは実に地下街区の考えらしい」
名探偵真奈が、まるっとお見通しよと、得意げに笑う。
『ブハッ、アハハ、この人は笑わせてくれますね。間違った推理をドヤ顔で話す人ほど滑稽な人はいませんから』
『コケコッコー、滑稽なコケコッコーだね!』
『可哀想だろ、やめなさい』
わかるけど。探偵物でよくいる間違った推理を見せる優秀と言う背景を持つ脇役探偵とかそんな感じ。
「まぁ、そこは勝手に想像してくれよ。それよりも俺は仕事をしないといけないんだ。ノノ、詳しい話は後でな」
いたたまれないから、地下街区、地下街区と得意げに言わないでください。もう、俺はバイトに戻るよと、離れようとすると、真奈はランピーチの腕を掴んで、むふふふと離さない。
「数日以内には稼働実験まで持っていこうと思うんだ。君にも立ち合いをお願いしたいんだけどどうだろうか?」
「俺になんのメリットがあるんだ? バイトの範疇を超えてると思うんだが?」
「なぜ地下街区のエージェントがここにいるのか? 調べるためだろ? 立ち会いができれば、任務も確実に行えるんじゃないかな?」
違います。ここではなく、もう一つの遺跡を調べに来たんです。
「ねぇねぇ、どうだろう? 良かったらお金も出すよ。1日一千万エレでどうだい?」
「い、一千万!」
軽い口調で、真奈は太っ腹なところを見せる。ノノはその金額の大きさに目を剥いて驚き、ランピーチは平静だ。一千万エレ程度ではランピーチを動かせない。
というか、拘束されるのはとても困る。そろそろ地下の遺跡を調べに行こうと思っていたのだ。
「悪いけど、俺は定時のバイトで」
「義兄さん、受けましょうっ! わかりました、受けます!」
お断りだと告げようとしたら、勢い込んでノノが話に加わる。
「義兄さん、うちは生活費だけでも、月に一千万エレはかかるんです! たまには仕送りしてください!」
脇腹をグリグリと肘でつついてくる。痛い上に、俺としては生活費の金額が驚きだ。
「没落しても、地上街区の生活費は桁が違うのな」
「真奈さん、この仕事引き受けます!」
「それは助かるよ。ありがとうノノ君」
生活費の大きさにドン引きするランピーチだが、ノノはしっかと真奈と握手をして引き受けてしまうのだった。




