115話 掃除と小悪党
見渡す限り石茨の残骸と、メデューサスネークやストーンイーターの死骸だらけとなっている光景。死屍累累という言葉がこれだけ相応しい光景はないだろう。
『恐怖、石化の罠! 人々を救え! をクリアしました。経験値15000取得』
『死者を0人に抑えました。ボーナスとして経験値5000取得』
ログを見て、ランピーチはククッと笑う。小悪党がほくそ笑む姿は、助けた人なのにこいつが犯人だと冤罪をかけられそうだ。
『予想以上に上手くいったな。サイキックブレードの新たなる世界が開いたぜ。サブクエストって、楽だし大好きだ』
『だねぇ、ビールにサイキックブレードを付与するなんて裏技よく思いついたね』
空となっているジョッキを見て、口に咥えたカリカリベーコンをカリカリと齧るライブラが感心したと褒めてくれる。半分呆れも入っているかもしれないが、ランピーチは気にしない。
そうなのだ。魔物が現れた時にランピーチはビールにサイキックブレードを付与した。できるかどうか賭けではあったが上手くいった。
カミソリみたいにしょぼい切れ味だったが、それはテレキネシスでリング状に固めて、猛回転させることで威力を大幅に上げることに成功したのだ。これからも色々と裏技的な方法は使えるだろうと他の超能力などの使い道を考えさせる方法だった。
『まぁ、ここで目立つわけにはいかないからな。普通のバイトなんだから大人しくしておかないと』
『石茨をだいぶ伐採もできたし、良いこと尽くめだったよね』
『あぁ、魔物も粗方倒したんだ。魔法を使ってももう大丈夫だから、あとは短期間で邪魔な草木を除草できるだろうよ』
フッとクールに笑い、おかわりをくれと部下にジョッキを渡すとサマーチェアに寝そべる。どこからどう見ても、ただのバイトにしか見えないだろう。
それにスケープゴートは作った。気絶した均をテレキネシスで操って、声はライブラが変声し、マリオネットのように操り、救世主ムーブをしたのだ。
「あれぇ……僕はなにをしてたんだっけ? 魔物が現れてから全然記憶が無いや」
タイミングよく均が目を覚まして、周りをキョロキョロと見渡して頭を掻く。
「お前、力を隠してたのか。助かったぜ均」
「あの……寝ていたと思うんですけど?」
「寝たように敵を倒すとは、これからは眠りの均と呼ばせてもらうぜ!」
「よっ、凄腕魔法使い、眠りの均」
「新たなる英雄を胴上げだ! わっしょいわっしょい!」
「神輿にちょうどいいよな! さすがは眠りの均!」
もふもふし隊が胴上げをして、均を褒め称える。奥ゆかしい均は自分の功績に威張ることなく、謙虚にオロオロとしていた。
「新たな英雄に乾杯」
『カンパーイ!』
その光景を見て、ライブラと乾杯するのは、ウヒヒと嗤うランピーチは小悪党です。周りは操られていただろと思ってはいるだろうが、噂というのは一人歩きするものだ。実際に目にしていなければ、活躍していたのは均なので、きっと操られていた部分は消えて、活躍しただけの話が広まるだろう。やったね、均。
というわけで、死屍累累の世界となった植物園で、定時まであと1時間くらいかなと、ランピーチはフワァとあくびをする。結構疲れたので、昼寝をしようかな。
魔物の死骸はせっせと生徒たちが回収し始めている。どうやらレベル3の魔物は高価らしく、体内の精霊石を懸命に集めていた。
ランピーチ的には、もうエレには興味はないし、レベル3の魔物のドロップアイテムなんかいらないので、ビールを飲んでウトウトし始める。
だが、男子の大声が聞こえて眠りは中断された。
「おら、これは俺が倒したんだよ。ハイエナしてんじゃねぇ!」
蔑みが混じる声だ。自分が上だと思っている傲慢さを隠さない感情が籠もっている。
「嘘ばっかり! これはあたしたちが倒したのよ。ここに殴ったあとがあるじゃない!」
「へこみ〜? こんなの後でいくらでも付けられるし、致命傷になるわけねぇだろ。それよりも俺の風刃が胴体を切り裂いているだろうが!」
「それこそ、後から死体に撃ち込んだんでしょ。死骸にばかり魔法をかけていたのは見てるんだがら。せこいと思わないわけ?」
一匹のストーンイーターを前に、男子生徒と女子生徒が怒鳴りあっていた。見ると、他のストーンイーターよりも体格が大きく、精霊石も一際大きい。
殴られた跡も風の刃で切り裂いた痕もあり、どちらが倒したのかはわかりにくいだろう。
『ありゃ、水掛け論だな。やだやだ、こういうところが、ゲームと違うところだよな』
『私ならハンター流の話し合いにシフトするんですけどね。あの男子の精霊鎧は高く売れそうです』
『ミラさんや、なんで獲物が男子になってるの?』
激しい言い合いをしている二人は、主張を収めることはない。どちらも譲り合うつもりはなさそうだ。そして、通信してくるミラは生粋のハンターです。
『クリシュナはなにやってるんだ? こういうの制止するのはプレイヤーにとっては大好物だろ』
β版と違いはあるが、トラブルはプレイヤーのご馳走なのだ。子供がスリをすれば、元締めの親分を叩きのめし、魔物に子供がさらわれれば、拠点を吹き飛ばし財宝を回収する。プレイヤーの正しい行動と言えよう。だからこそ、動くことのないクリシュナに疑問に思うが━━━。
「東光、お前来たタイミングが変じゃなかったか? タイミングを計ってただろ? 怪しいな、お前」
「クリシュナ、相変わらず君は俺にイチャモンをつけるんだね。なにか争いがあるみたいだから、急いで来たんだよ」
「完全装備でってか? 裏があるんだろ? 英雄ごっこでもしたいのか?」
「それは君じゃないか。率先して和を乱すのはさ」
「そーよ、そーよ、東光様にいつもいつも言いがかりをつけて!」
「モテナイからって、僻み根性がみっともないわ」
「貴方、裸の女の子を街中で連れ回した変態だって知ってるんだからね! この変態!」
「あれは違うんだよ。助けたんだ。最初から裸だったんだ!」
金持ちっぽい二枚目の男児率いるハーレムパーティと言い争いをしていた。というか、ハーレムパーティに言い負けそうで涙目だ。
『だめだありゃ。雷の主人公と言い争いをしてるじゃねーか』
『雷の主人公?』
ライブラがコテリと小首を傾げて不思議そうにするので教えてやる。
『あぁ、裏で色々と動く腹黒い主人公なんだが……クリシュナは設定を知っているから、今回の事件の黒幕ではと怪しんでるんだ。そして、たぶんその推測は当たってる』
『でも証拠がないと。なるほど、ゲームの知識があると、こんなところで落とし穴があるんですね。人生落とし穴のプーさんの言葉は含蓄があります』
常に一言多いミラさんなんだけど、彼女は毒を吐かないと生きていけないのかな?
『そっか、犯人がわかってるって、もどかしいもんね。でも、あのアプローチはないと思うなぁ』
『まぁ、あれは放置でいいだろ。今の俺たちが絡む必要はない』
精々、場をかき乱して今後のストーリーの伏線となってくれと言い争いをしている二人へと視線を戻す。
いよいよヒートアップして、二人は火花を散らし喧嘩になりそうな雰囲気だ。女子生徒の友だちたちは不安げであるが止めようとしていない。
「はっ、没落した朱光家の力でこのストーンイーターが倒せるわけねぇだろ。それともなにか、俺と戦ってみるか? そのしょぼいナックルと安い精霊鎧でよ。この貧乏人が!」
「くっ、馬鹿にして! 良いわよ、やってあげようじゃない。ボコボコにされてから、泣いて謝るのね!」
男子生徒が透き通るような半透明の短剣を構えて、自分の身体に精霊障壁を展開する。どうやら制服の下に着込むインナースーツタイプのようだ。
たいして少女も精霊障壁を展開することもなく、篭手を構えるがその魔力は頼りなさそうで、明らかに性能の違いがわかる。
「うひゃひゃ、お前のすました顔にひわいな言葉を刻んでやるぜ!」
「それはこちらのセリフよ!」
二人の魔力が風を巻き起こして、砂煙が巻き起こる。髪型や顔立ちは大人しそうなのに非情に喧嘩っ早い少女の模様。
「ぶん殴ってやる!」
『強拳』
床を踏み込むと、前傾姿勢となり、魔力で覆った拳で男子生徒に殴りかかる少女。たいして男子生徒は余裕の笑みだ。
「遅えっ!」
『風歩法』
風魔法が得意なのだろう、せせら笑いを見せて、拳が命中する寸前で男子生徒の体がぶれてかわされる。
「くっ、その程度で」
『ラッシュ』
追いかける少女が左右と連撃を繰り出す。その構えは綺麗なもので、努力したことを思わせる拳撃だ。
「ひゃひゃひゃ、遅えっ遅えっ」
『倍速』
だが、男子生徒はステップを踏み、わざとらしく寸前で躱していき嘲笑う。その動きは速く、少女の動きではまったくついていけていない。通常の精霊鎧は身体能力を人間を超えた値に固定化させ強化させる。そのため、高価であれば高価なほど装備した者は強い。
「精霊鎧の性能がダンチなんだよ! 基本性能が雲泥の差なのに当たるわけねぇだろ。ほら、顔に楽しい落書きの時間だぁっ!」
少女の横へと滑るように移動すると、醜悪な笑みで短剣で少女の顔に斬りかかる。圧倒的な早さを以てして、甚振ろうと口元を歪めている。
そうして、短剣が目前に迫り、躱すことができずに、少女が悔しそうに顔を歪めて━━━。
目前で短剣はピタリと止められた。二本の指で摘まれて。短剣を摘んだのはランピーチだ。ふらりと二人の間に移動して、少女を守ったのだ。
「洒落にならないと思うぜ、小僧」
やれやれと肩を竦めると、男子生徒は素早く後ろに下がると、激昂して怒鳴る。
「なっ、なんだてめぇは! 邪魔すんな」
「女の子の顔に短剣で斬りかかるとか普通に止めるだろ。お前、馬鹿なの?」
「ちっ、その格好は雑魚探索者だな。後悔しろよ! 腕を切ってやる!」
『ツインウィンドブレード』
二本の風の刃を生み出すと、男子生徒は躊躇うことなく放つ。その威力はたしかに精霊鎧を着ていない星1程度なら、あっさりと腕を切断できる魔力が決められていた。
「昨今の学生ってのは怖いね。これが切れる子供ってやつか?」
だが、ランピーチにはもはやその程度では通じない。軽く腕を振るうだけで触れた風の刃はあっさりとそよ風に変わる。
「なっ!? こ、こいつ、見た目通りじゃねぇのか!」
『倍速』
男子生徒が驚きながらも加速して間合いを詰めてくる。コンパクトな突きを繰り出し、ランピーチを攻撃する。
「そこら辺にいるハンターだ」
人差し指を突き出して、ランピーチは短剣の先端をちょんとつつくと、押し留める。
「このクソ野郎!」
『風刃乱撃』
瞬時に男子生徒が風の刃を短剣に纏わせて、高速の乱撃を繰り出す。袈裟斬りから突き、切り返しから振り上げて、高速の連撃にてランピーチを切り刻もうとする。
だが、ランピーチは人差し指で全ての攻撃を防ぐ。まるで予知のように攻撃先に人差し指を掲げて、弾き返す。風の刃を纏った短剣はたとえ魔鉄でも切り裂けるはずなのに、人差し指には切り傷一つ入らない。
その光景にじわじわと顔を恐怖で青ざめさせる男子生徒。
「傷も入らないなんて………星5だってそんなことは無理なはず。て、てめぇ、なんなんだ、なんなんだ!」
「今日はバイトのハンター、ランピーチ・コーザだ」
攻撃が通じずに、よろけて後退る男子生徒の額に指をつける。
「まぁ、たまにはこんなベタベタなイベントも良いもんだ」
「グヘラッ」
ピンとデコピンを食らわして、精霊障壁を破壊して、男子生徒を吹き飛ばす。その衝撃で白目を剥き、男子生徒は倒れて気絶するのだった。
「大丈夫だったかいお爺さん?」
クールなるかっこいい小悪党を見せようと、お嬢さんとお爺さんを言い間違えるランピーチ。そのかっこいい姿に少女は惚れたわと頰を赤くしていると思っていたら━━━。
なぜか憎しみを込めた目を向けてきていた。
「義兄さん、その力はどうしたんですか?」
なにか予想していないセリフが返ってくるのだった。
『プーさん、なんで、ドヤ顔で隠していた力を見せるんですか? アホですか?』
これは予想していました。ごめんよ、だってクエストが発生したんだもん。




