#10『友達になって!』Bパート
ボッ!!と くぐもった音を立てて、巨大な口の中が爆発した。
アーカーシャ・リリィが巨大な口腔めがけて放った攻撃の爆発だ。
巨大なキバなどが散らばり、周囲にボチャン!ボチャン!と落ち、身体?自体もバラバラに崩れて沈んでいく。
「アイ!無事っ!?」
「っ・・ぅん、ありがとう・・っ!」
「アーシャ!今のって・・!」
「ん。間違いない・・!」
ニャニャンの確認にアーカーシャ・リリィが頷く。
アーカーシャ・リリィは、飛び出して来たモノが爆散して水没していった辺りに注意しながら、高度を上げた。
まだドキドキが収まらず呆然としたままのアイソレイト・リリィの手を引いて、庇う様に前側に移動した。
「アーシャ、来る・・!」
「ん」
戦い慣れたアーカーシャ・リリィとニャニャンは気を抜かずに居た為、『黒』の反応が新たに近付いて来るのを察知していた。
そして、新たに近付いて来る方向側に移動してアイソレイト・リリィを護れる様に構えた。
そんな彼女達の方に、水面をヌルリと滑る様に近付いて来る姿があった。
「アーシャちゃん・・あれ・・」
「そう。気を抜かないで」
「ぅん」
空中に浮かぶ魔法少女達から5mくらいの位置に止まった『黒』は、以前に裕子が山で遭遇したのと同じ、女性の様なシルエットに見えた。
あの時に見たのより、少しばかり背丈は低く見えたが。
そんな『黒』が片腕?を上げ、先程の『巨大な口』が水没した辺りに向けた。
すると、水中からバラバラの骨の様なモノが無数に浮上して来て、見る間に組み合わさっていき、その上をツヤのあるヘドロの様なモノが覆い尽くし、元通りの巨大な口の付いた、巨大な生き物の様な形になった。
人型の『黒』が、その巨体の上に乗る様に水面を進み、乗ったと思う間もなく、くっついて1つになってしまった。
巨大な何かの頭頂部に人間が生えた様な見た目になった。
「・・噂になってたの、2つで1つだったのね・・」
「じゃあ、アイツさえ倒せれば」
「だね」
「・・ね、アーシャちゃんっ・・ニャニャン・・」
アーカーシャ・リリィとニャニャンに、アイソレイト・リリィが震える声で話しかけた。
「・・あの黒いの、何なの・・?前に山に居たのも、公園に居た小さいのも、いま目の前に居るのも・・分かんないよ・・何なの・・アレ・・!」
「っ・・。アレは・・・」
言い淀むアーカーシャ・リリィの代わりに説明しようとしたのか、ニャニャンが動く。
が、アーカーシャ・リリィが手を伸ばして止め、抱きしめた。
「ニャニャン、ありがとう・・大丈夫・・私が言うから・・」
「アーシャ・・」
「アイ。アレは・・『黒』。アレは敵。人や動物に近い形に固まっているし、何か意思が有る様な行動をするけれど、消してしまわなければならない、消さないといけない、敵なの。あの人型の方が本体で、下に繋がったのは・・たぶん、巻き込まれてああなった・・んだと思う」
「・・巻き込まれて?」
「そう。いま目の前に居るのとか、前に森でアイが襲われた奴、人型のタイプ。ソレは絶対に倒さないといけない。アレを見逃すと、周りが大変なコトになる」
「大変なコト?」
「そう。あの巨大な口のヤツに何人も、ただ殺されてるの。放っておけば、これから先もずっと、誰かが殺される、誰かが不幸になる、誰かが泣くことになる・・!」
アーカーシャ・リリィの説明に、アイソレイト・リリィが震える腕を強く握り、『黒』の方を見た。
敵を前に悠長にしてはいられない。
早口に説明するアーカーシャ・リリィを、肩に乗ったニャニャンが哀しげな目で見ていた。
そんなアーカーシャ・リリィの話を聞いていたかの様に、『黒』の雰囲気が変わった。
放つ威圧感が増し、2人の魔法少女へ向ける敵意と殺意を強めていた。
「ニャニャン、湖の周囲への被害が心配だから湖畔から結界張れないかな」
「ぅえっ!?ムリだよ!この湖、かなり広いよ!?」
「じゃ、私達を中心に宿舎側の湖畔まで」
「ん〜・・それなら何とか・・?」
「お願い」
「分かった。連絡は念話でね」
「ん」
ニャニャンが宿舎のある方面に飛んでいった。
飛び去るニャニャンの方を目で追っていた『黒』の顔が、不自然な動きでアイソレイト・リリィとアーカーシャ・リリィの方に戻った。
湖面に立つ『人型の黒』が、優雅にお辞儀する様に動くと、その場でクルッと回った。
片足を水面に付けたまま、もう片足を水平に、両腕を広げ、まるでスケート選手が氷上で踊るかの様な風に見えた。
その両腕や片足の先から小さな黒いモノが周囲に散らばり浮かんで、バスケットボールくらいまで膨らんだ。
『黒』を取り囲む様に、漆黒の球体が無数に浮かぶ状態になった。
それで終わりな訳などないだろうし、何かしてくるのは間違いない。
「アーシャちゃんっ!戦い方とか!アドバイス欲しいかもっ!」
「分かった!」
人型に見える方の『黒』の周囲に浮かぶ漆黒の球体から、テニスボールくらいの大きさのドス黒い色合いの魔力の塊が撃ち出されて無数に飛んで来る。
「魔力は個人個人で全く違うけど!使い方はほとんど変わらない!イメージが大切なの!今アレがやってるみたいに!魔力の固まりにして無数に撃ち出しても良いし!かなり凝縮させて最速で撃ち出すと威力は上がる!イメージ!具現化!慣れ!魔力配分と運用!大切なのはそれだけ!」
「え。ぅん!ぇと、んと!?」
「後で書いて渡す!」
「ありがとう!」
『黒』からのどんどん激しくなってくる攻撃を避けながらの会話なので、叫ぶ様な会話になっていた。
アーカーシャ・リリィ的には念話で話したかったのだが、急に始まった戦いにアイソレイト・リリィが少しパニックになっていたこともあり、経路が通らなかったのだ。
「とりあえず!私のマネしてみて!よく見てしっかり覚えて!実際に見た方がイメージが分かりやすくて!やりやすくなるから!ゆっくりで良いから!あと防御最優先で!!」
「うん!」
「手の平の前に!魔力の固まりを作るイメージ!」
アーカーシャ・リリィの手の平の前に魔力の固まりが出来ていく。
「敵に向けて!撃ち出す!」
アーカーシャ・リリィの手から撃ち出された魔力が『人型の方の黒』に勢いよく飛んでいき、激突した。
それによって、『黒』が少しよろめく。
「さらに!硬くするイメージ!先端を尖らせて!最速を意識して!撃つ!!」
アーカーシャ・リリィの手から、先程と違い先端が鋭利になった魔力の固まりが勢いよく飛んでいき、今度は『黒』の肩辺り?に突き刺さる様に当たった。
しかも前後に向けて爆発する様に爆ぜた。
それによって、『黒』の身体に攻撃貫通で少し穴が空いた。
「GugGigiiiiAaAAA...!!!」
耳をつんざく様な絶叫があがった。
『黒』がブルブルと激しく前後左右に揺すられた様に不規則に激しく揺れ、身体の輪郭が歪むかの様に崩れ、その先端が無数の触手の様になり、2人に向けて勢いよく撃ち出されて伸びて来た。
「わわわっ!?」
アイソレイト・リリィは頑張って避けたが、アーカーシャ・リリィは避けずに両手で捌いて弾いた。
アイソレイト・リリィはヒラヒラした魔法少女装束なこともあり何発も掠っていたが、アーカーシャ・リリィは掠りもしていなかった。
「すごいっ!」
「今のは!『認識加速』で体感時間を引き伸ばして!目に魔力を集中させて!両腕に強く魔力を込めて!ムリヤリ軌道を変えたの!」
アイソレイト・リリィは避けるのに精一杯、空中で態勢を維持するのも精一杯で、そんな彼女から見て、アーカーシャ・リリィは微動だにせず攻撃を捌いていた。
アーカーシャ・リリィのスゴい所はいくつも見ていたが、彼女のスゴさにキリなんて無いんじゃないかとすら思えた。
「アーシャちゃんっ!私もやってみる!」
言うが早いか、間近を掠って行った触手を殴りつける様に千切ったアイソレイト・リリィ。
ムリヤリ態勢を直して、無数に迫る触手に相対した。
が・・。
アーカーシャ・リリィは合気道の様に『黒』の勢いを利用して軌道を反らしたのだが・・アイソレイト・リリィの場合、
魔力を込めた拳を叩き付けて千切る様な感じになっていた。
避けずに居た為に、迫る触手が何本も直撃したのだが、鋭利な先端は彼女に刺さらず、貫き通そうとうねっている間に彼女の拳に叩き落とされたり千切れたりしていった。
■
合宿所近くから戦う2人を見ていたニャニャンは、アイソレイト・リリィの力に驚いていた。
アーカーシャ・リリィが最低限の動作と魔力使用で触手を避けているのは、魔力節約の為だ。
しかし、アイソレイト・リリィは無尽蔵に魔力を持っているかの様な魔力の使い方をしている。
悪く言えば、魔力運用なんて一切考えずに無駄使いしているのだ。
ついこないだ正式な現界を経て自身の『力』に目覚めたばかりだから自身の限界を知らないだけ、と言ってしまえばそれまでかもしれないが・・にしたってだ。
「・・・」
ニャニャンは、白骨の魔法少女に過保護に護られた暖かい部屋で無邪気に微笑む少女の姿を思い出していた。
あの幼い容姿の少女は、宇津馬 裕子の『魔法少女としての力』が形になったモノだったハズだ。
あの幼い『力』は、いつ生まれ出た?
いつから、あそこで隠される様に護られていた?
毎晩毎晩、自身を痛めつけるかの様に訓練していた裕子の努力の割に、結果はあまり出ていなかったけれど、その蓄積もあの部屋に抑え込まれていたのだとしたら?
「・・まさかね・・」
もしかしたら、魔法少女として目覚めたばかりのアイソレイト・リリィが、アーカーシャ・リリィの魔力総量をすでに越えているかもしれない、と考えてしまったニャニャンは「ありえない」と首を振った。
が、実際問題・・裕子は『力』がイビツで制御不能なまま様々なコトを試していたので、その過負荷から通常の魔法少女の数倍もの潜在能力を発現させていたのだ。
■
アイソレイト・リリィの可能性を察したのは、遠く離れた場所で見ていたニャニャンだけではない。
すぐ近くで戦うアーカーシャ・リリィが気付かないハズもなく・・。
裕子が本当に何も知らずゼロから足掻いていた事を知ったとはいえ、改めて驚かされたのだった。
「・・・アナタは・・どれだけ・・」
自身が魔法少女になったばかりの頃を思い出しながら一瞬顔を俯けたが、「考えるのは後で」とばかりに軽く首を振り、『黒』の方に目を戻した。
アイソレイト・リリィの魔力も流石に減ってきたか、少し息が上がりだし、魔法少女装束も様変わりしていた。
魔法少女というより魔女といった方が近そうな程にマントともローブとも見える装束に覆われていたのに、
今はロングコートの様な形になっていた。
そのコートの下も、真冬なら物凄く暖かそうに見える上下、膝丈のスカートから出る脚も真っ黒なタイツを履いているかの様だった。
「・・」
さっき自分が動揺したのは何だったの?と言いたげな顔になったアーカーシャ・リリィはさておき、魔法少女装束が様変わりするくらいにアイソレイト・リリィの魔力残量が激減しているのは間違い無い。
それでも、パッと見、アーカーシャ・リリィの方がかなり露出度高めなのだが。
「ゃあああああああっ!!」
いつまでも防戦一方では擦り減らされるばかりだ。
アーカーシャ・リリィがステッキに込めた魔力を刃の様に伸ばした。
見た感じは、アニメや映画で出てくるビームサーベルの様だ。
その魔力の刃が細く薄くなり密度を増し、バチバチと鳴る。
そのバチバチと雷光が走る刀身を天に向けて掲げると、一気に雲に届くのではないかという程に刀身が伸び、その刃を『黒』目掛けて振り下ろした。
バシャーーーーン・・!!と派手な音を立てて、刃は湖面ごと『黒』を斬り裂いていた。
「AAAAAAAaA!!!!」
『黒』から甲高い悲鳴があがる。
そのまま倒されてくれれば良かったのかもしれないが、
湖面に接した足下が不自然に膨らんだかと思うと、その膨らみが上半身まで上がり、斬り裂かれた傷から噴き出した。
噴き出すものが収まると、深く斬り裂かれた傷など無かったかの様に修復されてしまっていた。
「・・?」
不自然に膨らんだ足下の下、月明かりを反射する湖面が蠢いて見えたアーカーシャ・リリィが、目に魔力を集中させて視力強化した。
「っ!?」
「アーシャちゃん?」
「アイ、まずい・・アイツ・・水中で触手を伸ばして、水中の生き物を手当り次第に殺して取り込んでる・・!」
「ぇ!?」
「私が斬った傷も一瞬で直されちゃったし」
「・・そんな・・」
「このままじゃ、こっちは魔力限界が来たら負けるけど、アイツは水中の生き物を殺し尽くすまで・・ぅぅん、それ以上に、湖の周りに住んでる人達もアイツに殺されてしまう・・!」
「そんな・・!」
「・・・アイ」
「なに、アーシャちゃん」
「アイツを一息に倒せるくらいのを出す為に、集中して魔力を貯めないとならないの・・」
「・・分かった。頑張ってみる・・!」
「ごめんなさい」
「んーん。私じゃ、そんな強いの出来ないし、アーシャちゃんに頼るしかないもんっ」
「・・」
「だから頑張るっ」
「お願い。でも一つ訂正」
「?」
「アイはまだ経験が少ないだけ。合宿が終わったら、必殺技の特訓だからね」
「ぅん・・♪楽しみにしてるね・・♪」
にっこりと笑ったアイソレイト・リリィがアーカーシャ・リリィから離れていく。
■
突如として場の空気が変わる、ということはあるが、広大な面積を誇る汽水湖一帯丸々の規模、というのはそう有ることではない。
だが、それが起こった。
「え」
「なに?いま、なにか・・・」
「気のせい、いや、でも、」
「ぉぃ・・アレ、何だよ!」
「え。うそ。何アレ・・!?」
「化け物・・!?」
「・・・あれ、まさか魔法少女か?」
「戦ってるの・・?」
「おい、スクープスクープ!撮れ撮れっ!」
湖畔近くに居たニャニャンの耳に、近くに居た人々のざわめきの声が無数に聞こえだした。
原因は簡単なコト。
薄く、広く、広範囲に向けて『認識阻害』の術式を使い、戦いが気付かれないようにしていたアーカーシャ・リリィが、その『認識阻害』の術式を切ったからだ。
その為、今まで意識を逸らされ隠されていた『黒』と魔法少女の戦う様子が丸見えになったのだ。
月明かりしか光源がなくとも、湖の水面に立つ漆黒の異形や、魔力が活性化してほんのりと輝く魔法少女2人の姿はかなり目立っていた。
もしかしたら、昼日中に見られるより目立っていたかもしれないくらいに。
「・・アーシャ・・使うんだね・・」
アーカーシャ・リリィが『認識阻害』を切ったのは、これから放つ大技の為に、少しでも多くの魔力を掻き集めねばならないからだ。
ニャニャンは大切なパートナーの無事を祈り、今の今まで気付いてすらいなかったクセに応援を始める野次馬達に苛立って尻尾の毛を逆立てていた。
■
両手で握ったステッキを正面に低く構え、魔力を溜める為に集中し始めたアーカーシャ・リリィ。
その足下や周囲を、術式がリボンの様な細長い形で周ったり、呪符の様な詩篇が現れてシュボッと燃え盛って消えたり、ステッキから小さな光の粒子が無数に出始めたりしていた。
そんな彼女をチラッと見てから、アイソレイト・リリィは『黒』に向き直った。
「今の私に出来ること・・見たこと・・」
アイソレイト・リリィに出来る攻撃手段は限られる。
ハッキリ言って、『黒』と戦い始めたこの5分弱に知ったコト経験したコトが今の彼女の全てだった。
「・・」
アイソレイト・リリィが両手を広げ、クルッと回った。
その手先から放たれた小さな小さな魔力の固まりが周囲に散らばる。
そして、ピンポン玉くらいの大きさに膨らんだ。
「あれは・・」
アーカーシャ・リリィが目を見開く。
いまアイソレイト・リリィがしたのは、戦い始めに『黒』がやったのとほぼ同じことだったからだ。
《アーシャ、スゴいね、あの子》
「ぅん」
敵の攻撃手段を再現して見せたコト、というより・・きっとアイソレイト・リリィにとって、魔力をフル活用した戦い自体が初めてのハズなのだ。
なのに、周囲に魔力の発動起点をバラまき、魔力を遠隔供給して見せた。
もし『黒』の攻撃を再現して見せるのなら、これから行われるのは・・・。
「行けぇえええっ!!」
アイソレイト・リリィが『黒』の方めがけて両腕を振ると、彼女の周囲の魔力の球体から一斉に魔力が発射され始めた。
それぞれは『黒』の放ったモノとは比べるべくも無いくらいに小さいが、ひとつひとつが細長く尖っていた。
それらが『黒』に殺到し、次々と命中していく。
しかも、当たった瞬間に前後に爆ぜて威力を増していた。
アーカーシャ・リリィの放ったモノと違って突き刺さらなかったし貫通もしなかったが、『黒』を牽制し引き付ける役目は十二分に果たしていた。
だが、かなりの魔力を一気に使い切る無茶な攻撃なのは確かだ。
見る間に、アイソレイト・リリィの魔法少女装束が目減りして変化していく。
「アイ!!」
アーカーシャ・リリィの叫び声に振り向いたアイソレイト・リリィは、彼女のステッキが光を放ちバチバチと雷光を纏っているのを見た。
「全力で離れてっ!!」
「うん!!」
アイソレイト・リリィが勢いよく飛んで離れた。
そしてアーカーシャ・リリィがステッキを天高く掲げ、『黒』に向けて振り下ろした。
「『鎮魂歌・第六唱・葬送』」
周囲の音が掻き消され、夜闇とは違う黒色一色に満たされた。
・・・・ドッ・・・!!!!
『黒』を爆心地に、衝撃波が周囲一帯に向けて飛んだ。
『黒』は一瞬で粉微塵に消し飛び、余波が噴き荒れた。
水面の爆発で莫大な水量が飛び散り、湖周辺に激しく降り注いだ。
『認識阻害』が切られたことで、周辺からは月明かりに照らされた水上の戦いが遠巻きに見えていたが、急に爆発が起きた様に見えたかもしれない。
月明かりだけの暗い夜闇すらも塗り潰す黒色が広がり、爆発し、爆風が吹き荒れ、それが収まったかと思えば、爆発で飛び散った湖の水がザァッと降り注いだ。
避けて飛んだ勢いを更に後押しした爆風で数十メートル飛ばされたアイソレイト・リリィは態勢を整え、周りをキョロキョロと見た。
やがて、離れた場所に浮かぶアーカーシャ・リリィの姿を見つけ、飛んでいった。
アイソレイト・リリィが近付くと、空中に作った足場に片膝を付いて跪いた態勢のアーカーシャ・リリィが見えた。
荘厳な教会で真摯に祈りを捧げているかの様に見えた。
つられ、アイソレイト・リリィも、手を組んで祈りの姿勢になった。
「・・貴女に幸いあれ・・」
ポツリと小さな呟きが聞こえ、アイソレイト・リリィがアーカーシャ・リリィを見た。
スッと立ち上がったアーカーシャ・リリィは哀しげな顔をしていて、強敵を倒せた喜びは感じられなかった。
ハイタッチしたり抱きしめ合ったりして勝利を喜ぶ気分だったアイソレイト・リリィは、何となく気を引き締めた。
「・・帰ろっか」
「ぅん」
アーカーシャ・リリィに促されアイソレイト・リリィが頷く。
そこへ、宿舎の方からニャニャンが飛んで来てアーカーシャ・リリィに抱きついた。
優しく受け止めたアーカーシャ・リリィがニャニャンの毛並みをソッと撫でる。
宿舎方面に飛ぶつもりのアイソレイト・リリィだったが、アーカーシャ・リリィが上空に向けて上がり始めたので、ついていった。
「アーシャちゃん、帰るんじゃないの?」
アイソレイト・リリィが宿舎の方向を指差して尋ねた。
「目に魔力を集めて、望遠鏡とかみたいな感じを意識してみて。それで湖畔とか周り見てみて?」
「ぅん。・・・・わ、すごい・・!いっぱい居る!」
「ね。だから、見えないくらい高く上がって、『認識阻害』を最大にして、遠回りに飛んで帰るの。『認識阻害』に回す分の魔力も攻撃に回すしかなかったから、途中から戦ってるの丸見えだっただろうし、何より・・『鎮魂歌』の威力を隠すのは難しいし・・」
「ぅん。ぁ、えと、アーシャちゃんっ」
「ん?」
「さっきのスゴかったね・・!」
「『鎮魂歌』のこと?」
「うん、それそれ♪カッコよかった♪これぞ必殺技!って感じだった♪」
「・・・///」
「普段から使ってるの?」
「・・ぅぅん、使えないの」
「?」
「さっきみたいなコトになるから、街中とかじゃ絶対使えないの」
「ぁ・・ぁ〜・・なるほど〜・・」
さっきの威力が街中で炸裂したらと考えたアイソレイト・リリィは納得した。
敵を倒すどころか、護るべき人達もろとも巻き添えの大虐殺になりそうだ。
「まぁ、第三唱くらいまでなら、使えなくもないけど」
「三・・そっか、さっき六って言ってたっけ・・?」
「そう。第一唱から第十唱まで有るの」
「十・・凄そうだね・・」
「最近使ってないけど、ここくらい広くてもギリギリ危ないかも・・たぶん」
「たぶんて」
「今の半分くらいしか魔力総量ない時に使ったんだけど、さっきの六唱より威力あったかも・・」
「・・・。使わない方が安全そうだね・・」
「ぅん。使う機会なんて来なければ、それが一番良いの」
「はは・・」
「私は、アイの方がスゴいと思ったけどね」
「・・・どの辺が?」
「時間稼ぎしてくれた時の。アレ、あの『黒』のしてたのでしょ」
「ぁ、ぅん。周りに広げて出す時はね。発射する時はアーシャちゃんのアドバイス参考にしたよ?」
「それがスゴいんだよ」
「そう?」
「うん。あの周り一面に魔力の発射砲台設置するやつ、けっこう色んな技術が必要な高等技術だからね?」
「・・・そぉなんだ」
「ん。アイ、スゴいよ。凄くセンスあるよ」
「そっかな・・ぇへへ・・///」
「さっきの約束、ちゃんと守るからね。合宿が終わったら特訓って言ったの」
「ぅん、ありがとう♪」
「きっとアナタは見て分析する能力が凄く高いんだと思う」
「そうかな・・///」
「私の教えられるコトは全部、見せて教えるからね」
アーカーシャ・リリィはアイソレイト・リリィに『観る才能』があると思ったが、その認識は少し間違っている。
育児放棄される中で生きて育ってきた裕子にとって、両親から教わることなど無く、TVや学校社会、図書室の本などから得た知識や情報を無意識に精査して実行、経験し、最善を選択し、今に至る。
きっと、幼稚園時代や小学校入学時の裕子を夏樹が見たなら、「ロボットみたいな子だ」と思ったかもしれない。
それくらい人間味の希薄な少女だったのだ。
今の様な人当たりになったのは、ここ数年のことなのだから。
「アイ、まず平原小学校の・・山側の宿舎に送ってくよ。『認識阻害』の術式は次に時間が出来た時か、出来なくてもニャニャン行かせるから」
「アーシャ、ひどっ!?」
文句を言うニャニャンにアーカーシャ・リリィが半ばムリヤリ納得させようとしていた所に、アイソレイト・リリィが話し掛けた。
「アーシャちゃん。良かったら少しお話ししようよ」
「私は身代わりに『人形』置いてきてるから大丈夫だけど、アイは早く帰らないと・・」
「大丈夫じゃないかな・・ほら」
アイソレイト・リリィが指差した先は、ちょうど合宿で泊まっている宿舎の方だった。
アーカーシャ・リリィが視力強化で見てみると、山側の平原小学校の方の宿舎も、湖畔側の山上小学校の方の宿舎も、大騒ぎになっていた。
就寝時間なんてとっくに過ぎているのに、寝ているハズの生徒達は皆起きてしまい、宿舎を飛び出して湖畔に集まったりしているのだ。
湖上の異形が消え、空高く浮く2人の魔法少女の方を見て騒いでいる姿が見えた。
近くでは、両校の教師達が何とかしようと頑張っているが、両校の生徒達が混ざって騒ぎになっている為、騒ぎが収まるのはまだまだ先のように思えた。
「ま、原因は分かりきってるよねー☆」
ニャニャンがアーカーシャ・リリィのほっぺたをムニムニ押しながら笑う。
そう、就寝時間を過ぎて半分は寝ていた生徒達を叩き起こした原因は、アーカーシャ・リリィの放った『鎮魂歌』だった。
静まり返った夜半の湖に巨大爆弾を落として爆発させた様な衝撃波や爆音は、湖のほぼ全周沿岸部に届いていたのだ。
そこに、戦いを目撃していた野次馬達の騒ぎが届いた。
叩き起こされた子供達が魔法少女を見に飛び出して行ったのは、仕方無いだろう。
「ぅあぁああぁぁあああ〜〜・・・」
アーカーシャ・リリィは頭を抱えて身をよじり、悶えた。
「ま、しょうがないよねっ☆。アレ使わなきゃ倒せなかったろうし、アーシャの魔力総量が増えた分、威力も増すわけだしさー☆」
■
空高く高く上がり、汽水湖と海の繋がる方面に向けて飛んだ魔法少女2人は、月明かりに溶け込むように姿を消した。
『認識阻害』の術式の効果をうまく使い飛び去ったように見せたアーカーシャ・リリィは、山側宿舎と海側宿舎の両方が見える空中に居た。
『認識阻害』を使い宿舎の中にうまく戻るにしても、タイミングを見ないとならなかったからだ。
ちなみにアイソレイト・リリィは、アーカーシャ・リリィの術式の効果範囲で姿を隠せていた。
「でも、随分変わったね」
アーカーシャ・リリィがアイソレイト・リリィの魔法少女装束を見てつぶやく。
水着フォームから元の状態に戻って、戦いの中どんどんと目減りし、今はノースリーブの上着とキュロットスカート、ハーフサマーブーツに、何故か濃い黒のストッキングだった。
魔法少女装束は本人の深層意識の影響を強く受けるが、ノーマルタイプ以外、脚周りのガードが異様に堅かった。
きっと、ノーマルタイプのロングスカートも本来は鉄壁の完全ガードを誇るのだろう。
アーカーシャ・リリィとニャニャンは、そのガードをすり抜けてしまったけれど・・。
この戦いの中、アイソレイト・リリィにとって得難い、掛け替えの無い体験が出来たし、数え切れない程に経験が得られた。
「・・」
「アイ?」
「ね、アーシャちゃん」
「ん?」
「・・・夏樹ちゃんと、友達になりたい」
「・・裕子・・」
「・・・だめ・・かな・・?」
「・・。・・よろしく」
アーカーシャ・リリィが微笑み、不安そうな様子だったアイソレイト・リリィの顔が喜びにほころんだ。
「・・・裕子」
「ん?」
「・・・初めて会った日に言ったこと・・ごめんなさい」
「・・」
「心配して言ったつもりだった・・でも、すごくアナタを傷つけてしまった・・」
「・・大丈夫。夏樹ちゃんが心配してくれてたのも分かってる」
「・・」
「もう気にしてないよ。今はね・・ただ、ただ嬉しいんだ・・」
「・・裕子・・・」
山側の宿舎に降り、変身を解いた裕子に手を振りながら、夏樹とニャニャンは海側の宿舎の方に向けて飛び立った。
無事に戦いを終えられた安堵感とは別の何かに満たされた顔のアーカーシャ・リリィを見て、ニャニャンの背中は微かに震えていた。
涙を拭う様に顔を前脚でこすったが、とても嬉しそうに見えたのだった。
■
魔法少女2人と『黒』の戦いの翌日、地方局の朝のワイドショーが久々に『聖女』以外の魔法少女特集から始まった。
生徒達の活動場所のテレビは合宿に合わせて片付けられていた為、テレビが置かれたままの職員用の宿直室に生徒達が大挙して押し寄せていた。
遠巻きに撮られた写真や動画が次々と映し出され、生徒達の歓声がひときわ大きくなったのは、アーカーシャ・リリィが『鎮魂歌』を放った際の動画だった。
そして、渦中の本人達はといえば・・。
裕子は自分も映っているか気になって、生徒達に混ざり宿直室に押し掛けていた。
夏樹は閑散とした食堂で静かに朝ごはんを食べていた。
少しずつ入ってくる同級生達に「見れば良かったのにー」と言われると「あとで検索するから」と返した。
後日、湖畔に、クジラや中小海洋生物などの骨が大量に流れ着いているのが見つかる。
かなり古びた様子から炭素年代測定などで調べられ、かなりの年代物なのだと知られた。
それ以上に、骨の深くに突き刺さって残っていたモリなどから、過去に鯨油採取だけされて投棄されたクジラ達の骨も混ざっていると知られ、過激な動物愛護団体が騒いだのだが、それはまた別の話。
■■ED:『希望の一歩』歌:宇津馬 裕子■■
■■■■■This program is brought to you by the following sponsors.■■■■■
裕子「ぅんぅん・・」
夏樹「裕子?どうしたの?」
裕子「アーカーシャ・リリィはスゴいなぁ・・って、改めて噛みしめてたの」
夏樹「そんなことないから・・///」
裕子「そういえばニャニャンは?居ないね」
夏樹「また騒ぎそうだったから10kmくらい離れた場所に縛り付けてきたの」
裕子「騒ぎそう?」
夏樹「ほら、裕子が逆さまになった時の」
裕子「ぁ〜・・///」
夏樹「大丈夫。私とニャニャン以外、全世界の誰も見てないから」
裕子「ん・・///」
夏樹「さ、裕子。次回は?」
裕子「ぅん。・・次回!第11話!『夏樹ちゃんとデート♪』」
夏樹「どこに行こっか」
裕子「夏樹ちゃんのオススメのとこ♪」
夏樹「分かった。まかせて」
裕子「カッコいいなぁ・・夏樹ちゃん、ほんとカッコいいなぁ・・」
ニャニャン「裕子ちゃん、百合街道まっしぐらだねー」
裕子「あれ、ニャニャン?」
夏樹「よく間に合ったね」
ニャニャン「頑張ったよ!しばらく動けなくなりそうなくらい力振り絞って飛んだよ!」
夏樹「・・・次は・・よし、アレでいこう・・」
ニャニャン「ぇ・・こわぁ・・ぇぇ〜・・?」




