4話 少女との出会い・異世界の情勢
――何だろう、妙に暖かい。それに、パチパチと木が燃える様な音もする。たき火だろうか。
そう思いながら零弥は意識が戻り、目を開けようとする。
「気が付きましたか!あっ、まだ動かないで。座っててください、もうすぐ終わります」
声からして少女らしき人物は零弥に対し何かをしている。
――なんだ……どこだ、ここは。アレ? 俺は何してたんだっけ……。
ゆっくりと、静かに、目を開ける。すると、一番に目に入ったのは真剣な眼差しで、左腕の傷口に両手をかざしている一人の少女だった。
――何してるんだろう。けど、さっき感じた暖かさはこれだったのかな。ていうか傷が痛くない、まさか治ってる!?
それから間もなくして、少女は両手を下す。周りには西洋風の鎧を着た兵士らしき人物たちもいる。
「あの、すみません。あなたは……」
少女は前髪をかきあげながら――
「私はリネットと申します。こちらを通り掛かった際、傷付いたあなたが倒れていたので……」
そう言いながら長めのブロンドの髪をかき上げる彼女は、心配そうにこちらを見つめている。
目の色はブルーで澄んだ海のように綺麗だ。全体的に整った顔立ちをしており、まだほとんど話してないのにその雰囲気からは優しさを感じる。
「そう、ですか……あの、助けてもらってありがとうございます。その、信じてもらえないかもしれないですが俺、此処が何処なのか全く分からないんです。昨日、気が付いたら、突然森の中に倒れていて……」
リネットは驚いた。という表情はしたが、信じられない、という風には感じていないようだ。
「あの、何があったのか、よければ話して頂けませんか?」
――リネットはそう言うと、静かに俺の話を聞く。
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零弥は、気が付いたらいつの間にか日本からこちらへ来たこと、小屋で襲われたこと、そしてその際に男二人に起きたことを順を追って、全てリネットに説明した。
「そうでしたか……信じられないかと思いますが、おそらくあなたは、勇者としてこの世界に選ばれ、別の世界から召喚されたのかと思います」
――勇者? ゲームとかで出てくるあの?
「勇者って何ですか!? ここが別の世界ってどういう事!?」
「私も父から話を聞いただけなので、詳しいことは分かりませんが、過去にも貴方と同じように、別の世界から突然こちらの世界に来たという言い伝えがあります」
リネットは続けて話す。
「およそ10年前にも見かけたとの噂がありましたが……結局その時は単なる噂だったようで、私自身もあなたに会うまでは、正直信じていませんでした」
そう言いながら零弥の手を取る。すると、零弥の手のひらに何やら紋章らしきものが浮かび上がり、
やっぱり。という顔をしてこちらを見る。
「第一次人魔大戦でも、勇者は別の世界から召喚されてから各国を奔走し、ついには列国の王たちをもまとめ上げ、この世界にはない知識と複数の固有能力。強大な魔力を用い、北方の魔族からこの大陸を救ったとあります」
するとリネットは立ち上がりこちらを真っすぐと捉え、頭を下げる。
――あれ、なんでだ? 彼女のことは出会ったばかりで何も知らない。だが、不思議と目頭からは熱いものが込みあげてくる。
「お願いします!! どうか私たちと共に帝国を倒して、私の国を、この世界を取り戻してください!!!!」
――リネットの気迫が込められた表情に、俺は思わず釘付けになる。
「現在のエウロシナ大陸は七つの州に分割され、各州を七人の魔人が統治しております。
元の戦闘能力もさることながら、彼らの特に恐ろしいのは魔王から与えられた贈与能力です。
魔王と七人の魔人に対抗するには、あなたの力がどうしても必要なのです!!」
リネットは深く頭を下げる。 零弥は少し考えるが――
「いや、でも俺普通の高校生で、世界を救うなんてそんな力あるはずが……そんな事ができるはずがない、と思います…………」
その言葉を聞いてもなお、リネットは頭を上げようとしない。
「どうかっ……! どうか、お願いしま――」
ドカカ ドカカ! ドカカ!! ドカカッ!!!
「急報!急報ー!!」
突如として馬が地面を駆けるような音と共に、年若い少年くらいの騎士が慌てた様子でこちらに駆け寄り、姿を現す。
「申し上げます! こちらから約5キロメートル先に、帝国軍が来襲!!」
「っ!!!!!!」
それを聞いたリネットは慌てて立ち上がる。
「敵の数は!? 率いてる将は!!?」
「敵はその数、およそ一万!!! 率いているのは、オーガだと思われます!!!」
「オーガ……!? オーガというと率いているのは県令ですか!! すぐに兵を集めなさい! 奴らが来る前に陣形を整え迎撃するのです! 」
先程まで泣いていた少女だと思わせないくらい、リネットはテキパキと部下たちに指示を飛ばす。
「零弥さん、さっきは申し訳ありません。 すぐにお逃げください。
別の世界から来たあなたを、こんな戦争に巻き込もうだなんて、酷い話ですよね。
あなたならきっと、この先も大丈夫です。
どうか無事に逃げて……!!」
そんなリネットの姿を見て、何故だろうか。頬には自然と涙がつたってくる。
零弥に一礼すると、リネットは再び兵らの指揮を執る。
「兵糧は見つからないように別の場所に移して! 魔導士たちはそこに隠れて、気を見計らい魔法で攻撃を!!」
――理屈じゃない。 そんな彼女の姿を見ていると、自然と足が。口が動く。
「あの!!!」
零弥の突然の叫びに、リネットは振り返ってから動きを止める。
「俺も……俺も戦う! 一緒に帝国を倒します!!」
――もう、この気持ちを止める術は、俺には無かった――