#13『その魔法少女の名は・・』Aパート
「んむ・・んむ・・」
夏樹がいなり寿司を食べながらコクコクと小さく頷く。
「美味しい?」
「んっ」
ニャニャンが尋ね、夏樹がコクコクと頷いた。
京都の『いづね様』のところに行っていたニャニャンが帰り、ニャニャンが持ち帰ったお土産のいなり寿司を2人で食べていた。
2人の前のテーブルには、それ以外にもいっぱい、テーブルの上を埋める京都土産が並んでいた。
いなり寿司を食べながら、時折、辛めの漬物を口にする。
甘めの味が苦手の夏樹は無意識に、口内の味覚をグチャグチャにしてしまう様な食べ方をする。
今も、いなり寿司は美味しいけれど、甘味を消してしまう様な辛味と歯応えを求めての無意識の行動だった。
「ニャニャン」
「ん?」
「『逢庭』に行こうと思うの」
「裕子ちゃんと?」
「・・ぅぅん」
「?」
「確認しておかないといけないコトがあるの」
「・・ボクが居ない間に、何かあったんだね?」
夏樹が小さく頷いた。
■■OP:『Don't stop.Don't look back.』歌:斎木 夏樹■■
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私は夏樹・・斎木夏樹。
アーカーシャ・リリィっていう魔法少女をしている小学5年生。
魔法少女になってから、まだ1年も経っていない。
色々教えてくれた先輩魔法少女のアルタレイション・リリィと、お供のミィミィには感謝してもし足りないくらいだ。
彼女達のおかげで、今の私は魔法少女としてやっていけてるんだと思う。
そんな彼女達は、アルタレイション・リリィのお父さんの仕事の転勤で、県内西部の湖西市に引っ越していってしまった。
魔法少女である私は空を飛べるので、飛べば1時間もかからずに会いには行ける。
でも、彼女との約束があるから、そうはしない。
私の『鎮魂歌』が完成するまでは会わない、そう再会の約束をしたのだ。
私の固有の力である『虚空』を活かすにはコレが1番合っている、と言われて組んだ術式。
基礎部分の術式はほとんど全て、組んでもらっちゃったけど・・。
第1唱から第10唱まであるけれど、第10唱だけは未完成なのだ。
使おうと思っても、使えない。
でも、今のところは第9唱まででも、充分使える能力だと思う。
魔法少女アルタレイション・リリィこと祷依紫の固有の力は『変質』だった。
彼女の力に、私はかなり助けられていたし、実は今現在も助けられている真っ最中だ。
私の中には、彼女の『人形』の一部が居る。
居る、とは言っても、その『人形』に意識は無い。
術式で細かく細かく設定されたロボットの様な存在だ。
その『人形』は今、私の中で『鎮魂歌』を、私に最も適した状態へと調律中なのだ。
だから、どんな能力として完成するのかは、今のところ分からない。
第9唱までとは比べようもないくらいに危険で攻撃的な能力になるかもしれないし、
全く別の能力になるかもしれない。
ほんとうに、今は分からないのだ。
魔法少女の『力』は、使い方次第でどうとでも使えるのだから。
彼女の固有能力『変質』だって、前に家族旅行の時に出会った魔法少女の力の使い方をヒントに、かなり応用できる様になったらしいし。
・・・。
魔法少女の能力が様々な様に、魔法少女の性格も様々だ。
TVアニメやドラマで登場する魔法少女達は、
夢と希望に溢れていて、
誰からも好かれていて、
自分に足りない部分を補う努力を欠かさないし、
友情を大切にしていて親友から友人まで溢れんばかりだし、
最後には勝利して未来への消えぬ希望を指し示すのだ。
ホントにバカみたいだ。
そんな魔法少女なんて、居やしないのに。
理想的な魔法少女、
そうなって当然の理想的な少女、
そんな彼女を支え導く理想的な周囲の人々。
彼女を愛さずにいられる者など、存在しない。
居ない居ない・・そんな人々なんて居ない、居るわけがない。
『魔法少女』なんて。
そう思うコトばかり立て続けに起きた。
後から思い出せば・・いや、今考えても『魔法少女なんて』とは思ってしまうけれど・・。
「なんでこんな人が?」と思ってしまう魔法少女にたくさん会った。
人助けなんて二の次、一番は自分、そんな魔法少女とたくさん会った。
精霊と仲が悪い魔法少女だっていっぱい見た。
『力』を失い魔法少女で居られなくなってしまったヒトもたくさん見た。
・・・ だって、たくさん見た。
魔法少女で居るコトは希望なんかじゃない。
魔法少女は自分に、現実に、絶望するまで魔法少女で居られるのかもしれない。
そんな確信を抱き始めていた。
でも、そんな頃に裕子と出会った。
最初は「なに、あの子」と思った。
不審過ぎて、怪し過ぎて、不可解過ぎて、その結果、ニャニャンと2人で監視した。
監視する日々のなか、自分の中で消えかけていた何かが戻り始めていることに気付いた。
冷え切っていると思っていた自分の中の何かが燻り始めたかと思えば、胸の奥に確かな熱さがあると言えるくらいになっていた。
裕子は私に尊敬の目を向けてくる。
「夏樹ちゃんはすごい」「アーシャちゃんはすごい」と何度言われたか覚え切れないくらいだ。
キラキラとした、透き通った眩しい目を向けられて、
照れ臭さからか、
居た堪れなさからか、
彼女と目を合わせるのが正直しんどい時もあったくらいなのだから。
彼女は「自分は魔法少女になれなかった人間だ」と、自分は大した事ない人間だと言うけれど、それは違うと思う。
魔法少女にはなれなかったとして、そんなコト大した事ないと言えるだけの何者かになれていたと思う。
きっといつか、私なんかよりずっとずっとスゴい、誰かを護れる強い女性に彼女はなれる。
それに、魔法少女としてだって、誰より凄い魔法少女になれる可能性も高いと思う。
彼女が魔法少女になったばかりの頃、
いや、ホントの『力』に目覚めていなかった頃かな・・。
彼女は、それはそれは弱くって、頼りなくって、守らなくては、助けなくては、と思ったものだ。
私自身がアルタレイション・リリィにそうしてもらった様に。
でも、そんな時間は長くは続かなかった。
どうしてそんなコトになっていたのかは分からないけれど、彼女は自身の『力』を知らずにいた。
彼女自身のホントの『力』が目覚めた後は、もう、あっという間だった。
今までの遅れ全てをクルッとひっくり返したみたく、彼女は飛躍的、いや跳躍的に成長していった。
遥か後方に居たと思っていたのに、振り返る度に近付いて来ていて、もう、ほんの少し後ろに居ると言えるくらいだ。
魔法少女になってから、で言うならば・・同じ時期の私なんか比べようもないくらいに彼女は強くなった。
ニャニャン達精霊には、魔法少女の魔力総量などが感覚的に分かるらしいけど、
彼女の魔力総量の底が見えなかったという。
いや、見えたには見えたらしいけれど、その底の更に下に何かを感じたのだという。
だから、ニャニャンにとっては潜在能力の底が知れないらしい。
でも、裕子を警戒するニャニャンと、私とでは、見ているところが違う。
彼女は、魔法少女でなくても、大した力が使えなかったとしても、裕子としてスゴいのだから。
私は、確信して言える。
もし裕子と会えていなかったなら。
もし裕子の諦めない姿を目にしていなかったなら。
少し未来には、私は魔法少女としての『力』を失い、普通の、どこにでも居る女の子になっていただろう。
そして、あの日の続きが私に追いつき、私は死んでいるだろう。
私は、確信して言える。
だから、私こそ言いたい。
裕子は自分の無力を嘆くけれど、少なくとも1人、私を救ってくれたのだと。
だから、私は裕子にお礼が言えない。
スゴいと言ってもらえる魔法少女の先輩である為に、
カッコいいと言ってもらえる女の子である為に、
裕子に背を見せ、護り切れる私である為に。
裕子・・・。
・・私はあなたに、心の底から、ありがとうと言いたい。
■■■■■to B PART■■■■■




