6話 五百 VS 一万(その2)
「裁定の王冠」
零弥がそう言葉にしたその直後、両翼の騎兵部隊にはその頭上へと二つの閃光が空から走る。
光は着地点を中心に瞬く間に広がってゆき、敵を飲み込んでいく。
その殆どは何が起きたかを認識する前に絶命した。
「うまくいった……!!」
零弥は技の成功を見届けると、視線を即座に変えて何かを探す。
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「今度はなんだと言うのだぁあああ!!!!」
絶叫する県令カークマン。
「将軍! もはやこうなったからには一度退くべきです!」
「あんな訳の分からない奴に尻尾を巻いて逃げろと言うのか!!」
「今一番に優先すべきは一人でも多くこの地より脱出し、ここでの出来事を統監府に報告することです!!」
カークマンは呻きながらも渋々承知する。
「ぬおおおお!! 全軍に撤退命令を出せ!!」
「全軍撤退ィィ!! 撤退せよー!!!」
副将が合図を出すと同時に、陣鐘の音が響き渡る。
「オレは先に行く。 お前は後から来い、統監府に伝えるのは県令たるオレの役目だからな」
「な……で、ですが……」
「ええい黙れ! とにかく任せたぞ!! ハァッ!!!」
カークマンはそう叫びながら馬に飛び乗り、何かを与える。 すると物凄い速さで駆けだして行った。
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――居た! あれが多分、敵の親玉だな。
ていうか速すぎるだろアレ! 本当に馬なのか!?
零弥がそう思わずにはいられない程の、恐るべき速度で離脱して行く敵影。
あれでは、一日に千里を駆けるどころか三千里は容易いだろう。
「逃げるのに必死で、逆に目立つ親玉か……」
零弥は一言 そう呟いた。
もはや総崩れとなった帝国軍は逆に森へと追い込まれたりしながら、小勢と侮ったリネット達からも散々に撃ち取られている。
この様相の中で敵に背を向けて単騎で逃げるのはむしろ自殺行為だ。
特に、零弥が居るこの状況下では、もはやカークマンの命数は尽きたと言ってもいい。
「侵略者への裁き!!」
零弥がそう叫びを上げたその瞬間、刹那的な速さでカークマンの頭に鋭利な糸が吸い込まれていく。
間もなく ドシャ!! と音がしたかのように、静かに横に倒れ込むカークマンは頭から落馬した。
それ以降、カークマンは沈黙を貫いて動かなくなった。
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「敵総大将、カークマンは死にました!! この戦い、我らの勝利です!!!」
リネットがそう叫ぶと、兵士たちは歓喜して勝鬨を上げる。 しかし、緊張の糸が一気に切れたかのようにして倒れ込んでしまう。
「リネット!!」
それに気づいた零弥は彼女の傍へとすぐに駆け寄る。
「リネット!! しっかり!!」
「平気です。 少し疲れただけです。 それよりも、ありがとうございます。 感謝してもしきれない事です。 あなたの方こそ、怪我はありませんか?」
「俺は大丈夫! あっ、てか、いきなり呼び捨てにしたら失礼……ですよね……」
「いいえ、私たちはもう仲間なのです。 どうぞ気軽にリィネと呼んでください」
そうリネットは、とても嬉しそうに笑い掛けるのであった。