5話 五百 VS 一万
「戦う前に聞いておきたいんだけど、魔法ってどう使えばいいの!? 固有能力はどうすればいいのか教えてくれ!!」
零弥はリネットに問う。
「は、はい! 魔法はイメージです! 炎魔法なら熱く燃えるイメージに、どうやって使いたいかや、誰かを守りたい。というような、思いを込めます!! そういった強い思いは、魔力をより大きな力にして、強力な魔法へと変えるのです!!」
こんな説明で分からないとは思いますが、勇者であるアナタならきっと使えます!!」
「分かりました! 俺、絶対にリネットさん達を守るんで!!」
零弥はそう言い、兵士たちと共に隊列に加わろうとする。
「零弥さん! ありがとう!!」
そう言ってリネットは、目に涙を浮かべながら駆け寄り、俺を抱きしめた。
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「敵軍、見えてきました! 止まることなくこちらへと進軍中!! もう間もなく接敵します!!」
先ほど伝令を報せに来た、少年騎士がリネットに指示を仰ぐ。
「零弥さん! どうか、よろしくお願いします」
零弥は静かにコクリと頷く。それからすぐに隊列の先頭の方へと赴き、意識を集中する。
――こちらの兵力は僅か五百。大半は歩兵。騎兵は二十にも満たず、魔導士も数える程しかいない。
俺に凄い力があるらしいけど、だとしても把握できてない以上は無理をして足元をすくわれる訳にはいかないっ!
俺がもし……もし、しくじればリネットさんは――彼女たちは今日、ここで死ぬ。
やるしかないんだ…… 俺が、絶対に守ってみせる!!
「カークマン将軍。 反乱軍の奴らが見えてきました」
帝国軍を率いる、県令の副将らしき人物がそう囁く。
「フン、こんな夜分に駆り出されるオレの身にもなってみろ。せっかく奴隷共と遊んでやろうと思ったのに」
そう悪態を付きながら吐きながら馬を駆り、先頭を率いているのが県令だ。
「滅多なことを言わないでください。 統監に知られたら堪ったもんじゃありませんよ」
「まあ、あの御方の事だ。 きっと、「私に隠れて愉しむとはけしからん!」 とか言って嬉々として奴隷を取り上げるに違いない」
――カッポカッポ カッポカッポ
県令カークマンは手綱を締め、全軍を停止させる。
「あ? なんだアイツら。 あんな小勢にも関わらず森を背にして、しかも平地に布陣してやがる」
「いやぁ自ら退路を断つとは、さすが人間族は違いますなぁ」
「もはやこざかしい策を用いるまでもあるまい」
そう言いながら両腕を大きく横に広げ、続けて話してから勢いよく両手をぱん! と閉じる。
「この圧倒的な兵力差で一息に押しつぶしてくれる!! 全軍突撃ィィ!!!」
その乾いた手拍子を火蓋に、戦いの幕が切って落とされた。
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「帝国軍、全軍で総攻撃を開始!! 一直線にこちらへ向かって来ます!!」
「聞いてみんな!! 決して慌てることなく、零弥さんの言ったとおりにギリギリまで敵を引き付けるのです!!」
「第一陣、来ます!!」
少年騎士が告げる。
リネットは一度息を吸い込み、つぶやく。
「零弥さん、どうかよろしくお願いします」
リネットは、静かに願う。
――――その頃、零弥はというと
「っ!!! 敵が来た! 魔法はイメージ。イメージと思い……」
――俺は目を瞑りながら、何度もそう唱える。
「ウオオオォォォォオオ!!!!」
正面には大量の土煙を巻き上げながら、無数の殺意が地を鳴らしてこちらへと向かって来る。
「今だ!!」
――そう叫んだ俺は目を開き、空に大きく腕を掲げてから勢いよく振り下ろす。
すると、何の前触れもなく突然地面が陥没。 綺麗に繰りぬかれた長方形の大穴が姿を見せる。 リネット達の軍に衝突寸前だった先頭を走る、およそ二千の兵はカークマンの眼前から消え失せた。
「なぁにいいい!? どういうことだあぁあ!!! 」
愕然とするカークマン。それを尻目に零弥は合図を出す。
「今です!」
――俺はそう叫びながらがばっと振り返ると、腕を大きく掲げてからネクタイ振り回し、リネットに合図を出す。
「今です! 火を放ちなさい!!」
リネットの号令が轟く。 すると大量の油らしき物と共に、陥没した大穴へと一斉に魔導士が火を放つ。
「あああああああああああ!!!!!」
すると間もなくして悲鳴が響き渡る。 それからすぐに肉の焼けたよう嫌な臭いが戦場へと広がる。
その光景を目の当たりにしたカークマンは激怒する。
「おのれぇ! 森を背にして平地へと布陣したのは、全てはこうする為の罠だったというのか!!!?」
「おお、落ち着いてください将軍! 何とも言い難いことが起こりましたがそれでも依然として、こちらが圧倒的なのは変わりません!!」
「むううゥゥ! ならばすぐさま右と左から騎兵で囲んで殺せぇ!!
相手は歩兵のみ。森を背にしている以上、騎兵で周り込めば敵は逃げきれまい!! 黒魔術師は騎兵共の援護に回れぇ!」
カークマンは新たに下知を飛ばす。すると帝国軍の右翼と左翼、合わせて二千騎程が大穴によって絶賛渋滞中である中央から分離して、リネット達の側面へと迫る。
――ここまでは俺の想定通り。
事前にオーガが軍を率いているのならきっと無策で突っ込んでくると思った。
俺の住んでる世界じゃ、オーガは粗暴で好戦的なイメージが一般的……。
しかもこっちの兵士は僅か。逃げ場のない森を後ろにして、隠れる場所のない所で構えてれば数に任せて力押しをしてくると読んでいた……けど間違いじゃなかった!
「オラ死ねぇぇええ!!!」
そう絶叫しながらリネット達の元に迫りゆく帝国の騎兵部隊。
しかし零弥は慌てることなく、ゆっくりと両手を、迫り来る騎兵部隊へとかざした。