#9『力を合わせて、希望はその手に』 Bパート
「・・ふぅ・・」
夕食後の集団入浴時間、夏樹は湯船に浸かりながら ため息を吐いた。
泳がなかったとはいえ、水着姿で湖畔で過ごしていた時間に少しばかり身体が冷えて疲れていたのかもしれない。
夏樹としては数時間前に湯船に浸かったばかりだったのだが、気にならないくらい、堪能できていた。
さっさと入浴を終えて出て行く女子達も居るが、夏樹と同じく ゆっくりと湯船に浸かる女子達も居た。
「・・・」
壁の上の方の窓が開いていて、夜空が見えていた。
その夜空を見上げながら、夏樹は裕子を思い出していた。
『聖女』エタニティ・リリィの話を聞いた裕子は、顔面蒼白にして小さく震えていた。
そのまま立ち上がれなさそうだったが、手を差し出した後に手を繋いだままの態勢になっていた夏樹に気付き、無理しているのが丸分かりな様子で立ち上がった。
いざ立ち上がったとはいえ、心ここにあらずな裕子を心配した夏樹は、裕子を平原小学校側の宿舎に送り届けた。
湖畔の海水浴場から山側の宿舎まで水着姿で行ったので、宿舎に居た教師が驚いて出迎えた。
脱衣場から回収した裕子の荷物は夏樹が持っていたのだが、裕子はそのコトすら気付いていない様子だった。
出迎えた教師に「海水浴場から送り届けた」コトを伝え、震えて俯く裕子の様子は「少し冷えたみたいで」と誤魔化した。
実際、裕子は顔面蒼白で震えていたので、水着が一切濡れていなかったコトは関係なく誤魔化せたハズだ。
そのまま山上小学校の宿舎に戻ろうとする夏樹を教師が止め、裕子と2人で入浴施設を借してもらえた。
湯船に浸かる裕子の震えが止まった頃合いに出たら、山上小学校の女性教師の明星先生が待っていた。
水着姿のままで山側まで来て、更に水着姿のままで平原小学校の生徒達の中を通って帰るコトになる夏樹を気遣った教師が連絡してくれた様だった。
湯上がりにスクール水着を着直していた夏樹は、その上から、借してもらったブカブカ過ぎるジャージを着て戻った。
迎えに来た明星先生のジャージを借してくれた様だった。
ブカブカ過ぎるジャージを着た夏樹の何だか可愛らしい姿や、湯上がりで上気した頬など、遠巻きに見る平原小学校の男子達に「山上小学校の美少女」とざわめかせ話題になっていたのだが・・「優しいね、気遣い出来て偉いね、将来立派な大人になれるね」と、夏樹の頭を撫でながら褒めちぎる明星先生に照れていた夏樹は気付かなかった。
そうして宿舎に戻り、現在、再入浴中なのだった。
「 !」
「 !?」
「 ! !」
「 !」
《夏樹・・!呼ばれてるよっ!》
「へっ!?」
ニャニャンからの念話が頭に響き、驚いた夏樹が湯船の中でビクリとする。
「ぁー・・良かったー・・」
「・・・明星先生」
湯船の壁際で夜空を見上げたまま、集団入浴時間が終わっても出て来ない夏樹に、入浴中の突発事故対策番だった明星先生が声を掛けていた様だった。
「いくら呼んでも気付かないから焦っちゃったわ・・?」
ジャージ姿のまま湯船に入って夏樹の側まで来ていた様で、ジャージは太モモの半ばくらいまでグッショリと濡れていた。
「・・・先生、ごめんなさい」
「いいの、いいの。無事で良かったわ・・?」
「・・考え事してて・・ごめんなさい」
「・・何回も呼んだのよ?それに気付かないくらい、真剣に考えてたのね・・悩み事なら相談に乗るわよ・・?」
「ぁ・・ぇと・・」
「恋の悩みとか?」
「違います」
「お友達とのコトとか、かしら?」
「・・ぁ・・、・・ん・・?」
「近いと言えば近い」と思いつつ、「自分と裕子は、別に、友達・・とは少し違うよね・・?」と夏樹は思い、言葉に詰まった。
「平原小学校の、昼間の子かしら?」
「!」
ピクリと反応した夏樹に、先生はニッコリと笑いながら夏樹の頭を撫でて、隣に座った。
当然ながら、ジャージは もう一切の取り返しがつかないくらい濡れた。
胸の上くらいからが湯船から出ていて、隣に座る夏樹は「・・・先生・・良いの・・?」と聞きたげだ。
「貴女は本当に優しい女の子なのね・・先生だったら、男の子ばっかり居る中に1人だけ水着のままで行く勇気はなかったわね〜・・」
うんうん、と頷きながら夏樹を褒める先生に、夏樹は今更ながら「そういえばそうだ」と気付いた。
お湯で温まって上気していた頬が、少しばかり赤味を増した様だった。
頭の上にそっと乗せられた手が優しく夏樹を撫でる。
「斎木さん!明星先生っ!」
突如、後ろから聞こえた大声に、夏樹と明星先生がビックリして振り向いた。
2人の見る先には、夏樹の担任の測尺先生が立っていた。
腰に手を当て、心配と怒りが混じった様な顔をしていた。
その後、夏樹は そそくさと出たのだが、着替え中の夏樹の耳には、ジャージのまま湯船に浸かりびしょ濡れの明星先生が叱られる声が聞こえていた。
巻き添えにしてしまった明星先生に申し訳ない気持ちでいっぱいのままドライヤーを使う夏樹だったが、バシャーン!と大きな水音がして、そっと浴室を覗いた。
「・・・明星さん!貴女は学生時代からホント変わりませんね・・っ!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさいー!!」
落ちたのか、なぜ落ちる事態になったのか、ソレは分からないが・・2人して湯船の中だった。
測尺先生に両肩を掴まれてガクガク揺さぶられる明星先生の姿があった。
「ぁ!斎木さん!良い所に!」
浴室を覗き込む夏樹に気付いた明星先生が手を振る。
「良い所に」というより「助けて」と言ってる様に見えたのは、夏樹の気のせいではないハズだ。
自分のバスタオルを差し出す様にしながら、ペタペタと夏樹が湯船に近付いて行く。
オロオロと2人のびしょ濡れの大人を見る夏樹に、測尺先生から言葉が掛かる。
「斎木さん、非常に申し訳ないんだけど・・職員用の宿直室に呉睦先生が居るハズだから、呼んで来てもらえないかしら・・。出来たら、タオルと着替えを持って来て欲しくて」
「はいっ」
元はと言えば、考え事をしながら長湯していた自分が原因だ。
どんどんと事態が悪化していき、夏樹は自分を少し責め始めていた。
が、彼女は ただの小学5年生の女の子ではない。
魔法少女として経験したコトの数々は、決して少なくは無いのだ。
どんな状況であっても、立ち止まったままではなく、動けば何かは変わるのだ。
『認識阻害』を強めに発動させて、天井沿いに飛んだ。
宿舎の入口近くの宿直室前に降り、ドアをノックした。
「先生・・!先生、居ませんか・・!?」
あまり大声を出せば目立ってしまう。
夏樹は、これ以上の大事にはしたくなかった。
「はいはい〜?居ますよ〜?」
ドアを開けて、保険医の呉睦先生が出て来た。
夏樹は、測尺先生と明星先生の現状を説明し、呉睦先生の服の裾を少し引っ張った。
夏樹的には焦りで急かした様なものだったが、傍目から見ると、とても可愛らしく見えただろう。
夏樹から状況を聞いた呉睦先生は、アゴに手を当て、少し考え込むと「手伝ってもらえるかしら」と夏樹に聞いた。
頷いた夏樹に微笑んだ呉睦先生だったが、宿直室の奥に行くと、2つのキャリーケースを寝かせた。
多分、それが測尺先生と明星先生のキャリーケースなのだろう。
キャリーケースを見て「大人っぽいな・・」と思った夏樹の前で、おもむろに片方のキャリーケースを開けた呉睦先生は、次の瞬間、入っていた中身をポイポイと乱暴に取り出し始めた。
「ぇ!?先生っ!?」
「人のキャリーケースを合法的に漁る機会なんか、そうそう無いからね〜♪ぉ、有った有った♪」
何かを取り出した呉睦先生は、夏樹に向かってポイッと放って渡した。
「ぇ・・これ・・。っ!////」
放り渡されたモノが何か気付いた夏樹の顔がボッ!と赤くなる。
自分のモノとはまるで違う、オトナの雰囲気溢れる下着だったからだ。
そのまま、他にもポイポイッと衣類が渡される。
たぶん、下着から部屋着まで一式だ。
「ぁ、くそ・・カギ掛かってる・・!」
呆然とする夏樹の前で、呉睦先生は もう片方のキャリーケースを開けようとしていた。
「さすが測尺先生・・マジメだな〜・・是が非でも開けねば・・」
キャリーケースのカギを見ながらブツブツ呟いていた呉睦先生は、髪からヘアピンを抜いて外した。
「斎木さん、ちょっと後ろ向いてて」
「ぇ、ぁ、はいっ」
その場で回れ右した夏樹の後ろで、カチ・・カチャ・・チャッ・・カチ・・と、何か金属が当たって擦れる様な音が聞こえた。
「良しっ♪さすが私っ♪」
呉睦先生の嬉しそうな声がして、バタン!と何か開けた音がしたと思ったら、また何かを放り捨てる音が聞こえ始めた。
「はい、斎木さん。コレもヨロシク〜♪」
夏樹が抱える衣類の上に また何かが置かれ、夏樹が見ると・・またオトナな下着だった。
「じゃ、行こっか♪」
呉睦先生の手には、パジャマっぽいモノとバスタオルが抱えられていた。
「・・先生・・」
「ん?」
「カギ・・閉まってたんじゃ・・?」
尋ねながら夏樹が振り向いた先には、開けられて中身が盛大にぶち撒けられたキャリーケースがあった。
乱雑にぶち撒けられた2つのキャリーケースは、まるでドロボウに荒らされたかの様だった。
何故か、下着類だけ念入りに散らばらされている気がした。
「開いてたみたい♪」
テヘッ☆と言いそうな顔で言う呉睦先生は、とても楽しそうに笑っていた。
「・・・ですか」
「さ、行こっ♪」
ドアを「覗け!見ろ!」とばかりに盛大に開けたままに歩いて行く呉睦先生を見てから、夏樹はそっとドアを閉めた。
こっそりドアに『認識阻害』の魔力を込めておいたので、たぶん、10分くらいは誰も「開けよう」とは思わないハズだ。
先生達が部屋に戻るまでは問題ないだろう。
■
夏樹と呉睦先生が風呂場に戻ってから、キャリーケースを漁られた上に下着を散らされて晒された明星先生と測尺先生の2人が呉睦先生に詰め寄ったり、夏樹が戻ってからも ひと騒ぎ起きたりしていた。
けれど、すでに女子達の大部屋に戻っていた夏樹にはもう知る由もなく。
《ただいま〜♪》
《おかえりなさい》
夏樹から頼まれて こっそりと裕子を見守っていたニャニャンが、戻って来た。
《どうだった?大丈夫そうかな》
《うん、たぶん。クラスメイトの子達とは愛想笑いしながら話せてたし、夕御飯もお風呂も大丈夫そうだったかな》
《そっか》
《むしろ夏樹の方が心配な感じだったじゃんっ!》
《・・ごめん。・・・お風呂の時、教えてくれてありがとう》
《ん、どういたしまして♪》
《・・ね、どうして私が呼ばれてるの気付いたの?》
《ボクは夏樹の精霊だから、だよ》
《・・理由になってないよ?》
《・・夏樹。ぶっちゃけ・・ボクにとっては、裕子ちゃんがどうしてたって、どうなったって、どうでも構わないんだ。夏樹が望んだから様子も見に行くし、何かあれば助けてあげるかもしれない。でも、それは夏樹が無事だからさ》
《・・》
《夏樹と裕子ちゃん、2人が死にそうになるなら、ボクは迷いすらせずに夏樹を助けるよ。夏樹に後で責められたとしても、後悔なんてしない。する訳が無い》
《・・ニャニャン・・》
《夏樹。キミが望むなら、ボクに可能な限りは叶えられる。でも、その望みがキミを殺すなら・・ボクはキミに恨まれようと、望みは聞けないし、叶えられはしない》
《・・》
《さっきだって、ボクの『目』は裕子ちゃんを見てたけど、『耳』は夏樹の方を向いてたし、夏樹の方に全力で飛べる様にしてた。だから、気付けて当たり前だっただけだよ》
《・・ありがとう》
《んーん♪》
■
ピン・・!と、夏樹の感覚の端を、微かな反応が捉えた。
《ニャニャン》
《ん。『黒』の感じだね》
だだっ広い大部屋の木張りの床の上に、所狭しと布団が敷かれている。
布団と布団の間、それぞれの寝顔を隠すくらいの小さな衝立てが有るが、布団と布団はピッタリくっついて並んでいる。
枕の下からスマホを出した夏樹が時間を見ると、まだ10時少し過ぎだった。
いつもだったら、寝る前にニャニャンと話しているくらいの時間だ。
そっと布団から出た夏樹が立とうとする。
「ナッキちゃん、トイレ?」
隣の布団から声がした。
隣の布団に横になっているクラスメイトの、樹下楓だった。
布団を頭から被っているが、うつ伏せの両手でスマホ操作している。
「そう。・・起きてたの?」
「うん。こんな早く寝れないっつーの。いつもならゲームの時間だもんっ」
「はは・・ネットのだっけ・・?」
「そ♪ウチのチーム、最近良い感じなんだ〜♪」
「そっか・・」
少し急ぎたかった夏樹は、脚をモジモジさせて少し身体を揺らしてみた。
「ぁ、ごめんっ」
「ぅぅん、大丈夫」
「漏らすなよー?いってらー」
「ん」
部屋を出るまでに、布団のいくつかが平べったくなっているのが見えた。
トイレか、男子部屋にでも遊びに行っているのか。
女子達の間で「軽い」と陰口を叩かれる名次さんの布団も平べったかった。彼女の場合は、間違いなく男子部屋だろう。
部屋のドアを閉めた夏樹は『認識阻害』を最大限に発動し、歩きながら魔力の塊の『人形』を出した。
普段から多用している魔法の為、操作開始まではほぼ一瞬だ。
通常は、『黒』との戦いで囮に使ったり身代わりにしたり、急遽行かねばならなくなった場合に代わりに置いていったりする。
大体の操作は、脳内の普段は あまり使わない部分のリソースを割いて当てている。
なので、夏樹という身体と直に繋がった操り人形の様に動かせるのだ。
出した『人形』は、直前までの夏樹の写身の様に行動可能だ。
少ししたらトイレに行ったフリをして大部屋に戻り、少しばかり樹下さんと会話して眠そうにして「おやすみ」と寝るのが役目だ。
場合によっては、明日一日、夏樹の身代わりを務めてもらうコトになるかもしれないけれど。
誰も居ない女子トイレで用を足した夏樹は、夜空に向けて浮き上がった。
浮き上がりながら変身し、合宿所の屋根が見下ろせる高さに来た頃には魔法少女装束が夜風に揺れていた。
「ニャニャン、向こうの合宿所の方で何か聞かなかった?」
「ん〜・・生徒達の居る場所ではしてなかったけど、宿舎の管理の人が荷物運んで来た人と『またアレか・・』って話してるのは聞こえたよ」
「アレって?」
「夜中に明かりを点けてやる漁業があるらしいんだけどね?時々、出るらしいんだよね・・で、誰か居なくなってるって気付くと、翌日とかに海岸に、それはそれは酷い状態で流れ着いてたりするらしいよ?」
「・・・出るって、どんなの?」
「夜の海の海面に立つ女性だって」
「・・」
「月明かりとか星明りでも分かる体型の感じで、女の人だって分かるらしいね」
「・・ヒドい状態って、どのくらい?」
「ぅん。何か・・おっきな生き物に全身噛み砕かれたみたいに、骨にも歯型みたいのが付いてるんだってさ」
「・・食べられたんじゃないんだね?」
「ぅん。ホント、ただ口の中でグチャグチャに噛み砕いただけみたいな感じらしいね」
「・・『黒』なのは間違いないよね」
「ぅん。海面に立ってる方は『黒』で間違いないと思う」
「噛み砕いたのは何だろ・・『黒』っぽくないよね・・『黒』なら・・言っちゃ何だけど、そんな無意味なコトしないもんね・・」
夜空を飛びながら海側の合宿所の上も超え、アーカーシャ・リリィとニャニャンは汽水湖の上を飛ぶ。
少しして、アーカーシャ・リリィとニャニャンは、後方から大きな魔力の揺らぎを感じて振り向いた。
少しして、2人の方に向けて飛んで来る姿が見えた。
「アーシャちゃーん!ニャニャーン!」
『認識阻害』など一切掛けられていない叫び声が、だんだんと近付いて聞こえてくる。
自分の『力』を認識する前の彼女を知るアーカーシャ・リリィとニャニャンからしたら信じられないくらいの速度で、アイソレイト・リリィが飛んで来る。
そしてそのまま減速せずに来るものだから、アーカーシャ・リリィもニャニャンも焦り始めた。
ぶつかって来たアイソレイト・リリィを止められる様に魔力障壁を張ったアーカーシャ・リリィの前に、瞬間的に急停止をかけた様にアイソレイト・リリィが停まった。
張られていた魔力障壁が、空気がぶつかって来た衝撃でビリビリと振動した。
「アーシャちゃん、ニャニャン、私も行くよ!」
凄いスピードで飛んで来て急停止したのだ。
かなりの魔力を使ったハズだが、アイソレイト・リリィの顔には疲れや息切れは見えない。
汗一つかいてもいない様だ。
「裕子・・ぅぅん、アイソレイト・リリィ・・魔力、大丈夫?使い過ぎてない?」
「うん、大丈夫っ。前に比べると、使ってないくらいの感じしかしないもんっ。普通の魔法少女がビュンビュン飛んで戦ったり助けたり出来るのも、やっと理由が分かったよ・・コレなら出来そう・・!」
アイソレイト・リリィが両手を握ったり開いたりしてみせるが、アーカーシャ・リリィとニャニャンが感じている疑問はソコでは無い。
アーカーシャ・リリィだって、今さっきのアイソレイト・リリィくらいの速度で飛んで来て急停止なんかしようものなら、そこそこの魔力が持っていかれてしまう。
少しすれば回復はするが、少しは息も上がるし、少しくらいは汗もかく。
それと・・アーカーシャ・リリィは、もう1つ気になった。
今のアイソレイト・リリィは、とても気になる姿なのだ。
「ね・・アイソレイト・リリィ」
「ぁ、アーシャちゃん。私はアイで良いよっ」
「ん、分かった。じゃ・・アイ」
「ぅん、なぁに?」
「それ・・どうしたの?」
アーカーシャ・リリィがアイソレイト・リリィの胴体辺りを指差して尋ねた。
「これ?可愛くないかな・・?」
「・・・可愛い・・よ?・・ぅん、可愛い・・可愛いけど・・」
「けど?」
「何で、水着みたくなってるの?」
そう。アイソレイト・リリィの魔法少女装束が水着の様に変わっていたのだ。
昼間の湖畔で見た「泳ぐの重視です!」といった風では無いし、夏樹の「水着ですが何か?」な感じだったスクール水着とも違った。
少し大人っぽいビキニ風で、その上から半透明に見えるくらいに薄衣に変わったアイソレイト・リリィの魔法少女装束がスポーティな感じで包んでいる。
まさに『水着フォーム』といった感じだった。
「がんばってみたの・・!」
「・・そぅ・・がんばってみたの・・?」
「だって、せっかく近くに海がある場所に行くんだよ?」
「まぁ、繋がってるけど・・一応『湖』だよ・・?」
「それでもだよっ」
「・・そっか」
アーカーシャ・リリィがアイソレイト・リリィの水着フォームを見る。
「・・変えるの、少し苦労しなかった・・?」
「したっ」
「・・・」
アーカーシャ・リリィが「何と言ったら良いやら・・?」といった顔でアイソレイト・リリィの顔を見た。
「だって、せっかく、ちゃんとした魔法少女の姿になれたんだよ?いっぱい確かめたかったんだもんっ!」
「・・・あんまり時間無かったよね?」
裕子が自分の本来の『力』に目覚め、キチンとした魔法少女の姿になれた。
しかし、夏樹から色々と教えてもらえたハズの時間は、裕子の合宿に向けての用意や確認やらで失われていた。
なのに、魔法少女装束を水着っぽく変えられるくらいに色々と確かめる時間はあったらしい。
いや、裕子が1人で がむしゃらに色々と試していたコトを知る夏樹は、察した。
また寝る時間を減らしたり、授業中とかに色々と試したりしていたのだろう。
間違いない。絶対だ。ニャニャンの尻尾を賭けても良い。
「それぞれの魔法少女の『姿』って、その時の本人に1番合った状態なんだよ」
「そっか・・そうなんだね・・やっぱり・・」
「・・やっぱり?」
アイソレイト・リリィがボソリと零した言葉が、アーカーシャ・リリィは非常に気になった。
「夜ね、寝る前は部屋で魔法少女特訓してたの」
「・・ぅん」
「やっぱりね」と思いつつ、「で?」という苦笑顔で、アーカーシャ・リリィが話の続きを促す。
「魔力が無くなりそうなくらい苦しくなって来たらね、魔法少女服が少しずつ減ってたの」
「・・ぁぁ・・ぅん、そうなるよね・・」
アーカーシャ・リリィにも覚えがあった。
まだ成り立ての頃、慣れない『黒』との戦いで魔力が無くなりそうになって来て、着ていた魔法少女装束が状態を変えていったのだ。
最初は、今のアーカーシャ・リリィの様に、可愛らしいミニスカートのカスタマイズされたウェディング・ドレスの形だったのに、だんだんと変わっていった。
最初は気付かなかったが、フリルとレースでたっぷりで決してパンチラしないスカートの中がスースーして来て気付いたのだ。
何となくスカートの上から触ってみて、スカートの中いっぱいのフリルやレースが無くなってスカートしか無かった感触がしたのだ。
もちろん履いてる。履いて無いと思ったロリコンは『黒』になってしまえ。
で、一番『減った』時には、とても魔法少女とは思えないほどにシンプルな黒のワンピースとサマーブーツ姿になっていた。
ニャニャンに聞いた所、一定以上の魔力減少分は魔法少女装束が自動的に置き換えられて補われるらしい。
下着姿や真っ裸までいってしまった魔法少女は見たことないそうだ。
それを聞いて以降、夏樹は魔力運用に細心の注意を払って『黒』と戦う様になった。
人知れず陰ながら『黒』と戦っているとはいえ、人知れず陰ながらでも全裸で戦う魔法少女なんて・・ぃゃ、夏樹の乙女心的に、有り得ない事態だからだ。
「でね、もしかしたら別の形に変えるコトも出来るんじゃないかなー・・って」
「基本フォームから変える魔力も少なくないのに・・」
アーカーシャ・リリィが少し過去を思い出す。
彼女自身、今のカスタマイズされたウェディング・ドレス姿は可愛いとは思うのだが、時折、ビルのガラス壁に反射して写ったりした自分の姿を見て、何とも言えない気持ちになる時だってあるのだ。
違う魔法少女姿になってみたい日もある。当然ながら試してみたコトもある。
経験者だからこその言葉でもあった。
心配気なアーカーシャ・リリィと反対に、アイソレイト・リリィの顔は、何か振り払った様な顔をしていた。
「・・・『聖女』のコト、納得できたの?」
「ぅぅん」
「・・それでも、彼女みたいになってみたいんだね?」
「ぅん・・!」
「・・・」
「大丈夫・・大丈夫だよ、アーシャちゃん。別に、死んでも人助けしたいなんて言わないよ。言えないよ。ビックリしたし、悲しくなったし、混乱した・・でも、気付いたの。知ったけど、私の気持ちは変わってないって。やっぱり、彼女みたいに・・当たり前みたいに助けて、ホントに助けて欲しい人の所に駆けつけられる・・そんな魔法少女になりたいんだ、って」
少し誇らしげに言ったアイソレイト・リリィに、アーカーシャ・リリィは少し顔を俯けた。
その手も少し握り締められた。
何となく思ってしまったからだ。
誰も家族の帰って来ない孤独な家に小学生の女の子が1人、押し込めた思いは、喉が張り裂ける程に叫び声を上げて求めていたのではないだろうか・・「助けて欲しい」と・・。
そう思ってしまったのだ。
「ね、アーシャちゃん。また、あの『黒いの』だよね?」
「ぅん」
「私も行く・・!」
「今のアナタなら大丈夫だと思うけど・・きっと、これから戦う『黒』は、あの夜の森に出たのとは比べようも無いくらい強いと思う。・・・怖くならない・・?」
「・・分からない」
「それでも行きたいの?」
「ぅん。・・何となく、ね?あの時のより強い相手なんだって、感じてはいるの」
「・・」
「でも、何となく思ったの」
「どう思ったの」
「大丈夫、って。今の私なら、アーシャちゃんと一緒なら、って。思ったの」
「・・・」
アーカーシャ・リリィが目に『力』を込めて、アイソレイト・リリィの目を見た。
一般人だったならば、人殺しや精神に異常をきたした者であっても、震えだして気絶してしまう程の威嚇効果がある。
それ程に強い威嚇効果が籠められた目に、アイソレイト・リリィは目を逸らさなかった。
指がブルブルと震えたし、身体の芯から冷えた感じにもなったが、耐えた。
「ありがとう、アーシャちゃん。でも、大丈夫・・!」
「・・裕子・・」
アーカーシャ・リリィの手が、止めようとする様にアイソレイト・リリィに向けられる。
そんな手を、アイソレイト・リリィが両手で優しく握り締めた。
■■挿入曲:『希望の一歩』歌:宇津馬 裕子■■
■■■■■This program is brought to you by the following sponsors.■■■■■
ニャニャン「前半で水着回、後半でお風呂回だったってのに・・なんて回だ・・っ!」
夏樹「別に、おかしなコトとか無かったでしょ?」
ニャニャン「あったよ!水着はともかく、お風呂おかしかったよ!何で、あんなに湯気濃いの!?水面の反射、鏡かってくらいだったし、夏樹が真っ赤になってたオトナなアレだって、夏樹と呉睦先生の頭に隠れて見えないしさっ!なんて回だ!」
夏樹「そんな、芸人さんみたいに怒るほどじゃないでしょ?」
ニャニャン「夏樹は何も分かってない!そもそも、夏樹の魔法少女装束だって、もろ見えしない方がおかしいスカート丈なのに、1回も見えないじゃん!」
夏樹「そういう世界なの」
裕子「・・///」
夏樹「裕子?」
裕子「・・えっとー・・///」
夏樹「・・・見えてた?」
裕子「割と///」
夏樹「・・」
裕子「大人っぽいの履いてるなーって思った・・///」
夏樹「ニャニャン!!///」
ニャニャン「はひぃっ!?」
夏樹「いつもの!!」
ニャニャン「裕子ちゃん!次回は!?」
裕子「次回!第10話っ!『友達になって!』」
夏樹「魔法少女装束だから、見えても大丈夫なヤツだもん・・パンツじゃないもんっ///」




