#14『繋げ!キズナのバトン!』Aパート
「では、女子アンカーは宇津馬さんに決定です!」
教壇に立つ二学期の学級委員の女子が、黒板に書かれた名前の中から、裕子の名前の上にマルをつける。
その様子を、「ウソでしょ・・?」と呆気にとられた顔をした裕子が見ていた。
運動会の男女混合リレーの女子の欠員の代わりを決める投票が行われ、候補の女子の中では1番足が速いというだけで、裕子が過半数を獲得して当選してしまったのだった。
■■OP:『Don't stop.Don't look back.』歌:斎木 夏樹 幼女Ver.■■
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もう初秋となり、残暑の辛さの抜けたこの頃、裕子はすでに生地の薄めの長袖に替えていた。
暑ければ腕まくりすれば良いし、まだTシャツ1枚でも大丈夫な男子と違って、基礎体温の高めの女子にとっては丁度いいくらいだった。
スカートも膝丈でタイツ無しで丁度いいくらいだ。
小学校からの帰り道をトボトボと歩きながら、裕子は不満いっぱいの表情だった。
その原因は当然、帰りのホームルームで急遽行われた投票だ。
「・・なんで私なのー?」
本来の女子アンカーの星立芽亜里が塾の階段を踏み外して転げ落ち、右腕を骨折して走れなくなった事故の為の代理だから、仕方ないといえば仕方ないのだけれど・・なんで自分なのかが納得できなかった。
むしろ、オシャレとモテしか頭になさそうな、あの芽亜里が塾通いだったという衝撃的事実の方がギリギリ納得できたくらいだ。
別に、裕子は脚力自慢ではない。
それどころか、女子全員のちょうど中間辺りを行ったり来たりしているくらいの記録しか出ていない。
速過ぎもしないし、遅過ぎもしない、だから丁度埋もれて目立たないくらいなのだ。
これまでの5年間の小学生生活で初めて、リレーの走者候補に名前が挙がったくらい、裕子の脚力は普通だった。
それが、男女混合リレーに参加していなくて、直前2つまでの競技に出場していない女子、という選定基準に引っかかってしまったのだ。
しかも運の悪いことに、選定に引っかかってしまった女子9人全員が、50メートル走の記録の女子の中間からビリの者が名を連ねていて、速い方のトップが裕子という運の悪さ・・。
記録的には、リレー直前の競技の徒競走に出ている女子が走った方が、たぶん速いハズだ。
いや、確か、クラス上位のタイムの者達で固められていたハズなので、疲れていても間違いなく裕子よりは僅かに速いだろう。
裕子のクラスは何故か脚に自信のある者が多く、脚力に物を言わせる競技への熱意が異様に高めなのだ。
空いてたパン食い競走と障害物競走に出場した裕子とは根本的な熱意がかけ離れていて、同じクラスのハズなのに裕子は疎外感を抱いていたくらいだった。
「・・・」
道に落ちていた小石を蹴って、そのまま下を向いたまま歩いていると・・。
「裕子、危ないよ?」
「ね~」
聞き慣れた声がして顔を上げると、少し先に夏樹が立っていて、その肩にはニャニャンが乗っていた。
夏樹の手には、少し前に裕子が蹴った小石があった。
「おかえりなさい、裕子」
「・・ただいま。夏樹ちゃん、もしかして当たっちゃった・・?」
「ぅぅん。転がってきたの拾っただけ」
「そっか・・良かった・・」
裕子がホッとした顔になる。
「でも、今日は遅かったんだね」
夏樹が首を傾げながら聞いた。
「ぅん・・クラスでね・・」
裕子が夏樹と並んで歩きながら、帰りのホームルームが長引いた理由を説明した。
「それは災難だったね〜」
ニャニャンが面白がるような口調で言うので、裕子は不満そうな顔でニャニャンを見た。
「わっ、こわーい☆」
全く怖がっていないのが丸わかりのリアクションでニャニャンが夏樹の髪の毛の中に隠れる。
「こらっ、ニャニャン?」
夏樹が髪の毛の中に埋もれて隠れたニャニャンを引っ張り出して叱る。
「ニャハハ・・ごめんね、裕子ちゃん」
「んーん・・」
裕子がジト目でニャニャンを見遣るが、ニャニャンはどこ吹く風といった様子だ。
とはいえ、今の裕子には、ニャニャンに構うより、「リレーどうしよう」の不安の方がはるかに大きかった。
「裕子・・ホントに大丈夫・・?」
「ん・・。リレー・・どうしよう・・自信なんか全然ないよー・・」
ニャニャンにからかわれても全然な裕子に、夏樹もニャニャンも心配そうに見た。
「じゃ、魔力使ってズルしちゃえば?」
「ニャニャン!」
ニャニャンが当たり前みたいに口にした言葉を、夏樹が叱る。
「・・魔力でズル?」
「ぁー・・えっとー・・」
裕子が疑問を口にし、夏樹は答えに窮した。
「夏樹。夏樹がマジメでしっかり者なのはボクも自慢だけど、魔力の使い方の色んな方法とかは知ってもらってた方が、いざって時は自分で何とか出来ると、ボクは思うなー?」
「・・」
ニャニャンの正論に、夏樹は返す言葉が咄嗟には出せなかった。
「裕子ちゃん。授業中に魔力特訓してた裕子ちゃんなら分かると思うけど、その時に気付いて役立ったコトとかあったでしょ?」
「・・ん」
「その時は魔力の使い方の発想とか思いつきだったと思うんだよね・・まぁ、役には立ったとは思うけど」
「ぅん」
「ボクがさっき言った『ズル』ってのはね、魔力で自分の基礎的な部分を底上げしようってコトなんだよっ」
「・・・底上げ?」
「そ。例えば・・腕力上げてボールを遠くまで投げたり?懸垂を魔力の限りまで何回も何回も出来たり?反応速度上げればドッチボールで当たらないで避け続けられるし?ジャンプの距離を伸ばせば結果の差が大きい競技も多いよねー?ん〜・・あと〜・・脚力上げて〜、速く走ったりーー?」
ボールの辺りで裕子もその可能性に気付いてはいたが、脚力だけもったいぶって最後の最後に回されていた。
夏樹が少し怒った顔でニャニャンの尻尾を強く握り、大きく振りかぶって遠くにぶん投げた。
気のせいか、『ニャニャンは精霊の為に、普通の猫とは違います。絶対にマネをしないで下さい』というテロップが入った気がした。
「な、夏樹ちゃん・・」
「気にしないで」
「ぅ、ぅん・・っ」
「コレが身体強化。今のは腕力増加かな」
夏樹がニャニャンをぶん投げた方の腕を裕子に見せた。
その腕全体から小さな光の粒子が出ている様に見えた。
「・・それ・・魔力・・?」
「ぅん。魔力が身体から溢れ出てる感じかな・・でも、普通の人達には基本的に見えないから大丈夫」
「・・基本的に?」
「そう。・・ぇと・・霊能力者とか言われる人達とか、視る力が強い人とか、そういう人達には見えちゃうかもしれないけど」
「それじゃ、ズルしてもバレちゃわない?」
「そう。だから、本気でズルするつもりなら、こんな風に魔力が溢れ出ないように注意しないといけないの。でも、私はズルはオススメしたくないから、方法は今は教えられないかな・・。ズルというか、卑怯な裏技なら教えられるけど」
「・・」
夏樹の無表情気味の顔に、裕子は何も言えなかった。
「・・魔法少女に変身したまま、『認識阻害』切って、魔法少女装束を消して、普通の服を着ればいいんだよ」
「そっ・・それは・・」
「そう、ズルどころじゃないよね。完全に魔力操作がうまくいけば、50mくらいなら、1秒もかからないよ」
「・・そんなに?」
「私は、ね」
「・・」
「スタートの瞬間に認識加速の術式で意識を最活性化させて、全身隅々に魔力を行き渡らせて、50m先に身体を運ぶの」
「・・難しそうだね」
「ぅん。死ぬくらい痛い思いしたくなかったら、空中以外でやるのはオススメしないかな」
「・・・そっか・・」
「ゴール地点の先に何かあったら、うまく止まれなかった時に全速力でぶつかりに行くのと同じでしょ」
「・・だね」
「まぁ、運動会で使ってぶつかったとしても、相手がグチャグチャになって周り一帯が吹き飛ぶくらいかな」
「大惨事だよ!?」
「ぅん。魔法少女だってバレちゃうだろうし、殺人犯として捕まっちゃうだろうね。・・まぁ、私が使った時も、『黒』相手の自爆技みたいな使い方だったし」
「・・自爆?」
「そう。あと少しで倒せそうだったのに逃げ出されちゃって、逃さない為に、仕方なく使ったの。まぁ、力振り絞った全力体当たりだよね・・」
「・・」
「『黒』は倒せたけど、そのままかなり先まで止まれなくって、運良く光浄商のグラウンドに突っ込んで止まれたくらいだったよ・・」
「光浄って・・」
裕子の顔が引きつる。
夏樹が言った『光浄商』は、静岡県立 光浄商業高等学校のことだ。
端愛市内唯一の商業高校で、元はカトリック系の女子校だったが、今は男女共学になっている。
その高校は、数kmは離れているのだ。
そんな先まで止まれない威力、今の裕子に止まれるとは思えなかった。
ちなみに夏樹は言わなかったが、グラウンドに突っ込んだアーカーシャ・リリィは50m以上の深い溝を刻んで、校舎に激突して停止した。
校舎の壁には大穴が開き、廊下の壁にアーカーシャ・リリィがめり込んだのだが、情報操作やグラウンドと校舎の補修は『逢庭』がしてくれた。
昏睡状態になったアーカーシャ・リリィは逢庭が手配してくれたという魔法少女の治癒魔法で目覚めたのだった。
ネットで調べれば、端愛新聞のバックナンバーで、『隕石か?光浄商業高等学校に謎の落下物』として記事が載っているのを見つけられるハズだ。
「それ、もう、ズルとか卑怯とかってレベルじゃないんじゃ・・」
「・・気にしたら負けかなって」
「ぃゃぃゃぃゃぃゃ・・」
裕子が首をプルプルと振る。
「まぁ、付け焼き刃で魔力を使うのは危険でしかないって悪い見本と思って」
「・・・」
「・・でも、それ以上に、魔力を使ってズルはして欲しくないなって」
裕子をしっかりと見る夏樹の目は、裕子を思いやる想いが見て取れた。
「確かに、期待には答えたいよね・・望んだコトじゃない分、ズルしても良いかなって思っちゃうかも。でも、それは自分の為にはならないと思う」
夏樹の指摘に、裕子は俯く。
「・・そうだよね。ちょっとヤケになってたかも」
「・・」
「・・頑張ってみるよ」
「ん。それでこそ裕子だと思う」
「・・なにそれ」
「だって、裕子は魔法少女になりたてで、誰にも聞けなかったのに、不慣れな魔力を振り絞って、落ちたら間違いなく死ぬかもしれない飛行魔法で飛んで帰ったんだよ?私なら、隠れながら歩いて帰ったと思うなー?」
それを言われたら、返す言葉もない裕子だった。
「あの時はほら・・魔法少女になれてハイになってたーとか、魔法少女なら飛ぶものーとか思っちゃったとか、まぁ、その、ほら、ね?だから・・違うの。きっと?」
しどろもどろにアタフタと言い訳する裕子を、夏樹が生暖かい目で微笑ましげに見ていた。
「・・裕子、少しなら協力できるかもしれないけど・・?」
「ぇ。ほんと?」
「けっこう辛いかもしれないよ?」
「・・・がんばる」
「実際、かなり辛いよ?」
「ぅ・・が、がんばる・・っ!」
「・・思った程の結果が出るかは分からないよ?」
「・・やってみる」
「分かった。裕子、手と足出して」
夏樹の手が魔力で光りだした。
■
それからの裕子は、夏樹が付けてくれた魔力製の重しを両手首と両足首につけたまま、その重みを相殺する為に自身の魔力で身体全体を覆う様にして過ごした。
そうしていないと、マトモに歩けないくらいの重さだったのだ。
更に、変身していない状態で全身覆う程の魔力を放出するのが、思った以上に辛かった。
ただ登校するだけで、1000m走完走後なみに疲れた。
毎朝登校するだけで汗だくの裕子を心配する声が掛けられたが、「リレーの為に練習してる」とごまかした。
下校後は、夏樹とニャニャンに見てもらいながら、生身での魔力操作訓練を兼ねた体力作りをした。
寝る時間には、死にそうな程に疲れ切っていた。
こっそり夏樹が回復魔法をかけに来ていなかったなら、学校を休んでいたかもしれない。
1週間もしたら慣れてきたが、重しを付けたままでは結果は実感出来なかった。
ただ、毎日汗だくで過ごした時間がムダとは思えなかった。
そして、運動会当日が来た。
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