#12『ドキドキ!夏の日差しと魔法少女達!』Bパート
救助活動も一段落ついた。
周囲の船に移されていく要救助者達の顔にも安堵感が見て取れた。
そんな上空を、アーカーシャ・リリィが飛んでいた。
周囲をキョロキョロと見回しながら、アイソレイト・リリィの姿を探していたのだ。
もう帰っても大丈夫そうなので、あとは船で駆けつけた人々に任せるべきだからだ。
魔法少女は、普通の人々の手が届かない場所に手を届かせるのが役目であって、必要以上に手を差し伸べるのは却って『ためにならない』からだ。
「・・・どこだろう・・?」
飛んでいる魔法少女達の中には見当たらない。
もしかしたら魔力を使い過ぎて飛べなくなってて、救助船に降りている可能性も考えて、船の方も見てみた。
しかし見つからない。
「・・・アイ・・どこ・・?」
何か、胸の奥がザワついた。
イヤな予感が頭をよぎってしまい、否定するように頭をフルフルと振った。
その時、海面に人が出て来た。
よく見れば、魔法少女だった。
数人の魔法少女が飛んでいき、海面に出て来た魔法少女に手を差し出す。
アーカーシャ・リリィも、そちらに寄って行った。
海面に上がって来た魔法少女は2人。
どうやら、沈む大型客船に最後の最後まで残って救助活動を行っていたようだ。
その自分の命も顧みないかの様な行動に、アーカーシャ・リリィが複雑な顔をする。
確かに立派な行動だが、魔法少女が手を差し伸べられる範囲にも限度はあるのだ。
まだアイソレイト・リリィは見つからないが、あとで話そうと決める。
もしかしたら、彼女なら危険を顧みずに飛び込んで行きかねないと思ったからだ。
「・・?」
すぐ側の救助船が騒がしいのに気付いたアーカーシャ・リリィが、船上に降りる。
「どうしたんですか?」
近くで困り果てた顔をした船員や悲痛な顔の避難者が居たので、尋ねてみた。
少し離れた場所で泣き叫ぶ女性の声がするが、その女性が何に嘆いているのか分からないのだ。
「ぁぁ・・あの女性な、さっき目を覚ましたんだが・・子供が2人、行方不明らしいんだ・・」
「この船の中には・・?」
「それらしい子供は居なかった」
「・・・他の救助船の方には」
「確認してはいるが、まだ分からないんだ」
「・・ですか・・」
泣く女性の姿は、見ているのも辛くなる様子で、声を押し殺していても聞こえる嗚咽が更に哀れに見えた。
静かにアーカーシャ・リリィが歩き寄ると、近くで慰めていた人々が気付いて場を開けてくれた。
顔を上げた女性の顔は、この世全ての悲しみを一身に背負わされたかの様だった。
「・・ぃ・・・お願ぃ・・・お願いぃ・・・あの子達を・・・たすけてぇ・・・っ」
泣く女性がアーカーシャ・リリィに縋りつく。
まだ小学生の身のアーカーシャ・リリィには母となった者の気持ちなど分からないが、魔法少女とはいえ幼さの残るアーカーシャ・リリィに縋りついて懇願する程に、目の前の女性が救済を求めているのは痛いほどに理解できた。
「・・・写真とかはありますか・・?」
絞り出す様に尋ねると、女性はポケットからスマホを出し、震える手で差し出した。
女性がずぶ濡れなのは海上から助け上げられたからなのだろう。
当然、ずぶ濡れの服のポケットに入っていたスマホも水没して濡れていた。
主電源を押しても、どのボタンを押しても、反応は無い。
「・・」
出来るかどうか分からないが、アーカーシャ・リリィは試してみたい術式があった。
アーカーシャ・リリィが魔法少女に成り立ての頃に色々と教えてくれた先輩魔法少女のアルタレイション・リリィの魔法特質は、『変質』だった。
彼女は色々と精力的に試みていた。
その中の1つに『魔力電化』があった。
魔力を『変質』させて電気に換え、電子機器の操作が出来ないか試していたのだ。
アーカーシャ・リリィも術式の核を教わってはいたが、魔力特質が『虚空』のアーカーシャ・リリィはそもそもの適正が無いのか、使いこなせなかった。
精々、数秒から1分弱、電子機器を活性化させるくらいだ。
しかも、それを最後に、その電子機器は完全にダメになってしまい起動すら出来なくなって、電子機器として完全に死んでしまうのだ。
「・・・顔が分かる画像は」
「・・待ち受けに・・!」
「2人共?」
「・・はぃ・・っ!」
それなら、機械が死んでしまう前に2人の顔写真を確かめられる可能性が高い。
「・・・『電化』」
パチィッ!と電気が走り、スマホの画面が起動した。
ロゴマークが出て、次に待ち受け画像が一瞬映った。
が、再度パチィッ!と電気が走ると、煙が吹き出し、画面は真っ暗になってしまった。
こうなると、機械として殺してしまった状態なので、もう二度と再起動しないだろう。
「・・すみません。2人の顔は見れましたが、たぶん、壊れました・・」
アーカーシャ・リリィが頭を深く下げながらスマホを返す。
「・・クラウドとかには・・?」
アーカーシャ・リリィの質問に母親が頷く。
どうやら、クラウド上に自動保存される様に設定されていた様だ。
なら画像とかは無事なハズだ。
「顔は覚えました・・探してみます」
「・・ぁりがとぅ・・っ」
母親が大粒の涙をこぼしながら、アーカーシャ・リリィの手をギュウッと握った。
「・・」
また泣き出してしまった女性を近くの人達に任せて、アーカーシャ・リリィが船から飛んで離れる。
すでに助け出されているならば、救助船のどれかには居るだろう。
しかし、すでに完全に沈んでいってしまった船の中ならば絶望的だ。
「・・あの人達なら・・?」
さっき海面に上がって来た魔法少女達なら、それらしい子供達を目撃しているかもしれない。
周りを見回し、魔法少女が集まっている方向に飛んだ。
「・・?」
魔法少女達の顔色が悪く見えた。
なんだろう。一般人の救いを求める声ならばともかく、同じ魔法少女なら自分で何とかして欲しいと思ってしまう。
「・・どうしたの?」
1人に聞いてみた。
「・・ぁ・・ぇと・・っ」
何か、言い淀んでいる。
中には、アーカーシャ・リリィの顔を見てあからさまに目を反らした魔法少女も居た。
「なに?」
思い切って、自分の顔を見て気まずそうにした魔法少女に聞いてみた。
「え、ぁ、ぃゃ・・その・・」
埒が明かない。
周りの魔法少女を見ても、皆が気まずそうにするばかりだ。
そんな中、1人が近づいて来た。
「なぁ、キミ」
アーカーシャ・リリィが振り向くと、ボーイッシュな印象の魔法少女が居た。
けっこう歳上に見えた。高校生か大学生くらいだろうか。
「アナタは?」
「最後まで船に残ってた」
ちょうど良かった。探す手間が省けた。
「なぁ、キミ」
「・・何ですか」
「キミ・・ここに来た時、誰と居た?」
「・・一緒に来た友達と」
「・・・その友達は?」
「・・見当たらないけど、どこかに・・」
「・・」
そのボーイッシュな魔法少女が、1人の魔法少女を呼ぶ。
呼ばれて来た魔法少女は、気弱そうで、夏樹のクラスの美術部所属の女の子に似た雰囲気に見えた。
「・・これ・・」
その魔法少女が差し出したのは、1枚の『絵』に見えた。
少し絵が上手い子供が描き上げたくらいに見える、『何かイヤな感じ』のする絵だった。
その『絵』には、暗い中に座り込む子供達。子供達は眠る様に目を閉じている。
そしてその2人の前に、魔女のローブにも見える様なマントや長いスカートの子供が倒れていて、その子供も眠る様に目を閉じているのだ。
アーカーシャ・リリィがその絵を『イヤな感じ』と思ったのは、何か死や不安感を連想させる画風と、倒れている子供がアイソレイト・リリィに見えてしまったというのが大きかった。
「・・私の・・能力、なんです・・」
「?」
「一定の条件を付けて感知して、『絵』みたく出せる術式なんです・・」
「・・条件・・?」
「・・今回は・・『沈んだ船』、『生存者』、でした」
そこまで聞いて、アーカーシャ・リリィの背筋が凍る。
「まさかっ・・!」
周囲に浮く魔法少女達をよく見る。
アーカーシャ・リリィを見ない様に気まずそうにしている魔法少女達は、たしか、アーカーシャ・リリィとアイソレイト・リリィが到着してから「何からすれば良いか」確認した者や、2人の近くで救助活動をしていた者のような気がする。
「そんなっ!!」
アーカーシャ・リリィが海面を見下ろした。
無情に揺れる海面の遥か下・・沈んでいく船の中に・・?
違う、そんなハズは無い、ウソだ、間違いだ、ありえない、と。
次々と、状況を否定したい思いがよぎる。
「・・・・『ビーコン』!」
無意識に、その術式を起動していた。
なぜ真っ先にその術式を起動したのか分からない。なぜか、その術式を起動してしまったのだ。
アーカーシャ・リリィの『ビーコン』は索敵にも使うが、誰かや何かに付けておいて後から確認が出来る。
そのビーコンの反応が、真下の、海面の遥か下から感じられた。
「・・・・そんなっ・・」
アーカーシャ・リリィの顔が悲痛に歪む。
「・・そんな・・!!」
この場に大勢居る魔法少女の中で、アーカーシャ・リリィだけが、彼女だけが、アイソレイト・リリィの居る方角を正確に感知できるのだ。
以前、アイソレイト・リリィが魔法少女として踏み出したばかりの頃に彼女に勝手に付けたまま消せなくなってしまったままの『ビーコン』の術式だ。
それにより、『どの方向に居る』と分かるのだが、その反応は無慈悲にも、沈降していく大型客船の方向から感知された。
間違いなく、アイソレイト・リリィは海深くに沈み続けている船内に取り残されているのだ。
いや、聞いた通りならば、その生存者と共に居るのだろう。
「・・ぅそ・・裕子・・・!」
ボーイッシュな魔法少女が何か説明してくれているが、全く頭に入って来ない。
そんなコトよりも何よりも、今にも死んでしまうかもしれない友達を一刻も早くたすけるのが最優先だ。
「・・・」
海面を見ながら、その遥か下から感じる『ビーコン』の反応を感知していたアーカーシャ・リリィが顔を上げる。
その目は、何かを決意した強い目だった。
ボーイッシュな魔法少女をはじめ、その場に居た魔法少女達に向かって、アーカーシャ・リリィが話しかける。
「あの・・!お願いしたいことがあります・・!」
■
アーカーシャ・リリィが魔法少女達に頼んだのは2つ。
1つ目は、自身を完全に囲む様に結界を張って欲しい、と。
2つ目は、その結界を沈降し続ける船体まで伸ばして届かせて欲しい、と。
理由は、最大限の威力の術式で海水を『どけて』船へと『通り道』を届かせる為に。
そして、その際に発生するであろう余波が周囲にもたらす影響を止めてもらう為に。
そしてアーカーシャ・リリィが彼女の出せる最大威力の魔法の『鎮魂歌』の発射準備に入る。
彼女の周囲に、無数に魔法陣が出現しては消え、術式を構成する式や威力を高める為の術式が次々と現れる。
以前に放った『第六唱・葬送』の時よりも多く、威力や規模が増しているのだろうことは確かだ。
「・・・ねぇ、アレ・・ヤバいよ・・」
「・・ぅん・・アレはマズい・・マズいよ・・」
「・・・アレを抑え込まないとならないの・・?」
術式を起動して発射準備に入ったアーカーシャ・リリィを見て、何人かの魔法少女が青ざめる。
彼女の周りに現れては消えていく術式の断片や術式符に記載された量や、その膨大な枚数を見れば、とんでもないモノを放とうとしていると一目で分かるからだ。
何の為に、そこまでの威力の術式にしたのか。
どこで使うというのか、
何を相手に使うというのか、
その光景からは狂気が感じられた。
いや、狂気の産物としか思えなかった。
産まれを、自身を、周囲の何もかもを、消し去ってしまいたいとばかりに嫌悪し、憎悪し、絶望し尽くし、その果てで至る心境とでも言おうか。
そんな中からでもなければ、あんな術式を完成させることなど出来ないのではないか、と。
アーカーシャ・リリィの持つステッキの輝きは増し続けていく。
今や、ステッキが光り輝いているのではなく、光そのものをステッキの形に凝縮して固めたと言われても納得出来そうな程に輝いていた。
そして、その輝きは術式を放つ本人のアーカーシャ・リリィ自身すらを灼いていた。
ステッキを持つ手を包むレースの手袋からは煙が上がり、それ自体が燃えだし、炎に包まれていく。
身を包む魔法少女装束の端が燃えだし、炎自身が自身を灼き尽くして自然に消えていく。
結界の内側の海面が光熱で湯気を上げだし。
海面近くに居たのだろう魚が浮かび上がり、瞬く間に燃えて、跡形もなく尽きて消えた。
「・・・」
アーカーシャ・リリィがステッキを徐々に上げていき、大上段に構える。
その時が来た、と周囲の魔法少女達は結界に最大限の魔力を込める。
そうしなければ、間違い無く、あの狂気の術式の桁外れの威力を食らうハメになると分かりきっているからだ。
「『鎮魂歌・第九唱・落涙』」
・・・・ドッ!!!!!!
光が溢れた。
見渡す限りの全てが光で白く染め尽くされる。
周囲で結界を張る魔法少女達に、莫大な負荷が襲いかかった。
瞬時に結界全面がヒビ割れ、支えていた魔法少女達の腕を激痛が襲う。
魔力の少ない魔法少女の中には、腕全体が破裂したかの様に血が噴き出した者も居た。
結界の維持は出来たが吐血して海面に落ちた魔法少女もいた。
その場で耐えきれた者の多くも、ほんの僅かな間に魔力のほとんどを持っていかれ、魔法少女装束が目減りして変化していた。
結界など許さない、止めるなど許せない、許せるはずがない、出せ、出せ!出せ!!出せ!!!とばかりに内側から莫大な負荷が膨れ出す。
結界が歪にゆがみ、一部は壊れ、そこから漏れ出た圧力に触れた間近の船舶の一部が塵の塊であったかの様にえぐられる。
そして、白濁した光景に色が戻ってくる。
『鎮魂歌』を放つ前は、アーカーシャ・リリィを中心に直径10メートル強程の範囲で囲んでいたのに、気付けば直径50メートル程まで魔法少女達の並びが拡がっていた。
そして、結界の内側の海面が無くなっていた。
例えなどではなく、文字通り、無くなっていた。
結界の内側全ての海水が消し飛んで無くなっていたのだ。
結界の内側の空間は、魔法少女達の結界が重なって外側と隔離されている。
その空間が海底まで届く縦坑として伸びて見えた。
その、あまりにあんまりな光景を見て、何人もの魔法少女達の背筋が凍てつく。
結界の内側は、一瞬で莫大な海水を消し飛ばした程の熱が荒れ狂っていた。
プラズマが発生し、結界越しでも火傷しそうな高温を感じた。
そして一瞬で灼き尽くされた水分が湿度を上げ、気化した水分が密閉空間内に溢れ、深い霧に包まれた様に見えた。
そんな濃い霧の中、魔法少女装束の至るところを燃え盛らせながら、1つの影が浮いていた。
アーカーシャ・リリィだ。
そんな彼女は、魔法少女装束だけでなく、髪の毛先の方も燃えていた。
元々黒い彼女の魔法少女装束だけでなく、それが損傷して腕や脚が普段よりだいぶ露出しているのだが、その肌が赤黒く見えるのは気のせいではないのだろう・・。
本来ならば、密閉空間の内側で自身を巻き込んで放つ様な生易しい術式では無いのだ。
その威力に晒された彼女自身、無事に済むハズなど無かった。
彼女の全身からシュウシュウと音を立てて煙が上がっているのは、かなりおぞましい光景だった。
火事場で炎に巻かれて燃えている人を見たわけでも、焼死体を見たわけでもない、自分達と同年代の魔法少女が全身を灼いた光景を見てしまったのだ。
そんな状態で平然と浮いて見える彼女に、怖れの目がいくつもいくつも向けられる。
そんな中、吊り上げていたヒモが切れたかの様にアーカーシャ・リリィが真下に落ちた。
いや、滑空して降りて行ったのだ。
滑空しつつ真下に向けてスピードを上げ、船めがけて飛ぶ。
幸いにも大型客船はすぐに見えてきた。
魔法少女達の結界が重なって出来た海中回廊に取り込まれている範囲は船に近付くにつれ狭くなっていたが、船内に侵入するには充分なだけの範囲があった。
そして、船体は彼女の放った『鎮魂歌』で激しく損壊し融解していたので、船内への侵入口には困らない。
「・・・裕子・・!」
船内に入ったアーカーシャ・リリィは、ビーコンで分かる方向に向けて飛んで行く。
スピードを上げたいが、船内はただでさえ入り組んでいる上に、アチラコチラが損壊して通路を塞いだりしていた。
船内を進む間も、魔法少女としての治癒能力により、アーカーシャ・リリィの全身のヤケドは徐々に治りつつあった。
海面近くに居た際は全身から煙があがるほどに全身焼けただれていたが、今はだいぶ治癒が進んでいる。
しかし、その高速自動治癒に使われた分、彼女の魔力はどんどんと減少していく。
それに合わせて魔法少女装束が瞬く間に目減りしていく。
途中で激しく損壊していた通路で急ブレーキをかけた際に、自身の魔法少女装束がかなり変化しているのに気付いたアーカーシャ・リリィは、一旦着地して、『ビーコン』の反応方向を再確認する。
慎重になるのも無理はない。
彼女の普段の魔法少女装束とはまるで違う状態にまで変わっていたのだから。
上半身はチューブトップブラの様なモノが胸周りを隠しているだけだし、下半身はボクサーショーツの様なモノを履いているだけに見える状態だ。
裸足だし、全体的にひどく頼りない状態に見えた。
魔法少女というより、スポーティな水着の普通の少女にしか見えないくらいになっている。
時間は無いが、自身の魔力も残り少ない。
辿り着けても脱出できなければ、意味が無いのだ。
「・・・」
深呼吸して、ビーコンの反応方向に向けて魔力をレーダーの様に薄く広げて飛ばす。
「・・」
最適なルートを確認し、改めて飛ぶ。
そのまま数分飛び、開けた場所に出た。
何かのアミューズメント施設の様だ。
周りをキョロキョロと見て、倒れているアイソレイト・リリィと、すぐ近くでうずくまる姉弟を見つけた。
「裕子っ!」
倒れていたアイソレイト・リリィの横に降りて彼女を揺さぶるも、目を開けない。
「裕子!裕子っ!?起きてっ!裕子っ!!」
動かないアイソレイト・リリィに焦りが募る。
こうしている間にも、刻一刻と大型客船は沈降し続けている。
魔法少女達の結界だって、いつまで保つか分からないのだ。
しかしアイソレイト・リリィの意識が戻らない。
「・・」
いったん深呼吸して落ち着いて、アイソレイト・リリィの口元に耳を寄せてみる。
かなり弱々しくだが、息をしていた。
胸に耳を当ててみると、静かにトクントクンと脈打っているのが分かった。
酸欠で倒れたアイソレイト・リリィだったが、魔法少女達の結界で出来た縦坑が巨大な通風孔となり、新たな空気が流れ込んできて呼吸もできていた。
アーカーシャ・リリィは、近くでうずくまる少女と、
その腕に抱きしめられる少年を見た。
泣く女性のスマホの待ち受けに映っていた2人に見えた。
きっとこの2人が、海上のあの女性の子供達なのだろう。
ドドォッ・・!
「っ!?」
突然船体を揺らした振動にアーカーシャ・リリィが倒れかける。
周りを見回すが、大きな振動に連鎖する様に、何か音が響いてくる。
しかし、魔力で聴力が強化されているアーカーシャ・リリィは音の原因が分かってしまった。
船体に叩きつけるように激しく水が降って来ている音と、船内に海水が浸水して来ている音だ、と。
時間が来てしまったのだ。
魔法少女達の魔力限界で、彼女達が作った海中回廊が崩壊し始めているのだ。
振り返ってアイソレイト・リリィと姉弟を見たアーカーシャ・リリィの顔が悲痛に歪む。
3人も抱えて飛ぶ様な魔力は、もう残っていない。
1人抱えて飛べるかすら疑わしいくらいだ。
ここへ来る為の回廊を作る為に放った『鎮魂歌』で魔力のほとんどを使ってしまったし、全身ヤケドを治す為に治癒術式が自動で働いていた為に、残存魔力は更にすり減っていた。
自然回復ももちろんしていたが、飛ぶ間にも減るのだから、焼け石に水状態だった。
船体を揺らす振動は収まらない。
そして、彼女達の居る広間にもついに浸水が及ぶ。
船体の中層階下部にある広間にまで、ついに浸水が届いてしまったのだ。
「〜~っ!!」
声にならない声が出て、アーカーシャ・リリィの顔が泣き崩れそうな程に悲痛に歪む。
「・・・お母さんっ・・!」
大粒の涙がポロポロとこぼれ、アーカーシャ・リリィが絞り出す様な声を洩らした。
視界の端を、初夏の新緑の様に鮮やかな色合いの光の粒子が飛んだ。
「っ・・!?」
すぐ近くとも言えそうな距離に魔力の莫大な揺らぎを感じたアーカーシャ・リリィがバッと振り向く。
■
■
「・・・」
アイソレイト・リリィは、頬を撫でる気持ちいい風に目を覚ました。
「・・・夏樹ちゃん・・?」
自分がおんぶされていて、空を飛んでいると気付いた。
そして、おんぶしてくれているのが誰なのかも。
「裕子・・気付いた・・?」
「・・ぅん・・」
「暗くなっちゃいそうだから、このまま、飛びながら話すね・・?」
「ぅん・・」
「船に乗ってた人達はほとんど救助できたみたい」
「・・・ほとんど・・?」
「ん・・船が転覆して横倒しになった時に亡くなった人達も居たみたい・・子供の犠牲者は出なかったみたいだけど・・でも・・年配の人とか・・何人も・・その人達は、ムリだった・・」
「・・・」
アイソレイト・リリィも分かっていた。
実際、最後の生存者の2人を見つけるまでの間に、血だらけで動かなくなっている人や浸水した海水に浮いていた人達の姿も目にしていた。
その時は念話で『生存者の方』へ誘導されている途中だったので、誘導で触れられもしない人々は『生存者ではない』のだな、と割り切らざるを得なかった。
亡くなった人達が居たのは分かっていた。
海面で救助活動をしていたアーカーシャ・リリィよりも、沈降していく船内に潜行していたアイソレイト・リリィの方が、『亡くなった人達』の存在を目にしていた。
前もって教わっていた『認識合理化』の術式が働いていなかったならば、船内で恐慌状態に陥っていたかもしれない。
分かってる。
無理なものは無理だ。すでに死んでいた者の命は、どうやったって救えないのだ。
アーカーシャ・リリィだからこそ、あの絶望的な状況から自分を救ってくれることが出来たのだ、と。
「・・ぁ」
「?」
「夏樹ちゃん・・あの2人は・・?」
そう。自分が倒れてしまった場には、先に2人居たのだ。
小さな少年を護る様に抱きしめていた少女、あの2人は助かったのだろうか。
「・・大丈夫。ちゃんとお母さんと再会できたよ。すごく喜んでた・・」
「・・そっか・・よかった・・・」
船上で、2人の子供に母親が泣いて抱きついている姿をアーカーシャ・リリィは見た。
「・・・頑張ったね・・裕子は頑張ったよ・・・でも・・お説教しなきゃならないかな・・」
「ぅ・・」
「・・お説教だから」
「ぇと・・夏樹ちゃん・・?」
「お説教、だからね」
「・・」
「魔法少女にだって、出来るコトと出来ないコトがあるの・・悔しいけど、いくら手を伸ばしたって届かない時は届かない・・魔法少女は万能じゃないの・・」
「・・」
「ただ、魔法が使えるだけ。・・ただそれだけの、女の子なの・・神様でもなんでもない・・・ただの女の子なの・・」
「・・・」
前を向いたままのアーカーシャ・リリィから、自分にも言い聞かせているかの様に静かに言葉が続いた。
激しく強く叱りつけられた訳ではなかったが、その一言一言がアイソレイト・リリィに深く染み入っていった。
■
「ホントにここまでで良いの?」
「ぅん。夕ごはん買って帰らないとだから・・」
「じゃ、帰ったらゆっくり休んでね」
「ぅん」
「キツかったら、明日は横になってしっかり休んでね」
「ぅん」
「・・明日、夕方くらいに行くから。お説教はその時に、裕子の体調次第かな」
「ぅ、ぅん・・っ」
体調を崩したくなってきた裕子だった。
裕子の住むマンションの近くにスーパーがあり、その近くの路地に降りていた。
本当に心配そうにしているアーカーシャ・リリィが心配そうな顔のまま「お説教」と言うものだから、アイソレイト・リリィは何も返せなかった。
「じゃ、また明日ね」
「うん、また明日っ」
手を振ってアーカーシャ・リリィが飛んで行く。
「やっぱりアーシャちゃんはスゴいなぁー・・」
『普段と全く変わらない』魔法少女装束で飛び去るアーカーシャ・リリィを見送ったアイソレイト・リリィは、自分の魔法少女装束を見下ろした。
かなり目減りしていて、普段が真冬ですら「着込み過ぎじゃね?」と真顔で突っ込まれそうなくらいの量なら、今は夏真っ盛りの真夏日の日の軽装くらいの量に見える。
かなり魔力が減っているというコトだ。
「さてと・・」
路地を歩きながら、変身を解く。
路地を出て少し歩けばスーパーだ。
「・・・叱られちゃうのかー・・」
アーカーシャ・リリィこと斎木夏樹は、物静かで落ち着いていて、でも言うべきコトはしっかりキッチリと口にする。
きっと、すごくしっかりとガッツリと叱られるのは間違い無いだろう。
「・・?」
スーパーまであと少しという辺りまで来たが、やけに、何か変な視線を感じる。
すれ違った男子小学生や男子中学生が、何かものすごくイヤらしい目で見てくるのだ。
まぁ、男子なんて女子をイヤらしい目で見る生き物だ。
普段からスカートや脚に向く視線は感じているが、しかし、さっきから ひっきりなしに向けられる視線に込もったイヤらしさはまるで・・。
まるで水泳の授業中に感じるみたいな・・。
「・・・へ?」
何かイヤに風を感じるな、と見下ろした裕子の視線の先には、水着姿が見えた。
ビキニタイプの水着とビーチサンダルが見えるだけで、プールに向かう際に着ていた白のワンピースなどカケラも見えず・・。
「いっ・・」
思い出した。
「ゃあぁあああああーーーーっ!!!!?」
魔法少女装束姿から変身を解けば、変身直前の姿に戻る訳で・・。
プールの更衣室の中を素通りして水着姿のままで変身したのだ。
なら当然、変身を解けば、水着姿に戻るしかない。
すぐそばの小道に駆け込んだ水着姿の少女を、イヤらしい目で追っていた男子中学生が小走りに見に行ってみるが、そこには道が伸びているだけで、水着姿の少女など最初っから居なかったかの様に無人だった。
顔を真っ赤にして必死に小道に駆け込んだ裕子が、混乱した頭でも必死に『認識阻害』と『不可視』の術式を発動させたのだ。
首をひねる男子中学生など知らず、裕子は高速飛行して自宅マンションのベランダを一目散に目指した。
その後数ヶ月、裕子はそのスーパー付近の道を通らず、その辺りの店も避けたのだった。
■■挿入曲:『希望の一歩』Piano ver.■■
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■■■■■to C PART■■■■■




