#16『不思議な転校生は、もしかして・・?』Aパート
その日の朝のホームルームは、いつもの朝のホームルームとは少し違った。
担任の見六先生と共に、1人の女の子が入って来たのだ。
その女の子は、背中の半ばくらいまでの長さの黒髪に、小さなツーサイドテールに結わえた髪型、大人っぽい色合いのロングワンピースに、レースたっぷりのハーフジャケットを羽織っていた。
小学5年生にしては小柄に見える背丈で華奢に見えるのに、何故か胸元がほんの少し膨らんで見えた。
ほのかに微笑んでいるように見える表情や、眠たげな目元でポワポワして見えるところなど、どこか浮世離れした雰囲気もあり、捉えどころがないのも不思議だった。
一瞬目を逸らして見直したら居なくなっていた、そんなコトがあっても不思議ではない感じだろうか。
裕子の通う平原小学校は基本的にランドセル通学だが、彼女が両手で抱きかかえるように持っているのは、サッチェルバッグタイプの可愛らしいカバンだった。
本人の雰囲気や服装と合わせて、どこのお嬢様なんだろうかという雰囲気だった。
「こちら、ご家庭の事情で短期間となりますが、みなさんと一緒にお勉強することになる、逢庭ミトさんです」
見六先生が、紹介した逢庭ミトを見て軽く頷く。
「・・はじめまして。逢庭、ミトです。短い期間なのが とても残念ですが、よろしくお願いします」
逢庭ミトが軽くお辞儀すると、教室内がワッと沸いた。
「わー、可愛い〜♪大人っぽ〜い♪」
「席は?どこ?どこ?」
「友達んなろーぜっ!」
「どこ住んでるのー?」
「部活ならテニス部にしなよっ!」
「彼氏いるのー?」
「レイン交換しよっ!」
「抜け駆けすんなっ!」
「男子うるさいっ!帰れっ!」
騒がしいクラスの中、2人だけ、他のクラスメイト達とは違う目で逢庭ミトを見る者達が居た。
裕子と加茂鴨遥だ。
魔法少女として『逢庭』という一族と関わる裕子と、
身体の変質という事態の最中で『逢庭』という人達と関わることになった加茂鴨ちゃん。
クラスメイト達の中で、2人だけが彼女を違う視点で見ていた。
加茂鴨ちゃんが男子から女子に変わるという中々発生することも稀な事態で行われた席替えにより、女子列に変わった加茂鴨ちゃんは、今は裕子の後ろの席になっている。
後ろを振り返って加茂鴨ちゃんと顔を見合わせた裕子は、コクンと頷くと改めて黒板前に立つ逢庭ミトを見た。
他のクラスメイト達とは違う見方をする2人からの視線に気付いた逢庭ミトは、口の端を少し上げるくらいの微かな笑みで返した。
■■OP:『Don't stop.Don't look back.』歌:斎木 夏樹■■
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現在の裕子のクラス内は、男女別に交互に席が並んでいるのとは別に、若干いびつな並びになっていた。
裕子のクラスは元々は男子15名と女子17名だったが、加茂鴨ちゃんが男子から女子に変わったことにより、男子14名・女子18名になっていた。
席の配置は中央の2列だけが縦に6席、それ以外が縦に5席で、6列、合計32席だ。
男子列が窓側なのは、女子が日焼けを気にするのを分かっている同性の見六先生ならではの気遣いかもしれなかった。
窓際は黒板近くに教員席がある為に縦5席になっている。
ちなみに、女子の方が多い為に、女子同士の並びが2組ある。
裕子の席は中央の前から3番目、ちょうど教室の真ん中辺りで、メリットデメリットが微妙な位置だった。
裕子の後ろの加茂鴨ちゃんは中央列の前から4番目になる。
裕子が密かに諦めきれずにいる多々乃慎一くんは窓際の一番前で、教員席の直近席だ。
一番嫌がられる席だが、何故か多々乃君の立候補により決まった席だ。
女子からキャーキャー言われるのを避けたい多々乃君なりの逃避選択なのがバレていないのは、本人的にも女子達にとっても幸いなコトかもしれない。
ちなみに、裕子のクラスの席決めは、皆から敬遠されがちな最前列席だけが立候補制だった。
あとはくじ引き抽選で座席を割り当て、視力や生徒間の極端な関係(イジメやケンカの常習関係など)によっては変動する。
自身で『イケてて皆を引っ張っていける人間』と公言して憚らない星立芽亜里は、立候補により、中央最前列の1席目だ。
となりには、クラス内の癒し本栖美和ちゃんが抽選により座っている。
ちなみに、女子の成績トップは本栖美和ちゃんで、星立芽亜里は常に成績下位をさまよっている。
傲慢で自意識過剰に見られがちな芽亜里だったが、見た目は良いこともあり、男子からは『偉そうだけど、おバカ可愛い』と見られている。
ただ、クラス男子内で『付き合いたくない女子』殿堂入りもしてはいたが。
普通なら女子から嫌われるタイプの芽亜里だが、オシャレのつもりのミニスカートで盛大にパンチラしまくってしまっていて、ある意味男子に注目されてしまっていることが女子達の溜飲を下げる要因になっていたり「助けてあげなきゃ」対象になっていたりして、ちょっと可哀想でもあった。
ただ、美和ちゃんが隣席になってからは、美和ちゃんが甲斐甲斐しく「ほら、それじゃ見えちゃうよ?」とか「こうすると色っぽいかも」とチラ見え防止体勢を教えたりしていて、クラスの『ママ』『お姉ちゃん』の名を欲しいままにしつつある美和ちゃんだった。
2人の様子を『百合』と言い盛り上がる女子も居るが、裕子にはよく分からなかった。
逢庭ミトの席は、なるべく不便のないように、との理由から教室のほぼ中央となった。
中央2列の左側の縦3番目が彼女の席に充てられ、もと居た子達は後ろ方向にスライドして最後列の女子が廊下側の男子列の最後列に移された。
なので、クラスの一番後ろ側の席5席の内の4席が女子席になった。
そして、ほぼ中央で前から3席目ということは、裕子の隣の席ということだ。
「よろしくね、ミトちゃん。私、裕子。宇津馬裕子だよ」
「はい、よろしくお願いします。・・私も、裕子ちゃんと呼んでも・・?」
「うんっ♪」
■
「ね、裕子ちゃん。あの逢庭さんって・・やっぱり、あの『逢庭』の関係の子なのかな・・?」
3時間目の体育直前、女子更衣室で加茂鴨ちゃんがこっそりと話し掛けてきた。
教室のカーテンを閉めて教室で着替える男子達と違い、女子達は女子更衣室で着替える。
ただ、女子全員まとめて一斉に入れる程に広くはないので、校内に点在する女子更衣室に分散しての着替えとなるのだ。
しかも、つい少し前まで男子だった加茂鴨ちゃんに見られるのはまだ抵抗感があるのか、一部の女子達は彼女と同じ更衣室になるのを避けていた。
特に忌避感の無い裕子は彼女と同じ更衣室になることが多く、最近は隣で話しながら着替えることが多い。
完全に女性の身体に変わっている彼女は、元男子には絶対に見えない。
今だって、小中学生女子向けプチプラ『Sweet strawberry』のキャミソールとショーツの裕子の隣で、同ブランドのジュニアブラ・ショーツセットの加茂鴨ちゃんが着替えている。
初めて更衣室で隣になった際に、自分より膨らんでいる加茂鴨ちゃんの胸元を見た際の衝撃は覚えているくらいだ。
ちなみに、その日の帰りに同ブランドの上位『Cattleya Garden』のショーツを衝動買いした裕子だったが、いまだに外出時に身につけられずにいた。
それはさておき・・。
「・・どうなんだろぅ・・?」
「もしかして、私のせいかなって・・」
「?」
加茂鴨ちゃんの言ったことの意味が分からず、裕子が彼女の目を見る。
「病院で・・」
加茂鴨ちゃんが逢庭の人達とキツネ耳・尻尾の女性に話してしまったことを口にすると、裕子の顔が青くなった。
もしかして、他人の人生を変えてしまうほどの影響を及ぼした自分を叱りに来たのでは・・と不安がよぎったのだ。
キーン・・コーン・・♪
「ぁ」
「ぁ」
つい話し込んでしまっていて、予鈴がなってしまった。
急いで着替えた2人は、体育館目指して全力疾走していった。
■
「・・ん」
閉じていた片目を開け、逢庭ミトが顔を上げた。
女子更衣室で盗み聞きしていた魔力製の使い魔から見た印象と聞いた内容を精査し、あの『宇津馬裕子』という少女はホントにただただ迂闊なだけの様な気がしてきた。
今現在、彼女は体育館の隅で見学中だ。
『逢庭ミト』という少女の設定上、病弱で学校を休みがちということになっているし、転校したてで、まだ平原小学校に馴染む為に見学、ということにもなっている。
体育座りでヒザを抱えている両腕をジッと見てみても、違和感はない。
特に輪郭がボヤけていたりしないし、色合いがおかしいという感じもしない。
「・・・ほんと、良く出来てること・・・気色悪いくらいね・・」
この場に居る『逢庭ミト』という小学5年生の少女は、実際はこの世に存在しない。
魔法少女ラビリンス・リリィこと逢庭魅兎の操作する『人形』だった。
行方不明状態で数年経過している魔法少女『ペネトレイション・リリィ』の魔力反応が数年振りに検知されたのは、
逢庭ノ湯宿 伊豆・天城別館でのことだった。
しかし続けて少し後にも検知されたのだ。
それは、静岡県の遠州浜沿岸から少しばかり離れた場所での大型客船沈没現場の、沈没船自体からだった。
魔力検知に長けた『記録者』の灰羽御津が協力してくれて、あの大規模救助活動の場に集った魔法少女達の割り出しと特定を進めていたのだが、
その場に居なかったハズの『ペネトレイション・リリィ』の魔力反応が検知され、更に件の『アイソレイト・リリィ』が居たことも特定された。
元々アイソレイト・リリィの査察は予定として決定事項だったが、それにより早まったのは確かだった。
やはり間近で直に接して判断するのが一番確実だが、どう見ても小学生くらいのアイソレイト・リリィに、どう見ても20代の逢庭魅兎が接するのは、同性であるという点を加味してもハードルが高過ぎた。
下手したら防犯ブザーどころか、通報されて逮捕で社会的に死にかねない。
そこで考えたのが、『人形』と逢庭のコネやらを使っての潜入と接触だ。
魔法少女の使う『人形』は、本物の人間と見分けのつかない出来にもできるが、魅兎にはまだ、そこまでの技術はなかった。
だから、本来の肉体を失っていても代替肉体でこの世に留まっている灰羽御津に協力を依頼したわけだが・・結果は想像以上だった。
苗字から勘付かれた以外、『人形』とはバレていないようだ。
実際、灰羽御津の提供してくれた義体は、血が通わず水気がほぼゼロの無機物という点以外、精巧過ぎるくらいに人体を模倣した構造だった。
あとは、それに魅兎自身が作った小学生女児タイプの『人形』を重ねただけで違和感は払拭されてしまった。
ただ、精巧過ぎて気持ち悪い点は問題だったが、法に触れるブラック過ぎの『特別のモノ』を使っている灰羽御津に比べればマシと言えるのでガマンするしかない。
「すいません〜遅れました〜!」
「すいませんっ。遅れましたっ!」
調査対象の宇津馬裕子と、精霊との融合特殊事例被験者の加茂鴨 遥が体育館に駆け込んで来た。
「・・さて・・」
小学生生活なんて、小学校卒業以来だ。
■
「・・・ふむ・・」
体育館の外側から内側を覗き込む ひとつの視線があった。
裕子や加茂鴨ちゃんがバスケをしている様子や、逢庭ミトが見学している様子、それらを見ているのは、体育館の天井近くの窓の外側に浮くキツネ耳とキツネ尻尾の妙齢の女性、いづねこん だった。
何かを探るように見ている双眸は、魔力を帯びて仄かに発光していた。
「・・・」
確かめるべきことは確かめた、とばかりに身を翻した いづねこんは、浮いていた空中を足場に数十メートル跳躍し、平原小学校から離れていった。
逢庭からの「よろしければ、御助言頂きたく・・」という依頼の文をもらった彼女は、なんとなく気が向いた為に、助言どころか京都からわざわざ出向いて静岡県まで来ていた。
彼女的には本当にただ『気が向いた』だけだったのだが・・出向いてみれば、この端愛市とやらは中々に興味深い、少しばかり危ういことになっていた。
地脈をムリヤリ捻じ曲げて繋げたかの様に、とある廃工場が霊脈の歪みになっていた点。
そこから歪みの影響で濃密になった霊子が地面下に漏れ出ていた。
地理的な面から狭まらざるを得ない市の規模の割には魔法少女の数が多く、関わる精霊まで多めな為に、範囲で見れば魔力密度が高くなっていた点。
いづねこんが感知しただけでも、5人の魔法少女と3体の精霊、さらに精霊との融合体まで居て、周囲に及ぼす霊的影響が危惧された。
さらに、空間魔法の使い手が多いのか・・時空壁の脆い箇所が散見された。
もし、そこが『開いて』しまっていたりしたならば、中世の頃までの様に『神隠し』が多発したり、漏れ出たモノが概念の影響を受けて受肉した『怪異の類』と化していた可能性もあった。
いづねこんが活動の拠点としている京都は、何世紀にも渡っての血みどろの歴史から濃く染み付いた『念』の影響で、現代でも尚、怪異の出没が途切れない。
あそこまで深刻な状態にはならないであろうけれど、
先んじて手を打っておくのが無難なのは確かだった。
「・・・どうしたものかのぅ・・・・・・・・本気で・・」
ひとまず地脈を整える為に、市内で一番の問題と言える廃工場に向かって、いづねこんは住宅街の上空を軽やかに飛び越えていった。
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