#8『目覚める魔法少女。その名はアイソレイト・リリィ』 Bパート
「そっかー・・『顕現』・・顕現かー・・」
これまで裕子は、意味も分からずに、初めて変身した時の言葉を使って変身していた。
ニャニャンが裕子の『力』を確かめ易い様に、と変身したのだが、変身する時の言葉遣いに、夏樹が確認したところ、案の定、裕子は意味も知らずに使っていたと分かったのだった。
夏樹がスマホで検索して裕子に見せ、裕子はまた魔法少女の基礎(以前の問題)の知識を得たのだった。
「じゃ、そこに座って♪楽な姿勢になって、手の平を上に」
ニャニャンに言われるままにソファーに座った裕子は、太モモの上に置いた両手の手の平を上に向けた。
何かを受け取る様な風に置かれた手の平の上にニャニャンが乗る。
「っ・・」
ニャニャンの柔らかな毛並みと染みてくる温もりに、裕子の頬が自然と緩む。
「始めるよ?」
「ぅん・・!」
「目を閉じて、深呼吸して、両手に魔力を集めるイメージ」
「ぅん」
裕子の手が微かに光り、ニャニャンがスウ・・ッ、と消えた。
裕子の魔力を辿り、『力』の源に向けて潜って行ったのだ。
■
人肌程の温もりの空間を進み、魔力の流れ出す源を目指してニャニャンが進む。
そして、温もりが途絶えたと思った瞬間、
「寒っ!?」
全身を突き刺す様な凍える空間に入っていた。
ニャニャンが周りを伺うと、建物の中の様に見えた。
周りに窓など無い、狭い通路の様だった。
少し後ろから暖かい空気が流れ込んで来るが、通路の先の方からは底冷えのする冷気が流れ出して来る。
「・・・ヤだなぁ・・寒そうだなぁ・・裕子ちゃん、こんな内面世界抱え込んでるの・・?」
意を決したニャニャンが通路を進み出す。
幸い、奥に行けば行く程に寒くなる訳では無い様だった。
浮かびながら進んでいるからだろうか、ニャニャンは気付けた。
進む狭い通路が、あの廃工場の地下通路と瓜二つだと気付いた。
そして、進んだ先に何が『有る』のかも察してしまった。
どのくらい進んだのかも分からないくらい、真っ暗で寒い通路を進んだ。
進むうちに、何となく、ニャニャンは察した。
きっと、あの地下通路を裕子は、これだけ長く進んだと感じたのだろう、と。
数キロくらい進んだだろうか。
唐突に終わりが見えた。
寒々しい通路の終着地点には、突き当たりの壁にドアが付いていた。
そして、そのドアの前に、寄りかかる姿が有った。
「・・・なるほど・・同じ・・同じか・・」
ドアに寄りかかる様に、その場に座り込み脚を投げ出す姿。
ソレは白骨死体で、身に着けているのは、今の裕子が着ているのと同じデザインの魔法少女装束。
「キミだね・・?」
ニャニャンが静かに問い掛けると、項垂れていた頭蓋骨が動いた。
カタカタカタカタ・・と微かな音を立てて、魔法少女装束の白骨死体が立ち上がり、ドアを護る様に両手を広げた。
「キミは優しいんだね・・」
立ち塞がる白骨死体は道を譲ろうとはしない。
「確かに、彼女は可哀想だよね・・ボクと夏樹が見てた短期間だけでも分かるくらいだ・・典型的な育児放棄だよね。・・お金と、申し訳程度の置き手紙・・まだ母親はマシな方かな・・父親の方は浮気かな、アレ」
ニャニャンは裕子の人柄を監視していた期間のコトを思い出していた。
どうしても精霊に接触したくて、夏樹が寝てから1人で来てみたコトがあったのだ。
その時、室内に飾られた家族写真には居ない成人女性がカギを開けて入って来て、裕子の父親の部屋らしい部屋から着替えなどを持ち出していた。
その女性がマンション前に停まる車に乗った時、運転席に居たのは、裕子の家族写真に写っていた男だった。
「・・彼女の家族をどうにかするのは無理かもしれない。でも、今、彼女は自分の無力に苦しんでる。ソレをどうにかすべきだと思うんだ・・キミは違うのかな」
ゆっくりと両腕を下ろした白骨の魔法少女がドアノブに手を掛けた。
そして、静かにドアを開く。
「・・ありがとう」
開いたドアの中から、柔らかく温かい空気が溢れ出して来る。
ドアの内側は、柔らかい色合いに包まれた子供部屋になっていた。
『わ〜、ネコさん♪』
甲高く幼い声が聞こえ、ニャニャンがそちらを見ると、幼い子供の姿が見えた。
いかにも『魔法少女』といった格好をしているが、その顔立ちは幼い裕子だった。
「・・見つけた」
ニャニャンを見て不思議そうに首を傾げる、幼い裕子の顔をした少女。
ニャニャンが見つけに来た裕子自身の魔法少女としての可能性だ。
「・・・ホントになれないなら、キミも居なかったんだけどね・・」
カタッと音がして、ニャニャンが振り向く。
温かな部屋の外に立つ白骨の魔法少女の姿が在った。
「彼女は連れて行くよ?彼女自身が彼女を必要としてる・・いつまでも温かな部屋で護られていられない・・多分、キミ自身も通って来たハズの時間だからね・・分かるハズだよ」
白骨の魔法少女が静かに頷く。
ピシッ・・!
ひび割れる音が響き、白骨の魔法少女の背後に見える寒々しい通路に亀裂が走り出す。
そのまま ひび割れは広がり、温かな部屋の壁も崩れ始める。
すると、そんな周囲の激変に驚いたのか、幼い子供が走り出し、白骨の魔法少女に縋り付いた。
ニャニャンには聞こえないが、二人で何か話している様だった。
少しして、二人が離れる。
『椛ちゃん、またね』
幼い声が響き、周囲が完全に崩れ去った。
温かな光に包まれる中、白骨の魔法少女は光に飲まれる様に姿を消した。
■
ニャニャンが顔を上げると、裕子の手の平の上に戻って来ていた。
部屋の中は暖かいが、少し前まで居た空間に比べれば肌寒く感じるくらいだった。
「過保護な気もするよ?」
ボソッと、ニャニャンが零した。
「ニャニャン、どうだった?」
夏樹が問い掛ける。
「・・ぅん、うまくいったと思う」
「そっか・・」
夏樹が安堵の表情を浮かべた。
「・・・ん・・」
裕子か静かに目を開けた。
「どうかな?多分、さっきまでと違うと思うんだけど」
「・・ぅん、違う・・」
「きっと、今なら自分の『力』が認識できるハズだよ」
「・・ん。分かる・・」
「自分の、魔法少女としての名前も分かったかな」
「ぅん・・分かった」
裕子が自分を抱き締める様な態勢になった。
何かを抑え込もうとしている様にも見える。
ニャニャンが夏樹に振り返った。
「夏樹、裕子ちゃんを抱えて。多分、現界時に近いくらいの何かが起きると思う」
「ぅん」
急ぎ変身した夏樹が裕子をお姫様抱っこし、ベランダから飛び立つ。
そして、そのまま上空高く目指して上がって行く。
空一面の雲を突き抜け、雲が遥か下に見えるくらいの高さまで来た。
裕子を抱え直してから、アーカーシャ・リリィが片腕を突き出す。
その先の空間が固まりだし、直径2メートルくらいの半透明の円形の浮遊物になった。
「裕子、この上に立って」
「ぅん」
「ニャニャン、どうしたら良いんだろぅ」
「分からない。2回も現界したなんて前例は知らないから、順番に確かめるしかない・・!」
半透明の足場から数メートル離れて浮くアーカーシャ・リリィとニャニャン。
ニャニャンが裕子に叫ぶ。
「裕子ちゃん!キミの力は!?」
「・・隔絶・・」
「キミの魔法少女としての名前は!?」
「・・・アイソレイト・リリィ」
「言葉にして!・・顕現!」
「顕現」
ヒュオッと風が吹き、アーカーシャ・リリィとニャニャンの周りから音が消えた。
突然の無音状態に驚いたアーカーシャ・リリィが、続く異変に気付いた。
息が出来なかったのだ。
と、アーカーシャ・リリィとニャニャンの背後から叩き付ける様に空気の壁がぶつかって来た。
「っ!?・・ぷはっ!」
息が出来る様になり、胸いっぱいに吸い込む。
しかし、叩き付けて来た空気が乱気流の様に二人をモミクチャにする。
身動きも取れずに弄ばれる様にグルリグルリと回されながらも、アーカーシャ・リリィは裕子を探す。
さっき作ったのは、あくまでも、ただの足場なのだ。
こんな乱気流の中では、すぐに吹き飛ばされて落ちてしまうだろう。
無我夢中で首を振って探し、アーカーシャ・リリィは裕子を見つけた。
幸い、足場の上に立ったままの様だ。
「!?」
裕子の姿は見つけられたが、彼女は別の意味で驚き、目を見開いた。
裕子を包む魔法少女服が崩れ落ちているのだ。
もう、インナーの上下まで丸出しどころか、そのインナーすら見る間に崩れ落ちていた。
「〜〜っ!?」
他に誰も居ないとはいえ、大空のど真ん中で真っ裸にしてしまう。
魔力を全力で放出し、アーカーシャ・リリィは乱気流を無理矢理、突き抜きにかかった。
「ぁあぁあああああっ!!」
ドンッ!!
ドンッ!!
ドンッ!!!
空気の壁を突き抜け、アーカーシャ・リリィが必至に手を伸ばす。
もうほぼ全裸の裕子まで、あと数メートル。
コオッ・・!!
一瞬で光の爆発が起き、それに抗えず、アーカーシャ・リリィが吹き飛ばされる。
どのくらい吹き飛ばされたのか、アーカーシャ・リリィが目を開けた。
身体の下には、夜の住宅街の街頭が見えた。
そのまま周りを見ようとして、アーカーシャ・リリィは眼下を見直した。
「・・・雲は・・?」
上に飛んで来る際、分厚い雲を抜けて来たし、裕子用の足場を作った際も、下には辺り一面に雲海が拡がっていた。
なのに、その雲海が消えてなくなっていたのだ。
視力強化の魔法で見てみれば、遥か先に雲が見える。
しかし、周囲数キロくらいの雲は綺麗サッパリと消えて無くなっている様だった。
「っ・・裕子!」
自分がどのくらい吹き飛ばされたのかは、幸い、眼下の住宅街を見て分かった。
パトロールの為に周囲の街並みの地図は頭に入っている。
もと居た空中から5キロは飛ばされていた。
「裕子・・!無事で居て・・っ!」
全力で飛べば、1分と掛からずに元居たハズの場所が近付いて来た。
そして、星と月明りの中、空にポツンと何かが見えた。
近付くにつれて、それが人影だと分かる様になってきた。
「裕子っ!?」
「・・・アーシャちゃん?」
夜空に浮かぶ姿は、アーカーシャ・リリィが何度も見た裕子の魔法少女装束ではなかった。
しかし、彼女には分かった。
「それが裕子の・・?」
「ぅん。そうみたい・・」
「ゎー・・」
遠くの方から、声が近付いて来る。
裕子とアーカーシャ・リリィが そちらを見ると、ニャニャンが飛んで来る姿が見えた。
「いや〜凄かったね〜♪夏樹、周り見た?周り一面の雲が消し飛んでたよっ!2回目だからなのか、彼女だからなのか、末恐ろしい『力』だねっ!裕子ちゃんの家でやってたら辺り一面が更地になってたかもね〜♪」
ニャニャンが興奮のままに まくし立て、裕子とアーカーシャ・リリィは面食らった顔をしていた。
ニャニャンは楽しそうに口にしたが、自分のせいで辺り一面更地になるのは、決して面白くも楽しくも無い。
苦笑しつつ、アーカーシャ・リリィとアイソレイト・リリィは顔を見合わせたのだった。
■■挿入曲:『Don't stop.Don't look back.』Piano ver.■■
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