104話 魔力喰いと小悪党
二人の背中から生える触手は周囲の肉塊を取り込んでいく。壊れた培養カプセルだけではなく、壊れていないカプセルにも巻き付き破壊して、中身を取り出していく。
食べるとは少し違うようで、触れた箇所が境目が無くなり、侵食されていっている。同化という名前がぴったりだ。取り込まれた肉塊はゴキュンゴキュンと流れていき、二人の体に吸収されていく。
「ふひひひ、これは凄いぜぇぇ、首の骨が折れても、死にはしない。それどころかすぐに回復するんだからよぉ」
折れて傾く自身の首を両手で掴むと、正勝はゴキゴキと無理遣り元に戻し、最初から何もなかったかのようにニマニマと嗤う。小苅も吹き出した血を手で拭い、破裂した身体を元に戻す。
「見ましたかね? これぞ『精霊粉』を超えた物。私は『魔霊粉』と名付けました。無限の再生力と無限の魔力を持つ物です。革命的な代物です。これを発表すれば世界が私を褒め称える!」
「やれやれ、他の肉と融合する姿を見て称賛する者はいないと思うがね」
「ふん、どの世界でも偉大な発明を認め無い愚昧はいる。だが、この発明を欲しがるものは列をなすだろうよ」
狂気にして狂喜する小苅に、まぁ、そうだろうなと、内心で舌打ちする。こんな物でも不死性を持つとなれば、欲しがる人間は大勢いるだろう。その場合の生贄は魔物なら良いが、人間の可能性が高い。ひいてはスラム街の人間が餌にされる可能性が極めて高い。
「そうはいかないがな!」
タンと床を蹴り、ランピーチは二人へと攻撃を再開する。装備も剣聖の衣へとチェンジだ。
『エンチャントサイキック』
『サイキックボディ』
『剣聖』
目に見えぬ空間を歪ませる超常の力にて身体強化を行い、その動きは疾風の如し。
やはりまったく反応できない正勝の頭へと、鋭い踏み込みにて金属の床をへこませて、達人でも視認が難しい速さの拳……は止めて、BDの銃口をつけると引き金を引く。
タタタと銃声が響き、顔が穴だらけとなった正勝は仰け反り、倒れそうになるが踏み止まる。
「オ、オレヲコロスゥ」
口も砕けてろくに声は出せないのだろうが、言いたいことは理解できた。もはや肉片と代わり散らばっていくが、痛みを感じないようで、触手を振りかざして槍のようについてきた。その数は八本。どれも硬質化して、生半可な金属よりも硬度があり、鋭い先端は簡単に人間を串刺しにできそうだ。
「燃やし尽くすとどうなるのかな?」
ニヒルに笑みを浮かべて、ランピーチは身体を翻し、フレイムマグナムへと装備を変えて引き金を引く。炎の弾丸が触手を貫くと、燃え盛りあっさりと焦げて力を失う。
「ギャァァァ」
触手を破壊されるのはさすがに効いたのだろう。後退り悲鳴を上げる正勝。
「やりますな。だが、頭を使えばこのようにできるのです」
後ろから小苅が触手を向けてくるが、その先端に口が形成される。なんのつもりだと眉を顰めるランピーチに小苅は薄笑いを浮かべると、魔力を張り巡らせていく。
『エレメントナインマジック』
触手の口から魔法が放たれる。炎、氷、雷と様々な魔法だ。複数の魔法は交差して、ランピーチの周囲を埋めるように迫ってきた。
『ソルジャー、相手は触手に小さな脳を作成し、複数の思考を操れるようにしたみたい!』
戦闘となったので、姿を消してランピーチにしか見えなくなったライブラが教えてくれる。
『厄介だな!』
爆発が巻き起こり、ランピーチは爆煙の中に消える。その様子を見て小苅は優越感を丸出しに哄笑する。
「やったか! フハハハどうです? 取り込んだ魔力により威力が増大した魔法。そしてサブブレインを形成したことによる複数の魔法同時発動。どのような魔法使いも達成したことのない境地だ!」
「たしかに。なかなかやるじゃないか」
「むっ? まだ生きてたか?」
爆煙の中からの声に小苅が目を険しく変えて嗤うのを辞める。
「この程度では俺に傷をつけることは不可能ということだ」
爆煙が消えゆく中で姿を現したランピーチは、銀髪を腰まで伸ばし、いつもの小悪党ではなく、ちょっぴりだけかっこいいキャラへと変身していた。
『神霊融合』
『へへーん。ソルジャーと私の融合した体はその程度では効かないのさ。ようやく私が活躍するところだね!』
パンパンと埃をはたいて、ランピーチが余裕の強者のスタイルを見せて、ライブラが思念で得意げにする。最近人間臭くなりすぎて、役に立たないサポートキャラの面目躍如というところなのだろう。
『まぁ、スキルがなくても『宇宙図書館』の超演算能力があるから大いに助かるよ』
迫る魔法の数は普通ならば回避するのは無理だ。その威力もまともに受けたら大ダメージだと悟り、『神霊融合』を行い、その超演算能力にて魔法の軌道を予測、ダメージを最小限にするべく動いたのだった。
『槍田正勝:レベル6、『超再生』、『魔力喰い』』
『小苅博士:レベル7、『超再生』、『魔力喰い』』
『ピピピ、解析終了! かなりの強さだよ、ソルジャー』
『あぁ、そろそろ攻撃スキルを取らないと厳しいかもな』
タフな敵たちだ。倒すには一気呵成に高火力を叩き込まないと駄目だろう。
「ぬぉぉ、再生できる俺に敵はいねぇ」
頭を吹き飛ばされた正勝が早くも周りの肉塊を吸収して、首から生えるように頭を再生させていた。そうして、ニヤニヤと嫌な嗤いを見せて腰を屈める。
「ふひひ、魔法なんぞでちまちまダメージを与えなくても、簡単に倒せる方法があるんだよ!」
「ほう? なんなのか教えてほしいね」
「それはぁぁ、お前を捕まえて同化しちまえばいいんだよぉぉ!」
正勝の体が倍近くに膨れ上がり、ランピーチへと跳ねるように飛翔すると、両手を広げて飛びついてくる。
なるほど、皮膚が触れればその時点で相手を吸収できるということなのだろう。狭い室内に、間合いも近い。正勝ならばダメージを恐れなければ、抱きつくのは容易なことだ。
事実、ランピーチは完全に回避することは不可能で腕を掴まれてしまう。
「捕まえたぞぉぉ、お前の身体を同化して、して、して?」
正勝は触れた時点でランピーチの身体を同化できると考えていた。だが、普通に触れるだけで同化するべく細胞が侵食しようとしても、弾かれてしまう。
「悪いな、俺は特殊な呼吸法を使えるんだ。なので吸収はできない」
平然とした顔でランピーチは正勝の顔を掴むと、その圧倒的な筋力で空へと放り投げる。天井にぶつかりめり込む正勝へと冷酷なる殺意を撒き散らして、人差し指を向ける。
『超能力をレベル7まで取得。取得特技は『空間隔離』、『サイキックレーザー』だ』
『取得しました』
ランピーチは即座に特技を取得する。新たなる超能力の使い方が脳に書き込まれて、使用可能とする。
「まずは一人だな」
『空間隔離』
ピシッと正勝の周囲の空間が断絶されて封印される。
『サイキックレーザー』
空間隔離された正勝へと人差し指から極光が放たれる。純白の光線は人の腕程で、本来ならば貫通能力はあるがレーザーはレベル7にしては威力は低い。使い勝手の悪い超能力だと最初は言われていた。
「すぐにコンボで高火力が出るとわかったんだけどな」
レーザーが空間隔離された正勝を貫くと、そのまま空間隔離された壁を跳ね返っていく。ランピーチがレーザーを撃ち続けるとその光は隔離された空間の中で反射し無数の光の線となって飛び交い埋めていく。
『空間隔離とサイキックレーザーが発動し、融合技が発動しました』
『融合技:空間破壊』
「さよならだ、正勝」
「ウォォ、な、なんだこれ」
戸惑う正勝を無視して、空間隔離された内部が光だけとなり、正勝の身体は細胞一つ残さずに焼き尽くされて消えていくのであった。
空間隔離されたために、爆発もなく爆音もなく、静かではあるが圧倒的な火力を見せる必殺技。それが『融合技:空間破壊』だ。
「なんだと、そんな馬鹿な………。試作品とはいえ、『魔霊粉』を使用した人間をこれほどまでにあっさりと倒す? 有り得ん、あり得ない。あってはいけない!」
「現実を受け止めるのも、科学者には必要なことだと思うけどな」
あまりにもあっさりと正勝が倒されたことにより、呆然とする小苅だが、目の前の現実が信じられないようで、狂気に満ちた呟きをすると、憎しみを込めて睨んでくる。
「『魔霊粉』の初戦は華々しいものでなくてはならぬ! 貴様はここで絶対に死んでもらう!」
正勝のように飛び込むことはせずに、小苅は触手を展開させる。
『エレメントナインマジック』
再び魔法を唱えてくる触手たち。放つ寸前にランピーチは掻き消えるように突進して、小苅の間合いを詰める。魔法が放たれて、ランピーチへと肉薄するが、半身をずらして、首を傾けステップをし、全ての魔法を掻い潜る。この程度は超演算能力を持つランピーチには児戯にも等しい。
「くっ! なんという速さだ」
「君が遅すぎるのだよ」
両の手の平を揃えると、一瞬の呼気にて小苅の腹へと気を叩き込む。
『双手発勁』
「ブペラッ」
風船が破裂するかのように体に巡る衝撃波により破裂する小苅。肉片が周囲に飛び散り、小苅は激痛に呻くが、それでも極めて不死性の高い身体なので死ぬことはない。
だが、それはランピーチには予想内だ。すぐに人差し指を向けて封印をかけようとする。
「あばば、この程度で、や、殺られるか!」
ピシッと空間が隔離されて、小苅の命運は尽きたかと思えた。
「さ、サブブレイン形成!」
だがすんでのところで、肉体の一部を切り離し、本体はランピーチの『空間破壊』にて焼き尽くされる。
『ソルジャー、まだ少し残っているよ?』
『あぁ、残りも焼き尽くして……なにやってるんだ、あれ?』
僅かに残った肉片に小さな脳を形成し、小苅は死を逃れようとしていた。だが、小さな脳に全ての知識をコピーすることは不可能であり、もはや本能だけと言っても良い。
だが、その生存本能は生きており、現状ではランピーチを倒せないと自覚していた。そのために行ったのは、まだ残っている『魔霊粉』を吸収すること。そして、周りの全てを同化することだった。
「イキタイ、ワタシハイキノコルノダァ」
口を作り、引き出しに隠していた『魔霊粉』を吸収し、スライムのように周りを吸収して、一気に膨れ上がっていく。
「容量、用法は守らないといけなかったはずだけどな」
「コロスゥ! オマエハコロス」
肉塊が実験室を埋めていく。そして巨大なる肉のスライムと化した小苅は牙がゾロリと生えた口で大きく叫ぶのであった。




