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#2『変身しちゃった!』Bパート


静かに涙をこぼす裕子は、ふと違和感に気付いた。

触れていたハズの、白骨の手の感触が消えたのだ。


目を開けた裕子は、驚く。

触れていたハズの骨が無くなっていたのだ。

顔を上げた裕子の目にしたのは、全体が崩れて光の粒子になって消えていく様子だった。

瞬く間に、白骨死体は光の粒子になり、消えてしまった。

残ったのは、白骨死体が身に着けていた魔法少女服だけだ。

脱ぎ散らかした様に、中身の消えた服が、白骨死体の有った場所の床に広がっている。


裕子が手で触れると、その服も光の粒子に変わっていく。

しかし、空気に溶け込む様に消えてしまった白骨の方とは違い、魔法少女服の方は、裕子の指先の方から、裕子の身に(まと)う魔法少女服に吸い込まれる様にして消えていく。

あっという間に、裕子の前から、白骨死体も魔法少女服も、跡形も無く消えて無くなってしまった。


静かに立ち上がった裕子は、白骨死体が消える前との違いに気付いた。

裕子の身に纏う魔法少女服は、つい先程まで、至る所から粒子が漏れ出し続いていた。

しかし、今は それ程でも無い。

一部からは いまだに、粒子が空気中に溶け出す様に出続けているけれど、それ程気にならないくらいには なっていた。


「・・・」

何も無くなってしまった地下通路で、裕子は ふと気付いた。


裕子の身に纏う魔法少女服からの発光で、地下通路の暗闇からは解放された。

底冷えする寒さも、魔法少女服から伝わる気持ちいい温もりで包まれている。全く寒くない。

しかし、根本的な問題が解決していなかった。


裕子は今、廃工場の地下階に転落したままなのだ。

早く、少なくとも1階に上がらなくてはならない。


ふと風音がして、裕子は上を見た。

さっきまであったハズの天井が無くなっていた。

確か、裕子がココに辿り着いた時には、全く光の差さない、暗闇だったハズだ。

しかし今は、頭上には直径2・3メートルくらいの大穴が開いていて、更に遥か上には夜空が見える。


「・・」

地下階に落ちた際の穴からも上は見えていた。

場所が変わっただけでは、どうにもならない。


しばらく頭上を見上げて呆然としていた裕子は、自分の身体を見下ろす。


魔法少女になったハズだ。


裕子の知る『魔法少女』は、皆、空を飛んでいた。

自分にも出来るハズだ。

けれど、どうすれば良いか分からない。


裕子の知る魔法少女達と自分の違いを探した裕子は、ひとつの違いに気付いた。

そして周りを見回す。

周りをキョロキョロと見て、それから小さな声で呼び掛けてみた。

「ぁのー・・」

廃工場の地下階は、とても静かだ。

裕子の声が こだまする。

「・・ぁのー・・?」

裕子の呼び掛けに応える者は居ない。

「・・ぁの〜・・マスコットさーん・・?」

誰も出て来ないし、裕子の呼び掛けが こだまするだけだ。

「・・」

虚しくなった裕子は、呼び掛けを止めた。


裕子の知る魔法少女達には、すぐ傍に、常に『マスコットキャラ』が居た。

どのマスコットキャラも、可愛らしくデフォルメした動物の赤ちゃんみたいな見た目をしていた。

とても可愛らしかった。

呼び掛けてはみたが出て来ない。

何故かは分からないが、裕子にはマスコットキャラは居ないらしい。

少し悲しくなった。

小さな頃の夢が、またひとつ消えてなくなった。

『もし魔法少女になれたら、可愛いマスコットキャラと仲良く、いっぱいお話するんだ〜♪』と笑っていた幼少期の自分を思い出しつつ、裕子は苦笑いする。


「・・・ホント、私って・・」

何かが沈んでいった。

気付けば、地下通路を照らしていた魔法少女服の発光も収まって消えていた。

しかし、逆に、裕子は顔を上げられた。


何かがあるハズなのだ。

マスコットキャラに聞けなくったって、自分は魔法少女になれたのだ。

ならば、何かが出来るハズなのだ。


裕子がTVドラマやTVアニメで見てきた『魔法少女あるある』を思い出そうと、目を閉じる。

「・・・。・・。・・・・・。・・・・・・・・・あった」

数年前に観た魔法少女アニメで、主役の魔法少女がしていた事を思い出したのだ。

自分の身体の中の『魔法の力』を意識し、そこから活路を見出していた。


「・・・」

分からない。

「・・・・」

見つからない。

「・・」

何を探せば良いのか、分からない。

「・・・。もしかして・・」

裕子は、気付いた事を試した。


「お願い・・集まって・・」

自分の中に、魔法の力を集めるイメージをしてみた。

「!」

手応えというか、反応というか、何かが掴めた気がした。

「・・・・」

一点に向けて、集めるイメージ。

「・・・」

何か、胸の内側が熱くなってきた気がした。

「・・・」

その熱さを、両手に移す様にイメージ。

「・・」

両手が熱くなってきた感じがした。

その手の平を下に向けて、熱さを放出するイメージ。

「・・・できた」

少しだけど、手が何かを押す手応えを感じた。

そのまま、手の平が下から押される様に感じた。

しかし、手の平に感じるままに、両手だけが押し上げられて行ってしまう。

「・・・もう少し・・」

何か、うまくいったと思う。

でも、これじゃダメだ。このままじゃ、上に上がるのは難しいと思えた。

裕子は体力自慢では無い。

体育の時間に逆上がりする時だって、腕が伸びてしまって、1回も出来た事が無い。

懸垂(けんすい)だって、生まれてこの方、ただの一回すら出来たコトは無い。身体を持ち上げる前に握力の限界を迎え、手を離してしまうのだ。


「・・・」

放出のイメージが間違っていたのかもしれない。

裕子が手の平から力を放出するイメージをした際に思い浮かべたのは、ハリウッド映画で観た『空飛ぶ全身パワードスーツの社長』だ。

『魔法少女』とは根本的に方向性が違っていた。

「・・」

今度は、身体全身から魔法の力を放出して身体を浮かべるイメージ。

裕子がこの魔法少女服に気付いた時だって、10センチくらいは浮かんでいたのだから、出来るハズだ。


「・・・・・」

出来た。

何か、身体の奥底から何かが吸い出されていく様な、そんな変な感覚がするけれど。

「・・上がって・・!」

徐々に、裕子の視界が上がっていく。

「・・もっと・・!」

身体が持ち上がった分だけ、裕子の身体からは何かが抜け続けていく。

「〜〜・・っ」

地下階から、1階の床を越え、更に身体が持ち上がっていく。

ついに、廃工場の屋根の大穴から抜け出した。

そのまま身体は上昇を続ける。


どんどんと地上が離れていき、裕子はかなり焦り始めていた。

今だって、身体の中から『何かが抜けていく』感覚が続いているのだ。

この『抜けていく何か』が無くなってしまったら、どうなるのか。

「〜〜・・!」

地下階に落ちるだけの高さとは、比べようも無い。

「・・もう良い・・もう、高さは良いから・・っ」

上昇を続けていた身体が止まった。

「・・ふぅ・・・」

夜風が強く叩きつけて来る。

前髪があっという間にクシャクシャになる。

前髪だけでなく、髪全体がグッシャグシャだ。

裕子は前髪を直そうとして、すぐに諦めた。

この強風の中では、すぐに元通りグチャグチャになってしまう、と。


魔法少女服はとても温かいけれど、こんな状況のままでは居られない。


「・・・ぇと・・」

裕子は廃工場の上空100メートルくらいの高さから、夜の街並みを見渡す。

上空から自分の住む街並みを見下ろすなんて経験は初めてだが、なんとなく「あの辺かな」と見慣れた建物が見つけられた。

夜でも街灯の明かりに照らされる現代バンザーイ、と裕子が少し動転した感想を抱く。


見慣れた建物が見つかれば、自分の住むマンションの大体の方向も分かった。

裕子は、そちらの方向に向けて、真っ直ぐ一直線に向かうイメージをした。

イメージ通りに、ゆっくりと、ぎこちなく、徐々に高度を落としながら、裕子は飛んで行った。

ただ・・傍目から見れば、人型をした風船が空中を運搬されているかの様に不自然な光景だったが。



「・・わ・・わわわっ・・・わ・・」

ふらつく様に、カクカクと、ぎこちなく、街の上空50メートルくらいの高さを、ひとつの人影が飛んで行く姿が見える。

風に乗って、怯えた様な声も聞こえて来る。

飛んで行った人影は、ひとつのマンションまで辿り着くと、ひとつの部屋のベランダに入ったくらいで、ベランダの床に、落ちた。



「・・・」

「・・アーシャ・・どうする・・?」

「・・・分からない・・」

「・・だよね」


廃工場の屋根の上空に、黒いウェディングドレスの魔法少女が浮いている。

その肩に、ネコの様な見た目の精霊が乗っていた。


強化した視力で、意味が分からないくらいの不格好さで飛び去る『魔法少女らしい何か』が自宅らしい場所に辿り着くまでを見届けた。

見ていると、ベランダの内側で光の粒子が散っていく様子が見えた。

少しして、ゆっくりと、ふらつきながら立ち上がる少女の姿が見えた。

どうやら変身が解けたらしい。

自宅の場所と、認識阻害の解除された素顔、その確認は出来た。

ゆっくりと、黒いウェディングドレスの魔法少女は、廃工場の屋根の上に着地した。



「・・ニャニャン」

「なに?」

「下に行ってみよ・・光の柱は地下から出て来たし、あの子も地下から浮かび上がって来た・・きっと、地下に何かがあるんだと思う・・」

「・・そうだね・・確かめてみよう・・」

「ん」



廃工場の屋根の上から、屋根に開いた大穴を抜け、2人は1階の床に開いた大穴から地下階に降りた。

裕子が出て来た穴から入れば良かったのだが、黒いドレスの魔法少女が『得体のしれない魔法少女』の姿を目で追っていた十分弱の間に、廃工場の屋根が更に崩落して塞いでいたのだ。

その為、別の場所に開いていた大穴から地下階に降りて行った。


「ニャニャン・・何か感じる?」

「ぅん・・地下まで来て分かった。魔法少女の『力』を感じる・・」

「さっきの子?」

「ぅぅん、似てるけど、違うと思う・・」

「どのくらい感じるの?」

「・・・」

「ニャニャン?」

「・・ぉかしいんだ・・」

「おかしい?」

「ぅん・・おかしい・・」

「・・どう、おかしいの?」

「・・この地下全体から感じるんだ」

「全体?」

「そぅ・・全体・・どんどん感じなくなってきてるけど・・」

「消えてるってこと?」

「ぅん。たぶん、明るくなる頃には完全に消えてしまってると思う・・」

「・・・ホントに、さっきの子のじゃないの?」

「ぅん。ついさっき付いた感じじゃ無いんだ・・何年も影響があったみたいな、そんな感じかな・・」

「・・」

「強く感じる方向がある。行ってみよう」

「ん」


ニャニャンが『力』の残滓を強く感じる方向に向けて、2人は歩いて行く。

2人の前方の斜め前側の上の方に、淡い光の球体が浮かんでいる。

黒いウェディングドレスの魔法少女が出した光属性の魔法のひとつだ。


裕子が豆粒大の光の粒を頼りにゆっくりと進んだ地下階の通路を、2人はあっという間に進んで行く。


「・・・ここだね」

ニャニャンが一番強く『力』の残滓を感じる場所まで、2人が着いた。

光の球体に照らされる通路には、特に何もモノは無い。

その場所の真上には大穴が開いていて、上から瓦礫が塞いでいた。

さっき塞がれていた大穴で間違いないだろう。

それ以外に目立つモノは、落ちていたりはしない。

しかし、壁や床には、独特な痕跡が残っていた。

壁には、ヒト一人が寄りかかっている様なシミが。床にも、脚を投げ出す様な感じのシミが。

「・・」

黒いウェディングドレスの魔法少女が、少し顔をしかめた。

何もモノは残っていなくとも、この場所にナニが有ったのかが分かったからだ。


「・・・死んでたのかな」

「・・たぶん」

「さっきの子・・じゃないよね・・」

「・・ぅん・・違う子だと思う・・」

「・・」

「確かなのは・・この場所で、一人の魔法少女が死んでいた・・そして、理由は分からないけど・・この地下で、一人の魔法少女が誕生したんだ・・」

「・・・そんなこと、起きるモノなの?」

「・・分からない・・」

「・・」


肩の上のニャニャンを見て、黒いドレスの魔法少女が尋ねる。

「・・何か、予想はしているんでしょ?」

「・・ん」

「なに?」

「・・たぶん、か、もしかしたら、だよ?」

「ぅん」

「ココで死んでた子の、その子だけの固有能力が、たぶん、関係してると思う」

「・・どんな能力だったのかな・・」

「分からない・・」



■■ED:『希望の一歩』歌:宇津馬(うづめ) 裕子(ゆうこ)■■


■■■■■This program is brought to you by the following sponsors.■■■■■


裕子「つ・い・に・魔法少女に〜なっりまっした〜♪長年の夢が叶っちゃったよ〜♪」

■■「良かったね」

裕子「うんっ♪」

■■「でも、アナタ、どうやって魔法少女になったの?」

裕子「えぇえっ!?分かんないよ〜?私だって知りたいんだから〜・・!」

■■「・・ふぅ」

裕子「あ。呆れたでしょ!」

■■「気のせいよ。で、次回は?」

裕子「次回!第3話!『誰?新たな魔法少女は黒い花嫁さん!?』です♪」

■■「・・観てね」

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