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死ぬまで君達を愛したい  作者: 保坂奏多
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3.栄至の秘密

第一章

佐恵からLINEがきた。

「今日離婚成立しました」


連絡を取り合ってから5ヶ月

元旦那は不倫を認めずもっと長丁場になるだろうと話していたが

長期間の調停に疲れたのか

不倫は認めないが解決金という形で100万払うとなったそうだ。


「お疲れ様。よく頑張ったね」

栄至はそう返信した。


ずっと元旦那の不満を言っていた佐恵だが

いざ闘いが終わるとなったら色々思い出して寂しさが出てきたせいか

「早く人生やり直したい」

と返してきた。


「焦らなくても君なら大丈夫だよ」

俺に任せろとかなんて男らしく返せず無難な返信しか返せない栄至は歯痒さを感じた。


離婚して1ヶ月後会う約束をした。

栄至だけでなく、武史と武史の彼女も呼んで5人で水族館に行こうとなった。

若菜が動物好きというのと最近お出かけ出来なかったから連れていきたいとのことだった。


待ち合わせ場所に栄至は1番早く着き、皆を待っていた。

遠くからベビーカーを押しながら手を振る女性が見えた。

栄至は一目散にベビーカーのところへ近づいた。

「はじめまして」

若菜に微笑みながら声をかけた。

当時若菜は1歳半頃で人見知りもまだあった歳頃だ。

誰?って感じで栄至のことを見つめていた。

「そうだよね。誰だ?って思うよね」

ここからどうしようと栄至は苦笑いを浮かべながら戸惑っていた。

その様子を見ながら佐恵は笑っていた。

少し遅れて武史カップルが集合場所にきて

武史もベビーカーへ駆け寄り若菜はまた誰?って感じで見つめていた。


水族館に到着し、若菜はベビーカーから降りた。

栄至はダメ元で若菜に抱っこしよか?と若菜に両手を伸ばした。


すると若菜も栄至に向かって両手を伸ばし抱っこをせがんだ。


栄至はそれが嬉しくてそこからは若菜に付きっきりだった。

栄至だけじゃなく、武史カップルも若菜の可愛さに夢中だった。


子どもは大人みたいに下心がなく単に一緒に居て楽しいかどうかだけで見てくれるから

栄至は子どもと居ると自分の存在価値を感じれて居心地がよかった。


時間はあっという間に夕方になりバイバイした。

バイバイして離れた途端栄至は久々に虚無感を感じていた。

それほど充実した1日だったのだろう。


次の日佐恵と電話をした。

栄至の印象はよかったのか

「若菜のパパになりたいと思った?」と直球な質問を聞いてきた。

「もちろんこんな可愛い娘欲しいなと思ったよ」

栄至は少し濁した感じに答えた。


佐恵はそのはっきりしない答えを察したのか

「私なんかと再婚してくれる人居るんかな?」

と少しマイナス思考になっていた。


そして元旦那との思い出話になり思い出してきたのか電話越しで泣いていた。


電話はいつも通り5時間を越えようとしていて

長時間の電話は栄至の頭を麻痺させてしまった。


「あのさ、俺言えてないことあんねん」

打ち明けるつもりのなかった秘密を言おうと思った。

武史にも言っていないことなのでもし口外されたらどうしよう。

そんな不安もあって言わずにいようと決めていたが

言ったら何か変わるかもしれないと栄至は自分の中でずっと不安と希望と葛藤しながら話した

「俺が恋愛に積極的なれない理由なんやけど、話せてない事があんねん」


「どうしたん?話してくれるなら聞くで」

そんな佐恵の返事にもしかしたら受け入れてくれるかもしれないと微かに栄至は期待した。


栄至は言葉を詰まらせながら




「俺…性同一性障害元女性やねん」


栄至は20歳で治療をはじめ、25歳で手術を経て戸籍を変更し、現在も3週間~1ヶ月に1度通院していると震える声を抑えカミングアウトした。




予想してなかった佐恵は驚いてた。

見た目はたしかに背は低いが髭生えてるし女性だった面影がほぼ見当たらないからだ。



武史と職場の人に話さないのは心開いてないからとかそうゆう理由ではない。


”社会的に普通の男性として生活"したいだけで

”性同一性障害の染谷栄至"を受け入れてほしいとは思わないからだ。

現に普通の男性と思ってるのでわざわざ打ち明ける必要がないと思っていた。


だが恋愛となると話は別だ。

戸籍を変えたら結婚は出来るが

子どもも作れないしSEXも自信がない。


今まで彼女がいなかったわけではなかった。

若い頃は好きだという感情だけで突っ走れたが

30歳という年齢は結婚を視野に入れるであろう。

女性は子ども欲しいと思うだろうし栄至も子どもが好きだからこそ

女性の人生を邪魔してはいけないと心を痛めてしまうので恋愛に積極的になれなかった。


そんなことを佐恵に話した。

「そうやったんや。そうと知るとなんか色々聞きたくなるな」

佐恵は少し笑いながらそう答えた。


そこからまた色々話した後またねと言って電話を切った。

栄至は今まで色々話していた佐恵に対して自分のことを隠して話していたことにずっと罪悪感を抱いていたのでやっと話せた解放感でいっぱいだった。


しかし数日経ってから明らかに佐恵の連絡頻度が減り今までよく話してた恋愛話もしなくなった。


受け入れたふりして受け入れてもらえないのはよくある事だ。


今までも自分のことを知れば陰口たたいたり避ける人は少なくはなかった。



だから仕方のないこと、悪いのは俺なんだ。


そう自分で慰めつつもやっぱり人に話すもんじゃないなとひどく後悔した。


カミングアウトしてしまった自分に対してなのか

受け止めれなかった佐恵に対してなのかわからないが

栄至は「このクソ…」と小さく呟いた。


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