#4『負けない・・!私だって魔法少女なんだから!』Aパート
■■OP:『Don't stop.Don't look back.』歌:斎木 夏樹■■
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『アナタは魔法少女失格』、そう言われた。
なら、失格と言われない様になれば良い。
裕子は心に突き刺さったコトバを糧に、奮起した。
■
『アナタは魔法少女失格』。そう言われて、もう立ち上がれないかもしれないと思った。
でも、夕方が終わるくらいの、夜が始まる寸前くらいの、キレイで静かな空を飛んで行く姿に魅せられた。
とてもキレイな姿だった。
ほんの少し前にグシャグシャになっていた感情が一瞬で静まっていた。
「・・あんな風になりたい」
一言、ポツリとこぼした裕子の目からは、少し前までの涙とは違う涙が流れた。
飛び去る姿が見えなくなり、完全に夜になり、それでも裕子はベランダに立っていた。
あんな風に飛んでみたい。
この空を自由に、どこまでもどこまでも、飛んでみたい。
高く、遠く、自由に、飛んで行きたい。
・・・彼女に認めさせたい。
魔法少女失格なんて言われない様になりたい・・!
裕子がベランダから室内に戻る頃には、すっかり身体は冷え切っていた。
テーブルの上に置いたコンビニの袋の中のお弁当も、すっかり冷たくなっていた。
裕子はお弁当をレンジに入れると、壁に掛かる時計を見た。
まだ、午後7時になる少し前だ。
いつもの裕子だったら、TVをつけて軽く観ながら宿題を終わらせているくらいの時間だ。
裕子は急いでランドセルから宿題を取り出し、テーブルに広げた。
広げている内にレンジが鳴り、お弁当が温まった。
お弁当を急いで口に放り込み、食べながら宿題を進めた。
お弁当を食べ終わって、ジュースのパックの半分を飲み終え、プリンも、少し悩んでから大口で食べた。
生クリームのトロリとした感じを楽しむつもりだったのに、急いでいると食べにくかった。
宿題を終わらせ、ベッドの上に着替えを置き、折りたたまれた紙も置き、部屋のカーテンをキチンと閉めた。そして姿見の前に立ち、深呼吸してから小さく唱えた。
「・・けんげん・・!」
裕子の部屋の中に一瞬、光が溢れた。
一瞬の光が収まり、裕子が姿見を見ると・・。
「・・・出来た・・っ」
昨晩ぶりに見る魔法少女の姿だった。
実は、少し不安だったのだ。
あの時たまたま変身できただけで、もう変身できないのではないか・・ずっと気になっていた。
それに、たぶん変身する為の言葉だとは思っていても、『けんげん』というのが どういう言葉なのかも裕子は知らなかった。
どこかの国の言葉なのか、どんな意味なのか、不思議でならない。
鏡の前に立ち、明るい場所で初めて、『魔法少女の自分』を見た。
暗い場所でも分かったくらいだ。やはり、魔法少女服の端の方から、何か粒子が出ている。
袖口で見やすい部分があったので顔に近づけてみた。
気のせいではなく、服から何かが出続けていた。
裕子は、今日、学校内で過ごしていた時間のほとんど、魔法のコトを考えていた。
分からないコトがいっぱいで、1時間目の途中くらいからメモを取りだしていた。
あらかじめ、メモを取ったノートのページは、ベッドの上に置いてあった。
最初はスカートのポケットに入れていたのだが、変身した後に出せるのか分からなかったからだ。
そのメモを見ながら、少しずつ、疑問に思ったコトを確かめていく。
改めて落ち着いて見てみると、普通の服と同じ様な感じだ。
手触りだって、普通の服と同じだと思う。
姿見にうつる自分を見ている内に、ふと気になったコトがあった。
この魔法少女服は、どこまで服なんだろう、と。
裕子は早速上着を脱いでみた。
普通に脱げたし、試しにベッドの上に置いて部屋の隅まで行ってみた。
ベッドの上に置いた上着は、消えたりはしなかった。
ちゃんと最後まで脱げたし、ソックスや手袋みたいな小物も消えずに残っていた。
確認を終えた裕子は、また魔法少女服を着直し、メモ紙を手に取った。
次は何を確認しようか。
裕子は一つずつ一つずつ、確認していった。
分からなかったコトも沢山あったが、分かったコトも それなりにあった。
その日の確認の最後は、浮かび方だった。
昨晩は身体を浮かべて、少しずつ前に進められた。
でも、それで力を使い切ってしまった。
『アナタは魔法少女失格』、また そう言われてしまう。
裕子は目をつぶり、イメージする。
身体の中に魔法の力を集め、それを動かすイメージ。
目をつぶった暗さの中、魔法の力が集まってゆく。
集める為に、昨晩見た光の粒を思い浮かべた。
光の粒が集まっていき一つになる様子をイメージ。
中々うまくいかない。
「・・・・集まって・・」
裕子は願う様に呟いていた。
「・・?」
ただ思い浮かべるだけの時より、少しうまくいった気がした。
「・・・」
裕子は一度目を開け、両手を胸の前くらいに構えた。
「・・・集まって」
両手の、手の平の間の空間に何かが集まって来た感じがした。
「・・・集まって・・」
何か。何かの手応えは感じるのだが、うまくいかない。
『アナタは魔法少女失格』
上手くいきそうなのに、上手くいかない。
精一杯伸ばした腕の先、指先に微かに当たる、そんな感覚はある。
なのに上手くいかない。
焦りが湧き出て来る。
『アナタは魔法少女失格』
「・・・ぅるさい・・っ」
焦れば焦るだけ、益々遠のく。
言われ続けているかの様に、聞きたくない幻聴が聞こえる。
『アナタは魔法少女失格』
「っは・・ぁ」
いつの間にか息を止めていた様で、胸一杯に空気を吸い込んだ。
「はっ・・はっ・・・はっ・・はっ・・はっ・・はっ・・・」
荒い呼吸を繰り返し、オデコの汗を拭った。
「・・」
部屋の時計を見ると、もうすぐ日が変わるくらいの時間だった。
裕子は目を固く閉じ、昨晩を思い出す。
必死に身体を浮かべた。必死に身体を前に進めた。
その時を思い浮かべ、再現しようとする。
足下が離れた感覚に、裕子は目を開けた。
「・・・」
ほんの少し、部屋の床から浮かび上がっていた。
上を見上げると、いつもより少しだけ天井が近かった。
ふー・・ふー・・・ふー・・ふー・・ふー・・・
少し鼻息荒く、裕子は集中する。
裕子がベッドの上をチラリと見る。ベッドの上に置いてあるメモ紙には、裕子が思いつく限り思いついたコトが沢山書いてあるが、その中の一文に目を止める。
そこには、『できるコトを増やす』、そう書いてあった。
何が出来るのかすら分からないのだから、出来るコトは確実に。あれこれ手を伸ばすよりは堅実だろう。
ベッドの上のメモ紙から視線を外した裕子は、少しずつ呼吸を整えていく。
30分ほど身体を浮かべていた裕子の顔は、汗でグッショリになっていた。
目の前が暗くなる。
少し気を抜いただけで気を失いそうになる。
限界を感じた裕子は、身体を浮かべたままベッドの方までゆっくりと進む。
そしてベッドの真上に来たくらいで、裕子の魔法少女服が弾けた。
光が飛び散る様に弾けた魔法少女服。私服姿に戻った裕子は、そのままベッドに落ちた。
すぐに、ベッドの上からは寝息が聞こえだし、裕子は そのままグッスリと深い眠りに落ちたのだった。
『アナタは魔法少女失格』
幻聴が響き、意識は無いハズなのに、裕子の手がキュウッと握り締められた。
■
ベッドの上に、魔力を使い果たして意識を失った裕子がうつ伏せに倒れていた。
そのまま朝を迎えるまで寝ていたら、首などを寝違えてしまいそうな姿勢だった。
そんな裕子の身体が、ふいに浮かび上がる。
空中でクルリと回された裕子の身体が、静かにベッドの上に降ろされていく。
ベッドの上から どかされた着替えが勉強机の上に移され、裕子に布団が掛けられる。
勉強机からイスが引き出され、裕子が思いつく限りに書いたメモ紙を持った人物が座る。
「・・・」
メモ紙を上から下までジックリと読み、その人物はベッド上の裕子に視線を移した。
「・・」
「この子、何がしたかったんだろうね?」
「・・・足掻きたかったんだと思う・・」
「変身して、脱いで、身体を浮かべてるだけで?」
「魔力操作の練習もしてたでしょ」
「随分とお粗末な感じだったけどね」
「・・成りたてなら、このくらいじゃない?」
「ぃゃぃゃぃゃ・・。にしたってだよ。精霊も出て来なかったしさー?」
「・・・そうね」
「しかしなぁ・・この子が よく分からないよ・・」
「・・」
イスに座る『黒いウェディングドレスの魔法少女』と、その肩に乗るネコ型の精霊が、ベッドで寝息を立てる裕子を見る。
飛び去ったハズのアーカーシャ・リリィと、そのマスコット精霊のニャニャンだった。
実は、2人共、ずっと裕子の傍に居たのである。
魔法少女の常時自動展開魔法術式の『認識阻害』を強め、魔力で作った『人形』を使い、裕子の前から飛び去った様に見せ掛けて、室内に残っていたのだ。
ちなみに、飛び去った『人形』はアーカーシャ・リリィの自宅に戻り、身代わりを務めている。
2人から見て、裕子が『あまりに不自然な魔法少女』だった為・・見極める為にも、この行動を取ったのだった。
しかし、2人の前で裕子が行ったのは、まるで体育会系の部活の様な愚直な自主鍛錬だった。
裕子が魔法少女服を脱ぎ出した際には二人とも焦ったが、なるべく裸は見ない様に目を反らしたのだった。
イスから立ち上がったアーカーシャ・リリィがベッド脇まで歩き、裕子の顔にかかっていた髪の毛を直す。
「・・・ごめんなさい・・」
アーカーシャ・リリィとしては、それほど深い意味を込めて言った言葉では無かったのだ。
しかし、裕子を『その言葉』は、深く傷付けていたらしかった。
脂汗を垂らしながら、裕子は小さく呟いていた。
『魔法少女失格なんかじゃない』、と。
何度も何度も。何度も何度も何度も。何度も何度も何度も何度も。
限界間近に見えて、浮かべていた身体がグラグラし始めていた頃、涙声での呟きになっていた。
「・・・今のままなら、アナタは魔法少女失格・・。でも、頑張って欲しいとは思う・・」
アーカーシャ・リリィの手が淡く光り、『治癒』の力を込めて、布団の上から裕子に触れた。
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