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魔王と多分人類

作者: なじぇーるの人


 隆々と蜂起する山脈の上空を少女は飛んでいた。


 名前はパンジー。


 黒く長い髪は風に揺らされ、切長の目の中にある焦げ茶色の瞳は爛々としていた。


 彼女はいわゆる異世界転移者である。本来起きないはずであった事故により死亡し、転移する先を管理する神と呼ばれる者に詫びとしてスキルを貰った。そのスキルの一つが、自分や自分が許可した者のみ入る事ができる亜空間であった。


 その亜空間の広さは魔力の量に左右されており、本来の地球人であるならば、大体は牧場系のゲームをリアルに置き換えた時にありえそうな広さになっていた。


 基本的に地球人と呼ばれる様な存在はどこの世界線でも魔力が皆非常に強い。しかし、その地球や宇宙を覆う魔力の摩擦は非常に強く、大抵の人間は魔力を使えなかった。


 だが彼女の場合、いや、彼女の暮らした地球はその前提すらも壊していた。


 更にいうには、その宇宙は魔力の摩擦がさらに強かった。


 イレギュラーの宝庫だったのだ。


 ある日、彼女の住む地球の人間は宇宙人ラエームからの遺伝子をも変える特殊な電波を受け取った影響により魔法が使えるようになり、世界は混乱した。その後その電波を発信した星に勧誘され、その星が構成する国家ロコウルヒの一員となった。

 

 そしていつしか銀河はロコウルヒという名の一つの国家となった。


 パンジーが生まれるはるか前の話だ。


 その国では誰もが転移魔法を使え、無限に治癒魔法を使える。


 一部の種族ではあるが、俗に言うリスポーンと呼ばれるようなことも習得していた。


 ラエーム人はもちろん、地球人……パンジーの生きる時代ではパンゲアと呼ばれている星でも進化したのか、ちょくちょくと言う確立ではあるが、死んだはずの人間がどこかで蘇っている現象が報告されていた。



 まあ、それはそれとして、彼女は今、自らの魔力量に左右する空間に来ており、普段見ていた徹底的に区画整理された森ではなく、ありのままの姿の森に感激していた。


 パンジーは嬉しそうな表情で縦横無尽に森の中を飛びまわる。


 独り言も行っており、それは内容を見るにどこかにベリーでも有れば取るつもりのようである。

 



 ある日の魔王城の執務室。


 上質な皮で作られた椅子に座る魔王、イツトリは絹のように美しい漆黒の長い髪と、鮮やかな赤い瞳をしており、顔立ちは女性ならば、被虐心か嗜虐心を覚えぬ者はいないと言えるような、魔性を体現したような姿をしていた。


 彼は昨月魔王城に侵入した少女、パンジーに興味を持ち、彼女について考えていた。


 最初はパンジーをゲストにするつもりだったのだが彼女を王妃であるミリアーナが彼女を侍女にしたいと言い出したのだ。


 あの時ミリアーナがイツトリとパンジーの目を合わせたく無さそうにしていた。もしかしたら『興味』と言う言葉に不安になったからかもしれない。


 しかし、どこに魔王城の結界を紙のように破り玉座に侵入できる者、それも人間がいようか。興味を持たない方がおかしいだろう。養子にすることも考えている。


 できるのであればパンジーを彼女の仲間まとめてこの国に引き入れたい。


 それほどまでに彼女は無視できない存在であった。


 彼女が魔王城にきたあの日のことはパンジーがかつて暮らした世界で『ファーストコンタクト』と言えるものなのだろう。


 でも、イツトリにとっての『ファーストコンタクト』と言えるような衝撃はミリアーナと会ったあの日だ。


 まさかミリアーナに前世がしておりその前世が別の世界の人間だったとは。


 魔力や魔法の無い世界とは、想像もつかない。


 代わりに電気と言う、魔力の無い者が使う魔道具にセットする魔石のようなものがあるらしい。


 それはそれとして、誤解をしているらしい我が愛しのミリアーナに対して誤解は解いておきたい。今夜はそれを彼女に解らせようとか、若干煩悩に思考が寄っていった時に地響きが起きた。



 ギシギシと城が揺れ、魔王城を包む強固な結界が歪む。



 「……来たか」


 「只今」


 揺れが収まった瞬間に、額に紫の宝石をつけた骸骨のような生命体が跪いていた。


 全身をパンジーやミリアーナの言葉で言うと「ふるもっふ」と言える服装をしているのは彼の故郷の気温に起因するようだ。


 刺繍は彼が魔力にものを言わせて作ったものらしい。針を魔力で動かす際に滲み出た魔力は弱くはあるものの魔石の代わりにできるほどに刺繍に掛かっていた。



 彼の名は、トラリカン・アリンダ。パンジーと共に侵入してきた者なのだが、トラリカンはスケルトンとは何かが違っていると、一目見た時からイツトリを始めとする魔族は感じ取っていた。


 彼が当たり前のように使う転移も、魔族であろうとも高位の存在でのみ扱える魔法だ。ただのスケルトンやその類の魔族で出来る者がいれば既に有名になっていることだろう。


 まあ、たとえ使えたとしても魔王城には幾重にも結界があるため、無理やり結界を突き抜けて魔王城の中へ転移するなど普通は到底出来ないのだが。


 それは魔王とて同じだ。


 イツトリも人間の城であれば魔力の負担はかかるが高位魔族は結界のそれを無視して無理矢理転移できるのだが、魔王城の中を結界を無視して入るなど、彼を含めて不可能だ。それをトラリカンがハイキング程度の負担で転移できるなど、スケルトンでは無く、全く別の生命体であるからなのかも知れない。


 パンジーよりもかなり弱いことを自称していた彼ですらこれなのだ。なんとしてでも招きたい。


 「トラリカン、お前達を魔王城に正式に招きたいのだが」


 トラリカンは申し訳なさそうに顔を横に振り、「その言葉は非常に有難いですが、今は1人、まだ学生という身分の仲間がおりますので」と返した。


 「レックスのことか。あの者には専用の教師もつけよう。そうすれば、離れ離れになることもないであろう?」


 「どこで彼の存在を?」


 「忘れたのか。お前がよく分からない魔道具で彼を見せたであろう」


 「ああ!そう言えばそうでした」


 レックスは銀色の髪と青い瞳をした11歳の少年でまた、魔王にも引けを取らない美貌をしていた。


 彼は貴族の落胤で、幽閉されていたがある日家出をした。その後運良くパンジー達と出会って無ければ彼は今頃この世には居ないだろう。

 


 部下がパンジーと恋人になれなかった場合、魔王は彼をパンジーの恋人にさせるつもりだ。


 レックスの魔力は人間としては可笑しいと言えるほど高い。それでも魔族としてはまだ下級の領域なのだが。


 前提が人間の魔法使いと名乗れる者の魔力量は大体は最下級の魔族ほどの魔力といえば可笑しさはわかるだろう。どれだけ高くても下級の領域だ。


 よもやその量の魔力をそれをこの年で持っているとは。自壊していてもおかしくない。なぜ生きていると思えるほどだった。もしかしたら成長すると中級魔族の少ししたの量にもなれるかもしれない。


 彼につける教師はどんな者がいいだろうか。



 「人間の学校で魔力を暴走させるよりはこっちの方がいいと思ったのだが。ダメか?」


 魔族の魔力量であればレックスが魔力を暴走させたとしても止められるだろう。


 トラリカンは腕を組んで少し唸り、イツトリに「本人の確認をとらせて下さい。ちょっとお待ちを」と言い、イツトリですら戦慄する魔力の残滓を残して消えた。


 「待っ……」


 もしかしてなくても今、人間の城に向かったのか?


 「なんと……」


 人間の魔法学校は大丈夫だろうか?


 いや、あの時まで彼らはちゃんと人間の街に入ってくらしていたのだから大丈夫だろう。


 人間の国の身分証も持っていることを話していたから結界はちゃんと通っているに違いない。


 いやでも……。


 イツトリの頭の中に最悪の事態の光景が一瞬頭をよぎるが、彼はとてもじゃないがそれをできる性格ではないと思い、頭の中にある光景は霧散させた。



 その後はしばらく書類を片付けていたが、突然執務室のドアが開いた。



 「イツトリ様!パンジーが小瓶を……」


 ミリアーナは青い瞳を潤めかせて、イツトリに泣きついた。


 「どうしたのだレイア。なぜ泣いている」


 嫉妬で自作自演でもしたのかと、イツトリがだいぶ煩悩に占領されたことを考えていると、後ろからパンジーが入ってきた。


 「魔王様!ミリアーナ様の花瓶をダメにしてしまいました!」


 本当にダメにしているとは。そう思いながら、「分かった。直すから見せてみよ」と話しかける。


 「ありがとうございます!これなんですが……」


 そう言ってパンジーはイツトリ壊れた花瓶だったものを見せた。


 「……ア"ッ"」



 パンジーの手の中にあるものを見て、イツトリは白目をむいて倒れた。


 なぜなら彼女の手の中にあるものは、理解してはいけないものだったからだ。


 イツトリ達にとってゲテモノであるタコがパンジーが生きた世界で言うならばゆるキャラだと思えるほどの存在が、パンジーの手の中を離れる。


 ミリアーナは倒れたイツトリを介抱して叫んだ。


 「パンジー!パンジー!それを回収しなさい!見せないで!三途の川よりもみちゃいけないものが見える!もう二度と見たくない!」


 そんなミリアーナを見てパンジーは申し訳なさそうにして、その見てはいけないものをアイテムボックスにしまった。


 「申し訳ありません、ミリアーナ様。それなしてもさっきのはなんなんだったんでしょうか……」


 「こっちが聞きたいわよ!」


 「いや、私は普通に魔力を流して元通りにしようとしたんですよ?でもこの世界だとその量でも多すぎたみたいで……それっぽいものは作ります……」


 パンジーはそう言うと、呪文を唱えた。一言、「花瓶よ」と。


 どこからともなく現れた花瓶がパンジーの掌に収まった。

 

 「流石にそれとそっくりとまでは行きませんが、それっぽいものは出来ました」


 「……本当貴方、何もかもおかしいわ。常識が狂う」


 ミリアーナは花瓶をそう言って花瓶を受け取る。


 「それにしても、ミリアーナ様、さっき三途の川と言っていましたが、なんでパンゲアの古い言葉を?」


 そう言うパンジーにミリアーナは負けたように、自分は転生者だと語った。


 パンジーも身の上を語った。



 しばらくして、2人は意気投合していた。まあ、全く違う時代の人間だとはいえ、地球人同士だと仲間意識が生まれてもおかしくは無いだろう。


 「なるほどそうでしたか。だから三途の川と」


 「私はパンジーさんにびっくりしましたわ。銀河そのものが国となっている世界の人間だなんて……」




 イツトリが気がつき起き上がり見た光景は二人が意気投合してしゃべっている光景だった。


 そんな二人を見てイツトリは嬉しそうに微笑んだ。


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