#3『誰?新たな魔法少女は黒い花嫁さん!?』Bパート
結局、裕子は午後の授業中も魔法の使い方を試すのに使ってしまった。
黒板を見ている様に見せつつ、昨晩と同じ様に魔力を集める実験をしてみた。
昨晩と同じく、熱が集まるのを感じた。
胸の中に集まった熱を手に移して、更に指先に集めてみたりした。
意外とすぐに出来たけれど、指先がかなり熱く感じたので、すぐに止めた。
落ちていた紙ゴミに熱を移してみようとも、してみた。
熱が移って行く感じはしたが、特に何も起こらなかった。
放課後、丁度、掃除当番だったので、その時間も実験に使ってみた。
雑巾を濡らす為に水がタップリのバケツに、熱を集めた手を浸してみた。
水に染み出すように熱が出て行くのを感じた。
かなり熱々になった気がしたので止めようとしたら、同じく掃除当番になっていた友達の美和ちゃんがバケツに手を入れてしまった。
驚いて美和ちゃんの手をバケツから出したが、美和ちゃんはキョトンとしていた。
特に熱くもなく、左手の指先のバンソウコウの中に、水が染みて来ないかが心配なくらいだという。
聞けば、母親を手伝って料理をしていた際に、包丁で少し切ってしまったのだそうだ。
自分と母親との関係と比べてしまい、少し悲しくなった裕子だったが、「さすが美和ちゃん♪女子力高いね♪」と美和ちゃんに笑い掛けた。
それから学校を出るまでのコトは、裕子は あまり覚えていられなかった。
取り繕った笑顔で、何を言ったかも覚えていないくらいだった。
美和ちゃんと違う帰り道まで来て、やっと裕子はひと心地つけた。
胸を押さえる様に俯き、何度か深呼吸した。
空を見上げて、たまたま視線の先を飛び去ったスズメを目で追った。
すぐに顔を反らし、裕子は再び歩きだした。
少し帰り道を変えて、いつも行くコンビニとは別のコンビニに寄った。
今日の夕御飯は、四川風麻婆豆腐丼弁当と、フルーツミックスジュースと、生クリーム入りプリンだ。
それに、レジの横に見えたスパイシーチキンを2つ。
とても食べ切れない量だったが、裕子はスパイシーチキンをひとつ取り出して、ゆっくりと食べながら自宅に向けて歩いて行く。
■
「ただいまー・・」
言った所で、返事してくれる人なんて・・。
「おかえりなさい」
・・・・ぇ。
今、確かに、聞こえた。
「・・・」
この時間に、お母さんは まだ帰って来ない。
お父さんが帰って来てるのを見たのだって、かなり前だ。
それに、聞こえたのは女の子の声だった気がする。
「・・やっと帰って来たのね」
「アーシャ、学校が終わってすぐ来たもんねっ」
「・・静かにしてて」
・・・。
リビングの方から、玄関まで話し声が近付いてくる。
「・・ぁ」
お母さんの知り合いとかかもしれない。
そうかもしれない、と思いたかった。
でも、リビングから歩いて来た姿を見て、絶対違うと思った。
リビングから歩いて来たのは、私と同じくらいの背丈の女の子だった。
年も近いかもしれない。
でも、普通の格好じゃなかった。
一言で言うなら、『黒いウェディングドレス』。
レースやフリルが沢山付いていて可愛いし、スカートが短いのも可愛いかった。
でも、私のウチにドレスを来た女の子が来る様な予定は無い。
それに、その女の子の肩を見て、その女の子の正体が分かった。
肩の上には、ネコの赤ちゃんを更に可愛くデフォルメした様な姿が見えた。
それに、「こんにちは♪」と喋った。
聞き間違いじゃない。間違いなく、口を動かして喋った。
それに、可愛い肉球の見える前脚をフリフリと振ってくれる。
明るく話し掛けてくるネコになんて会ったことも無い。タダのネコな訳が無い。
「・・」
間違いない。魔法少女と、お供のマスコットだ。
確か、妖精だっけ?精霊?だったっけ?
「そんなに警戒しないで〜♪さ、玄関で いつまでも話してるのも何だしさ、座って話そうよ♪」
小さくて可愛い前脚がリビングの方に向けてフリフリと揺れた。
「・・・ここ、私の家なんですけど・・」
「そうだったね。ごめんごめん♪」
ネコなのに、ニコニコしているのが分かる。
とても可愛い。
リビングの方に身体を向けたドレスの女の子が、とても羨ましい。
何で私にはマスコットが居ないんだろう・・。
靴を脱ぎ、ドレスの女の子がリビングのドアを開けて待っていてくれる、その横を通った。
少しは愛想良くしたかったけど、出来なかった。
唇を噛み締めて、顔を見られない様に俯いて通った。
リビングのソファにランドセルを置き、その横に座った。
お菓子とか飲み物とか出した方が良いのかもしれなかったけど、目の前の2人はお客様ではない。
それ以前の問題だ。
「・・どうやって入ったんですか」
玄関のカギは掛かっていた。
「窓から」
魔法少女の女の子がベランダの方を指差す。
聞くまでも無かったかもしれない。自分だって、昨晩、窓から帰宅した。
「・・魔法少女なんですね」
「アナタだって そうでしょう?」
!
「・・・なんで・・」
「昨日の夜、飛んでる姿を見たのよ」
「そ♪で、アーシャと2人で ご挨拶に来たの♪」
「・・」
挨拶に来たとか言われても。
「近くの街に住んでいてね・・テリトリーが近いのよ」
・・テリトリー?
「ま、要は、テリトリーを荒らすなよって言いに来たのさ♪」
「・・」
魔法少女の肩の上のマスコット、とても可愛いのに・・とても可愛くないコトを言い出した。
「・・・テリトリーとか有るんですね・・」
知らなかった。
やっぱり、本物の魔法少女から聞けると、何か斬新だ。
そんなコト、魔法少女名鑑には載って無かった。
「アナタのマスコットは?」
「・・」
魔法少女から質問されたが、どう答えたら良いんだろう。
むしろ、私が聞きたいくらいだ。
自分のマスコットとはどうやって出会えるのか、と。
「・・言いたくないなら無理には聞かないわ」
どう答えたら良いか悩んでるうちに、何か勘違いされた気がする。
言いたくないというより、言いたくても言えない、というか何と言うか。
「アナタのマスコットに伝えておいて」
?
「いくら誕生したばかりでも、もう少しマシな魔法を教えなさい、魔法少女が可哀想じゃない、って」
泣きそうだ。
彼女はさっき、『昨日の夜、飛んでる姿を見た』と言っていた。
なら。彼女が言ってるのは。落ちて死ぬ恐怖と戦いながら、必死の思いで飛び続けた、昨日の自分の努力を全て否定された気分だった。
許せなかった。
悲しかった。
耐えられなかった。
きっと、目の前の魔法少女は すごい魔法を使うのだろう。
自分なんかとは比べられないくらいに、何でも出来るのかもしれない。
でも、仕方ないじゃない・・!
私・・昨日の夜遅くに魔法少女になったばっかなんだから・・っ!
まだ1日も経ってないんだよ・・?
何が出来るのか、何が出来ないのかも、何も分かんないんだよ・・!?
「・・っ。ど、どうして泣くの・・?」
目の前の魔法少女がオロオロしだすが、知らない。
「帰って・・」
「帰ってよ・・!」
「出てって!!」
目の前の魔法少女の姿が涙で歪む。
気圧されたみたく、後ろに後退りしていく。
「・・帰って・・っ。お願い・・っ。帰ってよぉ・・!」
リビングの床に座り込んでしまい、顔を両手で押さえて、どんどん出て来る涙を拭う。
でも、拭っても拭っても、涙は止まらない。
「・・ごめんなさい。泣かせてしまった理由は分からないけど、アナタを責めた訳じゃないの・・」
床に座り込んだまま、視線を上げた。
「昨日の夜に見たアナタの姿、とても危なっかしかったの・・」
言われなくったって、自分が一番よく分かってる。
飛んだだけで力を使い果たす魔法少女なんて見たことも無い。
「今のままのアナタじゃ、魔法少女としてやっていけない・・・キツイこと言っちゃうと・・・昨日見た時のままなら、アナタは魔法少女失格・・ぅぅん、魔法少女としてよりも、簡単に死んでしまうわ・・!」
「・・・っ」
私を思って言ってくれてるのは分かってる。
でも、胸の中がクシャクシャで、グチャグチャで、聞けない、聞きたくない。
「・・帰ってったら・・っ」
絞り出すように涙声を出すのが精一杯だった。
「・・ごめんなさい。すぐに帰る・・」
ドレスの姿が背中を向け、ベランダに出て行く。
足下が光って、光の粒子が集まって靴になった。
ドレスに合う可愛い靴だな・・と、何となく思った。
「私は、アーカーシャ・リリィ。・・アナタは?」
「・・」
答えられない。魔法少女としての名前なんか、まだ考えてない。
「・・また会いましょう」
少し悲しそうな声が聞こえ、顔を上げると、ベランダから ゆっくりと浮かび上がり優雅に飛び去るドレスの背中が見えた。
■■ED:『希望の一歩』歌:宇津馬 裕子■■
■■■■■This program is brought to you by the following sponsors.■■■■■
アーカーシャ・リリィ(以下、アーシャ)「ごめんなさい」
裕子「・・やっとアナタの名前が分かったね」
アーシャ「魔法少女としての名前だけどね」
裕子「・・・ところで、窓、開いてたっけ?」
アーシャ「魔法よ」
裕子「魔法?」
アーシャ「そう。マジカル☆フホウ☆シンニュウよ」
裕子「言い方」
アーシャ「他にも、マジカル☆ピッキングやマジカル☆サムターンくるくる、マジカル☆カム送りも出来るわ」
裕子「だから、言い方」
ニャニャン「良い子はマネしちゃダメな魔・法・ダ・ゾ☆」
裕子「いや、だから、言い方よ」
ニャニャン「さ、次回予告次回予告〜♪」
裕子「・・・次回、第4話。『負けない・・!私だって魔法少女なんだから!』です」
アーシャ「観てくれないと、アナタの家にも不法侵入しちゃうぞ?」
裕子「ホントやめて下さい」