#11『夏樹ちゃんとデート♪』Aパート
「ニャニャン。紫とレインで連絡取れないけど、忙しいのかな・・」
「ん〜・・いつも、彼女からレイン送ってくる方だったよね・・。返事もいつも早いのにね・・どうしたのかな・・?」
「電話も繋がらないし・・」
「・・」
「ね、ニャニャン。精霊のネットワークでミィミィに連絡できないかな」
「試してみるよ」
「ぅん、お願い」
「もしかしたら受験勉強で忙しいとかかもよ?」
「中学受験?」
「紫ちゃん、そういうの面倒くさがりそうか・・」
「・・・」
「夏樹、もしかして行こうと思ってない?」
「・・湖西市なら飛べばすぐだし」
「行くなら、ボクが代わりに行くよ」
「ん・・」
■■OP:『Don't stop.Don't look back.』歌:斎木 夏樹■■
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静岡県内最大規模の汽水湖近くでの合宿が終わり、
合宿から帰宅した日は特に何も無かったが、その翌日から夏樹の魔法少女能力強化訓練が始まった。
合宿中にニャニャンを通じてこっそり連絡を取り、会ってレインのIDを交換済みだった為、夏樹との連絡もしやすくなっていた。
[夏樹:今日から特訓開始しようと思う]
[夏樹:家に行って大丈夫?]
[裕子:大丈夫だよ!]
[裕子:学校休みだから]
[夏樹:ウチも]
[裕子:来て来て♪]
[夏樹:分かった]
[夏樹:もし]
[夏樹:裕子居ない時に着いたら]
[夏樹:ベランダで待ってるね]
[裕子:あ]
[裕子:ベランダと私の部屋の窓]
[裕子:カギ開けとくよ!]
[裕子:入って待ってて♪]
[夏樹:分かった]
その日、合宿の翌日は裕子の学年だけ休みだったのだが、姉妹校だからなのか、夏樹の学年も休みだったらしい。
レインのやり取りから1時間しない内に宇津馬宅のベランダの窓がコンコンと叩かれた。
お迎えの準備はギリギリ間に合ったが、夏樹からもお菓子の差し入れがあり、2人で食べながら話し合った。
今のアイソレイト・リリィに足りないコトは何なのか。
アイソレイト・リリィが覚えておいた方が良い『術式』は何か。
まず、そこから始めた。
裕子がノートに書いていき、夏樹が補足として書き足していく形で、話は進んだ。
2人が話し合っている間、ニャニャンは普通のネコの様に丸まって寝ていた。
夏樹にとって久し振りの魔法少女同士の友達なのだ。ニャニャンなりの気遣いだった。
裕子と夏樹、2人で話し合った結果、まずは『念話』・『不可視』・『認識阻害』・『人形』の術式は最低限覚えておいて困らないし必須だとなった。
『術式』という単語は夏樹とニャニャンの会話から何度も聞いていた裕子は、数式とか呪文の様な何かを覚えるのかと思っていたのだったが、実際に夏樹に教わると、全く違っていた。
夏樹と両手を恋人つなぎして、目を閉じて額と額を当て、互いの魔力を繋いで転写することで伝達するのだった。
その転写されたばかりの『術式』は、裕子にとってはゼロとイチの羅列のデジタルデータの様な膨大なモノだった。
夏樹に聞いたところ、最初のうちはヒドい違和感に悩まされるらしいが、何度も何度も使って自身に馴染ませることで自然に使える様になるというコトだった。
『術式』を馴染ませる為、それからの裕子は『いつも通り』時間があれば魔法少女特訓していた。
授業中、当てられたくない問題の時に『認識阻害』を弱めに使ってみたり、関わりたくないクラスメイトの星立芽亜里が廊下に居た場合『不可視』で見えなくして通り過ぎたり、あとは『人形』を遠隔操作して登校させてみたり、『人形』を中継点にして隣の学区の夏樹と『念話』で話してみたりした。
その日会った夏樹が何とも言えない複雑な表情をしていたのだが、何も言われなかったので良しとした。
ただ、遠隔自立稼働はまだ難しいようで、『体調が悪い風を装って、あまり自発行動しない』様にプログラムした。
■
で、裕子にとって濃密な2週間が過ぎた頃・・。
「デートっ!?」
「そう。泊まりで」
「え・・っ!?泊まり・・泊まるって・・どこに・・?」
「行ってのお楽しみ」
「誰と行くの?」
「もちろん、裕子と私」
「・・・子供だけじゃムリなんじゃ・・?」
「大丈夫。その心配は無い場所だから」
「・・高いんじゃ・・?」
「それも問題無し。帰りとかに自分用のお土産を買う分があれば問題ないよ」
そんな会話で決まったお泊まりデート。
前もって色々知っておきたかったが、サプライズなのか、知れることは限られていた。
色々と準備する中、持っていくお金の準備も抜かりなし。
万一に備えて、一応、そこそこの額を私服のポケットと魔法少女装束のポケットに入れておいた。
そう、魔法少女装束のポケットにだ。
裕子は、様々な実験の中、魔法少女装束のポケットに入れたモノは変身を解いても出てこず再変身した際にはキチンとポケットに入ったままだと発見していたのだ。
「ふふふ・・私は母の味は知らなくとも、お金は持ってる女・・!」
少しドヤ顔で独り言をつぶやいたが、すぐに冷めた目になってしまった。
「・・・さ、準備の続き続きーっと・・」
お年頃の女子である裕子は、身だしなみにも当然敏感だ。
「泊まり」に必須な数日分の着換えや必需品もキチンと、旅行用トランクに詰め込んでおいた。
そして、お泊まり込みのデート当日がやってきた。
■
「・・・そっか。ごめんなさい裕子。必須な術式、まだまだあった」
宇津馬宅のベランダに降りたアーカーシャ・リリィは、デカいトランクを片手に待つ裕子を見て、申し訳無さそうに謝ったのだった。
裕子の少し後ろには、すでに起動されている裕子の『人形』が立っているが、裕子とアーカーシャ・リリィを無表情にジッと見ていた。
「ぇ?」
どういう意味か、可愛く首を傾げながら疑問顔の裕子に、アーカーシャ・リリィが片手を上げて空間をノックする様な動きをした。
すると、そのノックした辺りの空間に、荘厳さと可愛さがミックスされた様な『扉』が出現した。
学校でランドセルや小物入れを入れるロッカーくらいの大きさで、両開きの扉だった。
その扉のカギ穴前でカギをひねる様な動きをすると、扉が両方開き、グンッと拡がった。
するとそこには、可愛らしいクローゼットがあった。
「・・すごーい・・」
驚く裕子に、申し訳無さそうな顔のアーカーシャ・リリィが説明する。
「コレは『空間収納』」
「くう、か、ん・・しゅーのー・・?」
「そう。魔法少女は必需品とかはコレにしまっておくの。着替えとか、鏡とか、お菓子とか・・まぁ色々」
「すごい・・」
裕子が、開いた状態の『空間収納』の前後から見て素直に驚いていた。
開いている方向からは収納の内側が見えるが、反対側からは開いた両開きの扉と枠木だけが浮かんで見え、アーカーシャ・リリィの姿が見えているのだ。
そちらから手を伸ばすと、扉の辺りを素通りしてしまった。
「わー・・」
今度は扉の前側から扉の内側に触れてみたが、今度は触れた。
「すごい・・すごい・・・すごいね、アーシャちゃんっ♪・・アーシャちゃん?」
振り向いたら、少し顔を赤くして胸元を両手で抑えていた。
裕子は気付かなかったのだが、伸ばした手の指先がアーカーシャ・リリィの胸を撫でる様に当たっていたのだった。
「なんでもないっ。今日は私のに収納してこ。術式は目的地に着いてから教えるね・・っ///」
そう言うと、裕子のトランクを持って扉の内側に入れてしまった。
「ぇ」
『空間収納』の奥行はそんなに広くは見えなかった。
それに棚もあったし、トランクを入れられるスペースがあるようには見えなかったのだが・・。
「?・・?・・?」
扉の内側をのぞきこむと、トランクはどこにも無かった。
疑問いっぱいの顔でアーカーシャ・リリィの顔を見ると、クローゼットの内側の棚を指差した。
そこを見てみると・・。
「わ・・すごい・・!」
裕子のトランクが、着せ替え人形の小物くらいのサイズになって置かれていた。
「入れるモノの大きさは変えられるし、収納自体も拡げたり小さくしたりは自由自在にできるから・・///」
胸元から両手を離していたがまだ赤い顔のアーカーシャ・リリィが説明した。
「さ、行こ・・!」
『空間収納』の扉を閉じ、早足にベランダに向かい、そのまま浮いた。
足下には光の粒子が集まりハーフブーツが出来ていっていた。
裕子も急いで変身して、ベランダ前に飛び上がった。
室内には、裕子の身代わりの『人形』が残っていた。
裕子が帰宅するまでは、『彼女』が裕子の代わりを務めるのだ。
2人が飛び上がったのを見届けると、ゆっくりと自室に向かって歩いて行った。
その後ろ姿は幽霊の様で、プログラムの足りないロボットの様で、不自然で不気味な感じに見えた。
「・・・まだ早かったかな・・?」
『元気が無い』で済まないくらいに不自然な様子だった裕子の『人形』の様子に、アーカーシャ・リリィがつぶやく。
「だいじょうぶだよっ。部屋に居てくれる様にプログラムしたし、気づかれないって」
自信満々な様子のアイソレイト・リリィが胸を張る。
「・・そうかなぁ・・親とか・・」
「ヘーキヘーキっ。前にお父さんに会ったの、大雪で休校になった日だし、お母さんと最後に直に話したの、去年だし。数日くらい会いっこないよっ」
至極当然とばかりに言うアイソレイト・リリィだが、
静岡県 端愛市は太平洋側から吹く風で雪雲を押し返してしまうからか、隣の浜松市と同じくらい、あまり雪が降らない。
ただ、浜松市と端愛市を隔てる様に存在している低山で留められた空気が上空の雲を冷やすのか何なのか分からないが、降る時にはかなり降る。
が、学校が休校になるくらいの大雪になったのは、たしか1月くらいだったハズだ。
で、今は初夏で、もうすぐ夏休みだ。
更に言うなら、「去年」って・・・。
くどいようだが、今は初夏で、もうすぐ夏休みなのだ。
それはつまり、小学5年生の未成年の少女であるアイソレイト・リリィが、両親と半年以上は接していないという意味な訳で・・・・。
「・・・裕子・・ウ
「さ、行こっ!イヤなコト思い出しちゃった!早くお泊まりデート行こっ♪夏樹ちゃんとお泊まりデート、すっご〜〜くウキウキして楽しみに待ってたんだからっ♪」
「・・・ぅん・・行こっか」
裕子のあまりにもあんまりな状況に「ウチに来なよ」と言いかけて、ウキウキした様子のアイソレイト・リリィに遮られて言えなかったアーカーシャ・リリィが、感情を押し殺した様な平坦な声で返した。
「・・・」
術式の『人形』は、作成した魔法少女の無意識的な行動を自然に再現するコトがままある。
不自然に見えたさっきの後ろ姿が不自然に思えなくなってしまった。
「アイ、めいっぱい楽しもうねっ」
「うんっ」
「楽しもう」というには鬼気迫る様なアーカーシャ・リリィに、よく分かっていないような様子でアイソレイト・リリィが返事をした。
「・・アイ、手かして」
「?ぅん」
「魔力を放出して」
「こう?」
「ありがとう」
アイソレイト・リリィの手を包む様に握ったアーカーシャ・リリィの手が光り、ベランダの壁と上階の床の間に、一瞬光の壁ができて消えた。
「なにしたの?」
「防犯用。私のオリジナル術式『リアクティブ・アーマー』。爆発反応装甲とも言う」
「?」
「普通の侵入者とか、登録した魔力以外が接触したら、外側に向けて爆発する」
「ばっ・・!?それっ大丈夫なのっ!?」
「大丈夫。死にはしない」
「死にはって・・」
「死んだほうがマシって思うくらい痛いだけ」
「そっ・・・そっか・・そうなんだー・・?」
「これも教えるね・・たぶん、アイに適した術式だと思うから」
「?」
「向こうに着いて、落ち着いたら説明するね」
「ぅん。ぁ、そういえば、どこに行くんだっけ?」
「今日の目的地は伊豆」
「・・・伊豆?伊豆って、伊豆半島の伊豆?」
「そう。その伊豆」
「遠いよ?すっごく遠いよ?飛ぶの?伊豆まで?」
「ん。行くまでは長距離飛行訓練も兼ねてる。着いたらお楽しみが待ってるよ」
「お楽しみ?」
「そう。着くまでナイショだけど」
ナイショだよ?とばかりに、両手の人差し指でバッテンを作り口の前に出したアーカーシャ・リリィの可愛い姿に少し和みつつ、「行くのは決定なんだね・・」とアイソレイト・リリィは苦笑した。
■
端愛市から飛んで南下し、遠州浜に出た2人はそのまま沿岸沿いに飛んだ。
なぜわざわざ沿岸を飛ぶかと聞くと、「魔法少女によって自分の領域に入られることをかなり毛嫌いするひとも居て揉め事になる可能性もあるから」と返された。
そして海上を飛ぶこと暫し。
念話で色々話したり、アーカーシャ・リリィが海面スレスレを曲芸じみた飛び方をして見せてくれたり、
楽しい時間はあっという間に過ぎてゆき、
伊豆半島が間近に見えてきた。
そして、伊豆半島の上空に着いたアーカーシャ・リリィが片手を上げて手の平に魔力を集めて光らせた。
すると、少し離れた場所の森の中の、ひときわ目立つ高い木の天辺辺りがチカチカと光った。
「今はあそこか・・アイ、ついてきて」
「うん」
アーカーシャ・リリィが木の天辺辺りのチカチカと光る場所に触れると、木製のトランプみたいな板が出てアーカーシャ・リリィの手の平に落ちた。
「さ、アイも」
「ぅん」
アイソレイト・リリィも木の光る辺りに触れると、同じく木製の板みたいなモノが現れた。
「コレを手に入れると見える様になるんだよ」
アーカーシャ・リリィが指差した先に、ついさっきまで見えなかった建物が現れていた。
鬱蒼とした森に包まれる様にして建つ、立派な建物だった。
建物に近づいて行くと、かなり年代物の立派な日本建築の建物だった。
その建物の入口前の真円状の広場にアーカーシャ・リリィが降りた。
続いてアイソレイト・リリィも降りたが、少し変な広場だった。
普通、こういう立派な建物の前の広場は自動車とかが停まる場所のハズなのに、広場の周りは木立ちに囲まれていて、人なら通り抜けられそうなのだが、自動車やバイクなどは通れそうになかった。
広場に繋がる舗装された通路は、立派な日本建築の入口に伸びる通路だけだった。
「アイ。チェックインしよ」
「ん、ぅんっ」
そのまま旅館のエントランスホールにアーカーシャ・リリィが入って行く。
外観は和風建築だったが、内装は洋風建築に見えた。
カウンターに立つ受付の女性も黒のスリムスーツを身に着けていて、スレンダーなラインがとてもキレイだった。
「アーシャちゃんっ」
「?」
「ここ、すっごく高そうだよっ!?ていうか、変身したままで良いのっ!?」
「大丈夫。むしろ、変身したままじゃないとダメな場所」
「ぇ」
アーカーシャ・リリィが言った言葉の意味が分からなかったが、迷いなくカウンターに向かうアーカーシャ・リリィにオドオドしながら付いていった。
すごくサービスの質が高そうで内装も豪奢、しかし何か違和感もあった。
女性しか見当たらない従業員達、客層を激しく選びそうなエントランスホールのあちこちに見える客層が若い女性ばかり、浴衣を着ていても黒髪よりパステルカラーの髪色ばかり、そして様々な形態の精霊達が飛び交っている。
「2人、チェックインお願いします。1人は新規です」
「はい、ようこそいらっしゃいました。宿泊者名簿に魔法少女名と愛称と活動地域の記帳をお願い致します」
「はい」
そのままサラサラと書いて避けたアーカーシャ・リリィに続き、アイソレイト・リリィが宿泊者名簿を見た。
そこには『アーカーシャ・リリィ/アーシャ/静岡県 端愛市』と書かれていた。
「良いの!?コレ良いのっ!?」と言わんばかりにカウンターの受付の女性を見たが「大丈夫」とばかりに静かに頷いた。
隣のアーカーシャ・リリィを見るも、同じく頷いた。
「ぇえぇえぇぇ〜・・?」
■■■■■to B PART■■■■■




