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#2『変身しちゃった!』Aパート

■■


泣かないで・・。

泣かないで・・・。


ぁぁ・・ごめんなさい・・。

ごめんなさい・・・。


泣かせようとした訳じゃなかったの・・・。


・・・。


・・私は何の為に魔法少女になったの・・。

何の為に、魔法少女で在り続けたの・・。


こんな事の為なんかじゃない・・!


目の前で泣く女の子が泣き止むのなら、私は消えて無くなってしまったとしても構わない・・!


私はもう、死んでいるんだから・・。

悔いは・・ある・・。

やりたかった事だって・・いっぱい有った・・・。


・・でも・・もう、私には無理だから・・。




■■OP:『Don't stop.Don't look back.』歌:斎木(さいき) 夏樹(なつき)■■


■■■■■Brought to you by these sponsors■■■■■



希望が断たれ、泣きじゃくる裕子の前で、光の奔流が溢れる。


光の粒が裕子の周りを回り、時折やさしく触れる様に、頬や頭に当たる。

光の粒が触れた場所から、冷え切った身体が優しく温められていく。



裕子の前で壁にもたれかかり朽ち果てている、遺骸の身に纏う服も仄かに輝きだす。

光の粒子は裕子の周りをゆっくりと回り、時折、裕子に当たる。

当たった粒子は弾けたりせず、裕子に染み入る様に消えてゆく。


どのくらい、その時間が続いたのかは分からない。

しかし、その神秘的とも言えそうな光景の終わりが訪れる。

遺骸の周囲の輝きは薄れてゆき、やがて消えてしまった。

手持ち花火の最後の灯火が消えてしまう、そんな消え方だった。


逆に、裕子を包み込む輝きは力強く、徐々に強さを増してゆく。


床に座り込んでいた裕子は、冷え切っていたのがウソの様に温かくなった手を見下ろす。

輝きを帯びた手を動かすと、何か触れた様な気がした。

手の先には何も無いハズなのに、確かに、何か・・・微かな手応えがあったのだ・・。


『・・・』


「ぇ」

何か、聞こえた気がした。

誰も居ない。強いて言うなら、数メートル前に朽ち果てた女性が壁にもたれかかっているくらいだ。


「・・・アナタなの・・?」

有り得ない、とは分かっていても、他になさそうなのだ。

目の前で息絶えている、この誰かが話し掛けてきたのではないかと思えた。

いや、確信していた。

何故かは分からない。

でも、裕子の身体を優しく包み込む光が教えてくれていた。


『・・・ん・・』


先程よりは、少しだけ、何か分かったと思えた。


『・・け・・・・・ん・・』


「・・」

何かは分からない。

けれど、裕子は待った。

この声は、何かを伝えようとしている、と分かったから。


『・・け・・ん・・・・・・・』


「・・・・」


『・・・・・ん・・げ・・ん・・・』


何度も途切れ途切れに聞こえたのだ。

何か、同じコトを伝えようとしているのは分かった。

それを繋ぎ合わせれば・・。

「・・けん・・げん・・?」



「ニャニャン、そっちは?」

「大丈夫そうだね」

「・・影響は残らないかな」

「たぶん大丈夫だと思うよ?・・むしろ、アーシャが盛大に壊した建物の方が残ると思うけどね」

「・・・ぃじわるぅ・・!」

「ははは。ごめんごめんっ♪」

「もぉ・・!」


闇を凝縮した様な何かを消し去った魔法少女と、お供のマスコットの精霊、その2人が廃工場の中を見回っていた。

黒いウェディングドレスの魔法少女が消し去ったモノは、例え少しであっても残してはならないモノの為、念には念を入れ、ジックリと調べていたのだ。


ネコをデフォルメした様な精霊のニャニャンは、特に不審なモノは発見せずに済んだ。

黒いウェディングドレスの魔法少女も、特に、先程の黒い塊の影響を受けてしまった様なモノは発見する事はなかった。


しかし、2人共、気になるコトが少しばかり有った。


黒いドレスの魔法少女は、廃工場の2階の大きめな窓が開いていたのが気になった。それに、うずたかく積もるホコリの上に、真新しい小さな足跡が点々と残っていたのだ。

まるで、ついさっき付いた様な真新しさに見えた。


ニャニャンの方は、こんな廃工場で感じるハズの無い感覚を、薄っすらと感じ取っていた。

精霊である自分や、ドレスの魔法少女、その『力』に近しい感覚だ。

ドコからかは分からないけれど、錯覚などでは無い。間違いなく、存在している。それは確かだ。


2人揃って疑問を抱え、廃工場の1階の、比較的片付いている場所に集合した。


「ね、ニャニャ・・」「アーシャ、気に・・」

2人同時に疑問を口に出しかけた その時。


コオォオッ・・ッ!!!

周囲の空気が一点に向けて収束しだした。

いや、空気とは少しばかり違う。

空気中に存在する、魔力の元、とでも言うべきモノのひとつ、『マナ』だ。

そのマナが一方向に向けて収束して行っていたのだ。


その現象に際して。

アーシャと呼ばれた魔法少女は、大規模な魔力運用前の兆候かと思い浮かべた。

ニャニャンと呼ばれた精霊は、いくつかの可能性を思い浮かべた。

「・・・まさか・・(きょっ)か・・」


ズァッ!!!!


マナの収束する一方向を向いていた2人の前に、光の柱が立ち上がった。

廃工場の1階の床を突き破る様に、廃工場の大穴の開いた天井を更に破壊し、遥か天空の彼方まで届けとばかりに、真夜中の闇を斬り裂く様に、(まばゆ)い、目の(くら)む、輝く光の柱が立ち上っていた。


「・・コレは・・!」

「ニャニャン、コレって!」

「・・・ぅん・・魔法少女だ・・新しい魔法少女が、現界した・・!」

「・・近くに別の精霊が居たの?」

「ぅぅん、感じなかった・・近くには、誰も居なかったハズだよ・・!」

「じゃあ どうして・・っ」

「・・わからない・・」


光の柱が、徐々に細くなってゆく。

そして、天空高くまで立ち上っていた光は収まってゆき、廃工場の地下階まで降りて行く様に、静かに消えていった。


「アーシャ・・!ひとまず隠れよう・・!」

「ん・・!」


廃工場の中は、隠れ場所には事欠かなかった。

錆つく大型機械の影でも良いし、ホコリの溜まる各種通路の床に伏せるだけでも問題ない。

なんなら、今の衝撃で更に降り注いだ天井の破片の影だって構わないくらいだ。

2人は、物音を立てない様にソォッと、闇に紛れて隠れた。



「・・・なに・・コレ・・?」


裕子は、真昼の様な明るさに照らされる地下階の通路に居た。

通路を照らす光源は、裕子の全身を包み込む『服』だ。

ついさっきまでの私服とは違う、真新しい服だ。


身体のラインが浮き出るくらいピッタリした、ニットワンピの様な黒のロングのスカートが見えた。

片脚が太ももの真ん中くらいから露出している。

露出している脚の先は、少し大きめのハーフブーツだ。

ピッタリしたワンピースの上には、濃いグレーの上着が見えた。

七分丈くらいの袖の下に、黒い袖が見える。

たぶん、ワンピースとつながっているのだろう。

手には、ピッタリとした艶消しレザーの様な手袋をしていた。


その『服』を見て、裕子は「少し大人っぽいかな・・でも、私には似合ってなさそう・・」と率直な感想を抱いた。

「ピッタリしたワンピースとかは、スタイルの良いお姉さんなら似合うと思う。でも私じゃ・・」と、真っ平らな胸元を見下ろした裕子の顔が、苦笑を浮かべた。


しかし、『服』には気になるコトがあった。

服のアチラコチラの端の方から、空気中に溶け出す様に、粒子が漏れ出し続けているのだ。

そのまま放っておいたら、全部溶け出してしまって裸になってしまうのではないか。そんな不安がよぎった。


しかし、そんな不安は一瞬で消えた。

服の端が溶け出している事なんて些細なこと、そう思えてしまう程の異変に気付いたのだ。


足下が、床についていなかったのだ。


浮いていた。

ほんの10センチくらいだったが、空中に浮かんでいたのだ。


「わわわわっ・・!?」

ビックリして慌てる裕子だったが、そのまま、落ちる事もなく浮かんでいた。

不思議さに驚きつつ顔を上げた裕子の目に、何で失念していたのか自分に問い詰めたくなるくらいの光景が飛び込んで来る。


「・・・」

壁にもたれかかる様にして朽ち果てている白骨死体だ。

しかし、光に照らし出された姿がハッキリと見え、裕子は自分の姿を改めて見た。


同じ服だった。


もちろんサイズとかは違う。でも、白骨死体の身体を包む『服』と、自分が今着ている『服』の意匠(いしょう)は、同じだった。


光に照らされた通路に安心したのか、身を包む『服』の温もりに安心したのか、裕子の思考は正常さを取り戻してゆく。


落ち着いてくれば、何故スルーしてしまっていたのか分からないコトばかりだった。


光の粒が暗闇を飛んで来るわけが無い。

白骨死体から光が溢れ出して来るわけが無い。

その光に包まれて安心するわけが無い。

いきなり服が変わるわけが無い。


しかし、裕子には、その不可思議に心当たりがあった。


『魔法少女』だ。


世界各地に存在しているし、日本にだって数多く存在している。

何か災害が起きれば、いの一番に、文字通り『飛んで行く』のだ。

裕子自身も、遠目に見たことはあった。


小さな女の子の『なりたいもの』の上位に入って来る存在でもある。

『お嫁さん』や『パティシエ』などと並び、憧れの存在だ。


しかし、他と違い、魔法少女の『なりかた』は分からない。


裕子だって、初めてテレビで魔法少女の活躍を見て目を輝かせ、「将来は魔法少女になる♪」と無邪気に口にしていた時期はあった。

しかし、小学校の高学年になる今となっては、もう分かっていた。

「自分が魔法少女になるコトは無い」、と。


テレビで魔法少女を観ても、「すごいなー・・」とは思っても、「将来は・・」なんて思うコトは無くなっていた。


その魔法少女に・・まさか自分が・・・。


嬉しくて堪らないハズなのに、裕子は素直に喜べない。

魔法少女の成れの果てが、目の前で朽ち果てているのだから。


幼い頃の裕子が母親に ねだって買ってもらった『魔法少女 名鑑』。

それには、『活躍している』もしくは『過去に活躍していた』、多くの魔法少女が載っていた。

遠距離から撮影された写真や助けた人とのツーショット写真、活躍地域や活躍の内容、名前が判明している魔法少女も居れば、愛称しか判明していない魔法少女も居た。

しかし、『活躍していた』魔法少女がその後 どうなったのか、ソレは載っていなかった。

今の今まで、『その後どうなったのか』なんて考えもしなかったし、知ろうともしていなかった。


裕子の目の前に、『その後』の姿が在った。


先程まで暗闇に居た時の涙とは全く根本が違う。そんな涙が溢れてきた。

裕子を包む光が収まってゆき、静かに床に着地した。

静かに歩み寄り、白骨死体の傍らに しゃがみ、手の骨に触れた。


先程初めて見た時に悲鳴を上げた裕子だったが、今は違う。

静かに涙が頬を伝い、冥福を祈る様に目を閉じた。


■■■■■to B PART■■■■■

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