小さな監視者
「ねぇ。私の小さな監視者…」
僕、ヴォルフ・バーンズをそのように呼ぶ人物は、知っている者の中で一人しかいない。機関の中で誰に取っても、母親みたいな存在である、序列3位のメイ・ハンター。メイが見せる表情と言葉は、誰もを落ち着かせて、安心させる。昔はそれを武器にしていたと、噂で聞いた事あるけど、実際どうかはもう誰も分からない。そんなレイシアは、僕を小さな監視者と呼ぶ時が多い。
監視者。それは機関の中では重要な言葉である。そもそも機関の名前が、〈世界の監視者〉であるからだ。
ちなみに言っておくけど、この名前を聞いたからと言って、機関の暗殺部隊が背後から襲う事はない。事故と死を偽造する事も、脅迫する事もない。何故なら、もう広く知られている名前だからだ。今更知っている者を殺めに行くだけでも、何年も掛かる。その間にまたどうせ、知る人は増えるのだろう。
だから、言いたい事を纏めると、今この話を聞いているからと言って、危害が及ぶ事はない。この僕の名、ヴォルフ・バーンズに誓って。もし、何かあれば命を掛けてでも、安全を約束しよう。
さて、脱線もそこまでとして、話を戻す事にする。先程言った、〈世界の監視者〉にはメイ以外にも人々がいる。
僕に取って兄のような、序列1位のキルトン・ホークス。剣が強くて、剣聖とも呼ばれているほど。それ以外にも剣に魔法を纏う時にあるけど、兎に角、剣で戦うのが好きである。これまで戦い、勝った事はあるけど、未だ手加減をされるほど僕はまだまだ弱い。
猫のように物静かだけど人をよく見ている、序列2位のハーディス・フィン。ぱっと見では、僕より幼く見える。無詠唱魔法の使い手で、詠唱している所を見た事がない。何の前触れもなく、魔法を放てる。
3位が最初に紹介した、メイ・ハンター。僕を小さな監視者と呼ぶ人。人を安心させるのは、言葉に心地よい魔力を乗せているから、らしい。歌声も綺麗だけど、一番子守唄がすぐに人を寝させる。僕も小さい頃はよくお世話もなった。
派手なのが好きな、序列4位のグレゾン・ガース。よく僕を褒めてくれる、優しい兄でもある。詠唱魔法の使い手で、戦場で立てば、戦況を一人で引っ繰り返せる力を持つ。グレゾンとの戦いは、引き分けの状態で止まっている。グレゾンもキルトンのように、僕に手加減をしていると思う。
最後が、グレゾンと対照的な性格の持ち主、序列5位のシリウス・ブルーワイト。何事も分析から始め、誰かを褒め過ぎたり、褒めなさ過ぎたりもしない。グレゾンと同じ詠唱魔法の使い手だが、魔力を無駄なく使う戦いを行う。これまでシリウスと勝った事はあるが、それが兄の全力ではないと思う。グレゾンとは違い魔力量が豊富ではないけど、その分魔力の効率的な使い方を理解している。
ランクと呼ばれる序列に並んでいるのが、その5人だった。だから、僕の名前は連なっていない。例え、ランク外だとしても、彼らは僕を必要としてくれていた。
その気持ちだけでも、心から嬉しかった。