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幸せな夢を壊しましょう  作者: 説那


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第二十四話 貴方の子

「私はおじい様かおばあ様を呼んでくるよ。」

 オクタヴィアンは、隣のエルネスティーネに告げると、身を翻して、白い部屋の奥の方へ走っていく。

 この夢の狭間には、彼らの祖父母がいるらしい。既に亡くなっているということなのかもしれない。

 エルネスティーネは私にぎゅっとしがみつく。そのぬくもりが、今なにもない私には心地よくて、なんとなく落ち着く。


「ありがとう。エルネスティーネ。私は大丈夫。」

 エルネスティーネは、私の言葉に花がほころぶような笑みを浮かべた。私は、彼女の顔をじっと見つめる。私と同じ青い瞳。彼女の顔は、以前私がカミュスの夢の中にいた時に、私が幼くなった時の顔に似ている気がする。

「私はエルでいいよ。お兄様はタヴィって呼んで。」

「わかったわ。エル。」


 しばらくすると、オクタヴィアンは一人の女性を伴って、私たちの元に戻ってきた。

 どう見ても女性は私とそれほど年は変わらないように見えた。少なくとも、おばあ様とは呼べない。

「あれ、泣きやんでるね。もう大丈夫なの?」

 オクタヴィアンは、私の近くまで来ると、私の顔を覗き込む。

「大丈夫。ありがとう。タヴィ。」

 私が礼を言うと、オクタヴィアンは嬉しそうに顔を緩める。そして私の背中にペトリと張り付いた。


「初めまして。」

 女性も私の前に座って、初対面の挨拶をする。肩より長いくらいのプラチナブロンドの髪に金色の瞳。ニコリと微笑む様子は、同性の私から見ても惚れ惚れする。

「私はリシテキアと申します。」

「リシテキア様・・もしかしてカミュスヤーナのお母様ですか?」

 私の言葉を聞いて、リシテキアは目を見開いた。


「私のことをご存じなのですか?」

「ユグレイティの館の資料庫で、近年の家系図は目を通していましたので。確か、カミュスヤーナをエステンダッシュ領に逃す咎で処刑されたと・・。」

 リシテキアは私の言葉を笑って否定した。

「本当は、カミュスヤーナを逃す時に、致命傷を負ってしまったのです。処刑されたわけではないわ。」

 きっと、あの人がそう装ったのでしょう。と言う。


「お会いできたのはとても嬉しいけど、なぜ貴方はここにいるのかしら?生きている人は来られないはずなのに・・。」

 リシテキアは、2人の子どもにまとわりつかれている私をしげしげと眺めた後、軽く頷いた。そして、私の背中に寄りかかっているオクタヴィアンに声をかける。

「貴方が手を貸したのでしょう?オクタヴィアン。」

 リシテキアの言葉に、オクタヴィアンは、その顔をいたずらが見つかったのを咎められたといったようにしかめた。

「気づかれたか。」

「どういうこと?」


 私がオクタヴィアンに問いかけると、彼は私に背中からぎゅっと抱き着いて答えた。

「だって、真っ暗な中迷子になっていたから。このままだと危ないと思って、ここに連れてきたんだ。」

「そう。虚夢の中を漂っていたのね。」

 リシテキアが軽く頷く。私は今までの経緯を簡単にリシテキアに話した。彼女はその話を聞いて、心配そうに告げる。

「カミュスヤーナを助けるために無理をしましたね。彼が自分の暴走を防ぐために、溢れそうになっていた魔力を使って夢を壊したので、そのために貴方は虚夢と呼ばれる空間の中を漂うことになったのです。オクタヴィアンはそれに気づいて、貴方を助けたのでしょう。貴方が目覚めないと、彼も彼女も消えてしまうことになりますから。」


「消える?なぜですか?」

「その子たちは、貴方とカミュスヤーナの子よ。産まれるまで、ここで待っているの。貴方が虚夢の中にいる限り、貴方は目覚めないから、2人が産まれることはなくなるわ。だから、消えてしまうことになったでしょう。」

「そんな・・。私はそんなつもりではなかったの。ごめんなさい。タヴィ、エル。」

 2人は私の謝罪を聞いても、キョトンとした顔をしている。

「私は、母上に会えたから、嬉しいけど。」

「私も。お母様に会えてうれしい。」

 2人はそう言って、私の身体にしがみついた。私はまた泣きそうになって、唇を噛みしめる。


「もう、それくらいで解放してやったらどうだ?リシテキア。」

 私たちの会話を断つように、男性の声が響いた。床に座り込んでいる私たちの隣に、一人の男性がふわりと降り立つ。

「あら、珍しいわね。マクシミリアン。」

「いい加減にしないと、カミュスヤーナが彼女を取り戻そうと乗り込んでくる。」

 マクシミリアン。たしか、カミュスヤーナの父親であるユグレイティの地を治めた元魔王の名。金色の髪に、赤い瞳。カミュスヤーナに似た顔で年齢は私達とあまり変わらないように見える。彼は、私の姿を見つめると、ふいっと視線をそらした。

「そうね。あの子が心配するわね。」

 リシテキアはその場で立ち上がった。私もつられたようにその場に立ち上がる。背中に張り付いていたオクタヴィアンは、私の横に立って、私の手を握った。エルネスティーネは、私の腰にしがみついて、額をこすりつけている。


 私の顔に空から降ってきた雫が当たる。

「雨・・?」

 白い部屋の中に、霧雨が降ってきた。

 リシテキアはそれを、顔を上げて受け止める。そして、優しく顔を緩ませて笑った。

「あの子が泣いているわ。早く帰ってあげて。テラスティーネ。」

「は、はい。」

「母上。私は貴方に呼ばれるのをここで待っています。父上によろしくお伝えください。」

「ありがとう。タヴィ。」

 私が彼の水色の頭を撫でると、彼は嬉しそうに微笑んだ後、私から離れて、リシテキアの隣に立った。


 リシテキアは、エルネスティーネに向かって手を伸ばす。エルネスティーネはいやいやをするように、私の腰に額をこすりつける。私はエルネスティーネのプラチナブロンドの髪をそっと撫でた。エルネスティーネは、はじかれた様に顔を上げ、涙をたたえた青い瞳で私を見上げる。


「すぐに会えるわ。エル。」

「お母様。」

「だから、心配せずに待っていて。」

 エルネスティーネは、ぎこちない笑みを浮かべると、名残惜しそうに私から身体を離し、リシテキアと手をつないだ。

 リシテキアの隣に立っていたマクシミリアンが、私に向かって手をかざす。

「テラスティーネ。カミュスヤーナとエンダーンによろしく伝えてくれ。」

「はい!」

 マクシミリアンが手を下から上に向かって振り上げた。それと共にふわっと身体が浮き上がる感触があり、瞬きした私の目に映ったのは、涙をたたえた赤い瞳だった。

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