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最強ですが彼らには及びません  作者: 影冬樹
第一章 ランク候補生編
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集まる者達

 僕は人々がどのような様子かを見守るためにも、各地に設けられた試験場の中から、一番大規模である首都に位置する試験場に行った。と言っても、〈世界の監視者〉の本部自体が首都にあるから、一番近かったとも言える。


 急募段階から人が来るのか不安だった。が、覗いて見れば沢山の人が試験に挑もうとしていた。目立つのが成人して、狩りのベテランに見える男性。でも、中には腕が立ちそうな女性のハンターもいた。男女で体力の違いはあるが、戦い方によっては女性の方が上になる時もある。

 任務を消費するために人が多く集っているようで、僕は内心嬉しかった。最初からこのようにしていれば、より効率的に任務を回せるのだった。合格し過ぎると、序列(ランク)が増え過ぎるけど、任務を委託すると言う案もある。早速、より良い任務の出し方を考えていると、背後から元気な声がした。

 少年のように声はまだ高くて、心が凄く若いと言える。


「わぁ。こんなに人が集まるの見た事がない……だけど、あいつらのためにもここで何とか受からないとな」


 少年の呟きは、僕と同じ考えだった。僕も昔は彼のように考えていたのかも、しれない。

 やっぱり、誰かのためにと言う人ほど、諦めないと思った。お金のためと言う人より、誰かのご飯や命が掛かっているからである。そう言う人ほど必死に戦い、必死に自分を磨き続ける。いつまでも努力を続ける心を持っている場合が大きい。

 その分こちらが必ずお金を払うと知れば、裏切る可能性が低い。お金にしか興味がない者は、相手がこちらより多く払えば、そちらに移る事が多い。だから、彼のような人に信頼されるのは、大変だけど、信頼されればその関係はいつまでも続くと言える。


「けっ。どこの誰かは子供らしいな。外見と同じだ。そんなやつなど、ここには必要ない」

 と、少年の言葉に誰かが反応した。


 真っ向から否定している言葉だが、よくある事である。何故なら、ぱっと見はひ弱にしか見えないからだ。魔法などでは外見では分からないけど、未だ力は体で示す者と考える人が多い。人類最強がいるような、この時代には合わない、古い考え方である。ずっとそのような考え方をしていたら、痛い目に遭う。剣でもそれは同じ事が言える。

 僕の指示が〈世界の監視者〉で通るのは、実力主義であるからと、秘書以外は僕の正体を知らないからである。謎に包まれた序列0位のレイであったとしても、喧嘩を売るような者はいない。分からないから、より恐怖を抱いているのだった。意図的にそうしている訳ではないのだが。


 そのように思い耽ていると、また声が掛かった。

「おいっ! そこのぼーとしているお前の事もだ。お前も少年だろ。ここはお前らの場所じゃない。早く去る事だな」


 喚き散らす男を無視しながら、会場にいる試験官を見た。何事も動じていないと良く分かった。そもそもこちら側で何も起きていないように、見てもいない。死人が出ても、気にしないように。

 僕は試験官の職務削減のために、試験を受ける人同士のトラブルは多少放って置いていい。と言った事を思い出した。こう言う時に自分の蒔いた種が、自分に降り掛かるのだった。ここで正体を明かせばこれから起きるはなくなるが、更なる余計な問題は発生する。


 仕方なく子供らしい心に戻ろうか、と思った。今の所、目前の男を倒しても一人が減るだけである。そして、より絡まれるのを防げるとも言える。

 が、物事とは案外すぐに順調に行かないと、正直感じた。


「お前なんかに邪魔される訳にはいかないのだ」

 と、隣の少年が腰の剣を鞘から抜きながら、語った。


 鞘から少しでも抜けば、武力で戦うと決まる瞬間である。どの道、切れた男から攻撃される可能性はあったが。再度、この少年の家族への思いは良く感じ取れた。だけど、ここで弱ければ最初に武力で戦うと決めた者としては、恥ずかしい限りである。自分の、そして家族の名誉を守るためであっても、強くなくてはならないから。それは〈世界の監視者〉の監視者になる事でも、同じ事が言える。


「で、そこのお前はどうなのだ?」


 男は同じように剣に持ちながらも、僕に聞いて来た。一応、巻き込まれているので、こちらの事も確認を取ってくれるようだ。口は悪くて人を下に見る思考をしていても、正しい礼儀は知っているようだ。

 僕としては、この決闘に一々参加する意味はないと言えた。さほど名誉と言う物もない中で、擦り傷ほどの暴言に気にする事は余りない。全て気にしていれば、何度決闘で時間を取られるか、分からない。


 と、思いながらまた見てみるが、会場の試験官は無反応である。〈世界の監視者〉は試験だけを提供するので、間違ってはいないが。どうなるかは全て神のみぞ知る。と心の中で呟いた。


 不意に隣の少年がこちらを見た。

「良ければ、この決闘に参加して欲しい」

 と、その瞳に汚れは一切ない、純粋な子供の願いであった。


 僕は内心この状況にわくわくしながら、聞いた。

「僕にはどのような利点があるのだ?」

 と、彼に利点を提示するよう僕は言った。誘うからには、正当な理由があるのかを確かめたかった。


 少年は間も空けずに、きっぱりと断言した。

「試験中、ずっと君の仲間となる」


 何の利点もなさそうな、少年の言う利点に僕は興味が湧いた。時には何の意味がない綺麗事も聞いていると、楽しい。少年の決意を知るためにも、僕は彼の隣に立つ事をした。


「いいよ」

 と、手を差し出しながら。


「僕の名前はヴォルフ・バーンズ」


 僕は彼に自己紹介をした。〈世界の監視者〉では僕の本名は広く知られていないので、言っても大丈夫である。


 少年は嬉しそうに僕の手を握ってくれた。

「レオ・ルースだ。家族を養うためにも、この試験に勝たないといけないのだ」


 なら、なおさら頑張らないとな。と、僕は思った。

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