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【一般】現代恋愛短編集

ハンバーガーショップでバイトしたら知り合いの変態女子達が押し寄せて来てスマイル以上の事を注文したのでノリノリで対応してみた

作者: マノイ

「バイトっすか?」

「そう、お願い!一日だけで良いから!」

「でもうちの高校バイト禁止ですし」

「そこはほら、実家の手伝い的な感じで誤魔化してさ」

「実家って、流石に無理がありますよ」

「怒られたら私がフォローするから!ね、お願ーい!」


 顔の前で手を合わせて俺にペコペコしているこの人は、歳の離れた従姉いとこかおりさんだ。

 俺は高校生で香さんは十歳離れた社会人。


 なんと大学卒業後に就職せずに飲食店を開業したツワモノである。


「そもそも俺がバイトする意味あるんすか?ガラガラじゃないっすか」

「ひっどーい!いっくんが知らないだけで連日大行列が出来るくらい繁盛してるんだから」

「それなら一日バイトじゃなくて長期のバイトを探して下さい。それじゃあ」

「ああ、嘘嘘。ごめんなさい、連日閑古鳥が鳴いてます。このままじゃ潰れちゃうからたーすーけーてー」

「分かりました。分かりましたから制服を掴まないで」


 良い歳なのにまだまだ子供っぽいんだから。

 そんなんだから叔母さんにままごとで商売なんかするんじゃないって怒られるんだよ。


「でも俺がバイトしたからってお客さんが来るわけじゃ無いっすよ」

「それは大丈夫。いっくんがバイトするって条件でみっちゃんが学校の女の子を連れて来てくれるって話になってるから」

「意味が分からないっすよ」


 『みっちゃん』とは俺の一歳上の幼馴染の吉川よしかわ美都音(みつね)のことだ。

 見た目良し、性格良し、能力良しの吉三つよしみつさん。

 男子からの人気も高く、何度も告白されたことがあるらしいが誰とも付き合っていない。


「なんで俺がバイトするとみつねえが女子を連れてくることになるんすか」

「さぁねぇ。でも沢山連れて来るって意気込んでたよ」


 みつ姉は妙に顔が広いから呼べるのは分かるけれど、俺がセットの意味がマジで分からん。


「それにちょっと女子が来るだけで意味あるんすか」


 沢山連れてくるって言っても限度があるだろうし、みつ姉は大げさに言う傾向にあるから来たとしても数人だろう。

 たったそれだけだと大して売り上げに貢献出来ないだろうに。


 だが香さんの考えは俺とは全く違った。


「あるある。大ありよ。うちが閑古鳥なのはうちの味を誰も知らないから。現役JKはインフルエンサーみたいなものだから、気に行って貰えれば拡散されてお客さんががっぽがっぽって寸法よ」

「大した自信っすね」

「もちろんよ」


 でも戦略として女子高生を狙うのは案外正しいのかも。

 店構えは女性受けを意識した可愛らしくて映える雰囲気で統一されているし、スイーツの類もそれなりに美味しい。


 問題はメインの商品が『ハンバーガー』なことだ。


 映える見た目でヘルシーで味も良いと香さんは無い胸を張っているが、ハンバーガーにしては少し割高なんだよなぁ。

 例え美味しくても金額の面で女子高生がリピーターになるのは難しそう。


 それにチェーン店のハンバーガーショップが乱立している中で、果たして個人店舗のハンバーガーショップが生き残れるのかは疑問がある。


 香さんの狙い通りに彼女達がインフルエンサーになってお金を持っているもう少し年上の女性が釣れるかどうかが勝負かな。


 まぁそこは俺が考える事じゃないか。


「だからいっくんお願い!」


 仕方ないなぁ。

 香さんにはお世話になっているから断れない。


 売れ残り商品を買って、なんて言われたら断固拒否するが。

 というか、叔母さんに連絡して説教してもらいお店は終焉を迎えるだろう。


「分かりました。一日だけっすよ」

「やった、いっくん大好き!」

「はいはい、それで今週末の土曜日、学校が終わってからで良いんすよね」

「うん、お昼も用意してあるから午前授業が終わったらそのまま来てね」

「分かりました」


 そんなこんなで、俺は香さんが経営するハンバーガーショップで一日だけバイトをすることになった。




「いっくん、似合ってるじゃない!」

「そうっすか?」


 お店の制服を着た俺は注文カウンターに立った。


「俺はここで注文を受ければ良いんすか?」

「うん、よろしくね」


 接客方法を香さんから教えて貰ったけれど上手く出来るだろうか。

 バイトなんてしたこと無いから少し不安だ。


 救いなのは商品の種類がそれほど多くないから注文を間違えにくいことくらいかな。

 念のためもう一度商品一覧を見ておこう。


 あれ、事前に見せて貰ったメニュー表に無かったのがあるぞ。


「香さん、この『スマイルなど』って何すか?」

「いっくん知らないの?ハンバーガーショップにはスマイルが必須なんだよ」

「そのネタは知ってますが、流石にもう古臭く無いっすか」

「そんなことないもん。むしろ一周回って新しいもん」

「はぁ、そうっすか……」


 ネタ商品だから頼まれることは無いだろうし気にしなくて良いか。

 もし頼まれたら……相手次第かな。


「さぁ、そろそろ時間だから誰か来るよ」

「時間ですか?」


 店内は土曜の午後だというのにまさかの客ゼロだ。

 大通りからは離れていて分かりにくい入り組んだ場所にあるとはいえ、稼ぎ時の土曜の午後にこれは酷い。


 時間は十四時になろうとしているところだけれど、もしかしたらみつ姉がこの時間に誰か連れて来るって香さんに伝えてあるのかな。


 その俺の予想は正しかったようだ。


「いらっしゃいませ!」


 ファーストカスタマー、来店。

 やはり俺と同じ学校の制服を着ている女の子だ。


 というか、俺の知り合いじゃねーか。


「ふふ、似合っているじゃないか」

「どうもありがとうございます」

「まさか部長が来るとは思いませんでしたよ。オシャレなハンバーガーショップに来るイメージありませんでした」

「まぁな。吉川君に頼まれたのと、君の雄姿を見たかったからな」

「雄姿って、ただのバイト姿ですよ」

「いやいや、いつも通り格好良いじゃないか」

「お世辞でも嬉しいです」


 彼女は俺が所属しているサイエンス部の部長。

 実験大好きで土曜の放課後はいつも部室で怪しげなことをやっているはずなのにこんな映える系の店に来るなんて珍しいこともあるものだ。


「お世辞では無いんだが……まぁ良い。メニューを見せて貰うよ」

「はい、こちらになります」

「ふむ、どうも硬いね。普段通りに気さくに接してくれて構わないぞ」

「バイト中ですから」


 部活中に色々とやらかす人なので先輩だけど素でツッコむことが多い相手だ。

 とはいえ他に客がいなくてもフレンドリーに接するのはダメだろう。


「それならまずは『スマイル』をお願いするかな」

「え?」

「メニューにあるだろう。『スマイルなど ゼロ円』と」

「…………はい」


 いきなりかよ!

 いや、部長が来た時点で俺を弄って来るのは分かってたから頼まれる気はしてたけどさ。


「さぁ、よろしく頼むよ。ちなみに中途半端だったらリテイクをするからな」

「くっ……」


 ニヤニヤしやがって。


 良いだろう。

 ご期待通り全力のスマイルを見せてやるぜ。


 くらえ!


「!?」


 ふぅ、我ながら良いスマイルが出来たと思う。

 写真を撮る時に使いたいレベルだったな。

 おや、部長の様子がおかしいぞ。


「部長、どうしました?」

「え?あ、い、いや。別に、そ、その、なんだ」

「お気に召しませんでしたか?」

「そんなことはないぞ!」

「わわ、近い近いですって」

「おお、す、すまん」


 こんなに取り乱すなんて部長らしく無いなぁ。

 そんなに俺のスマイルが変だったのかな。

 自分では会心の出来だと思ってたからちょっとショックだぞ。


 部長はハンバーガースイーツセットを注文してフラフラした足取りで席へ移動した。

 そしてそのままハンバーガーをチマチマと齧りながら俺の方をぼぉっと眺めている。


 ずっと見られていると居心地悪いからスマホでも弄っててもらえると嬉しいんだけどなぁ。


 と思っていたら次のお客がやってきた。


「いらっしゃいませ!」

「おお、先輩だ。格好良い!」

「ありがとうございます」


 またしても俺の知り合いじゃねーか!


「せんぱーい、スマイルくださーい」

「いきなりかよ。しかもメニュー見てないのに何であるの知ってるんだよ!」


 やば、ついいつも通りにツッコんじまった。


「細かいことは気にしない気にしなーい」

「気にするに決まってるだろ……まぁいいや」


 こいつは中学の時に俺と同じ委員会に所属していた後輩だ。

 その時から妙に俺に絡んで揶揄ってくるから苦手なんだよな。

 さっさとスマイルして注文してもらおう。


 くらえ!


「わ……格好良い」


 ホントかよ。

 こいついつも俺の事を格好良いって言ってから『うっそー、本当だと思いましたか?』って否定してきやがるからな。

 どうせ今回もまた同じパターンだろ。


「甘い言葉もセットでください!」


 と思ったら全く違うことを言ってきやがった。


「それはメニューに無いぞ」

「あるじゃないですか~」

「え?」

「ほら、ここに『スマイルなど・・』って書いてありますよ~」


 マジかよ。

 確かに『など』ってついているのが気になってたけれど、まさかこれって『なんでも』って意味じゃねーだろうな。


 俺は慌てて振り返り香さんに確認しようとした。


「(がんばれ!)」


 良い笑顔でサムズアップ。


 チクショウ!


「はーやーくー」

「ぐっ……こいつ……」


 いいだろう。

 だったら俺の渾身の台詞を喰らわせてやる。


「初めて会ったあの時から、君の事が忘れられないんだ」


 くあーくっさ!くっさ!

 自分で選んだ台詞だけど恥ずかしくて辛いんですけど!


「…………」


 おいこら。

 無言で照れるなよ。


 いつもみたいに『あはは、きもーい。何言ってるんですか?』って揶揄えよ!


 はぁ~もうダメ。

 俺の心が持たん。


「しゅ~りょ~。はい、ハンバーガー注文してください」

「…………じゃあ、その、これと、これをセットで」


 ぐっ、こいつが素直なんて裏があるとしか思えねぇ。

 絶対これから何度もさっきの台詞で揶揄ってくるだろ。


 おっと、またお客さんだ。


「いらっしゃいませ!」

「ふひー!いつきく~ん。スマイルちょ~だい。もちろん嘲笑で」

「ふっ……お帰り下さいませ」

「あひん、その心底軽蔑しているような笑顔、さいっこうのサービスだよ」


 変態まで来やがった。

 こいつのことは考えたくもない。


「変態はお帰り下さいませ」

「はぅん!オーダーしてないのにサービスもらっちゃったああああ」

「いや、本当に迷惑なので帰って貰えませんかね」

「じゃあもう一回蔑んでくれたら注文するよ~」

「帰れって言ってんだろ!というか、なんで俺にネタ注文するんだよ!」


 こいつもメニュー見てないのに、俺がスマイルサービスすることをなんで知ってるんだよ。

 いや、待てよ。

 一つだけ可能性があるな。


「まさかみつ姉に聞いたのか?」

「そだよ。ここに来れば樹くんがどんな要求でも答えてくれるって」

「答えねーよ!」


 みつ姉。

 ここに来れば俺を揶揄えるってことで面倒なやつばかりに声をかけたな。


 良いだろう。

 俺だって揶揄われっぱなしというのは癪に障る。

 今日は全力でこいつらの要求に答えてやろうじゃないか。


 どんな恥ずかしいセリフだろうが仕草だろうがやってやるぜ。

 お前らが共感性羞恥で逆に恥ずかしくなるようにしてやる!


 そこからもどんどん俺の知り合いの女の子達がやってきて様々な要求を突き付けて来やがった。



「もっとニヒルな感じで!」

「ふっ」

「かかか、格好良い!」

「そもそもニヒルって今みたいなので良かったのか?」



「目線下さい」

「こんな感じでしょうか」

「な、流し目とか……」

「こんな感じでしょうか」

「ぐへへ……し・あ・わ・せ」



「クールな笑みと甘い言葉と顎クイをセットで!」

「俯かないで俺だけを見ろよ」

「……………………」

「目を閉じても続きはしませんよ?」

「……………………」

「あ、失神してるだけか。休憩室に運びまーす」



「抱いて下さい」

「それはサービス外です」

「じゃあつきあって下さい」

「それもサービス外です。というか順序逆じゃね?」

「突き合うから意味は似てますよ」

「そっちの突くかよ。俺は突かれたくねーよ!」



「サインください」

「はい、分かりました。どこに書きますか?」

「シャツにお願いします」

「それはマズいのではないでしょうか」

「大丈夫です、着ないで取っておきますから」

「まぁそれなら……それじゃあ後ろ向いて下さい」

「前でお願いします」

「何でだよ!事案じゃねーか!」

「さぁほら、思いっきりでっかく書いて下さい。ここ通るようにお願いします!」

「なんで下着着てねーんだよ!そして変なところ指差すな!」

「仕方ないですね……それじゃあこれにお願いします」

「おい」

「どうぞ触って下さい。まだ温かいですよ」

「おい」

「JKの使用済……じゃなくて使用中下着ですよ!」

「お前そろそろ強制わいせつで捕まるぞ」



 改めて思った。

 俺の知り合い女子やばすぎぃ!


 最後のとかあまりにも頭のネジがぶっ飛びすぎてて最初の部長が可愛く思えてきたわ。

 しかしこいつら誰一人として帰らねーな。


 店が満席に近いから一見して繁盛しているように見えるが、回転してないから利益率めっちゃ悪いだろうな。

 

 本当にこいつらいつまでいるんだ、と思ったらまた誰か入って来た。

 一体何人呼んだんだよ。


「いらっしゃいませ!」

「いっくん頑張ってる?」

「みつ姉……」


 全ての元凶のみつ姉がついに来店して来た。

 みつ姉が変な女の子ばかり呼んだ上に俺が何でもリクエストに答えるだなんて広めたがゆえに俺は苦労する羽目になったんだ。


 ぶっちゃけ少し楽しかったけれど。


「こら、私はお客様なんだからそんな口調じゃダメでしょ」

「ソウデスネ」

「だめだめな店員さんだこと」


 知り合いしかいねーのに余所行きの顔なんかする気おきねーよ。


「さぁってそれじゃあ私も注文しようかな」


 どうせみつ姉も変なリクエストするんだろ。


「スマイルしながらこれにサインをお願いします」


 ほらな。

 でもサインなら強烈なネタをかましてきたやつがいるから二番煎じだぞ。


「かしこまり……え」


 なんつーものを持ってきやがったんだ。

 使用中下着よりもある意味やばいやつだ。


「さぁ、お願いします」

「…………かしこまりました」


 いいだろう。

 笑顔でサインしてやるよ。


 どうせサインしただけじゃ無効なんだ。

 ハンコも必要だしそもそも年齢も足りてない。


 堂々とサインして照れさせてやる。


「はい、書き終わりました」

「ありがとう。それじゃあハンコ押すね」

「まてまてまてまて、なんでみつ姉が俺のハンコ持ってるんだよ!」

「いっくんのお義母さんにお願いしたら貸してくれたよ」

「母さああああん!」


 え、これ有効なの?


 俺、みつ姉に嵌められた?


 みつ姉は笑顔で手に持った『婚姻届』をひらひら振っている。


 俺がみつ姉と結婚。


 冗談にしては届けに書いてある内容がガチだ。

 例えば作成日付の所が俺の誕生日になっていて結婚可能年齢になったら即提出が出来るようになっているところとか。


 つまりみつ姉は俺の事を本気で……

 いつも揶揄って弟のように扱ってくるからてっきり脈が無いと諦めていたのに。 


 いやいや、でもみつ姉の事だからそれだけ念入りに仕組んだ罠って可能性もあるな。

 よし、揺さぶってみよう。


「みつ姉は本気でそれを提出するつもり?」

「……も、もちろん」


 いつも全く動揺しないみつ姉が照れた。

 やっぱりこれは本気なのかもしれない。


 だとしたら嬉しい。


「そっか。それじゃあこれからよろしくな」

「え?」


 俺が素直に受け入れるとは思わなかったのかな。

 本気で驚いているっぽいな。


「でも残念だな」

「な、何が?」

「それをそのまま提出されたら、俺はきっと嵌められたように感じてみつ姉との間に心の溝が出来ちゃうかもなぁ。ギスギスしたまま一生過ごすのは辛いなぁ」

「あ……」

「でもそれが冗談で普通に付き合って結婚したなら、一生ラブラブな夫婦生活を送れるんだけどなぁ」

「こんなの冗談に決まってるじゃん!」


 みつ姉は手に持っていた婚姻届を全力でビリビリに破った。

 つまりそれはやっぱりみつ姉が俺と……


「みつ姉……」

「いっくん……」


 まさか今日のこの流れでみつ姉が告白まがいの事をしてくるなんて。

 いや、むしろこういう流れにして勢いで告白したかったのかもしれない。

 みつ姉ならありえそうだ。


「はいはい、いっくんバイトはここまでね」

「え?」


 俺とみつ姉が甘い空気になりかけていたところに、香さんがやってきた。


「でもまだ時間がありますよ」

「仕方ないじゃない。オーダーが入ったんだから。ね、みっちゃん」

「わ、私ですか?」

「そう、いっくんの『お持ち帰り』でしょ」

「……!はい!」


 俺はこの時、二つの事に気が付いた。


 一つは香さんが最初からみつ姉の狙いに気付いていたこと。

 そしてもう一つは、店内がお通夜みたいな雰囲気になっていたこと。


 ……なんで?




 後日、俺は恋人となったみつ姉と一緒に香さんのお店へと訪れた。


 そこで俺は先日のバイトの裏話を知ることになった。


「香さん、ありがとうございます」

「いいのよ。他ならぬみっちゃんのためだもの。それに狙い通りにお客さんも増えたしね」

「あはは、そっちは予想外でしたけど」


 あの日に来てくれた女の子達が狙い通りに宣伝してくれた上に、何度も通い詰めて太るのも金額も気にせずに食べまくっているそうだ。

 しかも泣きながら食べているという噂もあるけど本当なのだろうか。


「予想外なのは私もだよ。本当は恋愛バーガーで推したかったのに、まさか失恋バーガーの方が人気になるなんて」


 今やこの店は知る人ぞ知る振られた女の子が集うハンバーガーショップとなっていた。

 慰め合うのではなく、ひたすらドカ食いしてヤケになるお店。


 完全に男はノーセンキューなコンセプトになってしまったので、今回は裏口から入って香さんと休憩中にお話をしている。


「諦めさせるためとはいえ、ちょっとだけやらかしすぎちゃったかもしれません」

「あの後恨まれなかった?」

「……少しだけ。でも全部返り討ちにしましたから大丈夫です」

「うわぁ、怖い怖い」


 俺そんな話聞いて無いんだけど。

 心配かけないように気を使ってくれた……違うな、みつ姉なら本気で問題無いと思ってそうだ。


「いっくんに群がるハエ共をあれで一斉に叩き潰したので最高の気分です」

「まって、どういうこと?」


 ここまで黙っていたけれど、あまりにも不穏な単語が出て来たので思わず口を出してしまった。


「いっくんは気にしなくて良いんだよ」

「気にするよ!?」

「いっくんは今のままで大丈夫だから。勘違いしたメス豚共は私がちゃんと駆除してあげるからね」

「みつ姉!?」


 そうだった。

 みつ姉って時々妙に怖い雰囲気が漂う時があるんだった。


 これが理由で俺は自分からみつ姉に告白をするのを躊躇してたのに、あの時は雰囲気に流されて忘れてた!


 まさか俺、やっぱり嵌められたんじゃあ……


「うわぁ怖い怖い。私はみっちゃんの味方だからね!」

「それじゃあ次の機会もまたこちらをお借りしますね」

「…………はい」

「うふふ、良い処分場が出来ちゃった」


 俺はもしかして、とんでもない人生の失敗をしてしまったのだはないだろうか。

あっくんではありません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです! ハンバーガーも食べてみたいっ
[良い点] スマイルネタでニヤニヤできるものを書けるとは…面白かったです。 樹のスマイルは天下一品ですね。 みつ姉、ちょっと怖いですが幸せになって欲しいです。
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