108話 ダンジョンと小悪党
「よくよく考えると、ランを監視するために付けられた人工精霊ですものね。心が海のように広い恋人の私は浮気ではないということにしておきますね」
「あ、あぁ、ありがとう………」
なにやら威圧感を感じる小悪党。その者の名はランピーチ。名前など覚えなくても良いそこらにいるただのチンピラだ。見かけはだが。
今は浮気を責められて、小悪党はミミを顔の前に掲げて誤魔化そうとしていた。手段がしょぼすぎるランピーチだ。ミミはきゅーきゅー鳴いて、眠いようと寝ようとしていた。
「とりあえずは、ハンターギルドの用意をしないといけないだろ? ほら、ハンターギルドにダンジョンを設置させるというやつだ」
「そういえば、そんなことを言ってました。でも、ライブラがランの腕にしがみつく理由にはならないと思うんです」
「あまり気にしないでよ。心を開いてもらうのも仕事だからさ」
「それじゃ、反対側は私がしがみつき………むむむむ」
ランピーチの腕にしがみついてくるチヒロだが、ライブラはむにゅんと胸を歪ませているのに、自分はストンとまったく変わらないので悔しげに唇を噛む。両者の戦闘力は見た目で判断がつく模様。
「チヒロが抱きついてくれて俺は嬉しいから」
「! そうですか! そうですよね!」
パアッと明るい笑顔になる嬉しそうなチヒロ。ランピーチはその様子に安心する。ちなみにフォローではない。本心からだ。
アニメとかで主人公が貧乳ヒロインへと抱きつかれても、全然嬉しくないとか妄言を吐くがあれは嘘である。美少女が腕に抱きついてくれるだけで男はご褒美なのだ。それに柔らかさは少し感じるし、それがまた嬉しかったりするのだ。
まぁ、あった方がますます嬉しいけど、それは松阪牛のヒレとサーロインのどちらが美味いかという話みたいなもんです。
「ピーチお兄ちゃんは大変。私は一歩下がっておく」
面倒そうだと顔に出して、ランピーチを奪い合う争いに参加しないドライである。
とはいえ、一行はテレポートポータルルームへと向かうのだった。
「コウメはパパしゃんにかたぐるましてもりゃうの!」
「きゅー」
コウメとミミに肩車することになりました。
◇
ハンターギルドの隣に設置したテレポートポータルルームはなにもない。後からテレポートポータルを置くようにしてあるだけで、マイルームへのテレポートポータルは別の部屋だ。
ガランとして、コンクリート打ちっぱなしの部屋に途中で合流したセイジと一行は一緒に入る。
また何かあるのかと、目敏いやつは、いや普通に野次馬が後ろからてくてくとついてきている。
「何を今度はやるんだ?」
「きっとお祭りだと思うわ」
「屋台の準備をしておいたほうがいいかな?」
と、ランピーチの日頃の行いがわかるおしゃべりを野次馬はしていたりする。まったくランピーチは恐れられていない模様。たぶんブレーメンの音楽隊のように、幼女を肩車して、その幼女の頭にちょこんとうさぎが乗っかっているからかもしれない。
「ですが、助かりましたよ。ランピーチシティ地区もかなり広くなりました。もはや小さな農場だけではやっていけなくなっていたんです」
歩きながら安心した顔のセイジが話しかけてくる。ランピーチならなんとかしてくれると、いや、地下街区の実験でなんとかしてくれると思っているのは明らかだ。少し信頼しすぎではなかろうか。
セイジとしても、卵に鶏肉や作物と、天然物は高くは売れるが少量のため、そろそろきつくなってきたので相談しようと考えていたのだ。うさぎたちが稼いでいる『夢の島精霊区モドキ』のドロップアイテムを入れてもである。
「そこまでランピーチ地区を広くしないでいいんじゃないか? 居住者が増えて仕事が減ってきているってことだろ?」
「私もそう思ってきたのですが………」
言い辛そうにセイジが窓の外へと顔を向けると、外には歩兵輸送用重装甲車雪うさぎが駐車しているのが見えて━━━。
「うっさー、今日は北東のスラム街を親分のものにするうさー!」
「ヒャッハー、ついていきますぜ、テテ様!」
「逆らう奴らに見せてやりましょう」
「てーて、てーて!」
と、荒くれ者を屋根に乗せて、提督うさぎのテテが帽子を触りながらぴょんぴょん跳びはねていた。尻尾をフリフリ、お鼻をスンスン鳴らして絶好調だ。そうして、ブロロとエンジン音をたてて出発していく。
「ランピーチさんに命令されていた地域を制圧後、うさぎ好きたちをまとめて、各地のチームを潰してどんどんランピーチ地区を拡大しているんです………。制圧された地区の住人はこのランピーチマンションの近くのビルに引っ越ししてきて、仕事を欲しがっておりまして………」
「なるほど。タギョウ隊を放置しておくべきじゃなかったのか。にしても、うさぎ好きとは、あまり害のありそうな連中じゃないよな」
提督うさぎだけは他のうさぎたちとは違って好戦的なんだよなぁ。他の奴らは隙あらばさぼろうとするのに。
「まぁ、任せておけよ。今度は初心者ハンターも使えるダンジョンを用意するからさ」
がらんとしたテレポートポータル室に入り、ランピーチはクククと怪しく笑う。そうして、コマンドを表示させてポチポチと。
「さて、それではテレポートポータルを設置する」
ミラを雇用して新たに増えた仕様は『ダンジョン生成』。レベルによって必要経験値が増えるが、今回は問題ない。
『浅海の島:レベル1。3階層:経験値1000』
「これだな」
ダンジョンカタログを見て、安いのがないかと探して見つけたフリーダンジョン。
パアッと床が光るとミニストーンヘンジのような機器が転送されてきて、魔法陣が形成される。おぉ、と皆が驚く中でサプライズは成功だねと、内心でドヤ顔になって、ランピーチはテレポートポータルの中に移動する。
皆も一緒についてきて、テレポートによる光を眩しいと目を細めて防ぎ、次の瞬間には浜辺に移動していた。ザザンと波が起こるのが見えて、海はエメラルドグリーンで透き通っている。天井は雲一つ無い青空で、湿度が低いため潮風はベタつかず、日差しはとても気持ち良い。
「ラン、ここはなんですか? 大きな水溜まりがあります!」
「うん、なにこれ? プール?」
二人のセリフに感動してしまう。まさか素でそのセリフを耳にすることがあるとは思わなかったよ。
「……なんで、目頭を押さえてるんですか、ラン?」
「いや、なんか嬉しくて」
感動に浸るランピーチに、胡乱げな目を向けてくる二人だ。だが海を見たことのない二人と違い、セイジの反応は違った。
「これは………もしかして海ですか! 海のダンジョンは存在しないと噂されてるのですが!」
驚きながらランピーチに聞いてくるが、気にしないで良いよ。
「実際はあったんだよ。ここは一層がレベルゼロのコホン、星ゼロのモンスターが出て、2層目から星1相当のモンスターが出るんだ。即ち、この一層目は安全地帯に近い。そして、このダンジョンの一番の特徴はとても広く、そして半分以上のフィールドが海ってところだ」
波打ち際まで移動して、白波に手をつけるとひんやりと冷たい。
「そして、こういうのも釣れたりする」
『テレキネシス』
海面から魚がテレキネシスに掴まれて飛び出してくる。ぽいっと浜辺に置くと、ぴちぴち飛び跳ねてとても元気な魚だ。
「これなに?」
「…………平目」
気まずそうに答えるランピーチだが、ドライは知識がないから、ふーんで終わり。チヒロたちも同様だ。
『そんなところで平目なんか穫れるわけないのにね』
『しーっ。魚に詳しくないから誰もわからないよ』
ライブラさんはお口チャックね。
「とすると、ここでは海の魚が獲れるのですか!? 新鮮な魚が! 今ではモンスターが出現するからほとんどとれなくなったのに!」
「そうだ。アジにイワシ、サンマにマグロ、ヒラメにカレイ。伊勢海老にロブスター、烏賊やタコ。そして砂浜ではアサリなどがたくさん穫れる」
うん、普通は浜辺にいない生物だよ。でもゲームの世界は関係ないんだ。牧場を育てる物語と同じなんだ。本マグロやカツオの一本釣りも可能です。昆布も海苔も採れるのだ。
「す、すごいことですよ、これは! 新鮮な魚など、本当に一部の大金持ちしか食べられなかった代物です。それがここで簡単に獲れるというのですか?」
「あぁ、それに2層目、3層目のモンスターも弱い。初心者にはぴったりだろ?」
「漁師役のパーティーを作りましょう。入場料も取れますし、魚が大量に獲れるなら、この地区の特産物として、商人や探索者たちが大挙してやってくるでしょう、これから忙しくなりますよ! 私は急いで魚をとるためのメンバー集めと、売るための販路を用意しないといけないので、では失礼します」
ドヤ顔のランピーチに興奮気味に早口で告げてきて、セイジは足早に去っていく。これは、卵よりも遥かに儲かると呟いていた。
「そういえば、合成食料で魚ってあまり見ないもんな。まぁ、魚を食べることができなくなって長い時間が経過しているし無理ないか」
ダンジョン一覧を確認したときに考えたのは、『一般人が稼げるダンジョン』はどれなのかということだ。最初は鶏ばかり出るダンジョンとかを考えた。だが、この世界の海産物が希少なことを思い出し、この海の魚が獲れるダンジョンを選んたのだ。
「きゃー! パパしゃん、しょっぱいおみずだよ!」
「ミミの尻尾を魚がつついてくるよぉ」
好奇心旺盛のコウメが早くもミミと海水浴をして、元気いっぱいにはしゃぐ。
「よし、ガイ。今日はダンジョン開店初日だ。全員タダでの入場オーケーと伝えてこい」
「了解だべ。海産バーベキューだべな」
ガイがダンジョンの入口で声を掛けると、どっと人が入ってくる。
「多くの人がここの魚を食べれば、噂は一気に広まりますね」
「そうしたらハンターギルドも忙しくなるぞ。ランピーチ地区第二段階に突入だな」
寄り添ってくるチヒロへと笑顔を返しランピーチは優しい目をするのであった。
「海に入ったらスケスケになっちゃったよ、ソルジャー」
ライブラがアホなことを口走るが、顔を向けないだけの理性はありました。




